Story Reader / 叙事余録 / ER04 遊英夢漂 / Story

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ER04-5 時間の痕跡

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……なぜ?

あの人が、なぜまだ生きているんです?

これは当時の首領……ヴィリアーの指示だ

あの騒ぎの後、罪に問われるのを恐れて自害した数人の共謀者以外、船に潜伏したゆりかごの全メンバーが拘束された

だがヴィリアーは彼らを処刑せず、ただ監禁するように命じただけだ

かれこれ20年にもなる。今生きているのは、当時のハッカーのトップだけだ

なぜ彼らを生かしたのですか……

それは我々にもよくわからない。だが彼らは逮捕後、お前と蒲牢に関することを自白した

その自白がなければ、俺もそう簡単にはお前を信用しなかったはずだ

その時、半開きの扉をわざわざノックして部屋に入ってきた部下が、嘲風にさっと耳打ちし、すぐにまた影の中へと消えた

あの「ゆりかご」の男、蒲牢にまた会いたいんだと

蒲牢が船にいないことをまだ知らないようだな。何を企んでいるかは知らないが

……復讐、でしょうか?

……

……機械は一貫してただの機械だ。彼女らの存在価値は、人間の欲望を実現すること、その一点のみ……

……今度こそ、我々が失ったものを……利息をつけてヴィリアーから奪い返してやる……

……自分の存在価値が何かをよく考えろ……

……

その男に会わせてくれません?

ほう?

彼の話を聞いて悠悠が船を下りたなら、彼から悠悠の情報が聞けるかも

含英の提案をどうしたものかと考え込んだのだろう、嘲風にしては珍しくためらう様子を見せた

……いいだろう

ありがとう

だがゆりかごが有益な情報を話す保証はないぞ。何せお前のせいで、彼は目的を果たせなかったんだからな

しかもあの男には、もうほとんど時間が残っていない

ついてこいと嘲風は手を上げ、九龍衆の密室を出た

密室の外の暗い廊下にぼんやり灯るキセノンランプが、コンクリートの壁に書かれた赤い文字を浮かび上がらせている。だがほとんどのペンキは剥がれ落ちていた

含英は嘲風とともに明るい甲板から暗い牢獄エリアへと入った。夜航船で何年も生活していた彼女だったが、船の最深部まで来たのは初めてだ

ほの暗い誘導灯と嘲風が持つランタンだけが、かすかに辺りを照らしている

ランタンの光に照らされた鉄柵が、いくつかある牢屋の壁に影を落としていた

ここが夜航船の牢獄?

そうだ。我々は陸に戻ったあと、多くの者を釈放した

真の重罪人はほとんど海に投げ込まれ、ここにいたのはコソ泥の類だけ。しっかり諭して、釈放した方がお互いのためだ

釈放した彼らが、もしまた悪事を働いたらどうするんです?

フン、船も九龍環城もタダで人の面倒は見られないんだ。監禁するにも金がかかる。ならさっさと改心させる方がマシだ。今は特殊な時期だから、昔のルール通りとはいかない

釈放した者がまた悪事を働こうものなら、我々が手を出す前に、民衆が彼らを追っ払うだろう

それにどんな罪であろうと、償いを終える日が……いつかはやってくる

ふたりの前に、他の牢屋とは違う鉄の扉が現れた

嘲風はランタンを揺らしながら、慎重に独房のロックを解除した

俺は隣の管理室で見張っている

なんせハッカーだ、ここに電子設備の類は一切置いていない。何かあったら叫べ

重い扉がゆっくりと開けられ、含英はためらうことなく中へと入った

あの子以外に会わないと言ったはずだが?他のやつとは――

真っ暗な独房に、微かに一筋の陽射しが差し込んでいる。影の中に座っていた人物はその光を頼りに来訪者の顔を垣間見たようだ

ゆりかご

ほう……お前か

含英(ガンエイ)

まだ覚えていたのね

ゆりかご

もちろん。年月が経っているのに、お前はちっとも変わらないな

彼の声と顔はとっくに老いさらばえている。しかし言葉に潜む狡猾さだけは、今も変わっていない

ゆりかご

24年も経った、私はこんなに老いぼれたよ。機械は老いたりしないし、見た目も変えられるしな……

まさかお前を船の外に捨てず、そのまま生かしたとは……

含英(ガンエイ)

昔話をするつもりはないわ

私の目的はわかっているでしょう?

ゆりかご

うん?ということは、あの子は船にいないのか。ハハッ

含英(ガンエイ)

…………

ヴィリアーと夜航船に、あの時の真相を話したと聞いたわ

つまり、あなたが悠悠にやったことを話してくれれば、まだこの状況を挽回できる余地が――

「ゆりかご」は爆発するような笑い声をあげた。しかしすぐに激しく咳き込み、状態が落ち着くまでにしばらく時間がかかった

ゆりかご

おいおい、面白すぎるぞ。枷を外したせいで、電子脳まで焼き切れたのか?

挽回?ここに……私が懺悔や挽回する価値があるとでも?私の唯一の後悔は、ヴィリアーの死の瞬間に立ち会えなかったことくらいだろうな

あるいは自分の手で彼を殺せなかったことか

ゆりかごは明らかに含英を挑発していた

含英(ガンエイ)

……それは残念ね

ゆりかご

なんだと?

含英(ガンエイ)

ヴィリアーを殺せなかった無念さを、あなたは墓場まで持ち込むしかない。それはどうしようもなく苦しいでしょうから

含英とゆりかごの距離はわずか3、4mだが、まるで別世界にいるようにふたりの間には隔たりがある

含英からはゆりかごの顔は影に隠れてよく見えない。しかしゆりかごには陽光に照らされた含英の顔をハッキリと見ることができる――

だが彼女の顔には、ゆりかごが想像していた表情は浮かばなかった

ゆりかご

面白い……おしゃべりでもしようじゃないか。私も楽しくなって、まだ話していないことや、あの子の行き先をうっかり話すかもな

含英(ガンエイ)

私も夜航船も、あなたみたいな人に妥協はしない

ゆりかご

もちろんその必要はない。しかし、お前は妥協するだろうよ

私には腐るほど時間があるからな

ゆりかごは気付いていなかったが、含英は怒りで拳を握りしめていた

含英(ガンエイ)

あなたたちは夜航船を転覆させようと企てる前、九龍の首領を暗殺したと聞いてるわ

ゆりかご

金をもらって仕事をしたまでだ

あの騒動の後、ヴィリアーは我々の組織を破壊した。彼にはそれ相応の報復を受ける覚悟をしてもらわないとな

恨みは恨みでしか償えない

私がやったことは全て私の正義のためだ。悔いはない

ヴィリアーは我が友を殺し、我が家を壊し、私の全てを奪った。笑って彼と手を握れるとでも?

含英(ガンエイ)

……それはそうでしょうね

でも組織が破壊されたのは、あなたたちが払うべき代償でもあった。ヴィリアーのあなたたちに対する復讐よ

ゆりかご

ほほう、お次は「血で血を洗う復讐は、永遠に続く」みたいな聞き飽きた説教か?

含英(ガンエイ)

復讐の唯一有効な手段は全てを根絶やしにすることだと、あなたも私も知っている

含英の言葉を聞いてゆりかごは黙り込んだ

ゆりかご

まさかお前がね……フッ、面白い

そんな優しそうな顔をして、ずいぶん物騒なことを言うんだな

もしヴィリアーがお前のような心がけなら、私は今日まで生きていなかった。もちろん私たちが復讐を成し遂げていたら、お前も今、生きていないが

含英(ガンエイ)

こんな時代ですもの、「赦し」に対して敬意を持つ人だけが、赦されるべきよ

ゆりかご

どうだ、もう復讐の準備はできたのか?

含英(ガンエイ)

あなたを赦すつもりはない。あなたは私だけでなく、私の大切な人まで傷つけた

ゆりかご

それはあれか、20数年前に、あの女の子を斬ったやつのことだな?あいつならここに入れられたその日に処刑されたぞ

含英(ガンエイ)

払うべき代償を払ったまでよ

ゆりかご

じゃあ今ここで私を殺すか?すればいい。千載一遇のチャンスだろう

殺人道具としてのお前の責務と使命を果たせよ

ゆりかごが首を振った時、彼の顔がハッキリと見えた

髪も髭も真っ白で、顔は皺だらけだ。それでも彼の笑顔から滲み出る狂気や、骨まで凍るような目の中の冷たさは隠し切れなかった

含英(ガンエイ)

……私を、あなたと同類だと思ってるの?

ゆりかご

どういう意味だ?

含英(ガンエイ)

あなたを手にかける気はないわ

ニヤニヤしていたゆりかごの顔が固まった

ゆりかご

何だと?

含英(ガンエイ)

私は復讐のために生きている機械じゃない。それはあなただけでしょう

無念さを抱えたまま、孤独に死を迎える。それがあなたに許された唯一の死に方よ

それが、私が選んだ復讐

ゆりかご

…………

ハハハハハ、いい、いいぞ

ゆりかごは笑い声を上げ、重そうに鎖を引きずって再び影の中に隠れた

もういいさ。疲れた

九龍環城の北西、50kmほど離れた場所の懐梧山だ。彼女はそこへ行った

懐梧山?

九龍衆に地図をもらえば、場所はわかる

なぜ彼女がそんな遠いところへ?

あの山は我々の最後の拠点なんだ

あの女の子が山の座標を持ってきて私に訊いてきたから、彼女に説明してやった、それだけだ。誰かがその辺で失踪したから調査すると言っていたな

あなたはその一帯の状況を知らないの?あなたたちの基地でしょう?

知る訳ないだろう?この太陽すら見えない、電子設備もない牢屋で20年以上も過ごしているのに

そうだな……でもこれこそが……復讐なんだろう

お前もこの町も、この船も、全部まだ無事に残っている……

言ったはずよ。私も夜航船も九龍も、あなたに妥協することはない

それでも、あなたはその「復讐」とやらを続ける気?

弱者を狩らなきゃ生き延びられないこの時代に、復讐はなくならないさ

まあ、今の若者の考えがどうなっているのかは知らんが

わかってると思うが、こっちには教える義理などない

それに、そもそもこれくらいしか知らないんだ

ゆりかごは猛烈に咳き込むと、横を向いて狭い舷窓を見つめたきり一言も話さなくなった

これ以上は無駄だと悟った含英は、立ち上がってそこから去ろうとした

お前は……時間が残した傷を、まだ理解していない……

どう思う?

彼女たちを信用しない理由はないと思いますけど?

彼女を信用するのか?

何か信用できない理由があるんですか?

……ない

ならいいじゃないですか。行きましょう。まだ重要な仕事がありますし

私がうまくハンドリングしますよ。ご心配なく、全ては計画通りなんですから

ふん……計画か

ただの大博打じゃないか