ミルクティー、もうちょっと甘くしてもよかったな……
ジェタヴィはタピオカを噛みながら、もごもごと呟いた
ジェタヴィがさっき入れた砂糖は、人間の1日あたりの推奨摂取量の7倍よ。つまり、それ1杯で1週間分の糖分を摂取したってこと
へーきへーき、私、人間じゃないもん
でも、先生のミルクティーにも同じ量を入れたでしょ?先生、虫歯になっちゃうよ
ジェタヴィから渡されたミルクティーをちらりと見た。濃厚で甘ったるい香りは嫌な匂いではないが、どれほど砂糖が入っているのか心配になる
アヴィグの言葉を聞いたジェタヴィは、どうなるんだろうと期待するようにこちらを見ている
今まで飲んだことのない衝撃的な甘さに、これは飲み物かと疑った。口の中の液体は異様にドロドロで、中の砂糖が飽和して結晶化しそうなほどだ
だから人間の味覚モジュールは貧弱なのよ
糖分へのこだわりが理解されなくとも、彼女は何か別の楽しみを見つけたようだった……
ジェタヴィは険しい顔になり、いつの間にかじりじりと近付いてきていた。無理やりにでも飲ませようとしているようだ
ままいいわ、<M>あの人</M><W>あの人</W>じゃないし
彼女はじっとこちらの顔を見つめたあと、まあいいかというように、またぴょんぴょんと飛び跳ねながら走り去っていった
「D区のビルの廃墟の地下には、アリと呼ばれる微小な生物がたくさんいる。視覚モジュール内で占有しているピクセルがすごく小さい……本当に不思議」
「E区のショッピングモールには、カラフルな服だらけで、全身金ピカの服も!どこから見てもピカピカで――決めた!試験に合格したらこれを着る。絶対にカッコいい!」
「古い住宅街……ここには写真しか残っていないみたい。そういえば、グストリゴではまだ皆と記念写真を撮ってない。今度、どこかでフィルムを探してみよう……」
「超無敵の黄金時代のメディアショップには、ゲームカセットや映画ディスク、レコードにカセットテープ、VRデバイス……残念、機体にプレイヤーが内蔵されてないんだった」
メディアショップへ足を踏み入れると、アヴィグは四方に輝くネオン装飾に目を奪われた。彼女の瞳が華やかな色彩で、色とりどりに輝く
『魔法少女と14本の空飛ぶ箒レーシング EX版』
『ゼリースライムvsネバネバ魔王2』
うわ……もしシロがここにいたら、ここにあるものは、あの子の「物語」にすごく役立ったはず
どうしてそう思うの?
私たちの言語ロジックに合わないからよ。どれも私には理解できないものばかり。でも、あの子はそういうものが一番好きなの
私だけじゃなくて、シロ本人も理解できないんです
シロなら、きっとこう言います。「でも……面白いと思わない?アヴィグ」って
…………
メディアショップを出ようとした時、店員が2本のカセットをアヴィグの腕に押し込んだ
この荒廃した世界で、誰も見向きもしない芸術を分かち合える相手を見つけたことが嬉しかったのだろう。彼はどうしてもこのカセットをアヴィグに渡したかったようだ
行こう、先生。次の日記に書かれた場所に行かないと
だが、ページをめくると、そこにあったのは空白の枠だけだった
…………?
日記をアヴィグに渡すと、彼女は何度もページをめくって見返した。だが後のページは真っ白で、ただ無機質な紙だけがある
これで終わりですか?
彼女は呆然と立ち尽くし、戸惑いながらこちらを見つめた
本当に……?
何かを再確認するように、彼女は1度日記を閉じると、また1ページ目からパラパラとめくり直した
サイレント映画のように、歪んだ文字や絵が視覚モジュールを高速で流れすぎていく
どうして?どうしてシロは続きを書かないの?
…………
シロは私たちと約束したわ。面白い「物語」を作って、卒業の日に全校生徒と先生の前で大声で朗読するんだって
今日、私たちは本当にたくさんの場所を回ったわ。遊園地にミルクティーショップ、メディアショップも。それに、よくわからないカセットも2本手に入れた
シロは絶対に気に入るはずよ。だって、今日はすごく役に立つ素材を集めたんだから。だから、日記にも記録されているはずなのに……
彼女はいつになく長々と話し続けた
そのはずでしょ……絶対……
そう……なの……?
彼女は力なくうなだれ、呆然と手の中の日記を見つめた
でも……この日記にはたくさん空白のページがあって……まだ、書き終わっていないのに……
突然、不可解な感情の信号がアヴィグの処理中枢へ押し寄せた。彼女はその場に立ち尽くし、1歩も進めなくなってしまった
「シロ」という記憶は、ここで途切れた