言っただろ、酔っ払いが何人かいただけだ、問題ない……
さっき螭吻が宵市は多分あと4時間は開いてるって言ってたけど、どうしよう……
じゃあ先に店を探して食べてからにしよう……
ボク、まあそう慌てないで、どこで母親とはぐれたんだ……
もしもし?そっちがうるさくて聞こえないんだけど……
呼び売りの声があちこちからする中、寒風がお菓子の香りを運んでくる。更にそこかしこで花火の音がして、反った軒や扉のない門の上で真っ赤なランタンが揺れている
子供たちは大人の脇を走り回ったり、親の肩に乗って遠くの花火を眺めたりしている。吹き抜ける寒風を罵りながら、老人たちは蜉蝣銭を子供たちの手に押し込んでいく
混雑した通りを抜けて楼閣に上ると、欄干にもたれて立っている人影が見えた
曲様、船上の蒲牢を連れてまいりました
わかりました
彼女は依然として寒風を受けながら街の通りに立っている。白圭の姿が影に隠れ、蒲牢はためらいながらその場に留まった
蒲牢の逡巡をまったく気にしていないのか、あるいは蒲牢が何を考えているか知りながらあえて気にしていないのか、曲はただ東屋に立って沈黙を保つだけだった
ほ、本当に曲様なのですか?
曲を畏れ一定の距離を保ったままで、蒲牢は勇気を振り絞って質問してみた。賑やかな市場を見ていた曲は鋭い視線を蒲牢に向けてくる
その視線の威圧感は、夜航船での枷による圧迫感とはまったく異なっていた
何でしょう、なにか問題でも?
……いえ、何でもありません
蒲牢はこれ以上深掘りするのはやめようと首を横に振った
彼女のいわゆる「本物の曲」に対する印象は、九龍戦役の前までは、夜航船が九龍に帰ることを頑なに拒んでいた張本人というものだった
しかし戦役後、夜航船は長い間港外に停泊し、船上の住民は九龍の廃墟に少しずつ新しい家を建て出した。「本物の曲」は姿を見せず、九龍は船の人々の帰還を黙認したようだった
彼女の目の前にいるのは本物の九龍の主のはずだが、どんな態度でいればいいのか、蒲牢にはわからなかった
あなたが私の信憑性を疑うのも詮ないことです。なんなら、目の前にあるもの全てを疑っても構わない
ただし九龍の存在そのものを疑う必要はありません
曲の目には少し寂しさがあったが、それはほんの一瞬のことだったため、蒲牢には気付けなかった
白圭があなたとここに来る途中、現状をあなたに説明したはずですが
はい、大体は説明されました
蒲牢は訝しみながら頷いた。かといって彼女自身、これ以上最適な説明はできないし、目の前の現実が単なる夢だとは考えにくい
これは……単なる幻影なのでしょうか?
正確には、あなたや私も含めて、これら全ては華胥の演算による副産物にすぎません。こうして華胥は歴史を再現し、誤った演算を修正してきました
この更新は毎年行われており、このような特殊な日を選んだのは、儀式の手順上の問題です
あなたも華胥と一度関わったことがある、それゆえにこの演算に徴用されたのでしょう
歴史を鏡として使うには、時折磨いておく必要がありますから
手摺の上で動かされる曲の手は、本当に鏡を拭いているようだった
言い換えれば、これは華胥システム内の単なるデータ空間という訳ですね
でも、こんなにリアルなのに……
これらの風情、認識、感情が融合してできたこの九龍の祭りの記憶は、かなり前から華胥のデータに保存されていましたから
そう言いながら、曲の視線は蒲牢から再び明るく照らされた遠くへと移った
……夢みたいです
蒲牢も、曲の視線の先にある花火で光輝く夜空を見つめた。その口調が柔らかくなる
ええ
それで……いつになったらここを出られるんでしょうか?私、船に戻りたいんです
演算が終われば、この夢は自然と覚めます
いずれ夢から覚める日はやって来ますから、それまでは休憩なさい
曲はため息をつき、その視線はまた遠い夜空へと移った。幻の九龍の夜空に向かえば、過去と未来への視線が誰にも言えない夢を映している
たとえそれが偽りで、歴史の演算の中にしか存在しない夜空であっても