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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER10-4 猫と鼠のゲーム

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ロプラトス

10月2日

……もし、既成概念を打ち破りたいと願いながらも、大切な人を傷つけたくないのなら、せめて芸術に携わるべきだ。冗談ではない。芸術とは生計を立てる手段ではない

頼む、何かひとつ芸術を学ぶのだ。それはあなたの人生を多少は耐えうるものにし、知らず識らずの内に魂を浄化してくれるかもしれない

トランプの裏にペンで書を練習したり、ミントと蒸留酒でカクテルを作るのもいい。つまらなかろうが物語を語ってもいい。いつか友人はその作り話を本当だと信じ出す

できる限りの最善を尽くすのだ。そうすれば、あなたは神の啓示の僅かな兆しに気付き、最後には報われるだろう

朗読者は手にしたハードカバーの本を閉じた。周囲は静まり返り、物音ひとつしなかった

しばらくして、まばらな拍手が聞こえた。一方で、退屈しきっていた聴衆たちは次々と席を立ち始めた

「セオドア·アンソン·スタージョン新刊発表会」と書かれた横断幕が天井に高く掲げられている。だが、参加した名士たちは、期待外れといった様子で臨時講堂を出ていく

このホテルの多目的ホールのレンタル料、決して安くはないでしょう?駆け出しの新人作家がわざわざロプラトスまで来てイベントを開くなんて、なかなか独創的ね

1日中、投票マシンみたいに働くのは退屈ですしね。市民に選ばれた議員として社会に貢献する方法はいろいろある……文化芸術活動のちょっとした支援もそのひとつですよ

イベントのスポンサーはそう答えた

……それはそうと、あなた、7月中旬にもここに出張してたわね。法案の可決直後に。頻繁にロプラトスに出入りして、そんなに新しいスポンサーを見つけるのに必死なの?

中年女性の声には冷ややかな皮肉が滲んでいた

ボラード機関の予算はあなたが握っていますし、黒野氏もあなたを高く評価している。「時の人」には、失脚しかけた私など取るに足らない存在なのは、よくわかっています

身の程を弁えているなら結構

ほら、人ってのは暇だと何か楽しみを見つけたくなるものじゃないですか。最近は今時の名作を色々読んでいて、もう自分の腹からインクが染み出てきそうな気分ですよ

作家と付き合うのも面白いですよ。彼らは、こちらが作品の内容に精通しているとわかると、子供の頃にあやとりをしたとか些細な話まで語りたくなるものらしい

そう言うと、彼は意味ありげに声を潜めた

この新作のインスピレーションは、スタージョンが昔出席した、ある葬式から得たものだとか

そんな不真面目な態度で、堅物の作家先生たちから軽蔑されないの?

直接関わるまでは、そんなことはわからないでしょう?例えば、さっき壇上にいたあの人……断言しますよ、あなたもニュースで彼の名前を見たことがあるってね

どうせ三面記事の隅にでも載っていたんでしょ?そんなものを読む暇はないわ

おっと、私が言ってるのはスタージョンとかいう間抜けな名前じゃありませんよ。業界の噂では、あれは彼の数あるペンネームのひとつにすぎないらしいのです

新しいご趣味が見つかってよかったこと。だけど、私はもう失礼させていただくわ

ふたりはすでにホテルのロビーまで歩いてきていた。女性は、ケパートの際限ない与太話にうんざりした様子だ

構いませんよ。またお会いしましょう、パラゴンスキーさん。次の機会にじっくり語り合いたいものです

……フン、どうぞお好きに

形式的な握手を交わしたあと、彼女は腕時計にチラッと目をやり、ゆるやかな坂の先に停まっている車へと向かった

軽薄な同業者への軽蔑が警戒心を緩めさせたせいで、彼女は気付いていなかった――袖口のカフスボタンが巧妙にすり替えられたことに

落ちぶれた作家は、解散する人々とともに立ち去ることなく、金髪の男の傍に立った

ご支援に感謝致します

とんでもない!新作も期待通りの素晴らしさでした。正式に出版された暁には、ぜひ新刊にサインをお願いしますよ

彼は心からの称賛を送った

恐縮です

そうそう、前回お会いした際にお借りした万年筆ですが、ずっと大事に持っていたんです

今日、こうしてお目にかかれたので、ようやく持ち主にお返しできますね

議員はスーツのポケットから、黒と金の配色の万年筆を取り出した。ダイヤモンドの装飾が施されており、万年筆としては珍しいデザインだ

彼はその際立つダイヤモンドを意識的に親指でなぞりながら、作家へ差し出した

ありがとうございます。この後、モンツァノ夫人と予定がありますので、お先に失礼いたします

車はロプラトスのカジノ通りを抜け、それほど騒がしくはない住宅街へと向かっていた

車窓から見える高層ビルは徐々に減り、やがて低い屋根が並ぶ街並みへと変わった

女性はアームレストに備えつけの受話器を取り、通信チャンネルを開いた

やはり懸念していた通り、ケパートは出所不明の資金を動かしているようです。「刺繍鋏」を動かして監視させますか?

黒野

この数年で「刺繍鋏」の腕前や人脈もすっかり鈍っているかもしれん。ならば、むしろ、彼があの時連れていった娘にチャンスを与えてみてはどうだ?

電話の向こうから、男性のしわがれた低い声が何気ない様子で指示を出した

……と、言いますと?

黒野

「刺繍鋏」は捨て駒にすぎないが、あの娘は貴重な資源だ。初期候補の中で、今日まで生き残ったのは彼女だけだろう?大いに期待できそうだ

では、その娘をモンツァノに接触させると?

黒野

いつから君の思考はそんなに短絡的になった?……「刺繍鋏」を動かせば、モンツァノはすぐに脅威を察知する。彼女が我々に警告しようとするなら、迷わず彼を殺すはずだ

だが、モンツァノの手で「刺繍鋏」を始末させることで、あの娘は本領を発揮できる

電話の向こうの男性は何やら満足そうな様子だったが、パラゴンスキーは沈黙したまま指示を聞いていた

モンツァノ夫人邸宅

15分前

エレノアは応接室の入り口で客の到着を待っていた

今日は、ケパートが約束した「ボコノン計画」の新たな投資家が訪れる日だ

上品な黒塗りのセダンが時間通りに到着し、少女は後部座席から降りてきた男性を室内へ案内した

ロプラトスへようこそ。私はモンツァノ夫人の姪のエレノアです。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?

エレノアは自分の記憶力を疑ったことがない。3カ月前、目の前の来訪者はすでにロプラトスのカジノホールに姿を見せていた

彼はホールの片隅から、ロシアンルーレットの一部始終を見届けていたはずだ

グルートとお呼びください

グルートさん……ああ、あの今話題の作家先生ですね

……そして、話題の逃亡者でもありますよ

無駄な社交辞令は省き、来客は一直線に少女の態度を探るように話を切り出した

世論の渦中で暮らす人には、さまざまな噂が付きまとうものですわ

ですがご安心ください。「ロプラトスでの出来事は、永遠にロプラトスに留まる」――それがこの街の暗黙の了解ですから

問題ありません。先入観を持たない相手に対しては、正直でいることもひとつの賢い選択です

これは個人的な興味でビジネスとは無関係ですが……若いご令嬢が私の作品をご存知とは、嬉しい驚きですよ

お近付きのしるしに、エレノア嬢にささやかな贈り物を

彼は「贈り物」という単語を強調した。男性が細長い箱を取り出し、蓋を開けると――そこにはベルベットの上にそっと置かれた精巧な黒と金の万年筆があった

まあ、なんて素晴らしいの!

彼女はグルートの視線がペン軸に施されたダイヤモンドの装飾に留まっていることに気付き、それとなくその突起を観察しながら、感嘆の声を漏らした

遠くから聞き慣れた足音が近付き、夫人が応接室の入り口に姿を現した

ソファに座るグルートの姿を目にする前から、彼女の顔にはすでに社交用の愛想笑いが浮かんでいた

カジノの方で雑事が多かったもので、空港まで直接お迎えに行けませんでしたわ

こちらは姪のエレノアです。子供にお出迎えを任せてしまって、どうかご容赦ください……

とんでもないことです。非常に礼儀正しいお嬢さんだ。ご家庭での教育が素晴らしいことの証左ですね

男性は立ち上がって一礼し、慣れた様子で社交辞令を返した

エレノアは叔母に軽く会釈すると、来客に簡単な別れの挨拶をして、応接室を後にした

廊下へ出たエレノアは誰もいないことを確認し、万年筆を取り出した。小さなダイヤモンドの装飾が、肉眼ではほとんど見えないほどの微かな緑色の光を放っている

エレノアはこれが何であるかを理解していた。むしろ、こんな原始的な盗聴器が今なお使われていることに驚きを覚えた

グルートがなぜこの「贈り物」を渡したのかは見当もつかない。だが、彼女はどんな些細なチャンスも逃せないことを知っていた――情報を多く握る者こそが、先手を得る

彼女は慎重にダイヤモンドの部分をねじり取り、それを耳の軟骨に貼りつけると、万年筆のクリップ部分を軽く押した

では、その娘をモンツァノに接触させると?

まったく雑音もなく、女性の声がはっきりと聞こえた

エレノアは、その音質から盗聴器のもう一方は恐らくターゲットの手元近くに仕込まれているのだろうと推測した

黒野

いつから君の思考はそんなに短絡的になった?……「刺繍鋏」を動かせば、モンツァノはすぐに脅威を察知する。彼女が我々に警告しようとするなら、迷わず彼を殺すはずだ

あの真面目ぶった無能を始末できれば、ことはずっと楽に運ぶ

それに名店の出自で父を亡くした娘など、モンツァノにとってどれほどのスキャンダルかつ不安要素になると?モンツァノには選択肢がない。あの娘には千載一遇の機会だ

しわがれた男の声は、どこか満足げだった

一石二鳥というわけですね

黒野

ふふふ……ボラード機関は、ある意味「刺繍鋏」が心血を注いだ結晶だ。君も、もともとは彼の弟子にすぎなかったんだぞ

だが今、君は借りた刃で師を葬ろうとしている。君たちの業界でいう、成人の儀式というやつなのだろう?

エレノアの耳に、女性が微かに息を飲む音が響いた

彼女は考えを巡らせているようだったが、しばしの沈黙の後、普段と変わらぬ冷淡な声で答えた

指示は伝えます

会話はそこで途切れた

12月23日

またクリスマスの季節がやってきた。だがエレノアは、叔母はとても祝う気分ではないとわかっていた

彼女が部屋の扉に近付くと、激しい口論が聞こえてきた。最近のケパートとの通話では、明らかにこういった感情的なやり取りが増えている

エレノアはノックをしなかった。それに叔母は自分に話を盗み聞きされようが、気にしないこともわかっていた。彼女はこうして軽視される自身の利点を存分に利用してきたのだ

……今やボラード機関のスパイがしょっちゅうこの街に現れてる。まさか、私に「ただ私立探偵を雇って進捗を監視しているだけだ」とでも言うつもり?

あの老いぼれは最初からこの話に興味がなかったのはわかってるわ。「プロジェクト再始動」なんて結局は、あなた個人の独断でしかない

資金の流れさえ確保できれば、あなたたちのくだらない内輪揉めには関与しない……だけどこれだけは言う。私の縄張りで好き勝手できるなどと思わないことね

彼女はすでに何かを決断したように、ブツリと電話を切った

エレノアは静かに10を数えてから、そっとノックした

入って

エレノアは扉から1歩だけ足を踏み入れた。叔母が長話をするつもりがないことは明らかだからだ

ご用件はなんでしょう?

もうすぐクリスマスよ。例年通り、いくつか買い出しをお願い

これがリストよ。しくじらないで

そう言いながらゆっくりと歩み寄ると、クラシックな羊皮紙をエレノアに手渡した

エレノアはざっと内容に目を通し、久しく目にしていなかった文字を見つけた。しかし、それに驚くことはなかった

「鳥の羽根飾り」

今回は服飾関連の品が多いようですね。叔母様は今回、どこの店で仕立てるおつもりですか?

ロスウォット裁縫店よ

彼女はなんでもなさそうに、その名を口にした

エレノアの予想通りだった。むしろ、彼女はすでに必要な道具――精巧な革製のドキュメントケースを用意していた

必要な偽装を施せば、自分の痕跡を綺麗に消し去ることができる

<color=#ffee82ff>Rosewater Ltd. EST.2132</color>、目立つ金箔の文字が中央に刻まれている

兵も馬も、盤上における全てが緻密に計算された一手だ。たとえ駒に意思が芽生えたとしても、プレイヤーの指示に従って行動しなければならない

どの一手も、王が無防備に自らの陣地をさらけ出すまで巻き取られる繭の糸なのだ

彼女にはやり遂げなければならない任務がある

ロプラトス公営墓地

14年前

臨時の講壇の前に立つ男は、大袈裟な十字架のネックレスをぶら下げていた。音楽隊の演奏がやむと、彼は軽く咳払いし、祈りの言葉を形式にそって読み上げ始めた

……神を待ち望む者に神が与えられたものは、耳に入れたこともなく、目に見たこともない、人の心に思い及ばないものなのです

フレッド·シンクレアとフェリス·シンクレアは今、神の栄光の中で生きています

今日、私たちが埋葬するのは、愛する者たちの肉体にすぎません。彼らの精神と魂、そしてこの街への驚くべき献身の精神は、今も私たちとともにあります

そして、親しき者たちの愛の中で、子供たちの希望の中で、シンクレア夫妻は永遠に生き続けるのです

牧師はそっと古書を閉じた。再びバグパイプの音が響き渡る。参列者たちは順番に前へ進み出て、赤褐色の棺に手を置き、別世界へ旅立った故人に最後の別れを告げた

カッパーフィールド財団傘下の武器商、世界政府議会予算委員会の首席議員、アディレエネルギー工業を統括する後継者――その面々はニュースで頻繁に目にする顔ぶれだった

更に列の中にはあまり顔を知られていない参列者が多数紛れていた。背景の一部かのように目立たぬ彼らの正体は――黒野グループの者たちだ

そして群衆の中には、本のカバーやインタビュー等でも1度も素顔を公開していない作家の姿もあった。当然、誰も彼の正体には気付かない

少女は、大人たちの世界の中で酷く場違いに見えた

おい、君の番だぞ!

低く荒々しい声が、彼女を現実へと引き戻した

えっ、ええ……

彼女は一歩踏み出したものの、視線は足下の芝生にじっと固定されたままだった

棺に手をぞんざいに置き、早く儀式を終わらせようとする先の参列者たちとは違い、彼女はしばらくためらって、ようやく人差し指を伸ばした

鋭利な刃のように尖った爪は、か弱い外見の少女にそぐわず不自然この上ない

彼女は棺のなめらかなアーチ状の表面に、そっと三日月の形を描き、そして、そのすぐ下に小さな十字を素早く描いた

牧師

……

ローブをまとった牧師は、壇上からその様子をはっきりと見ていた。彼は不思議に思い、僅かに眉をひそめた

しかし彼女を促した男性が、荒々しい怒声で無残に静寂を引き裂いた

フレッドはお前のような毒蛇を飼うべきじゃなかった!それが彼の……ああ、神様お許しを!私が言いたいのは、彼が去る前に、直接私に言ったことなのです!

お前のような死に損ないは、いずれ地獄に落ちる!

彼が遺言でお前を唯一の受取人にするなんて!だが彼はそういう人だ、死ぬまで心が甘すぎた!

弔いを終え、すでに仮設の座席へ戻っていた権力者たちは、突然の騒ぎに一斉に視線を向けた

おじ様、私には何の話かわかりません。父と母は、生前あなたのご友人だったのですか?

彼女は驚いた様子を見せたが、その言葉に一切の反論の意図はない

彼女の礼儀作法はあくまでも自然で、男の理不尽な怒りの炎は、燃え上がらない砂の壁に向かっていくように勢いを失っている

男性は顔のパーツの置きどころを失ったように顔を引きつらせた。だが、エレノアは彼の瞳に宿る何かをよく知っている。それは少しの驚愕と嫌悪、そして混沌とした恐怖だ

血縁が最も深い絆なのは確かですが、ここにいる皆様――おじ様やおば様方が我が両親と過ごされた時間は、私がこの世に生きてきた年月よりも遥かに長いのです

こちらのおじ様は悲しみのあまり、取り乱されたのでしょう

驚いたような表情が一転して笑顔に変わった。エレノアは会話の主導権を握り、相手を落ち着かせるかのように振る舞った

見かねた弔問客たちが動き、数人の成人男性が、静かに男性の肩に手を置いた

人々は彼を慰め、彼のいまだ鎮まらぬ怒りはどうしようもない深い悲しみの表れだと考えた

それでは皆様、ゆっくりお別れの時間をお過ごしください

去り際の言葉と礼儀正しい微笑み。それは彼女を完璧な教養を身につけた令嬢として印象づけるのに十分だった

エレノアは、墓地の門の前に停まっているリムジンへと向かった。そこには、威圧感を放つ長身の人物が待ち構えていた

さてと、今日から私があなたの後見人よ

叔母様、ごきげんよう

彼女の姿勢は、まるで泥の中に埋もれた石碑の基盤のように低く卑下したものだった。この瞬間、彼女は自ら、ふたりの間にうわべだけの主従関係を作り上げた

こんな新たな幕開けに、何の不満があろう?

いくつもの巨額の口座、核攻撃にすら耐えうる金庫、そして、大人たちと対等に渡り合うための白い手袋

少女は、これから訪れる無数の瞬間に、月と十字を何度も刻みつけることを渇望していた

12月24日

23:30

空気中には、エッグノッグの未熟なアルコールの香りと、ターキーの脂っぽい匂いが漂っていた。食べ残しの匂いが、上品な雰囲気をすっかり台無しにしている

少女は、客たちが杯を酌み交わした乱雑な名残を元通りに片付けた。リビングは元の姿に戻っていく

本来、自らホストとしてプライベートなクリスマスパーティを主催することに熱心なモンツァノが、この夜の社交の場には一度も姿を見せなかった

コンコンコン――

時計の針がちょうど深夜0時を指したのと同時に、ノックの音と鐘の音が響いた

今開けます

大きなの木製の扉を開き、彼女は夫人を室内へ迎え入れた

エレノアの予想通り、戻ってきたのは叔母ひとりではなかった

モンツァノの背後に、痩せこけた人影があった

ロスウォット裁縫店で火事があったの。状況は……最悪ね

この子は、オーナーの養女よ。使用人でもいいし妹でもいい、呼び方はあなたに任せる。とにかく、これから私たちと一緒に暮らすことになるわ

夫人はエレノアに簡潔な説明を終えると、見知らぬ少女に視線を向け、冷たくひと言を告げた

名前を

何年も経って――

血のように赤い非常灯の下で、エレノアはこの無機質な声を思い出すことになる

それはまるで、電池で動く人形のような

何度でも自由に書き換えられるコードのような

時間を厳守し、命令通りにしか動かない機械時計のような

最高の誕生日プレゼント――

再会

シュエット……私の名前はシュエットです