Story Reader / ペルソナコリドー / 淵辺での選択 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

孤独な舟

>

はぁ……はぁ……あっ……

驚くべきほどのエネルギーがルシアの機体から発されている。すぐ側で途方にくれていた亜人型構造体がそっと触れてみて、あわてて手を引き戻した

大丈夫?……きゃ!熱い!

普通の構造体ならば、このような高温下ではオーバーヒートで強制停止になってしまうだろう

しかし、まだ見ぬルシアの力が強化されたか……または強制的に機体の安全ロックが解除されたのか、機体の性能は理論上の上限を突破していた

これが……昇格者の力?

耳元の低い声が消え、ルシアは自分の意識海と付かず離れずだった何かが、急にすぐ近くに存在するように感じられた

ラミアの視界の中では、目前にいる先ほど自分を救った白髪の構造体が、空気を捻じ曲げるほどの高温だけでなく四方に飛び散る赤い火花をまとっているのが見える

私から離れて!

ルシアの怒号で、ラミアは驚いたカエルのように飛び跳ねて10mほど外の廃墟の壁の後ろに隠れ、頭だけを出してルシアの方を覗き見た

ルシアの意識はさながら風雨に揺れる小舟だった。雑音のような低い声は消えたが、観測も具現化もできない不可解なデータが、意識海の中で津波のようにうねっている

波の上にぼやけた姿が映されている。「ルシア」と呼ばれる孤独な舟に襲いかかり、彼女を海の底に巻き込もうとしている

クソッ、あと少しだった!やっとの思いであの魚類女を捕まえたってのに!

なあ、さっきのはあのルシアだろ?あいつの隊は前回の任務で隊員全員と指揮官を失って、空中庭園で待機しているんじゃなかったか?

上層部から秘密の任務でも請け負っているんじゃないのか?それか粛清部隊に入ったか

ありえないね。軍服のロゴはグレイレイヴンのものだった、見てないのか?

じゃあ、俺たちは偶然彼女と出くわしたって?最後、機体に何か問題が発生していたっぽいが、そうじゃなきゃ、俺たちは終わっていたな

どうする?空中庭園にも戻れないし、昇格者の任務だって終わっていないぜ

別の機会を待つか。紫の髪の構造体の痕跡をたどれば、昇格の機会を与えてもらえるんだろ?

ウェルがいなくて残念だったな。あいつが一番こういうのに向いているのに

あいつはマジでバカだよな!いつもは空中庭園に一番文句を垂れてるくせに、やっとチャンスがきたら怯えちまって、本部に報告までしようとするなんて本当に肝が小さいよ

そう言うなよ。以前の仲間だろ

おいおい、いい人ぶるなよ。最初に撃ったのはお前だろ?

俺はただあいつを楽にしてやろうとしただけだよ。あいつの逆元装置を折ったのは誰だ?そのままうっちゃっておけば侵蝕体になってオサラバなのに

この機会をいいことに恨みを晴らしたかっただけだろ?だってウェルは……

黙れ!

ウォーカーの話がある種の禁忌を破ったようだった。クラレンスは直接腰から銃を抜き、ウォーカーに向けるが、ウォーカーも負けじと銃を向けてきた

もういいだろ!いつまでやってんだ!

チャドの怒声でも状況は好転しなかった。隊長の威厳は、彼が裏切りを決め、ウェルへの攻撃を黙認した時から消え失せていた

いつまでも清算されない恐れ、時間がすぎゆく焦り、邪魔をしたルシアへの恨み……

さまざまな負の感情が砂時計の砂のようにゆっくりと心に堆積していき、理性の細い糸をかすめていく

誰もがその罪を相手に押しつけ傷跡を広げる、そうすることで自身の潔白を証明できるとでも思いこんでいるかのようだ

???

へえ、まだ元気があるみたいだね。勝利の果実を途中で奪われた選ばれし勇士たち……挫折してもう立ち上がれないかと思っていたのに

突然、この場に不釣り合いな朗々とした声が響いた。構造体がひとり、いつの間にか廃墟に現れている

どうして?まだ約束した時間じゃないだろう?

目の前のこの「ロラン」と名乗る構造体は、あてのない彼らを見つけ、侵蝕体を操り人形のように従わせることで、自身が「昇格者」なのだと彼らに完全に信じ込ませていた

そんな風に言うなよ、僕は君たちを心配してきたんだ

突発的な状況下だ、選ばれし勇士には指導者が必要だと思わない?

あんたが俺たちを助けるってことか?

いい知らせを持ってきたんだ。君たちが探すべき構造体は、すでにここを離れたかもしれないよ

それのどこがいい知らせだ?

もう労力を使わずに済むんだから、いい知らせじゃないか

俺たちをバカにしてんのか?

相手の舐め切った態度に、チャドは武器を相手に向けたくなる気持ちを抑えられなかった。だが彼の侵蝕体制御能力を恐れ、怒りをぐっと飲み込むしかなかった

まして恨みや憎しみ、仲間の惨殺を黙認したあの快感に背中を押され、「選別の第一段階」を通過した今、チャドがこの貴重な機会を逃せるはずもない

俺たちをどうするつもりだ?

簡単だよ。前と同じさ。魚類女を処理してくれたら、最終段階まで進めてくれる人のところに、君たちを連れて行ってあげる

なるほど、わかった

でも……

黙れ!これ以上、何もないなら俺たちはもう行くぞ

ロランは何も言わずに右手で、どうぞというジェスチャーをして見せた

3人はすぐにロランの視界から消え去った。彼らの去った方向を眺めながら、彼は軽く耳を叩いた

少しして、笑いながら独りごちる

強敵の前に逃げ帰って敵陣に寝返るようじゃ、いくら英雄であっても、最後はバッドエンドを迎えるね

ロランはポケットに手を入れて、ボタンを押した

幕が下りる時間だ。君たちに盛大なフィナーレの花火を贈ろうじゃないか

ロランは耳からすでに働きを失っているイヤホンを外し、誤動作を繰り返す音声検知モジュールを叩きながら、廃墟からひらりと飛び降りた

次は、あちらの状況見分といこうか