Story Reader / 叙事余録 / ER04 遊英夢漂 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ER04-7 創造主

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港の外周で合流した含英とシブナが、ゆりかごに教えられた座標にたどり着いた時には、すでに6時間が経過していた

……この崖に一体どうやったらこんな小道が作れたんでしょうね

金属の支えもなく、木材だけでこれほど複雑に組み上げるとは、不思議です

建築様式的に少なくとも黄金時代よりも前に作られているはず。数百年経っているのに、こんな木造物が壊れることなく残っているなんて

それに……このあたりは高濃度のパニシングも検出されないわ

夜航船が海原を航行していた時代でも、たまに侵蝕体に襲われることがあった

むしろ彼女たちはパニシングが存在しない場所など、もはや想像すらできなくなっていた

ここは九龍環城からそれほど離れていないのに、パニシングがまったく蔓延っていないなんて……

九龍環城と夜航船以外にも、九龍は広大な土地を統治していて、なかにはかなり広い無人の場所もあるとか

山に入る道も険しかったし、この地は長年隔絶されていたお陰で、パニシングから逃れられたのかもしれませんね

フン、パニシングから逃れられても、人間からは逃れられないってことですね

シブナは嘲笑した

零点エネルギーというゆりかごの中から、パニシングは生まれた

パニシングが誕生した日から、その産着はさまざまな色の「血」に染まり、当然そこには人間のものも混ざっている

一部の人間は必死に他の色を探しているが、同類の人間の緋色の血を飲み干してやろうと狂奔する人間もいる

夜航船に着いても、シブナさんは市場にも入らず、ずっと外で待っていましたね

シブナさんは……人間が嫌いですか?

嫌いでもないが好きでもないというのが、実際のところですね

とはいえ、あえて人間と関わろうとは思いません

シブナは首を振りながら、山頂へ続く桟道を歩いた

機械教会においては秘密などありえない

機械体のほとんどは純朴で、思想も単純だからだ

セルバンテスの言う通り、機械教会は信頼と団結で成り立っている。教会の仲間なら無条件にお互いを信用する

しかしそんな機械体にもそれぞれに過去がある

それにしても「ゆりかご」ってのは変わった趣味をしていますね

何か気になることでも?

いや、ハイテクを駆使するハッカー集団なのに、こんな場所を拠点にしているのがそぐわないというか

シブナさん、九龍に来るのは初めてでしょう?

ええ、噂を耳に挟んでいた程度です

たとえば、私たち機械体はこの場所を客観的に「美しい風景」としか形容できません

でも九龍の人にとって、美しい山や川を眺めたり、感傷的に春や秋の情趣を楽しむことは、思想に組み込まれているものなんです

つまり、人間は自分の感情を優先して、ここの客観的事実を無視したと?

そう簡単には言い切れないかもしれませんけど

シブナはまたもや首を振った。彼は含英の話がまるで理解できなかった

人間ってのはどこまでも複雑ですね

ええ、確かに微妙で、繊細な存在ですね

でもあなたは同じように感じられるようだ

千岩飛瀑の奇観あり、峰や谷が緑影を巡る……

なんですかそりゃ?

ごめんなさい。昔、読んだことのある詩です

いくら考えても、この景色を形容する言葉が他に見つからなくて。九龍の詩を引用して説明しました

それは……比喩?

そうともいえますね

私も九龍についてわかっているのは表面的なことだけなの。でも率直に自分の感想を伝えるよりも、たとえや比喩で表現することが九龍文化の本質にあると思います

人間は、自分の感情を言語や文字の下に隠すのに長けています。でも感情を言語や文字に託して伝えても、認識にズレが生じることだってあります

ああ、言語と文字……機械体のようにそっけない情報交換だけではないんですね

もし言語と文字を失えば、人間はきっと更に多くのものを失うでしょう

含英の電子脳には、目の前の景色を形容できる古典が数え切れないほど記録されている

同じ時間、同じ場所、同じ事象であっても、その表現は往々にして同じものではない

その感情、それらの「心」は、ぐねぐねとした文字の中に隠されている

ゴ―ン……ゴ―ン……ゴ―ン……

この音は……鐘の音?

緑に染まる山あいに、鐘の音が悠然と響いている

嘲風の報告書にもこの「鐘の音」のことが書かれていました

この山に行ったことのある人によれば、山の近くに足を踏み入れると、その音が響くと

それに落雷があったり、いわゆる妖怪の類の目撃報告も……

まさか、神話を信じているのですか?

どうかしら……実は、信じる準備はまだできていません

でも九龍の多くの風習は、自然崇拝ともはや考証もできない「神話」に起因している

そういった神話をいろいろ聞いているので、何かが起きてもおかしいとは思えないのかも

ゴ―ン……ゴ―ン……ゴ―ン……

鐘の音はそれからも鳴り続けた。しかし含英たちの前に現れたのは、神話に登場する妖怪ではなく――