Story Reader / 叙事余録 / ER08 追憶のピリオド / Story

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ER08-12 飼い慣らす悪魔

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今日はセオドアとアナヴィアが改造と実験を受ける日だ。研究員たちはこのふたりの子供に大きな期待を寄せている

彼らを連れてきてくれ

最近、セオドアの体調がよくありません。もう少し待つ方がいいかと

「もう少し待つ」?

研究員はわざとらしく言葉を強調しながら訊き返した

ピークマン博士は新しい進展に向けて長い間準備をしてきたし、セオドアとアナヴィアの身体検査のデータも確認済みだ。問題はない

君はこれ以上、何を待つと?このふたりの子供に未練でもあるのか?

彼は意味ありげに056を見た

待つ理由はない。それに、今日は君も実験室に入ってもらう

私に何をさせるつもりですか?

ある構造体の意識海を、新しい「容器」へ「移行」するのを試そうと思っている

君の任務は――あのリンク装置が見えるか?

研究員は中央実験室の冷たく巨大な装置を指差した

事前に「容器」にリンクする者が必要だ

君のことは聞いている。空中庭園で研究をしていた時、脳を損傷するリスクを冒してまで構造体とのリンクを試したそうだな

はい、リンク経験はあります

――056には願ってもない仕事だったが、彼女は本能的にどこか違和感があると感じ取っていた

君はこのふたりの実験体をよく理解している。ピークマン博士は、彼らが君の「観測」に対して高い適合性を持つだろうと考えている

このふたりは非常に貴重な実験体だ。ピークマン博士も慎重に進めたいと思っているのだろう

……

最初に連れてこられたのはアナヴィアだった。彼女はすでに泣いており、「腕を放して」と騒がしく訴えていたが、咎めるような目を向けられ、仕方なく口を閉じた

続いてセオドアが連れてこられた。彼はアナヴィアよりも少し強がっているようだったが、拘束服を引っ張られ、改造用の別の実験室へと連れていかれた

すぐにふたつの実験室が同時に稼働し始め、透明な管が彼らの小さな体と、改造中の生命維持をする装置とを繋ぎ合わせた

056は密閉された実験室の外側に座り、透明な防護窓越しに中の様子を見つめていた

アナヴィアは拘束具のせいで不快そうに身をよじらせており、セオドアはかろうじて056に向かって笑いかけていた

056……

実は僕もちょっと怖いんだ

彼は056に何か言いたげに手を伸ばそうとしたが、彼の腕の動きは拘束服に制限されていた

リラックスしなさい、君たちのTa-193コポリマー適性は良好だ

研究員の言葉は通信機を通して実験室内に伝えられた

構造体改造手術中は全身麻酔ができない。最初のメスが入ると、すぐにアナヴィアが悲鳴をあげ始めた

056とその場にいた研究員の全員が、この心が引き裂かれるような改造を目の当たりにしていた

彼らはふたりが少しずつ「解体」されていくのを見ていた――皮膚が剥がされ、筋肉が切り取られ、肉体が骨の支えを失って崩れ落ちる前に、新しい姿へと変えられていく

数時間続いた改造の末、「一新した」セオドアとアナヴィアが「誕生」し、人々はようやく安堵の息をついた

改造は成功したか?

皆が小さく歓声を上げていた時、白衣を着た男性が実験室の外から入ってきた

ピークマン博士

隔離室の中で視覚モジュールをゆっくりと調整している小さな構造体と、自分を見つめている白い髪の女性を、ピークマンは満足げに眺めていた

やはりこのふたりの子供が一番いい、次の段階へ進める

ピークマンの後ろにいた数人が素早く実験室に入り、防護服を準備し始めたが、ピークマンは056とまだ話をしていた

君が……■■か?君が空中庭園にいた時の名前を覚えている

私の判断は間違っていなかった。君にこの任務を任せたのは正解だったようだ。君は子供たちと良好な関係を築いているからな

……

このリンク装置で何ができるか知っているか?

遠隔コネクトシステムよりも安全で手軽なリンク方法を試すおつもりなんでしょう……でも現状では、あなたの期待にはまだほど遠いと思いますが

その通りだ。今のところ、まだこの重苦しいリンク装置からは解放されていない

ピークマンは056の率直な物言いを気にすることなく、我慢強く説明を続けた

しかし、単なるリンク実験よりも、私はもっと多くのことを試してみたい。この装置ができることは、君が想像しているよりもずっと多いのだよ

研究員が長いプローブを取り出して056の脊椎に刺し込み、他のパッチも彼女の肉体に接続した

子供たちの意識海には多かれ少なかれ問題がある――それは全て、私たちがこのやり方で作り出したものだ

あの子たちの意識海病症も、イーモンの記憶データの欠落も……07の不定期に起こる昏睡も全て人為的なものなの?

056は先ほどの研究員の言葉を思い出し、ハッと顔を上げ、実験室にいるふたりの子供を見つめた

これがあなたの「新しい試み」?誰が「容器」なんです?誰の意識海を「移行」しようとしているの?

ピークマンは056の問いかけに答えず、リンク装置を起動した

これは遠隔コネクトシステムよりも多少は安全だが、それでも君はリンク時に睡眠に近い状態に入る。できるだけリラックスすることだ

ピークマン……

意識が次第にぼやけ、最後に天井の白い光も消えた時も、ピークマンの言葉だけが耳元に残っていた

私が君をここへ招いたのは、実験に「身を投じる」君の姿勢を高く評価しているからだ

私以外に、君もまたこの子供たちを平等に扱っている。彼らが君を多少なりとも頼りにしているのがわかる

君と私はこの子供たちに対して同じような感情を抱いていると思う。君を「ガイド」にしたのは最適な選択だった

これから君は、観測とガイドの役割を果たしてくれればいい

こうして、056はアナヴィアの意識海にリンクした

人間である056の外来意識下に、潮のように打ち寄せるデータフローがあった。改造を終えたばかりのせいか、アナヴィアの意識海はまだ安定していない

……

056はそのデータフローを掻き分け、広く何もない「空間」の中を探し進んだ

やはり本物の構造体の意識海は、彼女が苦労して捏造した疑似意識海とは大きく異なっている

アナヴィア?

前方でじっと立っていた小さな白い影は、056の呼びかけを聞いて、少し不思議そうに振り返った

アナヴィアが振り返った瞬間――

突然、056は埋め込まれた脳内チップの場所に鋭い痛みを感じた

アナヴィア……大丈夫?

056……ここはどこ?

落ち着いた様子のアナヴィアに、056は不安を覚えた。この子が声が出なくなるほど泣き叫んでいた様子を、彼女は永遠に忘れられないだろう

涙が枯れ果て、血を流し尽くしたあとは、苦しみがなくなるのかもしれない

ここはあなたの「意識海」よ

私の?じゃあこの子は?

アナヴィアはしゃがみ込み、「海」から何かを抱き上げ、振り返って056にそれを見せた

その小さな腕の中には、更に小さな赤ん坊が眠っていた。目を固く閉じてぐっすり眠っている

……!

この子、056が作ったんでしょ?

……

ふたりはそっくりだもん

……

アナヴィアの声で起きたのか、赤ん坊は初めて金色の瞳を開いた。056とまったく同じ目の色だ

アナヴィアはつま先立ちになって、「目を覚ました」赤ん坊を056の腕の中にそっと置いた

抱っこしてあげて、056の子だよ。誰にも言わないから

お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが言ってた。意識海の中のものは、外の人には見えないんだって。だから安心して

そうだ。今日あの人たちが私とセオドアに受けさせる授業、何か知ってる?

……アナヴィア……あなたは「容器」なのよ

056は独り言のように呟いた

……ふうん、056もはっきり言わないんだ。私、知ってるよ

セオドアが「送られて」くるんでしょ

アナヴィアは果てしなく広がる空間を指差した。そこには、もうひとりの少年の姿があった

でも、あの人たちは失敗するよ

アナヴィアの無邪気で無表情な顔を見て、万緒はゾッと身の毛がよだつ感覚を覚えた

セオドア?

痛い……怖いよ……

セオドア?

誰か助けて……痛い!

うわあああああッ――

▃▇█▄▄▂▆!!!!

突然のセオドアの叫び声とともに、彼の辺りからこの空間を呑み込まんばかりの深紅の「波」が押し寄せてきた

セ――

人間の思考は意識海から引き剥がされた。視界はぼやけ、周囲は何やら騒がしい

待て、次の段階には進むな。パニシング濃度が基準値を超えてしまう……まずい!もう超えているぞ!

機器の針は一気に安全域を振り切り、メーターを見守っていた男性はすぐさま側にある緊急ボタンを押した

056のリンクを停止するんだ!緊急対応を作動!

アナヴィアも「汚染」されないように、移行プロセスを終了するんだ

は、はい!

研究員たちは予想していたのか、厚手の防護服を着こんでいる。彼らはゴーグル越しにパニシングに侵蝕された構造体を凝視していた。金属製の「手錠」がゆっくり締まる

しかし、侵蝕体は力を込めて腕を持ち上げ、研究員が驚き叫ぶ中、拘束具を引きちぎった

緊急対応無効!制御できない!

停止だ!ただちに停止!全員避難ッ!

扉を開けるな!中のパニシング濃度は、我々が処理できるレベルをとっくに超えている。彼はもう制御不能だ

実験体を放棄し、残りの者は全員退避!この実験室から離れろっ!

……じゃ、じゃあ、私たちはどうなる……!!!ぎゃああっ!!!

侵蝕体が暴れ出し、体から赤い光を放ち始めた。防護服では防ぎきれない大量のパニシングが近くにいる研究員の皮膚を蝕んでいく

056はぼやけた視界の中で、実験室内の光景を見ていた。一方の部屋はあっという間に地獄へと変わり、もう一方の部屋では人々が慌ててアナヴィアを外へ運び出す

ピークマンはしばらく冷静に実験室内の「惨劇」を見ていたが、不満だったのか、その場を去ろうとした

侵蝕体はすぐに処理しないでくれ。回収できる装置は回収するように。アナヴィアもまだ連れていくな。今日は皆ご苦労だったな

■■、アナヴィアに「○」をつけるのを忘れないでくれ。今日の彼女はよくやってくれた

ピークマンが立ち去るのを凍りついたように見つめる者もいたが、056は微動だにせず、透明な窓の向こうの「侵蝕体」をひたすら見つめていた

▁█▄▆▂

行か▂▄▆▆▇▅▂ないで……

056の手は震えていた。彼女がしたかったことは成功したが、目の前の光景がその喜びを押し潰した

セオドアは一番従順な子だった。彼女から「いい子」と言われるために何でも言うことを聞き、いつも彼女の側にいた。056も彼からの信用と信頼を感じていた

そして今日、彼女もまた実験用マウスのように、この実験に投げ込まれた

056は子供たちと同じ立場で彼らと同じ目線に立ち、彼らが抵抗することのできない、外からやってきた研究員たちを仰がざるを得なかった

この瞬間、彼女は衝撃と恐怖に打ちのめされ、自分の手が一体何で汚れているのかをはっきりと自覚した

小さなネズミを深淵に突き落とすその任務、自分もその一員であったということを

研究員は全員、あの実験のことはほとんど口にしなかった。亡くなった同僚のことは、少なからず人々の心に影を落としていた

侵蝕体の恐怖を目の当たりにした彼らの、構造体に対する警戒は一層強まった。活動時間を今以上に厳しく規定し、意識海の検査を増やし、育成エリアの扉を強化すらした

しかし、あの実験に直接関わった056だけは何も変わった様子がない。相変わらず無口なままだ

ネズミの中で生活している人間はネズミと同じ、ということなのか、誰もこの孤立した女性に近付こうとはしなかった

しかし、056はピークマン博士がじきじきに指名した「ガイド」だ。最終的な結果は彼が正しかったことを証明した

研究員たちは震えながらあの実験データを報告していた。通常の侵蝕速度と比べ、056はセオドアの意識海を「7秒」長く持ちこたえさせたことが判明した

その後、056は実験体の意識海を安定させるリンク担当者となった。彼女を拒む実験体はおらず、「×」を3つもらってゴミ捨て場に捨てられる実験体もほぼいなくなった

こうして、意識海に症状が現れる実験体は定期的に「発病」しながらも――しばらくは平穏な時間がすぎていった

実験が終わると記録表に「○」がつけられ、実験体は育成エリアに戻される。彼らは大人たちの指示の下、実験用マウスらしい生活を送っていた

056、今日は僕が「授業」を受ける番だ

イーモン、もっと近くにいらっしゃい

イーモンは子供たちの中の「小さな大人」で、いつも056を警戒している。今も056から距離を取って、彼女の隣で目を閉じて座っている小さな男の子を見つめていた

……この子の名前は「バンジ」よ。バンジのことが嫌い?

イーモンは首を振った

じゃあ、どうしてこっちに来ないの?私のことが怖い?

……056のことはいつもよくわからないけど、ここが怖いと感じたことはないよ

イーモンは自分の胸を指差した。そこにあった心臓はとっくの昔になくなっている

どうして?

056はいい人みたいだから

いい人?

056はたまに僕たちに笑いかけてくれるし、僕たちの話を途中で遮らずに聞いてくれるだろ

外の大人たちが僕たちを怒った時は、いつも連れ出してくれる

寝る時間になると歌を歌ってくれるし、アナヴィアが暗いのを怖がると、しばらく抱いてあげてるし

僕が会った中じゃ、一番いい大人だ

実は子守唄なんて歌えないの、全部私が作った歌よ

それ以外のことだって……今までやったことはないわ。あなたたちにお願いされるからしているの

じゃあ、僕たちの「お願い」を聞いてくれる初めての大人だ

アナヴィアが言ってた、前回あの大人たちが僕の記憶データの一部を持っていったって

今回は056と知り合って3日だけど、その間、あなたはずっとそうだった

もし30日一緒にいられたら、僕はあなたの側に立てるかもしれない

……おいで、イーモン。ゆっくりでいいから、近くに来て。怖がらないで

イーモンは意識海の中で少し歩み寄ったが、それはほんの僅かな距離だった

あなたが望むなら……抱きしめてあげる

056は子供たちが何を一番喜ぶのか知らなかった。だが観察するうちに、ただ抱きしめるだけで子供たちは言うことを聞き、実験中のミスも減ることがわかった

外の世界がどうなっても、ここに来たらいつだってあなたたちを抱きしめるわ

……

どれだけ大人ぶっていても、イーモンはまだ子供だ。少しためらったあと、彼は彼女の抱擁を信じることにした。それがたった3日間の信頼であっても

だがイーモンは「居候」のバンジを好きではなかった。バンジが「起きている」時は、自分が隠れなければならないからだ

056はバンジとこの場所の本当の「主」を会わせない。056がバンジを愛していることにイーモンが嫉妬するからだ。しかし他の子供たちは「弟分」として気に入っていた

いつもと変わらないある日、「授業」に来たのはアナヴィアだった

バンジに見られないように気をつけてね、彼に覚えられてしまうから

アナヴィアの意識海の中で、ふたりは「丘」の上に座り、海辺で遊んでいる白い髪の男の子を見ていた

うん、私たちを見たら怖がっちゃうかもしれないし……だから、みんな上手く隠れるよ

アナヴィアは自分の少し歪んだ関節の接合部を見つめ、056が機嫌を損ねていないかそっと顔色を窺ってから口を開いた

あの子、「指」を怪我しちゃったよね……ごめんなさい、私のせいなの

……アナヴィアのせい?

うん。こないだ、持っていた試験管を落として割っちゃったの……手が滑っちゃって

……それであの子も触っちゃったの。触ったのは「麦畑」の「穂」で、それで指を怪我したの

あの子、前に……海水に触ったって言ってなかった?

056は静かにアナヴィアの話を聞いていた

それも……私が培養液に触ったからなの……どんな味がするのか知りたかったから

それだけでなく、バンジが見るもの全て――太陽の光さえも、全てが偽りだ。実験室の照明は太陽、「晴れの日」は056と実験体たちが実験に参加している時

056は小さくため息をついた

大丈夫よ

ほんと?私のこと、怒ってない?

056は数日前のことを思い出した。彼女が育成エリアでその日の日誌を整理していた時、眠る前の子供たちのおしゃべりが聞こえてきた

その晩、子供たちは「バンジ」という子について話していた

私は056が一番好きだよ。056はバンジが一番好きみたいだから、私もバンジのことが大好き

あの子がいたら、私が一番年下じゃなくなるし……ふふっ、私の弟にしてもいいかな?

いい加減にしろよ、アナヴィア

この前、056がリンクケーブルであの子に花を見せたの。もう何種類か覚えたみたいだよ

えっ……本当に?何の花?

ヒナギクかな?私にもよくわかんない

アナヴィアは拘束ベルトについている鉄の金具を持ち上げて、離れた場所にいた056に訊ねた

056……今度はこれを虫にしてみるのはどう?

灯りの下に座っていた056は、消灯したエリアに向かって小さく頷いた

056が頷いたのを見て、他の子供たちも同じように――056と一緒に、その男の子の美しい夢を作り上げるため、次々と自分の「大切なもの」を取り出した

真っ暗な中で、女の子が嬉しそうにクスクスと笑った

私たちが授業で教えてあげてるみたいだね……あの子とお話できたらいいのに

……

この子供たちは、両親や家族からの愛情を知らない。過酷な研究所の地下で生活する彼らは、056から希薄な「愛」を学ぶしかなかった

しかし056の愛はとてもシンプルで、彼らがそれを真似するのは簡単だった――皆で「バンジ」という名前の子を愛すればいいだけだ

彼らは大人になる機会を永遠に失ったが、兄や姉、親のように、一番小さな子供を愛することは学んだ

056、056?何か考え事?

アナヴィアは意識海の中の万緒をそっと叩いた

……ちょっとぼんやりしていたわ

アナヴィア、私はここで起きたこと全てを最も完璧な形で外に伝えたいと思っているの

研究所の外の世界と連絡は取れないけれど、ここで起きたことを誰かの記憶に残すことはできるかもしれない

外にはもうひとりいるの……ある別の方法で私とリンクしているの

056は自分の頭を指差した。アナヴィアは間髪入れずに答えた

バンジなの?

……

わかんない、でも056がすることはきっと正しいと思う

……

そうだ、056に訊きたいことがあるんだ……えっとね、私だけが訊きたいんじゃないの!今日の授業が私の番だから、私が訊くだけだよ

何かしら?

えっと、あのね……

彼女はもじもじして目を泳がせながら、勇気を振り絞り、この意識海の中で万緒に問いかけた

……056のこと、「ママ」って呼んでもいい?

……

056は長い間考え込んでいたが、最後には頷いた

いいわよ

でも、約束してほしいの

これからは、何をするにも私の言う通りにして

今日から拘束ベルトの金具を削って。鋭ければ鋭いほどいいわ

ピークマン博士はセオドアにまだ価値があると考え、あの実験室に彼を閉じ込めていた。研究員たちはその部屋を避け、通りすぎる時もうつむいて中を見ないようにしていた

もし他の人がセオドアを「悪魔」だとみなすのなら、彼らがしていることはその悪魔を「飼い慣らす」ことに他ならない、と056は考えていた

その一方で、056は密かにある計画を準備していた

彼女は子供たちに足下の「草地」を踏ませて呼び寄せた。子供たちの意識海の中で056は彼らを抱きしめ、穏やかな口調で彼らにやるべきことを伝えた

今日から、もう誰も捨てられることはないわ

外の人たちは、オモチャは1カ所に集めなさいって言うでしょうけど、少しくらいこっそり隠しておいてもいいの

あなたたちは彼らに抵抗する力がある。「オモチャ」があればそれができるわ

私が警告を出したら、こうするの――

056は自分の首に鋭く削った「オモチャ」をあてがった

突き刺して、引き裂く、それだけでいい

彼らには母親ができ、いつでも消される実験体番号ではなくなった。彼らはただ世界を知らない子供たちであり、1本のへその緒で繋がれた訓練兵だった

――彼らは反逆者056号が生み出した「悪魔」だ