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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

究極休息大作戦

空中庭園、世界政府芸術協会のとある部屋の中

「よっこいしょ~っと」の声とともに、ナナミの姿が箱の前から消えた

上半身を箱に突っ込んでしばらく探したが満足がいかなったようで、いっそのことと全身まるごと入り込み、中から何か重たそうな物を抱えて出てきた

これこれ、ちゃんとリストに載っているかなー?

ナナミ自身よりも大きい包みを見て、リーは素早く端末の画面を起動した。何かの情報を確認しているようだ

確認者が首を振ったのを見て、ナナミは包みを持ち上げて歩み寄ってきた

あっぶなーい!抜けちゃうところだった!今すぐ追加するね

ナナミはそう言い終えると、その包みを隣に立つルシアに手渡した。ルシアがそれを受け取ると、思わずよろめいてしまう重さのようだ

ナナミがリーにこの巨大な物体の由来を説明している時、窓辺に佇んでいたリーフが何かを発見した

自分の居場所がバレないようにするためか、リーフは小さな枕を2つ使って両方の逆元装置をすぐさま隠した

それでも彼女は慎重に後ずさりして、窓辺の椅子を軽く叩くと、作戦開始をハンドサインで合図した

指揮官がきましたよ!……皆さん所定の位置に

ナナミがとまどった表情で見てくるのに気づいて、リーはようやくまだ彼女に対応プランを教えていない事実を思い出した

何事にも動じず、いつも通りにしてればいいですから

ナナミはパッと閃いたように手の平を叩き、すぐにごそごそと彼女のコミック本を探し始めた

ルシアは手にした包みを横に置いて、自分の推測が正しいか確認するために、その包みを上から下まで触り始めた

その時、ドア前のカーペット下のセンサーが警告を放った。どうやら指揮官がすでにドアの前まで来ているらしい

ナナミが慌ててソファに走り、リーフは部屋の隅っこに隠れ、リーも壁にすぐさま寄りかかって、慌ただしく端末を手に取った

ドアの外からパスワード入力の通知音が鳴ったのを聞き、ルシアはやむをえず、最大速度で包みを下ろしてソファに向かって飛び込んだ

ドアが開かれる瞬間……

間に合いました……!

その後、世界は再び静寂に包まれた

……

なんだか妙だな……

ドアを開ける前、バタバタとした音が聞こえたと思ったのに

ドアを開けると、そこにあるのは安らかで静かな光景だった――あのいかつい大きさの箱と、少し怪しい何かの包みを除けば

ドアのところで立ち止まって少し観察してから、そっと手を伸ばして触ってみた

できるだけ動きで不信感を表しているつもりだったが、この静寂を破って一体どういうことなのかを教えてくれる者は、誰もいないようだ

指揮官、どうかしましたか?

ルシアはソファに座って本を1冊強く握っている。視線は1カ所に強く焦点を合わせており、そこから目を離すつもりはないようだ

なるほど、本の内容が大変素晴らしいのだろう。ただ……本を上下逆にしても読めるものだろうか……

リーフはお茶っ葉をそのままヤカンに入れ、空のティーポットに水を注ぎ、ティーポットをそのまま加熱装置に直接置いている……

リーは端末で何らかの装置のチェックをしているようだが、絶え間なくタップする様子とは裏腹に、画面に表示されている内容は支離滅裂な何かだ……

し、し、指揮官……何か、ご用でしょうか?

リーフは茶筒からお茶っ葉をわしづかみにしてヤカンに入れ、空のティーポットに水を注ぎ、ティーポットをそのまま加熱装置に直接置いている……

じっとその場で立ちすくみ、ティーポットの水の沸騰を待っているようだ

ただ、あの加熱装置の上に置く物として正しいのは、ヤカンのような気が……

ルシアはソファに座って本を1冊強く握っている。その本は上下逆さまになっているが、そこから目を離すつもりはないようだ……

リーは端末で何らかの装置のチェックをしているようだが、絶え間なくタップする様子とは裏腹に、画面に表示されている内容は支離滅裂な何かだ……

……

リーは端末を手にして、ずっとタップする作業を続けている。まるでその装置の確認工程にゲーム的な白熱した段階が存在するかのようだ

よくわからない部分はさておき……タップ回数が頻繁すぎたせいか、画面上にはいくつものモーダルウィンドウが増殖していく……

ルシアはソファに座って本を1冊強く握っている。その本は上下逆さまになっているが、そこから目を離すつもりはないようだ……

リーフはお茶っ葉をそのままヤカンに入れ、空のティーポットに水を注ぎ、ティーポットをそのまま加熱装置に直接置いている……

なんだか違和感を覚えて、もう少し部屋を回ってみた。すると一見目立たないソファの後ろに、手がかりがあった

ビンゴ、横たわっているのはナナミだ……

昼寝をしているように見えたが、彼女に視線をあてると、その頭をふいと逆に向けた

そして「ぐぅ……ぐぅ……」と声を出して、今寝ているんですよーとわざとらしくアピールしている……

とにかくあまりにも異様だ、この全てが怪しすぎる

背中に集中する視線が注がれているのを感じたのに、こちらが振り返った瞬間、すぐさま消えてなくなった

まあいい、謎解きは予定していた仕事を片付けてからだ。早く終わらせればそれだけ早く……

指揮官、任務で出られるのですか?

ですが……本日の任務は既に全て完了済みでは?

指揮官、一つだけお伺いしたいのですが、あなたの次の目的地は……

いいえ。

見事にカブった答えを聞いて、皆と目線を合わせようと試みたが、なぜか全員から巧妙に避けられた

……

およそ5分ほど経ったあと、指揮官は自分の端末を持って出ていった

ふう……私たち、バレていませんでしたよね……

ですが、指揮官は何かを察したようでしたよ……

先程までの指揮官の様子を振り返ると、僕たちの……偽装はすでに怪しまれている可能性がありますね

あーもう、ヘンな体勢で寝たせいで、ナナミ、苦しくなっちゃったじゃん

ナナミがソファから身を起こすと、皆も反応した。ルシアは本の向きを直し、リーフは急いでヤカンを洗い、リーはタップ連打のせいで増えたウインドウを全て閉じようとしている

それでは、この計画もそろそろ第2段階ですね

指揮官は、先ほどドックに作業をしにいくと……

リーはすぐさま通信画面を出して、ずっと「待機状態」だったチームに連絡した

外野チーム、外野チーム、こちら内野チームです

指揮官はすでに退場しました。繰り返します、指揮官はすでに退場しました。場所はドックです。プレイボールスタンバイ。

外野チームラジャー。外野チーム、総員注意、プレイボール

ボールはD4区域に到着、ボールはD4区域に到着、カムイが引き受けて

カムイ、ラジャー!猛ダッシュ中っ

リーは通信を切ると、意識を再び手元に戻した。指揮官の方は、とりあえず仲間たちに任せることにしたようだ

……

えと、つまり……ボールって指揮官のこと?

これは長時間に渡る計画でして、自在に延長が可能な作戦なんです。あるスポーツと似ていませんか?

うむむ……でも、ナナミはやっぱり作戦名があった方がいいと思うよ

じゃあさ、「究極休息大作戦」ってのはどう!?

広々とした道路を歩いていると、周りは人々の往来の足音で満ちていた

それには理由があった。今日は新装置をテストする日なのだ。ある安全上の問題でお蔵入りしていた執行部隊の輸送システムが、最適化を経てまた再運用されることになった

だから、今日はドックが大変忙しくなるだろう

数値はまだ安定しているか?保安システムは?予備燃料のチェックは終わったか?

よく似た質問の声が飛び交っている

そういえば、最近はテスト需要が爆発的に増加したせいか、任務リストにいきなり大量の項目が増えていた。今回の輸送システムに対するテストがその一例だ

ほとんどは日程をこちらが選べるものだが、その後どんどんタスクが溜まる可能性を考慮すると、やはり早め早めに処理した方がいい

しかし、こちらがまだ状況を把握する前に、長く待っていたらしき試験員が、大急ぎで自分の前に駆け寄ってきて謝り出した

この言葉を聞いて、申し訳なさそうだった試験員の両目がまるで光り輝く星のようにキラキラし、瞬時にこちらの腕を掴むと、装置のテスト場所へ向かって走り出した

到着後、試験員は一刻も待ちきれないという勢いでパネルをタップし出す。分厚いハッチがゆっくりと開き、中からある椅子が姿を現した……

こちらの困惑した目線をよそに、その試験員は何かを説明しながら、どうぞというようにその手を椅子に伸ばした……

突然、彼は静かになった――伸ばした手は本来、その椅子の表面に触れるはずだった

しかし今は何かまったく違うものに触れていた。試験員は振り返ってそれを見る前に、手で無意識に物体を何回か捻ってみた

偶然だねー、指揮官!

試験員のまるでキャビン内の異物を見るような目を前に、カムイはグッと親指を立てた

俺だよ俺、ストライクホークのカムイ……

あっ!ちょっと待ってよ、待ってって、引っ張らないでよ。俺は指揮官の代打で、今回のテストに参加するんだから

しかし試験員はそれを無視して彼の腕を掴み、ハッチの縁に足をかけて踏ん張り、全力でカムイを外に引っ張り出そうとしている

だ——か——ら——おーーれ——は——テ——ス——ト——に——さ——ん——かーーし——に——き——た——ん——だっ——て――

お互い歯を食いしばっての攻防戦の後、試験員は諦めたようにはあっとため息をついた

カムイは腕をぐいぐいと揉み、自らの耳を指差した。通信システムを使えと誘っているようだ

カムイが何を言ったかはわからないが、その試験員は合点がいったという表情を浮かべた

試験員はこちらに向かってお辞儀をしてきた。どうやら自分に代わりカムイにテスト任務をさせることを決めたようだ

C2区域にある図書館のドリンクコーナーが結構いいんだ、指揮官、そこに寄ってみたらいいんじゃない?

最終的に、彼らのわけのわからない共同決定に押されるようにして、こちらはそのまま追い出されてしまった

出ていく直前に、試験員がテスト強度を4倍以上にアップと言った声、カムイがそれに抗議する声が聞こえた

端末でマークされたテスト座標をもとに、見慣れた通路の中を歩き、すぐにある部屋までたどり着いた

ここではとある新型銃器のテストが行われるらしく、蛍光色で描かれた人型の標的が分厚い安全壁の前に次々と現れた

参謀部の隊員が新型武器の入った箱を手渡してきた。スキャンでロック状態を解除する

独特かつ奇妙な見た目の拳銃を取り出そうとする瞬間、弾が1発、自分から最も遠い人型の的にヒットした

次々と2発目、3発目……

瞬く間に、標的の蛍光色の輪郭が次々と消えていく

指揮官、偶然だね

ここの武器のテストは僕に任せて

バンジは手を振ってこちらの言葉を遮った。参謀部の隊員がこちらに何かを言いかけてきたのを見て、彼はすぐにその隊員を傍らに引っ張り、ひそひそ小声で話し始めた

話が終わったらしい。ふたりが再び振り返った時には、すでに何らかの合意を得た様子だった

元はまだよそよそしさを感じる他人同士だったはずなのに、突然ある種の協力関係を持った仲間のようになり、見知らぬ関係から一気に意気投合している

彼らはお互いの手を握り合っており、何かの合意事項が敷かれたため、自分という本来のテスト参加者はどうやら参観の部外者になり果てたらしい

そういえば、今日、世界政府芸術協会で芸術展があるらしいよ、なかなか見ごたえがある展示らしいね

火薬が燃焼する匂いがまだ完全に消えていないのに、室内は奇妙で和やかな雰囲気に包まれていた

しかしまたもや詳細を聞きにいく暇もなく、自分は彼らの共同説得を受けて「出ていかされた」

多少問題があるように思うが、バンジが珍しく強く言ったし、参謀部の隊員も異論はなさそうだ。ここは自分よりも銃器に慣れたバンジに代わってもらおう

次は……

しかし、運命のいたずらなのか、それとも偶然が大量生産されているのか——

——それ以降の時間、こういった意外な出来事が驚くほど続いた

科学理事会のとある部屋の中……

画面表示に、自分の回答が必要な問いがわかりやすく羅列されている

構造体の機体への追加のスラスター配備について……

ちょっと待て!おい?奇遇だな指揮官

こういう質問は専門家に聞いた方がいいんだよ。俺が答えてやる!

外部プロペラを取り付けたい場合は、まず構造体の本体にいくつかの保護手段を追加して...

戦地救急実演講義

あーら、グレイレイヴンの指揮官じゃない?長い間練習をサボって鈍ったのかしら?それとも負傷者を笑いで起こそうという魂胆?

はいはい、ピーピー喚きながらエサを待つ好奇心旺盛なヒヨコさんたち、今から私が実演してあげる

資料にあるような薬がない状況で負傷者の意識を保たせるには、まず軍用ナイフが必要だわ……

子供のお世話サポートの要請ですら……

子供たち、アイラお姉さんと一緒に隠れんぼしましょ?

じゃあスタートね、20数えるわよ

20……19……18……17……

テーブルの前に座って深く考えを巡らせてみる。だが、一体何が起こっているのか想像すらできない

自分が協力しようとした場所にたどり着く度に、誰かが先行して自分がやろうとしたことを引き受けてくれる

テストから誰かの依頼まで、例外はなかった。こちらはいつも数分間の内に、やることがなくなって手持ち無沙汰な状態に陥る

こちらが何か質問をしても、全ての返事はいつも同じ——「単なる偶然」

指揮官、ホットチョコレートをどうぞ。

どうしたんだい?僕がここにいるなんて意外だった?

うん、なんとなくキミがここに来る気がしていたんだ。 だから……

最近、時間がある時はここでアルバイトをしているんだ。本もあるし、飲み物の作り方も習えるしね。そうだ……

ノアンは屈み込むとテーブル上の空いた皿を下げ、ついでのようにセリカに渡そうと自分が持ってきたファイルを手に取った

これらは僕に任せてよ、指揮官。図書館で休憩する時ぐらい、仕事のことはしばらく忘れようよ。

素敵な一日を

それまで、自分のテーブル上にはファイルや、食べ滓が少し残った皿が乱雑にあった。それがあっという間に、湯気が立つ飲み物と1冊の面白そうな画集だけになった

ホットチョコレートを味わいながら、想像力をしばらく自由に働かせてみたが、答えが垣間見えそうなルートすら見つからないままだ

コップを傍らに置き、自分の個人用端末を取り出すと、起動してからテーブル上に置いた

リストをチェックして、自分が補填する必要がある残りのレポートを探し……あれ?まだ書いていないレポートはどれだっけ

粛清部隊関連の共同レポートだったような……

指揮官殿

いつからなのか、ビアンカが自分の側に立っていた。自分が彼女の存在に気付くのを待っていたようだ

……

そ、そうですね。指揮官殿

そのレポートは既に書き終えておりますので、 明日、指揮官殿にお送りいたします。 後程、ご確認ください。

指揮官殿にお時間があるようでしたら、 近くの服装展覧会へ行ってみたらどうでしょうか。 芸術協会が主催した 他のイベントもあるみたいですよ。

レポートのことは、お任せください

今から再度確認しておきますので、明日の朝までには指揮官殿に届くと思いますよ

目の前の個人用端末を見て、このモデルにはビジターモードが搭載されているのをうっすら思い出した

いけません。指揮官殿

ビアンカは頭を振り、残念そうに数歩後ずさった

都合良く指揮官殿と二人きりになることはルール違反です

奇妙な言葉を残し、ビアンカはそこから去っていった

……どうやら自分が着手しようとした仕事も、一緒に持っていかれたようだ

ますます混乱する思考を整理しながら、ホットチョコレートを飲み干した。あっという間に画集も最後のページになった……

ずっとここでぼうっと座っていようか、それとも前に行った場所を再訪して進展を見届けるか……あるいは誰かを訪ねにいこうか?

なんだか全部……やる気が出ない

目の前の賑やかさを増していく街を目にすると、ますます自分が何をしたらいいのかわからなくなった

最近の任務がハードだったせいで、常に大量の物事を同時に処理する必要があった。そのせいか、どういう気持ちでいたら人々の中に溶け込めるのかを忘れてしまったらしい

……

建物の裏に潜んでいたふたりがこっそりと頭を出し、慎重に指揮官の一挙一動を観察していた

指揮官殿、長い時間座っておられますね……

ちぇっ、こっちは、たくさんの質問に答えてから、やっとのことでここに駆け付けたのによ。あいつは何が不満なんだ?

……じゃ、誰か指揮官と話したらどうなんだ?

……カレニーナ、ルール違反の罰は……

あああ、わかってるって

もうこんなところで待ってられねえだけだよ

シー!静かに。指揮官殿が移動し始めましたよ

ビアンカの静粛にという合図で、カレニーナは瞬時に静かになった。ふたりはもう一度真剣に指揮官の動きを観察し始めた

……

何か緊急事態ですか?指揮官殿はなぜ走り出したんですか?

【規制音―――】俺たちがバレたんだよ!

世界政府芸術協会のある部屋の中

雑多な物が床に散らかっている。どうやらまだ片付け途中の道具のようだ

あと残り1分です。無理そうなら全部箱に放り込んでしまいましょう。

ルシアが苦労して大きいバネを箱に押し込み、その一番上にラッパを演奏しているオモチャの小人を設置した

似たような物がまだ半数ほど計画通りに設置できていなかった。一同は指揮官が帰ってくる前にと、一刻を争って準備をしている最中だ

ちょうど窓辺にいたリーフが窓の外に目を見張った。よく知るあの姿が、ここに向かって歩いてきている

どうしましょう…指揮官が戻ってきました

これを使えばいいよ

ナナミが棍棒のようなものをリーフに手渡した

これで指揮官を気絶させようと?そんな……

……

ナナミはさあ……これをドアノブに引っかけて使えると思うんだけど

彼女たちが茫然と顔を見合わせている様子に、リーは決心したというようにまだ設置前の道具を次々と箱に投げ入れ、最速で部屋をぐるりと見まわった

何も漏れや抜けがないことを確認して、リーの「全員所定位置に」の合図と同時に、一同がまた元の位置へと戻った

ほぼ同時に、ドアがゆっくりと開いた

……

両足から感じる疲労感がなかったら、これまでの全てが夢だったのではないかと疑っていたかもしれない

出かけてからもう2時間以上は経っているはずだ。しかしルシアはまだ元の場所で読書しており、リーフは今もお茶を淹れている。リーも手にした端末とにらめっこ中だ

相変わらず誰も自分に挨拶する気はないらしい。仕方なく唯一空いているソファの隣に座るしかなかった

考えるまでもないが、目の前のソファの裏には、ナナミが今でも横たわっている

もちろん、出かける前と違う点もある。部屋にある箱の数が明らかに多くなっている

本当に、ものすごく怪しい……

1日中、グレイレイヴンの皆は芝居をしているように、何かを繰り返している

他の者たちも自分を見るなり、妙にこちらをその場から追い出そうとする

道中ずっと自分を尾行してくるビアンカとカレニーナに加え、この部屋にわけもわからなく出てくる、どんどん増える箱……

まるで黄金時間のホラー映画で描かれた、終わりのない夢のようだ

もう一度目を開けると、皆の位置が微妙に変わったようだ

一瞬気付かないが、どうやら確実にこっそり自分に近付いてきているらしい

……

ああもう、考えるのはやめよう!いっそのこと自分の目の前にあるこの箱を開けてしまおう、そうすれば全ての事情がわかるはずだ

そう思って屈んだ瞬間、視線の端でナナミがソファの裏から頭を出したのを捉えた

あっ!指揮官、それはダメ……

ナナミの言葉で元の空気になったのを感じたせいか、手元の動きが明らかに速くなった

いや、言い換えると……もう止められない

ププー!ププー!

オモチャの小人が頭を揺らしながら、一生懸命ラッパを吹いている

残念なことに自分はそれをのんびりとは聞けなかった

なぜならそのラッパを吹く小人は「ププーププー」という演奏音とともに、大きなバネで跳ねて最速で飛来してくるからだ

……

究極休息大作戦?

先ほどぶつけられた頬を揉みながら、ソファの向こう側に座る仲間たちに訊ねた

指揮官は最近、全くリラックス出来ずに、ずっとお忙しそうだったので

だから私たちは皆さんと相談し、今日だけは何が何でも指揮官にお休みいただこうと……

つまりさー、コッチで全部まるっと引き受けちゃうから、指揮官は思う存分リラックスすればいいんだよ

何せまずは指揮官の位置を把握し、今後の指揮官におけるタスクの必要性を事前に調べなくてはいけません。そうすることで、やっと人員を配置できるので……

ナナミは人差し指を口に当て、どんどん人数が膨らんだリストを慎重に思い出した

ナナミ、グレイレイヴン、ストライクホーク、ケルベロス、バロメッツ小隊、ビアンカ、カレニーナ、ドールベア……あっ、そうだ、バネッサたちもいた

彼らは途中参加といった方が正確ですね

後ろから突然クロムの声がして振り返ると、ストライクホークのメンバーがぞろぞろと部屋に入ってきた

ふぅ!テストの担当者が一瞬でオッケーしてくれてよかった~

あの参謀部の隊員も話が早かったよ、しかもあの試験官をすぐに説得してくれたし

しかし、残りの言葉がまだ口から出ない内に、皆が奇妙な物を見るようにこちらを見つめ始めた。思わず先ほどぶつけられた頬をもう一度触ってしまう

こちらの困惑した様子を見て、ナナミが率先してその沈黙を破った

ジャジャジャジャーン!ナナミ大正解!

予想通りの勝利ですね

本当に、指揮官ももう少しご自分のことを気にかけてくださいね

でも、仕方がないです。最近は忙しすぎたので…

幸い、皆で力を合わせられたので、本日の諸々の業務は全て早急に解決しました

おいおい、指揮官ってばまだ思い出してないのか?今日、メッチャ大事な日じゃん

それなら……誰かがカウントダウンしたら?

ナナミ!ナナミが先にやる!

ずっとソファに座っていたメンバーが立ち上がって、各々が引き出しやら箱やらから色んな物を取り出していく

部屋に入ったばかりのストライクホークの隊員はナナミから配られて、それぞれの道具を手に入れていた

指揮官、そこに座って動かないでね

よーし、今からカウントダウンするよ~

3……

2……

1……

全員

指揮官!お誕生日おめでとうございます!

パチパチパチ——

無数の紙吹雪が空から舞い降り、瞬く間に自分の視線を遮った

両手でそれを振り払い、瞑っていた目を開けると、目の前のテーブル上にはすでに誕生日ケーキが置かれていた

ケーキのコーティングの上、小さな人形たちが順序よく並んでいる。どれが誰を表しているのか見る暇もなく、強引に他に注意を持っていかれた

リーフとナナミが手にしたびっくり箱から、演奏をするカラフルなオモチャの小人が飛び出した。先ほど、自分の頬に思いっきりぶつかってきたのはその一員だ

今になって気付いたが、その演奏が見事にシンクロしている。明らかに誰かが大量の時間を費やして丹念に調整したものだ

簡単な演奏が終わり、次は上から密集した爆裂音が響いた。箱から空に飛んだ風船たちが、一定の高さに到達したことで次々と破裂したのだ

リモコンを握ったリーとクロムがお互いに顔を見合わせている。この効果に対して彼らは心から満足しているようだった

ルシアは紙で編んだ「王冠」を自分の頭に載せてきた。どうやら、この部屋から出るまではこれを外してはダメということらしい

オーラスはバンジとカムイだった。さすが、バンジの手のクラッカーから飛び出た紙吹雪は、的確にこちらの顔を直撃した

カラフルな紙に遮られた隙間から、カムイも同じ目に遭っているのが見えた。彼の場合はクラッカーを自らに向けて持ったことによるものだが

演奏の最後、ケーキ上の蝋燭が静かに火を灯された

淡い黄色の光がケーキの上の小さな人形たちを照らし出す。デフォルメされた姿であっても、どの人形がどの仲間を表しているのかは一目瞭然だった

そして、皆に導かれるようにして、そっと1体目の人形を手に取った……

今ごろ、指揮官はケーキを見てバカ面を晒しているんでしょうね。写真を撮っておいて頂戴、誕生日おめでとう、指~揮~官~

ヴィラの声がその人形から聞こえた

次に2体目……

誕生日おめでとう、指揮官

ほら、ちびっこも誕生日おめでとうって

ギィ、ギィ、ギィ……

3体目……

誕生日おめでとう、グレイレイヴンの指揮官。私からもプレゼントを贈る、気に入ってくれるといいんだが

それと同時に、プレゼントの箱がそっと自分の前に押し出された。どうやら、中に入っているのはギターのようだ

指揮官がこの録音を聞く時、私は任務中かもしれない

ごめんなさい、私はまだ指揮官の側に戻れないから、こういう形でしか指揮官を祝福できなくて。指揮官、誕生日おめでとう

この録音装置の操作には調整が必要…… あら?もう始まっているのですか?

し、指揮官殿、申し訳ございません。 先ほどは何も説明せずに去ってしまい…急ぎの先約がありましたので……

とにかく、指揮官殿、お誕生日おめでとうございます。

カレニーナ、あなたは録らないのですか?

録らないのって…もちろん録るに決まってるだろうが!でもこれ、皆の前で流されんだろ……チッ、じゃ、適当に言っておくか。し、指揮官、誕生日おめでとう!これでいいだろ!

それと……お前にプレゼントを贈っておく…気に入らないとか絶対に許さねえからな!まあそういうことだから

カレニーナが録音をブツ切りする音とともに、反対側にあったある人形のスピーカーから、大量の太鼓を打つ音が聞こえた

その力強く響く重低音のせいで、ケーキ上の人形もぴょんぴょんと振動し始めた

太鼓なんて長い間叩いていないからなあ、手がなまっちまって……

でもまあ、指揮官にちゃんと聞こえてりゃいいか……よう、指揮官!誕生日おめでとう!

集中すると、太鼓の音でかき消されそうになった叫び声がようやく聞こえた

指揮官、誕生日……うるさい、場所を変える

おいおい……行くなよ……まだ終わってないのに……

ソフィアの足音とともに、太鼓の音が更に大きくなった。壁を突き破って人形にその音を刻みつけるかのようだ

……

うん、ここならだいぶマシ。指揮官、誕生日おめでとう

今年も空中庭園に遊びに行けなかったから、残念。指揮官、いつになったらアディレに遊びにくる?

その時はこの小さな人形の作り方を教えて欲しい……

録音が人形に内蔵された保存容量を超えたようで、言葉がそこで切れた

あれ?私、まだ録っていませんよ?まったく、あなたたちフザケすぎなんですよ

指揮官、お誕生日おめでとうございます、お菓子を作ったんですけど……えへへ、何度も失敗しましたが、幸い、教えてくれる方がいましたので

今ごろきっと、全部、指揮官の前にあるはずです。指揮官、どんなすごいお方が残りの半分を作ったのか、当ててみてくださいね

精巧な箱がケーキの隣に置かれている。これがどうやらその2名による傑作のようだ

最後の2体は、ノアンとアイラの人形だった

指揮官、アイラ作の人形はどう?可愛かったでしょ?ちなみに、指揮官の分も作っておいたわ。お誕生日おめでとう、指揮官

そうそう、入り口でノアンと会ったの、あなたの誕生日をどうお祝いしたらいいのか、悩んでいたみたいだったから、一緒に録るよう誘ったわ

指揮官、お誕生日おめでとう

これからのあなたが前途洋々でありますように

幸多からんことを

長生きできますように

……えっと

空中庭園では友人に誕生日の祝福を送る時、皆こんな感じで言うの?

他の人と違ったことをやりたいなら、大体こんな感じかな。私たち皆でまとめた資料だもの、きっと大丈夫よ!

他の人と違ったことね……

全部の人形をケーキから手に取った。アイラの手からすでに用意してあった布を受け取り、慎重にそれらを包んでいく

指揮官指揮官、ナナミさあ、地上からプレゼントを持ってきてあげたよ!

地上から?

ナナミがあの最も怪しくて大きな包みを自分の前にぐいと押し出した。どうやら、この手でそれを開けるのは避けられないらしい

突起している輪郭が手に触れ、なぜか猛烈に嫌な予感がした

するりと外装が下に滑り落ち、ひとつの像がそのまま部屋の中に現れた

高さはおよそ2m。頭を上げて胸を張り、手を伸ばして、その目線は遥か遠くを見つめている

像の威厳に満ちたその姿が、一瞬にして部屋の空気を厳粛なものにした

これ……すごいわね

何だか見覚えが……

推測が正しければ、ですが、これは……

——指揮官ご本人の像ですね

……

えっと、どうやってこのプレゼントを受け取ったらいいのかな……

ふっふっふ、ナナミ、ナイスアイデアを思いついちゃった。ナナミはねえ、地上で見たことがあるんだ。こういう像は大体、公園に飾ってあるんだよね~

パワーちゃんに空中庭園にある公園のど真ん中に運んでもらえばいいのですッ!

ナナミが述べた光景を少し想像してみる——朝が訪れ、公園を通りかかった全ての人の目に、朝日を浴びて輝く自分の像が映る……

ところで、一体誰からこんなすごいプレゼントが贈られたのでしょう

うんとね……ヒントは、絵を描くことが好きな古風な帽子のお姉さん?

誰から贈られたにせよ、ちゃんと自分の部屋で厳重に保管しておこう……

指揮官、1個ずつ見るんですか?ちなみに、あの青いプレゼントの箱は未開封です。今、時間があるなら、あれを開けてみては……

指揮官指揮官、次は俺のプレゼント!開けてみよ?

あの、私のプレゼントはすぐそこにありまして…指揮官がお手を伸ばせばすぐに取れますよ

……

賑やかな騒ぎ声と、楽しく集う笑顔たち。目の前の全てを見て、もう一度あの問題をふと思い出した

本当に任務がハードすぎたせいで、どういった心持ちで人々の輪に溶け込んだらいいのか、忘れていたのだろうか?

自分が求めていたのは、絶えず流れていく川のような人々の喧騒ではなく、ひとつの部屋の中で慣れ親しんだ賑やかな笑い声、それだったのかもしれない

誰かがケーキを分ける前に記念写真を撮ろうと提案して、一同がすぐにケーキの周りを取り囲んだ

おっとそうだ、後で指揮官がケーキを切る時にさ、カムの分も取っておいてやってくれよな

雑食なグルメであることを思い出すと、彼から自分宛のプレゼント箱には一体何が入っているのか気になってきた

はい、タイマー設定は5秒しかないから、急いでね

アイラがカメラを設置してボタンを押し、大急ぎでこちらに戻ってきた

5……

皆もっと寄って、これはレトロな品だから、調整できるパラメータが少ないの

4……

(よし……じゃあ俺はもう少し体を前にしとくか)

3……

(このソファの配置……もう少し前に移動させるべきだな)

2……

(0カウントで腰を折り曲げて、両手で大きなVサインだ!)

1……

……

バンジはこっそり皿を手に、ソファの裏に隠れた

0!

カムイが突然体を大きく前に折り、それと同時にソファが少し前に水平移動した

最終的にカムイはクロムの視界から外れて、制御を失ってケーキに向かって一直線に滑り出した

ルシアが即座に気付いて何とか挽回しようとしたが、運悪く彼女はカムイから一番遠い場所に座っていた

一番近くのリーが反応して、手を伸ばしてケーキを守ろうとして移動させようとした

彼の後ろに潜んでいたバンジは、これからの出来事でクリームが顔にかかるのを防ぐため、前もって用意していた皿で顔を覆った

カメラのシャッター音とともに、一連の最後の瞬間を捉えた写真ができ上がった

何年も後、誰かがアルバムからこの写真を見つけるかもしれない

その1枚は、あの困難な歳月の中にも賑やかな笑い声があり、戦士たちの記憶の中でキラキラ輝いていたことの、何よりの証明になるだろう