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ER10-16 狩人の掟

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<size=45><b>「■■■を除く全員が戦死。叛逃指揮官ヴェンジは昇格者陣営へ逃亡」</b></size>

恐ろしい言葉が、任務報告端末のスクリーン上で赤く点滅していた

その下には、あまり目立たない形で、前線部隊と昇格ネットワークとの頻繁な接触記録が細かく列挙されていた

……これほど悪質な離反を放置したこと自体が、軍部の怠慢です

スーツを着た軍人が、先に沈黙を破った

そんなに自分を責めるな。前線の軍人が誘惑に抗えなかったとしても、その責任と――その結果を背負うのは、彼自身だ

それに、我々が戦死者から収集したデータ資料は、構造体研究開発の発展に貢献している

新たな脅威を認識し、備えることが重要だ。彼らの犠牲を決して無駄にしてはならない

指導者とは、常に未来を見据える者を指す。しかし軍の指導者の不安は、どれほど冷静に労われても拭い去れるものではなかった

「パニシングの支配者たる昇格者に加わる以外、人類に未来は残されていない」――これは小隊メンバーだったヒイロから回収された音声記録です

これまで我々が相手にしてきたのは、大半が認知能力の低い侵蝕体でした……

だが、もしこの情報が事実なら、パニシングの力を利用しようとする敵の組織の活動が、ますます活発化していることを意味します

指揮官の離反や構造体の失踪などよりも、この状況の方が遥かに重大な問題なのはわかりきったことです

だからこそ、私は根本からこの問題を解決したいと考えます

戦場の記録を基に昇格者の行動パターンを分析した上で、大物を釣り上げるのです

ましてや、向こうからやってくるのももう時間の問題です

考えを聞こう

ロプラトスという場所をご存知ですか

砂漠地帯

ロプラトス近郊

数日前

数日前、ロプラトス近郊、砂漠地帯

検知しました。目標の活動を確認、全員待機してください

構造体の部隊リーダーはセンサーの異常を察知し、即座に低い声で周囲の仲間たちへ指示を出した

了解、目標位置の確認を

了解~

彼の偏屈なスタイルは、任務中であっても一切変わらない。彼にとって、「後輩」の指揮を受け入れることは限界に近かった

だが、シュエットの卓越した能力は誰もが認めるところだった

イサリュス、侵蝕体の動向に警戒を。デモンは私の攻撃開始と同時に制圧をお願いします

瞬間風速毎秒13.9m、砂嵐は30分後に作戦区域へ到達する見込みだ。赤外線スキャンを継続中。目標以外の敵対勢力の動きはなし

目標に対する拘束装置の準備完了

シュエットの目に一瞬だけ彼女らしくない迷いがよぎったが、彼女は感情の揺らぎを意識海の奥底へ押し込めた

では、各自戦闘配置についてください

黄砂が吹き荒れる中、目標として捕捉された構造体は自らの運命を知ることもなく、よろよろと歩いていた

え……選んでくれ……もう一度……チャンスを……

俺は……まだ……この体は……全て……じゃない……

目標はまだ意識がある。パニシングに完全に侵蝕されてはいない

監視を担当する構造体は警戒を緩めることなく、目の前の事実を報告した

え?話しかけでもするつもりですか?一緒に帰ろうぜ、って?

リーダー、やはり始末を?

彼は仲間の冗談を黙殺し、シュエットに提案した

目標の行動力喪失は私が保証します。今回の任務は、最近出没している正体不明の構造体の身元確認です。上層部は目標の完全排除を命じたわけではありません

彼女は精密射撃用ライフルの電子スコープを調整すると、ボルトを引き、超小型APFSDSを装填した

わかった

シュエットは銃身を持ち上げ、風砂に逆らいながら必死に進む孤独な構造体に狙いを定めた

小隊が身を潜める岩陰から、戦車の主砲発射にも劣らない轟音が響き渡り、銀の閃光が砂塵と砂礫のベールを引き裂いた

側にいる構造体の反応よりも早く、目標は左脚を粉砕され、その場にがっくりと崩れ落ちた

……デモン、目標の制圧をお願いします

彼女は何事もなかったかのように静かに銃口を下ろした。表情はマスクに覆われ、無感動な瞳だけが、疑いようもなく指揮官の権威を示していた

了解、任せて

命令を受けた構造体は岩を飛び越え、素早く目標構造体に接近した

彼はテーザーガンを数発放ち、電流拘束ベルトで目標を制圧した

砂嵐は28分後に作戦区域へ到達する見込み。侵蝕体の動きはなし

シュエットは頷き、後方の警備担当のメンバーたちを率いて目標に近付いた

???

お前たちは……どこの攻撃部隊だ?

粛清部隊ですよ。エンブレム、見えません?

おとなしく答えた方が身のためですよ。リーダーの機嫌がよければ、命までは奪われずに済むかもしれませんし

……

個人情報を一切明かさないシュエット以上にメンバーに煙たがられているのは、いつまでもおしゃべりが止まらないデモンだ

彼はまだ文句を言い足りないらしい

攻撃部隊、というのは?

お、お前たちはモンツァノが送り込んだ回収部隊じゃないのか?

この時ばかりは、デモンですらリーダーの異変に気付いた。ほんの数秒だったが、彼女が絶句したからだ

もしくは……俺を殺しに来たのか……

それもいいだろう!俺は意識伝送なんて嘘くさいものには頼らない!

お……俺はネットワークの啓示を見たんだ!俺たちは永遠の存在なんだ!

電流拘束ベルトの青い光が構造体の機体表面に火花を散らしたが、彼はそれでも異常に興奮した様子で意味不明な言葉を叫び続けた

モンツァノとは誰です?

だが、彼女にはやるべき任務がある。すぐにいつも通りに簡潔に問いかけた

エレノア隊長は俺を見捨てた!お前たちも同じ冷血機械になるつもりなんだろう!?

騙されるかよ……クソ野郎!命令に従うことしかできないやつらめ!俺には永遠の命があるんだ!

地球奪還……そんなのは嘘っぱちだ!ネットワークは俺を選んだ!後少しで、俺は、俺は……!

構造体は必死にもがき、センサーの赤い光が獰猛な捕食者の血走った瞳のようにギラついている

まずい!目標の体内でパニシング濃度が急激に上昇している!

シュエットはその警告に構う余裕はなかった。彼女は威圧的な口調で目標に詰め寄った

エレノア?その人物はとっくの昔に失踪した

ククク……ハハハハハハハハ!

モンツァノの右腕であり、構造体部隊の第一指揮官……お前たちが知らないはずがない!

言葉にできない無重力のような感覚がシュエットの意識を支配した。彼女は、まるで自分の理性が深淵に沈んでいくような感覚を覚えた

しかし命令への絶対服従は、彼女の最深部に横たわる思考ロジックだ。彼女は何としても任務を完遂せねばならない

他の昇格者の位置は特定できるの?今すぐに答えなさい

俺が昇格者だと思ってるのか?俺がそんな栄誉にあずかれるもんか!

エレノアは、俺と戦友たちをあの生き地獄に捨てやがった!だがネットワークが俺を蘇らせたんだ!

俺の循環液は再び流れ始め、体さえも強化された!そして、今まで見たことのない景色を見たんだ……

あれは、完全にパニシングに包まれた地球だ!深紅に染まり、爛れ、繁栄する。想像を絶する壮麗な景色だった!!

……

彼は呆気に取られているのか、新たに電流を流して目標を黙らせようとはしなかった

侵蝕が限界値を突破する!砂嵐も20分後に到達だ!

唯一理性的な構造体が、無視できない警告を発した

あなたたちの回収地点を教えなさい。私たちが連れ戻すこともできる

戻る?なぜ!?あの庭園とやらも、いずれ毒の花で埋め尽くされる!

俺は一度ネットワークを失望させた。だが、次はない……

電流針は効力を失い、地面に落ちて砂に埋もれ、その隙に目標は拘束を振りほどいた

ふ……

本能的に、「伏せて」と隊員たちに指示を出そうとしたその瞬間、耳元で火薬の爆発音が2度、鋭く響いた

彼女に飛びかかった構造体の頭部は1発目の銃弾に貫かれた。2発目の銃弾は更に金属の塊を粉々に砕き、破片を四方へ飛び散らせた

緊急事態により、致命的攻撃を実行した

銃を撃った者は弾倉を交換しながら、自身の判断を弁明するように言った

素晴らしい反応速度でした

命の危機からは免れたが、記憶の奥底の恐怖と胸騒ぎが、彼女の呼吸を詰まらせた

目標のデータチップを回収、撤退準備を。デモン、輸送機を呼んでください

……

傍らに立つ構造体は何も答えない

デモン?砂嵐が接近しています。早く撤退しなければ

構造体……人間らしく生きられるなら、構造体になりたいと思う人なんていませんよ

彼は独り言を呟くと、通信チャンネルを開いた

無駄話をするな、警戒を維持しろ

シュエットは、仲間同士の言い争いに構う気分ではなかった。手慣れた動作で構造体の残骸を転がし、データチップを引き抜いた

<size=40>汎用強化フレーム</size>

<size=40>フェレット攻撃部隊</size>

<size=40>Ferret-2</size>

チップに刻まれた文字に見覚えはない。だが、最下部に記された機体の出荷情報が、彼女の冷静さを完全に打ち砕いた

「エデンIII型植民艦、構造体研究開発部」

それは、黄金時代に失われた伝説。本来なら、とうの昔に時の海の最深部に沈み、風化しているもの――

そしてそれは、彼女がこの機械の体を手に入れる前から振り払うことのできない悪夢だ

作戦会議室

2時間後

2時間後、作戦会議室

……以上が今回の任務の全容です。回収したデータチップはバックアップ後、科学理事会に渡しました

輸送機で帰還するや否や、弾薬の残量確認や戦闘損傷の処理もしない内に、グリースから報告を求める内容のメッセージを受け取った

グレイレイヴン指揮官ヴェンジが昇格ネットワークと接触して離反して以来、ただの噂だとされていた新たな脅威は、瞬く間に黒野と軍部の神経を尖らせた

お前さんの話じゃ、目標は本来の回収地点について話したそうだな?具体的な位置情報を教えてくれ

目標の証言が正しければ、彼らは郊外の新ネリス空軍基地へ向かい、そこから撤退する予定だったようです

空軍基地の跡地だろう?あそこは鳥すら寄りつかない荒地だ。もうずいぶん前から廃墟になって……

確かなのは、彼らが空中庭園の部隊ではないということです。それに、モンツァノは現在行方不明者として登録されています

シュエットは突然、男の発言を遮った。グリースは、彼女がなぜ感情を抑えきれなかったのかを理解していた

……昇格ネットワークとリンクして目標は精神に錯乱をきたした、というべきか?そいつの証言によれば、お前さんの古い知り合いも、実は皆生き延びていたらしいじゃねえか

……ロプラトスへの調査任務を申請します

彼女は上層部の戯れ言に常に従うことに、心底うんざりした。初めて彼女は率直に自身の要求を口にした

まあ焦りなさんな。結局、そこへは行き着くことになる。だがお前さんは軍直属の粛清部隊の一員であって、黒野の私兵じゃないぜ

昇格ネットワークの活動を受けて、俺たちは北極航路連合と交渉し、ウィンター計画を次の段階へ進める準備を整えた

議会が昇格ネットワークに対して抱いている興味は、俺たちのそれとまったく変わらない……

ロプラトスはすでに廃墟だ。モンツァノが何か企んでいたとしても、大波を立てるなんざ無理だ

だからこそ囮として利用できる。軍部を説得して調査任務を実行させろ。そして、その過程でモンツァノを始末する

軍がそこで回収する情報は、パラゴンスキーの供述とも一致するだろうさ

過去の実験がすでに終わっていることが更にはっきり認識され、モンツァノの行動は黒野とは完全に無関係だとお天道様のもとで証明できる……

めでたしめでたし、ウィンター計画はこのままつつがなく進められるってわけだ

お前さんが言っていた「エデンIII型」については、俺からリス坊に伝えておく。何事も専門家に任せるのが一番だからな

黒野はすでに昇格ネットワークという深淵を覗き込んでいる――彼の直感がそう告げていた。その底へ飛び込むという考えが、落涙するほど彼を狂喜させていた

もし、あの力を支配することができれば……これまでの犠牲も全て報われる!

男は、ほとんど自分の妄想の世界に浸っていた

……私は答えを知る必要があります

彼女はこうした見え透いた芝居に心を動かすことはない

俺たちが求める答えは、いずれ全て手に入るさ。お前さんの発見には感謝するぜ。ところで、お嬢ちゃんよ……

てっきり死んだと思っていたお前の知り合いが、まさかこれほど経ってから黒野のために新たな扉を開いてくれるとはな。モンツァノが何を企んでいるかはさておき……

彼女の産物が昇格ネットワークに認められるほどの存在になったのは驚愕だ……数奇な運命だな、あの時の俺たちのベットがこんな予想外の形でペイアウトされるとは

彼は咳払いをしながら噛み煙草を取り出し、口に放り込んだ

大功労者の嬢ちゃん、さあ、戻って休んでくれ

承知しました

彼女は男を冷たく一瞥し、背を向けて部屋を後にした

船窓の外に広がる星々は、オリオンの腕にある小さな惑星の文明が災厄に阻まれようとも、輝きを失わない。彼らは輝き、不変で、永遠に美しい

そして、忍耐強い――自ら放った光が、何千万年もの時を旅し、人間の目に捉えられる瞬間をじっと待ち続けている

だがシュエットは、初めてその星々が真実のものではないように見えた

まるで綿密に設計されたライトショーのように、決まった時刻に光っては消える。そんなもののように思えた

シュエット

それに、新しい星もあるわ。地上からは決して見ることのできない星々が

彼女は、あの懇願の言葉を思い出した。それは、まるで遥か遠くの別の誰かが言った言葉のように思えた

星々は今も、ゆっくりと漂い続けている。だが、それは足下の巨艦の動きによる錯覚だ

シュエットが船窓の外の光景を見て眩暈を覚えたのは、これが初めてだった

空中庭園会議室

現在

現在、空中庭園会議室

……ロプラトス?

ロプラトス、黄金時代のカジノ都市です。黒野はそこで宇宙船生態圏の信頼性に関する研究をしていたことがあります

黒野の方から我々に調査を依頼してきただと?君の話を聞く限りでは、彼らはそこに山ほど秘密を隠しているようだが……

ロプラトスでは最近、パニシングの動きが頻繁になっています。数日前、粛清部隊が昇格ネットワークと接触したと思われる構造体を制圧し、データチップを回収したばかりです

グリースは、自分が何をしているのかよくわかっているはずです。むしろ黒野は、我々に意図的に秘密を晒そうとしているのかもしれません

しばし思案し、軍部の指導者は判断を下した

シュエットがリーダーを務めたあの回収任務だな?科学理事会の分析はどこまで進んでいる?

それがこの一連の事件における最大の疑問点です。目標の構造体が昇格ネットワークと接続した事実を除外しても、その意識海モデルは空中庭園の構造体とは違いすぎる……

唯一、そのモデルと類似する機体は存在しますが、それはいまだに出自不明の……偶像の英雄です

それはつまり……

……当時、内蔵型逆元装置を搭載し、意識伝送が可能だと自称していた放浪する構造体のことです。その後、彼は一時的に我々の部隊に編入されていました

空気が張り詰めた。誰もこの話が、昇格ネットワークの枠を超えた革新的な情報に至るとは思っていなかったからだ

正直なところ、軍部がこうしたプロパガンダをすることに、私は乗り気ではない

議長は静かにため息をついた

最初から、我々は彼がどこから来たのかを知らず……ただ、彼を奇跡として扱っただけだ

奇跡は決して利用されるべきものじゃない。もしそれを利用すれば、奇跡は本来の意味を失ってしまう

私の一存ではほとんど何も決められません。奇跡の噂が広まり、兵士たちはそれを頼りにするようになっている。私は、彼らが生き延びるための希望を奪えない

それに、説教は勝利の後に残しておくべきでしょう

軍部の総司令は戦いの許可を求めているようだ

……この謎を自らの手で解き明かせれば、作り上げられた神話も、自然と崩れるかもしれないな

昇格ネットワークをより深く理解し、地上での戦闘で勝利を収める。そんな希望の方が、戦場の伝説よりも遥かに有用だ

議会の方は私が手配する。作戦計画は君に任せる

ニコラは象徴的な敬礼をして、そのまま会議室を後にした

ロプラトスか……

ニコラとの会話で、彼はあえてその地名に聞き覚えがない素振りを見せた。毎日業務に追われる指導者が、娯楽の都市について詳しくないのは当然だ

しかし実は、彼とその地名の因縁は、遥か昔まで遡ることができるのだった

空中庭園

アルカディア·グレート·エスケープの時期

アルカディア·グレート·エスケープの時期、空中庭園

流線型の機体外殻が静かに開き、小さな降着装置が音も立てずにプラットフォームにしっかりと接地した

現行の重厚な軍用輸送機とはまったく異なるものだ

パイロット

これが本日の最終便です。各戦線はほぼ安定し、段階的な撤退完了まで持ちこたえられる見込みです

彼は迎えの場に上層部の人物がいるとは思っていなかったが、それでも粛々と報告した

ご苦労だった、少し休んでくれ

乗客たちも次々と輸送機から降り、空中庭園の巨大格納庫に感嘆の声を上げた――あるいは九死に一生を得た歓喜の声だったのかもしれない

ハセンはプラットフォームの上で、ゆっくりと機体の周囲を歩いていた

ん……?ああっ!ハセンさん!いや、えっと、すみません……

整備していたスタッフは、普段ニュース映像でしか目にしない顔を見て動揺し、慌てふためいた

構わない、楽にしていてくれ

この型番は……確かに珍しいな。我々の軍用輸送機と比べて、ずっと洗練されている

洗練だなんてとんでもない!これはカジノの民間旅客機なんです。見た目は豪華ですが、装甲はペラペラ。攻撃には耐えられませんよ!

その大物が意外にも自分の得意分野について聞いたことで、彼はスラスラと会話を続けることができた

とはいえ、飛ぶだけなら十分使えます。こんな状況ですし、飛び立てることが最優先です

前の議長は、本当にろくでもないヤツでしたね。こんな緊急事態に賄賂のことしか考えてなかったんですから!

ハセン議長のご尽力がなければ、俺たちはこんな貴重な輸送機を確保することさえできませんでしたよ!

スタッフは熱心にハセンへの感謝を伝えた。その言葉に偽りがないことは、ハセンにはよくわかっていた

だが残念なことに、歴史を潜り抜けた者には、墓場まで持っていくしかない物語もある

……この輸送機を作ったのは、どんな人なのだろう

俺にもわかりません。ですが、金持ちってのは本当に派手好きですよ。たかだかカジノ都市ひとつのために、宇宙輸送機を複数連隊分も所有していたんですから……

ハセンは、まるで別世界の産物のような、滑らかな機体の耐熱合金をそっと手でなでた

即席で塗られた世界政府のエンブレムが、純白の機体の上でかえって不自然に浮き上がっていた。その下にうっすらと見えるのは……ロプラトスと描かれた文字だった