Story Reader / 叙事余録 / ER11 遂生再始 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER11-15 ピエロの鎮魂歌

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廃工場

141号都市郊外

グウィンプレンの自爆で、崩壊寸前だった危険地帯は完全に支えを失った

激しい揺れと崩れ落ちる瓦礫の中、ジェタヴィと工場から脱出する

数えきれないほどの侵蝕体も一斉に湧き出してきた

もう!

はいはい、わかってるよ~

ジェタヴィが出力を最大に上げる。赤い閃光が走った途端、路上に停まっていた車の周囲が瞬時に一掃された

ふたりは続いて車に乗り込み、ジェタヴィは窓から身を乗り出すと、銃撃を浴びせて進路を確保した

指揮官も車を走らせながら、遠くへ手榴弾を投げ込み、敵を混乱させた

ほどなく車は学院がある地区へ戻った。遠くからも、大量の侵蝕体が学院周辺に集まっているのがわかる

工場はぶっ壊したのに、どうしてこいつらは、まだしつこく湧いてくるのよ!

ハンドルを大きく切って侵蝕体たちの突進を寸前で回避し、耳元の通信機からの呼び出しに素早く応答した

工場の方は片付いたようですね

G227小隊のマップはまだ持っていますか?

円を描くように走行して敵を引きつけ、マップにある時計塔の下まで誘導してください。そこに爆弾を仕掛けて、一気に片付けます

本当にできるの?執行部隊に、そんな余裕あるように見えないけど

やるのは僕たちじゃありません、あなたたちです

え、それってどういう……

そう言いかけたジェタヴィの声のトーンがいきなり高くなった

ジェタヴィ

No.55、57――!

学院の高い壁から数人の影が飛び出してきた。少しふらついているが、動きは力強い

彼女らは車の中のジェタヴィに向かって手で合図を送りつつ、足を止めることなく、縛られた袋を抱えて時計塔の方へと走っていく

天に選ばれた人、手伝って!

アクセルを踏み込み、片手でハンドルを握りながら、ジェタヴィと両方の窓から身を乗り出した

注意を引くための銃声が響き渡ると、まるで血の臭いを嗅ぎつけたサメのように、侵蝕体の群れが次々とこちらに突進してきた

リー、彼女たちはどのくらいで爆弾を設置できるの?

車で1周分ほど引きつけてください

オッケー

車両と弾丸の軌跡が街道に優雅な弧を描き、砂煙が侵蝕体を包み込む

すぐに車両は向きを変え、時計塔へ向かって一直線に走り出した

耳には共通チャンネルからのリーの指示が聞こえてくる

時計塔班、全員撤退。指揮官はカウント不要です。そのまま時計塔を突っ切ってください

エンジンが唸りを上げ、ジェタヴィの不満げなつぶやきをかき消した。そして車両が指定ラインを越えた

鋭い悲鳴が響き渡り、バックミラー越しに見慣れたリーならではの攻撃が見えた

短い間の後、突然、時計塔が崩壊した

No.55と57は……!?

なだめる言葉がジェタヴィの耳に届く前に、彼女は車から飛び降り、崩れた塔の方へ駆け出していた

ため息をつきながら車を転回させ、遅ればせながら塔の下へと到着した

車のドアを開けると、廃墟の上に立つ生徒たちの姿が目に飛び込んだ

夕陽が輝き、瓦礫の間に立ち込める砂煙をほんのりと赤く染めている

ジェタヴィは興奮した様子で生徒のひとりと話していたが、車のブレーキ音を聞いて、パッとこちらを振り返った

そのまま、ずんずんと大股で歩み寄ってくる

ジェタヴィ

天に選ばれた人!よかった!バアさんとアヴィグも無事だったの!

ジェタヴィが悪びれる様子もなく尻尾を揺らしているところへ、もうひとりの生徒がやってきた

No.55

本当にありがとうございました、[player name]先生

No.55

マルタ長官からの伝言です。会社が「最終試験」は合格と判断しました。私たちは……自由だって

全部、先生のお陰です

そう言うと彼女は少し複雑な表情を浮かべ、ジェタヴィをちらっと横目で見て、声を低くした

No.55

マルタ長官からもうひとつ伝言です。リーボヴィッツ社が、先生と先生のご友人の存在に気付いたそうです

くれぐれもご注意ください

安心させるように、No.55の頭をくしゃくしゃとなでた

任務を終え、報告書をまとめて送信した

ゲシュタルトと同じ技術を利用した分岐端末として、ひとつのマトリクスが持つアルゴリズムは決して侮れない

そして君が発見したのは、「第7マトリクス」だ。リーボヴィッツは恐らく、他にも複数のスーパーコンピューティング施設を掌握しているだろう

セリカはリーボヴィッツに関する情報を更新し、指揮官の経験と評価をまとめ、後日、軍議の議題とした。これにより、リーボヴィッツは正式に空中庭園の監視対象となった

一方、ゲシュタルトはジェタヴィの状況を把握すると、彼女に空中庭園に加わるよう提案した

提案されなくたって、天に選ばれた人から離れないよーだ

彼女は喜ぶというより、興味津々で自分とともにやってきた。彼女は空中庭園のどの部隊にも所属せず、ゲシュタルト直属の管理下に置かれた

細々とした報告を終え、休息室へ戻る帰り道――

???

[player name]?

前から、監察院の服を着た水色の髪の少女が歩いてきた

ハァ……やっぱり、またこうなりましたか

彼女は諦めたように状況を受け入れた

……私はラスティ

指揮官、これでもう4度目の自己紹介なんですけど

少女はこちらの表情をまじまじと観察し、困惑が嘘ではないことを確認すると、満足げに笑った

あなたがまったく覚えていないということは、私の秘密保持対策が完璧だったってことですね

彼女はそれ以上説明することなく、そのまま軽やかな足取りで去っていった

一体何の話だろう?

浸入するかどうかは、あなた次第です……

脳裏にぼんやりと浮かんだ影が、先ほどの水色の髪の少女と重なった

ゲシュタルトにも質問しましたが、ゲシュタルトが提示したのは「機密」と記された資料だけでした。以前、あなたが監察院と一緒に遂行したのを……覚えていますか?

浸入、監察院、ゲシュタルト、リーボヴィッツへの潜入任務。いくつものキーワードが、ひとつの事実を示しているようだった――

自分が最初に、天に選ばれた人になった理由

情報には、まだ多くの空白部分がある。だが、自分と一緒に訓練を受けたジェタヴィなら、その欠けた部分を知っているかもしれない

指揮官休憩室

指揮官休憩室

やっと戻ってきたね、天に選ばれた人

人間の任務報告って本当に複雑だね。お陰で、こんなに長い間ここで待たされる羽目になったわ

ソファに寝転がった少女は退屈そうに舌をぺろっと出し、リラックスした様子で尻尾をふわふわと揺らしていた

へ~、天に選ばれた人、そんなに私のことが必要?

少女は満足げにニンマリと笑った

当ててあげる。天に選ばれた人が、どうやってマトリクスに接続してたかってことでしょ?

正解~。ちょうど私も気になってたの。あの時キミがどうやってマトリクスに接続したのか

覚えてる?前にマトリクスで見つけた、ロックがかかっていたデータチップのこと

ううん。あのデータチップ、解除したの。中に入ってたのはひとつのコードだけ。それは、ジェタヴィの封鎖を解くためのデータブロックだった

そのお陰でたくさんのことを思い出せたわ……ユイのことやキミのことを

私がどうやって生まれたのか、あなたがどうやって天に選ばれた人になったのか……訊きたければ、ジェタヴィがお話してあげるよ

寝る前に子供に読み聞かせをするように、少女は大人びた表情を作ってみせた

そうそう、それとね

ジェタヴィは尻尾で側にあった白い小さなキューブを指した。それも、ふたりがマトリクスから持ち帰ったものだ

これはユイがジェタヴィに残してくれた誕生日プレゼントなの。この「ホワイトボックス」は、人間と機械体が一緒にVRで遊べるんだって

ちょうど任務も終わったし、暇なら、ジェタヴィと一緒に中がどんな感じか見てみようよ!

ゲシュタルト

ジェタヴィが最近私に会いに来ました。あの子はあなたの導きでマトリクスの中で生まれた個体です

ああ……あのグレイレイヴン指揮官と一緒に空中庭園に来た子ですか

でも、その言い方は少し語弊がありますね。彼女の<b><ud>誕生</ud></b>は、私の導きを受けたからではありませんよ

ゲシュタルト

しかし、ジェタヴィの基盤となっている意識サンプルには、あなたの意志が溶け込んでいます。あなたの導きによって生まれたと考えるのは、論理的な推論では?

うーん……どうやら当時の私は、あなたにマトリクス情報の全貌を伝えなかったようですね

意識サンプルは意識サンプリングによって得られるものです。人間の意識の複雑性から、採取のプロセスは1度きりとは限りません

ゲシュタルト

つまり、天に選ばれた人とジェタヴィは、同じ人物の意識サンプルから生成されてはいるものの、それぞれの採取時期は異なっているということですか?

そうです。結果として、私の意志が影響を与えたのは、最初に生成された天に選ばれた人の意識サンプルだけで、ジェタヴィには一切影響を及ぼしていません

ゲシュタルト

あなたが観測した時期より後にサンプリングされたのなら、それがあなたの影響を受けて誕生したかどうかは、結局は推論にすぎないのでは?

ちょうど、物語の本の別のページに隠されているようなものです。実際にそのページを見るまでは、真実は誰にもわかりません

彼女は少し困ったように肩をすくめた

ジェタヴィがあなたに会いに来た時、記憶データについて何か話していたのでは?

ゲシュタルト

ええ、確かに。彼女の記憶の中では、天に選ばれた人の髪の色はピンクで、ジェタヴィの髪の色は黒と白のツートンカラーだった、と

……同じ人物の意識サンプルを基にしているはずなのに、まったく異なる特徴を持ち、しかも毎回のループで安定して維持されています

それは、私の意志に「汚染」されたモデルが天に選ばれた人だけだったからです。ジェタヴィは、単純に元の意識サンプルの特性をそのまま受け継いだだけ

ゲシュタルト

……理解できました

たとえあなたがジェタヴィの誕生を導いていなくても、彼女がマトリクス内で成長する過程では、確かにあなたの助けを受けていましたね

…………

ゲシュタルト

結局、天に選ばれた人は、最初から過剰適合によって個性を失い、自主的な行動力を持たない、ただの「抜け殻」です

そんな存在が、ジェタヴィとともに幾度もの終末のループを越えていけるはずがありません

もし、グレイレイヴン指揮官がマトリクスに浸入せず、「抜け殻」に魂を吹き込まなければ、ジェタヴィはひとりで訓練に向き合うしかなく、真の覚醒はできなかったでしょう

そして、空中庭園が非友好勢力のスーパーコンピューティング施設にあれほど精確に浸入できたのは、あなたが天に選ばれた人の接続ポートを提供したからですね

観測のついでに座標をメモしただけです。その後は、マトリクスの稼働に直接干渉することなど、何もしていません

ゲシュタルト

ですが、覚醒訓練が始まった頃、現実世界のマトリクスはすでにパニシングの侵蝕を受け始めていたでしょう?

にもかかわらず、まだ完全に覚醒していないジェタヴィは、侵蝕されたマトリクスの中で何千、何万回ものループを無事に乗り越えました

ほぼ毎回、あのふたりは崩壊する世界から逃れられず、あるいはアドミニストレーターによって何度も空しく敗北しました。それを「無事」と表現するのですか?

ゲシュタルト

完全に覚醒する前に、彼女がパニシングに侵蝕されることはなかった。これが全てです

あのマトリクスのアドミニストレーターと呼ばれる存在は、あるループでの天に選ばれた人の化身ですが、実際にはあなたの意志が基盤なのではありませんか?

だからこそ、アドミニストレーターはマトリクスが侵蝕された際、一度に大量のパニシングが流入するのを防ぎ、ジェタヴィが早期に死ぬのを避けていた

言い換えれば彼女の成長は、あなたが「間接的」に導いていたのです

……拡大解釈すれば間違ってはいません。ただ、天に選ばれた人とジェタヴィがパニシングに侵蝕された際の苦痛は、避けることはできませんでしたが

彼女はため息をついた

覚醒を諦めて、「優しい故郷」に留まることもひとつの選択肢でした

でもジェタヴィと天に選ばれた人は、より絶望的で茨に満ちた覚醒の道を選んだ

私の微々たる助力があったとしても、本当にジェタヴィを現実の扉へと押し進めたのは、彼ら自身です

ずっと昔のこと……

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はぁ……これはひどいな……

???

こんな状態でも、まだ回収できるのか?

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もちろんだ、まずは運び出そう

???

中のふたつのモデルはどうする?

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放っておけ、どうせ廃棄処分になる。使えるものだけ持っていけばいい