ガガ……ガガガ……カカカ……
カカカ……カカ……
満身創痍の驍衛がよろよろと蒲牢に向かってきた。敵を斬るべき刀が、その体を支える杖となってしまっている
突然、蒲牢の背後から冷たい光が一閃し、その驍衛の胸を貫いた
その目の光が徐々に消え、最終的に動かなくなった時、彼が手にしていた武器はポトリと地面に落ちた
蒲牢様!
私は大丈夫……この機械体、悪意はなかったみたい
でも動きを止めてくれてありがとう
私たちも後ろから襲ってきた雑兵を何人か仕留めたところです
蒲牢は驍衛の横に落ちていた刀を拾うと、目の前にあるさまざまな九龍型機械の残骸を見渡した
驍衛まで……こんなに多くの九龍の機械体をさらったのは、あの「ゆりかご」に違いないですね
でも、ハッカーたちは姿を見せていません。これまで現れたのは機械体の敵ばかり
この山に隠れているなら、必ず引きずり出してやります!
彼らは九龍の民から略奪するだけじゃなく、自分たちのためにこっそり機械体を集めたりしています……
このままじゃ……彼らは九龍にとって危険な存在になる
わかっています。急いでハッカーと失踪した者たちの居場所を突き止めましょう
……ん、ちょっと待って
蒲牢が手に持っている刀は驍衛 壱型の汎用武器だ。多種多様な敵との戦いを想定して作られた武器で、刀身は非常に鋭くて強靭だった
しかしその武器が錆びつき、刃こぼれしている
昨日この山に入ってから、一度も休憩していませんよね?
蒲牢衆として九龍の民と安全を守るのが我々の責任です……
いけません
蒲牢は刀を驍衛の横に置くと、厳しい口調で蒲牢衆たちに語りかけた
人間の体には限界がある。みんなが疲れて倒れたら、どうやって九龍を守るんです?
……まだ疲れておりません
こんな時に強がらなくていいの
先頭の蒲牢衆はまだ何か言いたそうだったが、口にしなかった
わかりました。皆、少し休憩しよう
桟道にいる十数人の蒲牢衆はくつろげる場所を探してちりぢりになり、休憩し始めた
見張りは私がやります
なら、一緒にしましょう
蒲牢は彼女とともに、横倒しになっている枯木の上に座った
この場所からは彼女たちが来た道や、遠くの霧に覆われた山が見える
蒲牢は懐から飴をひとつ取り出し、隣に座る蒲牢衆に手渡した
これは……?
疲れた時は甘い物を食べた方がいいんですよ
……ありがとうございます
蒲牢衆は包み紙を外し、青と黄の色が入り交じる飴を口に入れた
酸っぱッ!
ふふ―ん、だってこれは梅の飴ですから!
そう言って蒲牢も包み紙をはがし、飴をぽいっと口に入れた
ふぐっ……ホント、酸っぱい!
任務の時、蒲牢様はいつも飴を持っていくのですか?
うん、ずっと前からそうしてるの
でも……今の蒲牢様は飴なんかでエネルギー補給をしなくても……
必要ないのと、しないのとは別ですよ
蒲牢は足をゆらゆらさせながら、山を覆っている霧を見つめた
夜航船じゃこんな景色は見れないなぁ
こんな時代じゃ、この景色はもう九龍でしか見れないかも
子供の頃、私は父からさまざまな場所の話を聞かされました
無人の山間部や、豪華絢爛な大都市、大陸全体に伸びる鉄道の話とか……
お父さん、いろんな場所を旅してたのね!羨ましいな……
……
でも父は……最終的には夜航船から降りました
私がまだ小さい時に父は夜航船を出て、世界各地を彷徨うスカベンジャーになりました。私は母親の手で育てられたのです
この十数年間、彼から連絡があったのは何回かだけ
そっか……それは寂しかったでしょ
いえ、大丈夫です。彼はたぶん……娘の私のことも忘れているんでしょう
想い続けていれば、いずれ会えますよ
……ええ
蒲牢は爽やかに笑いながら、蒲牢衆の肩をポンポンと叩いた
いつかきっと想っている人と会える、私はずっとそう信じてる
きっとです!
霧が段々と濃くなり、蒲牢が舐めている飴もなくなりかけていた
直近で休憩を取ったのは?
昼に少し寝ました
うん、じゃあ見張りはお任せします
何かあったら、すぐ起こして!
わかりました
だが蒲牢が枯れ木の上に横になった時、谷の中から鐘の音が響いた
ゴ―ン……ゴ―ン……ゴ―ン……
敵襲です!
敵が現れる前、必ずこの音が!
んもう!私を休ませないつもりですね!
九龍蒲牢!応戦準備!