漆黒の湖に沈んだように、休眠状態のハカマは外界との一切の関わりをシャットダウンしていた
各運動パーツとフィードバックパーツも全てオフになり、唯一、線形思考回路だけを最低限で維持している。人間が見る夢とは違い、休眠しながらも機械は「理性」を維持できる
なぜあの少女を助けたのだろう?膨大なデータ分析と複雑なロジック推理を可能とする演算力を失っている今、逆にハカマはその触れたことのない問題を考え始めた
「人間を助ける」こと自体はハカマに与えられた指令の範囲内ではない。それにハカマの発令者はすでに研究所の瓦礫の下だ
今、彼女を行動させているロジック指令はただ……
どうか……ナナミを見つけて、守ってあげて……
それだけのはずが……
しかしあの少女の助けを求める声を捉えた時、演算の結果を待たずに、彼女の体は先に動いていた
自分を駆り立てたもの――それは演算のために停止させた感情アナログモジュールの「データ異常」だった
指示もないのに、なぜ自分はそんな行動をしたのだろう?
機械意識実験の全てを記録して。各実験体の定期メンテナンスと交換、記憶データのチェックもよ。全機械の感情アナログモジュールの変化の原因と結果の比較分析もね
MPA-01、これがあなたの仕事よ
観察、記録、分析、それがハカマ<//MPA-01>の最初の使命だった
これら実験体の多くは……自分が機械である事実を理解していない。だから私たちは機械の可能性を探るべく、新たな視点を必要としているの
ハカマ<//MPA-01>である自分は、観察対象とは違い、「可能性」の範疇には含まれないことを理解していた
指示をください……私は一体何をすればいいのです……?
疑問という水滴が静かな水面に落ち、波紋が広がる。それはどんどん大きくなり、やがて水面そのものを揺らした
あなたの成長過程を見ることができて……嬉しかった……
その成長とは、どの機能の向上を指すのだろう?
いつか、あなたもその中で見つけるでしょう。自分の……
あなたが期待するハカマ<//MPA-01>は、どんな姿をしている?
私<ハカマ//MPA-01>は……何をするべき?
誰も答えをくれない。彼女は繰り返し考え続けるしかなかった
どう?お姉さんは助かる?
こんなに精密な機械は初めて。こっちで直すより、このコの自己修復力に期待した方が早そうだね
じゃあ、私たちは何もできないの?
うん、回復を待つしかないね
でも気をつけなきゃ。もうすぐ兵隊さんたちが帰ってくる。もし見られちゃったら……いい機械かどうか関係なく、潜在する脅威と思われてすぐに処分されちゃうから
お姉さんは私の命の恩人なの。悪い機械なんかじゃない、絶対違うよ
兵隊さんたちを怒らせたらダメだよ。どうなるかなんて、誰もわからないんだから
とりあえず、このコをどこかへ運ばなきゃ
ありがとう
ううん、無事にここに来れたのは、この機械体が侵蝕体を倒してくれたからだし
何をしている!