<i>「私は悲惨な死を遂げた連雀の影</i>
<i>犯人は窓ガラスの外にある偽りの青空」</i>
2160年10月
3班、位置を報告せよ
15層目の目標地点に到達しました。次の指示まで待機します
君たちのいる場所に敵はいない。忘れるな、君たちの任務は捜索と救助だけだ
また前回のような悪質な小競り合いを起こしたら、全員、卒業は見送りだ
扉の後ろで姿勢を低くしていた数名の若者たちは、指揮長の言葉に顔を見合わせたあと、一斉に一番後ろにいる少女に目を向けた
軍帽で隠し切れていない赤い髪が、彼女の性格同様、反抗的に耳元に垂れている
チッ……あいつさえ暴走しなければ、うちの小隊の任務に支障なんか出ないのに
逆でしょ?私があなたたちの任務をフォローしてあげてるのよ。自分たちでもそれをわかってるくせに、口だけは強気なんだから、笑えるわよ
静かに、任務に集中しろ!
あと1分で突入する。今回は演習ではない。最大限に警戒して挑め!
小隊長の舌打ちも、無線機から聞こえる警告も、この赤髪の少女の耳には入っていない。彼女はいつもと同じく、我関せずという顔をしていた
何だ、その顔は?しっかり部隊の後ろについてくるんだぞ、おい、聞いてるのか――ヴィラ!
はいはい、了解
ヴィラの反応を見て、3班の小隊長は一瞬動きを止めた
……今日はやけに聞き分けがいいな。いつもならとっくに……
その時、ビルの下から甲高いミリタリーホイッスルの音が響いた
ピ――――――ッ!
3班!行動開始だ!突入せよ!
命令と同時に、3班隊長がすぐに手を上げて合図を送る――次の瞬間、扉に仕掛けた爆破装置が熱を帯び、巨大な爆発音とともに金属の扉を吹き飛ばした
突入!
破壊された扉を蹴破り、小隊の隊員たちは銃を構えて、素早く中へ突入した
誰かいるか!?ここはすでに安全だ!聞こえたら出てきてくれ!もう安全だ!
銃を構えたまま焼け焦げた周囲を見回し、全員が暗黙の了解で前の隊員に続く中、ヴィラだけは隊列の最後尾に押しやられた
……ただ市民の捜索救助をするだけの任務じゃない。何を「我先に」突っ込む必要があるの?
ヴィラ、君はすでに前線行動への参加を禁止されている。次にまた何かやらかせば、除名警告を受けるのは君ひとりじゃない。小隊全員が巻き添えを食うんだ
今の君にできることは、目をかっぴらいて生存者がいないか隅々まで探すことだけだ
だったら、私からも提案するわ。すぐに持ち場を分けて、お互いに道を譲り合い、隅々まできちんと捜索すべきね。こんな風に固まっていて、何の意味があるの?
――運が悪かったな、ヴィラ。今回もまた単独行動しようなんて考えるなよ、俺たちは……
避けて!
うぐっ!
反応する間もなく、隊長はヴィラの飛び蹴りをくらい、脇のテーブルの後ろまで吹き飛ばされた
!!
次の瞬間、隊長が立っていた場所に「巨大な犬」が咆哮とともに飛び込み、上下の顎を激しく咬み合わせた。伏せるのが間に合わなければ、隊長の首は噛み砕かれていただろう
ヴィラは素早い反応で巨大な犬を撃ち倒すと、すぐさま前方へ一気に銃弾を浴びせかけた
隊長は狂ったような銃弾の雨の中で目を「かっぴらいた」――前方から何かが津波のように押し寄せてくる
「それら」を的確に表現する言葉が見つからず、彼は無線機に向かってただひと言だけ叫んだ
……「怪物」だ!!
退却よ!全員退却!
ヴィラは銃を撃ちながら、安全地帯に蹴り飛ばした隊長を引っぱり起こし、仲間たちを引き連れて後方へと撤退した
これは「テロ事件」だわ。どこが「市民救助」任務なの?
私に仕返しするために、本当の任務内容を隠して、小隊を前線に連れてきたわけ!?
バカを言うな!!
俺たちはまだ卒業前の学生だ。任務もせいぜい後方支援で、こんな極秘任務を任されるはずがない!それに、いくら君が憎かろうと、自分たちまで巻き込むほど馬鹿じゃない!
考えてみろ、ここはバイオテクノロジー企業のビルだ。あんな想定外の「怪物」が出てきたということは、つまり……
よく隠したもんだ!金の亡者の腹黒連中め、本当にやってくれやがった!これだからヴィラと一緒に任務に行くと碌なことにならないんだ。前回もだが、今回はもっと最悪だ!
隊長は歯ぎしりしながら、無線機に向かって後方支援3班の危機を報告した
教官!詳しい調査をお願いします!この会社は、違法実験を行っています!
俺たち、この目で見たんです!頭が3つある犬に、足の生えた魚……どれも攻撃性が高く、まっすぐこちらに突っ込んできたんですよ!
無線機はザラザラとした音を立てるだけで、返答はなかった
チッ、面倒なことになったわね
ひとまず撤退だ!
ヴィラは最後尾を守りながら、滑るように扉の外へ飛び出し、扉の内側の「怪物」たちに向けて全ての銃弾を撃ち込んだ
だがその時、彼女は視界の端にあるものを捉えた。隅に隠れている何かがいる
――!
ほんの一瞬、ためらいが生まれた
「犬」がヴィラに飛びかかり、ふくらはぎに食らいついて彼女を地面に叩きつけた
倒れ込んだ時に頭をぶつけたようで、視界が一瞬暗転し、天地がグルグルと回転する
その瞬間、彼女は自分の体に何か変化が起きたことに気付いた。だが、それを確かめる時間などはない
薄れゆく視界の中で、彼女は一瞬何かを見たような気がした……何か、見知らぬ世界の一片を