Story Reader / 祝日シナリオ / 孤高の碑陰 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

終焉の日

>

<i>「社会の統一に必要なのは、ただひとりのスケープゴート」</i>

<i>「破滅でも和解でも、人々は理想の世界で常に自分の求めるものをそこに見出す」</i>

<i>「……機は熟したが、スケープゴートは今も囲いの中だ」</i>

私は、その中で多くの存在を「創造」したのです。ラハイロイも、イサも、ラスティも……そして、あなたも

皆、私のこの「夢」に付き合ってくれています……あなた以外は

……これはただの夢。私の思い出。ただそれだけなのに、壊そうとするのですか?

人間は突然ここに連れてこられたような素振りだった。自分がどこから、どうやってここに来たのかもわからず、ただ呆然と語りかけてくる相手に視線を向けた

寄り添う赤と白の人影は、どんなに目を凝らしても輪郭を捉えられず、曖昧だった

彼女は俯いているようだ。そして、ひとりごとのようにぽつりとつぶやいた

私は……孤独なのです

あなたはここが間違っていると言う。そして、この力は絶対に解き放ってはならないとも

あなたの言いたいことはわかりました

彼女のまつ毛が徐々に白く変わり、その白い羽のような毛が微かに揺れる度、人間の目にそれは冷たい光の塊として映った

私は決めたのです。だから、先に謝っておきます

赤と白の曖昧な色彩が近付いてきて、両手で人間の頬を包むと、静かに眼前に立った

ーーごめんなさい。あなたには賛同できません、グレイレイヴン

その抑えた声は額に寄せられ、まるで名残惜しむように……彼女はそっと俯き、人間の頭に優しい口づけを落とした

もし、また会えたら……

どうか私を覚えていて、そして、私を愛して

頬に添えられていた手に急に力が込められ、人間を後ろへと突き飛ばした

落下する感覚が心臓を締めつけ、人間はようやく、足下に広がる光景に気付いた

それは、どこまでも高く聳え立つ巨塔だ。眼下には、限りなく近付いてくる大地

絶望的な落下の最中、曖昧だった世界はようやく輪郭を持ち始め、混ざり合った色の塊が徐々に境界を成していく

人間は次第に高塔の煉瓦を、下の街路の群衆を、1本の木を、そして巣へ帰る1羽の白い鳥を見分けられるようになった

そして――

パチンッ

全てが終わった。世界は瞼を閉じた

やっと目が覚めたね!何度呼んでも起きないから、馬車を降りて人を呼ぼうかと思ったのよ

御者はもう一度指を鳴らしてから、人間の目の前に差し出していた手を引っ込めた

御者

無事でよかった。墓地に着いたわ……まさか、目的地を忘れたなんて言わないでよ?

人間は杖を支えにしながら、朦朧としたまま馬車を降りた

先ほどの夢があまりにも鮮烈で、現実の大地を踏みしめてもまだ実感が追いつかない。あの落下の感覚に晒された心臓は、今もまだ鈍く痛んでいる

墓地へと続く小道には、すでに黒衣の人々が集まっていた。赤布で覆われた棺が幾人もの手に支えられ、ゆっくりと重々しく前へと運ばれていく……そろそろ時間のようだ

人間は自分の身分証を確認し、それから小走りに沈痛かつ秘密めいた雰囲気の列へ加わった。今日どうしても会わねばならない人物が、その列の最後尾にいた

誰だ?

肩を叩かれた大柄な中年の男は振り返り、祈りの声に満ちた集団の中で響く「不協和音」の主を訝し気に見つめた

ああ、あんたが……ちょっと、声がデカい。こっちへ

シュトロールは手招きで後についてこいと合図すると、監察官を静かな場所に案内した

ふたりは墓地の片隅にある大きな木の下で足を止めた

自己紹介はいらない、あんたのことは忘れちゃいない、[player name]。さすがに半月も続けて面会要請と合同捜査申請を送りつけられれば、嫌でも覚えるさ

あんたの資料にも目を通したよ。確か5年前、ティンバイに交流研修で派遣されてたな。あの頃は、まだ名もなき監察官だった……

……そうだったな。リコトス出身の上級監察官。とんとん拍子に昇進して、特例で我々ティンバイ中央監察院の一員となった。聞いた話じゃ、もうティンバイに帰化したとか?

そうか、なら話が早い。自分から言うんだから、俺があんたを半月も放っておいた理由もわかってるだろ?

……議会は、こんな大事な調査にあんたみたいな「よそ者」を派遣すべきじゃなかったんだ。あんたに関われば、「暗殺者に肩入れしてる」と勘違いされるだけだ

早く帰ってくれ。ティンバイとリコトスは一触即発だ。俺らみたいな「役立たずの警察」が前線に赴くことはないが、宗皇の死が引き起こした混乱の後始末で手一杯なんだ

悪いが、あんたが提出した調査申請に付き合ってる暇はない

彼は苛立たしげに頭をかいて、2本の指を動かした。どうやら煙草が吸いたいようだ

それにしても、俺が半月も無視してたのに、まさかここまで追ってくるとはしつこいやつだ。宗皇の「盛大な葬儀」が終わったら、飯でも奢ってやるよ。どうだ?

……はいはい、わかったよ。忙しくて死んじまうってんだ。あんたがリコトス人として、今どれだけ立場が厳しいかはわかってる。けどな、俺たちだって似たようなもんだ

シュトロールはそれ以上言葉を続けず、視線を前方の小規模で秘密めいた葬儀へと向けた

葬儀はすでに始まっていた

あの暗殺者がやってのけたことを、よく見ておけ

いや……生前、煌々と輝いていた宗皇様の威光をよく見ておけと言うべきかな

遠くから祈りの歌声が聞こえ、人間もその方向へ視線を向けた

香は焚かれていなかった。パンもワインも、供え物は一切ない

ただ、宗皇と生前にまったく関わりのなかった一般市民が大勢集まっていた。信仰心すらない者も紛れている。神父は、無感情に祈りの言葉を唱えていた

私はここにて、聖印卿会を代表し、皆様のご参列に心より感謝いたします

数名来てるが、後ろの方に立ってるだけだ。宗皇の死後、多くの醜聞が暴かれて、今や世論は嵐の真っ只中さ。彼らも、前宗皇とは関わりたくないだろう

俺から見て?警察官としての立場から言うなら、検察庁に提出された全ての告発には、確固たる証拠があるもんだ

俺たち警察が突き止めた「醜聞」は収賄横領に始まり、外部勢力との癒着……特にあんたたちリコトス人とのな。ただ、これは公にはしないが……

更に彼女は幾度となく秘密の集会を開き、常軌を逸した行動を取っていた……

シュトロールは、あえて言葉にせずとも伝わる微妙な表情を浮かべた

「避けられない災難が私に罪を犯させた。あなたは私の過ちを聞き、私が放心しているのを見た。あの日、あなたは寛容にも私を赦した」

なかなか衝撃的だろ?だがここで問題だ。一般人の罪は宗皇が赦す。でも宗皇が罪を犯したら、誰が赦すんだ?神か?

現状を見る限り、神は彼女の罪を赦さなかったようだ。だから裁きが下るまでは、この議論渦巻く宗皇は聖堂での眠りが許されず、こうして郊外の墓地に眠るしかないのさ

「あなたは降臨して私に近付き、私の額に触れて、あなたの聖所に住まうようにとお導きになった。私は祝福に支えられ、あなたのもとへ向かう」

「私は聖所に留まり、美しい地を歩き、堅固な壁に触れ、パンと美酒を楽しむ。私はこの居場所の神聖なることと至高の幸せを感じていた」

ははっ……中にはあんたの故郷からきたあの暗殺者を「よくやった」と称賛する者もいるくらいだ

「生命とは祈りの旅、愛する者を喪って初めて知る。与え、受け取った善きことは無駄ではなく、全ての終わりでもない。人は墓で終わるものではないのだから」

数人の棺担ぎがよろよろと鉛の棺を持ち上げた。人手が足りないのか、それとも誰かがわざとこの宗皇の滑稽な最期を演出しているのか……

人々のどよめきとともに、尊き遺体を収めたはずの鉛の棺が「ガン」と大きな音を立てて地面に転がり、その拍子に蓋が開いてしまった

場は騒然となったが、神父は祈りの言葉をやめなかった

「彼女は眠っている……どうか、安らかな深い眠りを彼女に。穏やかな月光が彼女の罪を洗い流し、そよぐ木々の影が彼女の魂を癒しますように」

すると、大きく開いた棺の中を凝視している者がいた。遺体の手に握られた鍵杖、そして額にかかる珠の飾り

その者は緊張でごくりと唾を飲むと、次の瞬間、混乱する群衆に一気に飛び込んだ

待って!あなた、一体何をするつもり!?

男は腐敗の兆しもない遺体に手を伸ばし、その頭飾りを乱暴に引きちぎり、更に胸元の鍵杖を奪おうとした

……「私はあなたの手の杖を受け取り、導かれて果てしない荒野へと向かった。恐れる心はない、あなたがともにいることを知っているから」

邪魔するな!お前らも同じだろ!?宗皇の宝物を狙ってんだろ!?

その男の指先から、突如として赤黒い糸のようなものが伸びた。それはまるでカタツムリの触角のように空中を探り、一瞬で宗皇の胸元へと吸い込まれた

人間は目をこすってその「触手」が消えた方向を確かめたが、周りの誰ひとりとしてこの奇妙な現象に気付いた様子はない

「触手」を失った男は、何もなかったかのように大声で叫び続けていた

この人は、何百年も現れなかった「神の存在」を証明した唯一の宗皇だぞ!お前らだって、彼女の体に宿った「神の力」を狙ってるんだろうが!

彼の叫び声は、水面に投げ込まれた石となって波紋を広げた。それが合図だといわんばかりに、制服を着た顔色の悪い女が棺へ手を伸ばし、遺体から羽根を1枚もぎ取った

その瞬間、またひと筋の赤い光が彼女の指先から走ったが、あまりにも速すぎて誰の目にも留まらなかった

ははっ、ほら見ろ!こいつら、本性を現した!

……「あなたの瞳は太陽と月であり、瞬くごとに私を慰め、心を安らげるのだ」

ふたり、3人……「神の恩寵」を求める欲望が秩序を凌駕し、人々は次々と手を伸ばすと、遺体の頭に載せられた冠を奪い、少しでもその力を得ようとした

警察!誰か警察を呼んで!

ほら、お呼びだ。だから俺は今日ここにいたんだよ

見たも何も、これで見えないわけないだろ。くだらないこと言ってないで、しっかりついてこい!宗皇の調査がしたいんだろ?それなら警察の仕事も手伝ってくれよな?

シュトロールはまた意味ありげな視線を送った

シュトロールと人間は騒ぐ群衆を押し分けながら、混乱の渦の中心へと進んでいった

シュトロールは人間の腕を引き、大声で叫ぶ人々をかき分けながら最前線へと突き進んだ

その人間は、騒動に紛れて犯行に及ぼうとする手を素早く捕らえると、シュトロールに引き渡した

だがシュトロールが彼らに手錠をかけようとした時、どこからともなく伸びてきた……存在さえ怪しい手が伸びてきて、人間を棺の方へと強く突き飛ばした

人間は棺の縁に勢いよく手をつき、その中を覗き込む恰好になった。血の気を失った顔と真正面から、頬と頬を重ねるほどに接近する

どこか……見覚えがある

その隣では、絶望した泥棒や強盗が叫び声をあげながら、シュトロールの腕の中で必死に抵抗していた

わ、私はこうするしかないの……!宗皇の遺品には神の力が宿ってるって……欠片でも手に入れれば、どんな病気でもすぐに治るって……

私はまだ若いの、病気で死にたくなんかない。だから、このチャンスを逃すわけにはいかないのよ!

その必死な声が人間の耳に響き続け、夢の中で締めつけられた心臓が再び高鳴った。次の瞬間、突然の激しい痛みに襲われて咳き込んだ

おい、あんたまで急に……まさか、あんたも病気なのか?まさかとは思うが、今日ここに来たのって……

肋骨の痛みをこらえる人間の意識を、騒がしい人々の声が覆っていく……

いや、違う……

何かが全ての音を遮断している

人間は顔を上げ、目を大きく見開き、鼻先から僅かの距離にある顔を見つめた

イシュマエル

……

こんにちは、お久しぶりです

彼女は微笑んだ

イシュマエル

指先を案じる必要はありません。あなたには、「触手」など生えませんから

イシュマエル

まず質問ですか……?この世界で、少しは怯えたり戸惑ったりするかと思いました。叫んで私という「死体」を非難するとか、混乱に紛れて私から「神の力」を奪うとか

前宗皇「イシュマエル」の唇は動いていなかった。その微笑み混じりの声は、真っすぐに人間の脳に届いている

イシュマエル

それで、あなたはどれくらい覚えていますか?あなたがここへ来た「使命」のこと

あなたは無理やりこの「世界」へと引きずり込まれた存在。来た場所も帰る場所も、一時的に全て消し去られ、その身に残されたのは……ただ「使命」のみ

イシュマエル

……そう、使命さえも忘れてしまったのですね。無理もありません。あの瞬間は、あまりにも突然でしたから

私に会いに来てください。今のあなたには私が必要です

イシュマエル

これはただの幻……それとも、あなたは棺にいる私の方がお好みですか?

面白い提案ですが、幻影と一緒に土に埋められても退屈しませんか?

街の中心にそびえる高塔、そこが私の住処です。塔の頂で、本当の私があなたを待っています

イシュマエル

そう。あそこが「宗皇暗殺事件」の現場です

彼女はしばらく人間を見つめ、それから納得したような顔をした

イシュマエル

なるほど……どうやら、ちょっとした厄介事に巻き込まれてしまったようですね。「世界」が、あなたの存在に気付いてしまった。だから、動きが鈍くなっている

次の瞬間、棺の中から再び指を鳴らす音が響き、背後で秩序を保とうと怒鳴っていたシュトロールが、一瞬動きを止めたように見えた

イシュマエル

もういいですよ。再度、あの警察官と話してみてください。連れて行ってくれるよう、彼を説得するんです。彼だけはあなたの言葉に耳を傾けてくれるはずです

彼女はそっとウィンクした。小さな、でも確かな約束の印だ

イシュマエル

待っています

宗皇が「目を開けた」のは、ほんの一瞬の幻だったようだ。周囲の騒音が再び耳を満たし、シュトロールが勢いよく人間を棺から引き起こした

棺にへばりついて何してる。縁起でもない、早く起きろ!

「予想通りの騒ぎ」はもう収まった。さっさとやつらに棺の蓋を戻させろ

遠くでは、正気を失い宗皇の遺物を奪おうとした者たちが拘束されていた。残った数人の棺担ぎたちが、重く分厚い鉛の蓋を黙って担ぎ上げる

「ドンッ」という音とともに棺が閉じられた

「愚かなる宗皇」「慈悲深きイシュマエル」「神の化身」……生前に冠された幾多の称号は、全てこの瞬間に地中に沈められた。二度蘇ることがないように

宗皇の結末を見届けた監察官が口を開き、あの少々厄介な警察官……彼の指先に視線を向けた

一瞬、「天啓」のようなものを垣間見たのかもしれない。脳内に根を下ろした奇妙な認識は、もはや無視できなかった。シュトロールの指先にも、あの赤い光が揺らめいている

何だ?まだ諦めてないのか。現場を見に行きたいんだな?

シュトロールはそう言いながら、ようやくポケットから巻煙草を取り出すチャンスを得て、火をつけた。人間は彼の指先から目を逸らし、話を本題へ戻した

人間は激しく咳き込み、再び身分証を取り出した。名前の下には小さく「リコトス」という文字。祖国の名だ

そんな青臭い理想、何になる。戦争はもう止められない。あんたがどう足掻いても変えられないことだ

俺に言わせれば、「リコトスのやつが宗皇を暗殺した」っていう事実さえあれば、十分だったんだ。上にいる戦争したくてたまらない連中は、引き金を待ってただけなんだよ

はぁ……

シュトロールは大きく溜息をつき、煙草の葉を指で払い落とした。その仕草で、人間は彼がまた説教を始めるつもりだとわかった

シュトロールは煙を吐き出すとともに始めようとしていた説教をやめ、訝しむような視線を人間に向けた。遠くの太陽までもが嘲笑うように、光をひときわ揺らしている

あんた、大丈夫か?警官相手に突然、神学とか哲学の講義を始めたりなんかして……俺はただ煙草が吸いたかっただけだ

「蝶の羽ばたきが、嵐を生むこともある」――人間はまさに今、その羽を必死に動かして、目の前の警察官の心を揺らそうとしていた

……ようやくまともな話に戻ったな。ああ、隅々までな。あんたは確か……軍に入りたかったんだろ?指揮官になりたいって。中学の時の「将来の夢」が記録にあった

人間は語り始めた。かつて真剣に取り組んだ数々の事件の全てが不可解な形で失敗に終わった。やがて「下水掃除人」と呼ばれ、難事件ばかりを担当させられるようになった

「行き違い」の話が気になったのか、目の前の警察官はしばらく黙り込んだ

……俺があんたのファイルを見て、その境遇に同情したから今会ってる、とでも思ってるのか?

シュトロールは眉を少し上げたが、気にする様子はなかった。彼はいささか形式ばったこのような相互調査に慣れているのだろう。ただ頷いて、話の続きを促した

シュトロールは煙草を最後まで吸い切り、大きく煙を吐き出した。まるでその言葉を待っていたかのように

少し話を広げていいか……俺の専攻、何だったと思う?

俺はもともと芸術を学びたかった。でも落ちたんだ。それで総合大学に回されて、ちょうど「自治機関法」の改正時期に重なって、警官向けの専攻に振り分けられた

でもな、俺の進学直前に警察関連の仕事で命を落とした親戚がいて、遺族向けの優遇制度が巡り巡って俺にきた。つまり大学に行かなくても、警察になれる道ができたんだ

その通り。俺は大学をちゃんと卒業したし、恩師に誘われても警察には入らず別のところで働いた。警備の仕事さえ避けて、毎日皿洗いのバイトに明け暮れてな

だが、その店が警察の潜入捜査の拠点だったんだ。俺は偶然にも犯人を現場で取り押さえた。事件は解決、店は潰れたよ。そして、俺は歓迎されたんだ。そう、警察にな

それからずっと、頭の中で誰かが叫んでる。「警察なんてうんざりだ。違う人生を選べ」「あの乱暴な女が指揮官になるなんてありえねえ。あいつはどうせ戦場で死ぬ」ってな

シュトロールは芸術、文学、教育等、現在の職業とは無縁の学位を取得しようとした。しかし、どんな道を選んでも警察へと引き寄せられる

その人間も同じだった。どうあがいても、リコトスからティンバイに来てしまう。どれだけ拒もうとも、故郷を離れ、ティンバイに仕える監察官になる道しかなかった

そして、宗皇事件の処理を担うことになる

シュトロールは煙草をもみ消した

彼は少し黙考したのちに、何かを確信したように、僅かに安堵の色を浮かべた

本当は、俺だってこの世界や自分の人生について、あまり深く考えたくないんだ。あんたは俺が見てきた中で一番それに執着してる。執拗なまでにな

俺も警察なんてやめたいが、この奇妙な世界は「世話焼きの天職だ」って毎日語りかけてくる。だから俺は直感を信じて、あんたに会いに来た。「同じ匂いがするやつ」にな

……そして今、俺はこう思ってる。今日、あんたに会ったのは正解だったな

補足だが、今日の俺の任務はふたつだ。葬儀の秩序を保つことと、中央監察院の監察官の悩みを解決することだ。さすがにこれ以上放置すると、事務方から苦情が出るからな

彼は少し間を置いて、言葉を続けた

それに、あんたは「俺と同じ」だ

人間が必死に「羽を動かした」努力が、この警察官の心に僅かな風を起こし、埋もれていた疑念と探究心を呼び起こすことに成功した

シュトロールは目の前の「同類」の顔をじっと見つめ、少し眉を緩めた

あんたが提出した調査申請は、無限ループに巻き込まれるだろう。でも、あんたの好奇心くらいなら満たしてやれる。正式な手続きを逸脱しない範囲ならな

さあ、言ってみろ。どんな証拠を調べたい?

人間は襟を正し、先ほどの「幻」の導きに従って、新たな目的地を口にした