……
……出会った時、それは苔と枯れ枝で覆われていました。
日の光と雲の影が、その凹凸の体の上で抱き合うように重なっていました。
……
……生い茂る葉は木の詩であり、枝よりも長く、想いよりも短いものです。
詩をいくつか書き写したので、次にお会いした時に読みますね。
……
……山霧が物憂げな蝉の鳴き声を洗い流し、砕けた氷が夏の暑さを吹き飛ばしました。
それでも物足りなさを感じていた時、ふと「夏」には他の読み方があることに気がつきました。
あなたがいない季節――それは「とても暑い日」としか読めないのです。
……
便箋の上でうたた寝をするかのように、水色のインクで流れるように書かれた文字は、いつもより自由気ままな感じがした
指先で文字をなぞると、ペンを走らせている時の相手の笑顔に触れた気がした
便箋の最後に書かれた言葉によって意識してしまったのか、いつもの天気が急に耐えがたいものになった
考古小隊のガイドドライバー兼連絡スタッフを見ると、まだ忙しそうにしている。出発までにはもう少し時間がありそうだ
便箋をしまい、端末を取り出し、見慣れたアイコンをタップする
返事を書きたかったけど、臨時の外勤があって。こんな形でしか連絡できなくてごめん
送信すると、すぐにメッセージが届いた
長期の任務ですか?必要であれば、こちらの任務が終わり次第、支援も可能ですよ
大丈夫。スケジュールがタイトなだけで、内容自体は君がやってる任務と似たようなものだから危険はないよ
それならよかったです。そういえば……
……
世間話をしていると、いつもあっという間に時間がすぎてしまう。気がつけば、準備作業を終えた連絡スタッフが手を振って合図をしていた
そろそろ出発だ
画面はしばらく変わらないまま、「入力中」のテキストが表示されては消える。それを数回繰り返したあと、画面に新しいメッセージが更新された
どうかご無事で。またお会いした時に、新しい話を聞かせてくださいね
うん、またね
端末をしまい、連絡スタッフのもとへ向かう
お待たせしました、物資を購入していたら想像以上に時間がかかってしまって……もう出発できますよ
保全エリアでの補給は滅多にないので、いつも色々と持っていきたくなるんですよね。指揮官は他に必要なものはありませんか?
そう言って、連絡スタッフに続いて車に乗り込んだ
シートベルトを締めるも、連絡スタッフはすぐにエンジンをかけなかった。ハンドル越しに何かをいじっている
保全エリアで何かを購入したり、イベントに参加するともらえる特別な記念品です
ここは急ピッチで建設が進んだため、小規模な商業活動が始まった今、残された伝統的な文化について検討する余裕があるみたいです
2日後にお祭りもあるそうですよ。どうです?これ、可愛いでしょ
連絡スタッフは、その「特別な記念品」の全貌が見えるように手をどけた
それは精巧にできた小さなバネ人形の置物で、黒と白の2匹の狐が大きな鈴を囲んでいる
連絡スタッフに促されて押すと、2匹の狐が愉快にぴょんぴょんと跳ねている
でしょう?これ、考古小隊の仲間と協力して設計したものなんです
ええ。考古小隊の信条は、あらゆる芸術を回収して復元し、継承して広めることですから
単なる修復ではないんです。私たちの信条は、あらゆる芸術を回収して復元し、継承して広めることですから
結局、考証されたあとに芸術協会の書類の山に入れられるものではなく、実際に生活に影響を与えるものだけが、よりよく保存されるので
連絡スタッフはそう言ってエンジンをかけたあと、何かを思い出したように手元の袋から冷たいドリンクを取り出した
忘れるところでした。暑さ対策にどうぞ
お好きな味ですよね?
カップに貼られていたラベルに書かれているのは、まさに好きな味だった
セレーナが購入リストを書いている時に言っていたので
「選べるならこの味でお願いします。コンダクターが好きな味を味わってみたくて」って
その説明が理解できたと同時に、セレーナが手紙を書いている時の光景が頭に浮かんだ
彼女は石造りのテーブルに伏せ、少しずつ紅茶を飲む。山風に揺られてグラスの氷が音を立てる中、ゆっくりとペンを動かす
……山霧が物憂げな蝉の鳴き声を洗い流し、砕けた氷が夏の暑さを吹き飛ばしました。
思いを巡らせながら、ドリンクカップの蓋を開けてひと口飲む。爽やかな冷たさが喉から胸へと滑り落ち、些細な不快感を潤し、安らぎだけが残る
味わいながら、保全エリアの遥か遠くにそびえ立つ山々を見上げ、思わず笑みを零した
23号調査地点キャンプ
357保全エリア郊外
昼
昼、357保全エリア郊外、23号調査地点キャンプ
森は青々と茂り、山々がなだらかに続く
山脈の入口にある空き地には、小川に沿ってモジュール式プレハブ住宅が点在し、脇にある2台のキャンピングカーと簡易キャンプが設営されている
自分が乗っていた車は、隣り合った2軒のプレハブ住宅の前で止まった
右側の家は空き家のようだが、左側の家には明らかに改築された形跡がある。DIYのドアの軒先には風鈴がぶら下がり、窓辺には青と紫の花束が飾られている
荷物はここに置いておきますね。それと……
連絡スタッフはこちらの視線に気がつくと、ドアや窓周辺の装飾に目を走らせ、ポケットをまさぐりながら笑った
彼女はあなたが来ることを知らなかったので、口を滑らせないようにキツく言われていまして
なんか、小説みたいでいいですね。少し嫉妬しちゃいそうです
あはは、冗談です。どうぞ、鍵とカメラです
あと、これは考古小隊の標準装備です。セキュリティ業務のサポートで来ているとはいえ、現地の習慣に適応し、私たちの生活や仕事を体験してみるのも悪くないかと
スケジュールと地図は端末に同期しておいたので、何かあればご連絡ください
連絡スタッフは手を振りながら車に乗り、エンジンをかけながら揶揄うような言葉を残して去っていった
では失礼します。グレイレイヴン指揮官の「重要任務」を邪魔するわけにはいきませんので
力なく笑い、初めて見たとは思えないほどに馴染みのある中庭を振り返る。ふと何かを感じて端末を取り出した
テキストの横にある空白のマークは、すぐに緑色に変わった――それは既読を意味する
任務地点に到着したのですか?
テキストの横にある空白のマークは、すぐに緑色に変わった――それは既読を意味する
調査対象の情報を記録していました。任務地点に到着したのですか?
うん。環境もいいし、住んでいる人たちも親切そう
そういえば、私の宿舎の隣もまだ空いています。いつ誰が入居してくるかわかりません
将来の隣人が、いい人だといいのですが……でも、ずっと空いたままの方がいいです
じゃあ、自分が引っ越そうか?
それが一番ですね。[player name]の任務が私の任務より先に終わることを願っています
……あれ?任務なのに私と話していて大丈夫なのですか?
別に大丈夫……
入力途中で、手元のカメラが目に入る――面白いことを思いついた
今は任務目標に会うための準備時間だから。貴重なリラックスタイムなんだ
それよりも、風景の写真はない?手紙を読んで感動したから見てみたくて
ありますよ。整理してから日付順に送りますね
きっと写真を見たら[player name]も感情移入できますし、いい気分になれるはずです
すぐに美しい風景の写真が送られてきた。画面越しでも、シャッターボタンを押した瞬間の感動が伝わるようだった
あの手紙のように、リラックスして、ゆったりとしたような――
簡単に準備を整えたあと、地図の指示に従って山脈に足を踏み入れ、緑豊かな森の中で自然と一体化しつつある古い石畳の道を見つけた
最初の灯籠が見えた時、ちょうど端末にセレーナが撮影した写真と、いくつかのメッセージが更新された
……鳥居の額束は朽ちてしまっていたため、文献と一部の石碑に残された痕跡をもとに、この遺跡の情報を割り出しました
でも実は、小隊の中に優秀な学者がいるんです。山に足を踏み入れた際に、灯籠のデザインを見ただけで神社の由来を推測していました
手を伸ばして灯籠に触れる。石の表面は凸凹しており、長い歳月を経てきたことがわかる
セレーナから送られてきた写真を、目の前の灯籠と照らし合わせる。彼女は今日、間違いなくここを通っている
【手紙で言ってたのは、この写真のこと?】
そうです。うまく撮れていますか?
いいチョイスだし構図も完璧。光と影のバランスも絶妙だけど……
……率直な[player name]の意見をお聞かせください
自分は、それを撮影しているセレーナが見たかった
じゃあ……今度は、私があなたの風景になりますね
撮影している時、一緒にいられたらよかったなって
じゃあ、今度は一緒に撮りましょう。あなたと一緒に見たい場所がたくさんあるんです。きっと機会はあるはず……
会話を交わしながら、1歩ずつ山のどこかへ向かっていく
山の中には多くの分かれ道や曲がり角があり、チャットに送られてきた写真を何度も見返して、それと比べていた
何度も道を間違え、何度も行き来したあと……
ついに最後の1枚の写真が、目の前の木々と重なった
彼女はこの向こうにいる。1歩踏み出し、名前を呼べばすぐに会えるはず
――なんだか、急に緊張してきた
端末には、セレーナのメッセージがまだ続いている
今日撮った写真は、これで全部です
もし[player name]がもっと見たいと仰るなら……今日の仕事が終わり次第、また撮ってきます
少し気持ちを落ち着けたあと、返信を入力する
君の邪魔になってない?
いえ、あなたと話している時が一番リラックスできる時間なので
確かに、仕事はあまり進んでいませんが……
じゃあ、今日はここまでにしよう。最後に、自分が撮った写真を送ってもいい?
実はいい景色を見つけたんだ
ぜひ見せてください。今のコンダクターの瞳に映る景色を見られたら、たとえ一緒にいなくても安心できるので……
そのテキストに少し温かさを感じ、思わず微笑んでしまった
カメラアングルを調整するから少し待ってて
送信して端末をしまい、目の前の枝葉を静かにかき分けてカメラを前に押し出す
レンズ越しに見る景色の中では、木々の隙間から日の光が射し、苔の痕が石狐の尾の先まで広がっていた
風が彼女の髪の先を揺らし、ペンが紙に触れる音が草木のざわめきに溶け込んでいる
この静寂が破られることを恐れ、無意識に息を潜めてしまうほどに自然な光景だった
しばらくそのまま立ち止まったあと、ようやく我に返ってシャッターを押した
パシャッ――
……?
突然響いたシャッター音とフラッシュが、レンズの向こうにいる彼女の注意を引いた
驚いて振り返ったセレーナは、すぐにこちらに気がついて微笑みを浮かべた
彼女は声を上げたり立ち上がることなく、端末を取り出した
私に送ってくれる写真は撮れましたか?
【画像】
他の構造体と任務を遂行しているから、カメラアングルを探していたのですね
綺麗な構造体でしょ?彼女の美しさを無駄にしないように頑張ったんだ
【スタンプ:不満】彼女はその褒め言葉を聞いて、こんなに嬉しそうに微笑んだのですか?
【スタンプ:誤解だ】どうだろう?彼女は何を考えていると思う?
恐らく……
茂る枝葉を越えて、セレーナのもとへ向かう。互いに微笑み合った
彼女の返答は、もはや文字ではなく現実のもの――少し温かみのある声だった
あなたが突如訪ねてきたことで、心から嬉しくなったのではないでしょうか