王城の中、城門の左側にある地味な建物の外
連日のプレイで、ストライクホークと工兵部隊はなんとか王城から離脱しようとしたが、なかなか成功しなかった
そのため、彼らはこれからしばらくの間、セーフハウスの周りで行動し、身を隠しながらチャンスを伺うことに決めた
ありがとうございます、善良な冒険者さん……ちょっとお訊きしたいんですが、飛天ラーメン教の教会はどちら……
カムイは手を振って、住民が差し出した報酬を断った
そんなの気にしなくていい。全知全能の飛天ラーメン教の神に恩返ししたいなら、正直に生きればいいさ。それ以外のことは、神様はまったく気になさらない
言い終えると、カムイは両手を合わせて軽く会釈した。住民も彼の動きを真似て腰を屈めた。そして、小さな声で言った
それ以外のことは、神様はまったく気になさらない
住民を見送ったあと、カムイはDMに自身の状態を訊ねてみた。すると、レベルが数段上がっていた
DM、パワー、パワーだよ、アップグレード分はパワーに全振りして
側にいるバンジも穏やかな目で住民を見送った。協力者として、彼の経験値も凄まじく上昇していた
その時、数名の兵士が向こうから歩いてきた。カムイはすぐにバンジの手を掴み、自分と同じように頭を下げるように指図した。そして両手を合わせ、下を向いて前進した
正直に生きる、それ以外のことは、神様はまったく気になさらない
兵士はすぐに見慣れない人物への警戒を解き、同じように両手を合わせて、祝福の言葉をつぶやいた
そのうちのひとりは指名手配書を持って、通行人の顔と照らし合わせていた。まさか指名手配書にある凶悪犯が、新興宗教の信者になりすましているとは誰も思わないだろう
兵士さん、ショールが床についてますよ
あれ?気づかなかった。一番後ろを歩いているせいかな?ありがとうございます。飛……飛天ラーメン、正直に生きる、それ以外のことは、神様はまったく気になさらない
すぐに、兵士は角を曲がって見えなくなった。ずっと後ろ姿を見つめていたバンジもようやく安心して、セーフハウスのドアをノックした
カレニーナが強化してくれたわ……見てみましょう、箒の棒、木の塊、テーブルの角、火バサミ……これ、なんて呼べばいいの?
複合防爆ドアだな
複合防爆ドアがノックされ、「キーン?」「ドン?」「カーン?」という音が響いている
俺、俺だよ
実行、門を開けろ
なんで、こんなことまでスキルを使わないといけないんだ……
ドアのシャフトを外して、上下にスライドするようにしたんだ。より頑丈になったぜ
……失敗したみたいだな
……俺がやる。下から上にこのドアを引き上げろ、実行!
カムイ実行……大成功です
大成功……この結果はつまり……カムイがドアを取り外して、部屋に入って再び取りつけたってこと?
待って、ちょっと考えさせて……カムイが部屋に入った時、角の方に不具合を見つけたので、強化した……これね!
城門周辺の守衛はまだ多いのか?
数としては無理やり突破できるくらいかな。でもカムイが助けた商人の言では、城門の下には広場があって、おそらくDMはそこに強い敵を配置してるだろうとのことだった
パトロール部隊の巡回時間は?
兵士の隊長が言ってたけど、人を何倍にも増やして、朝昼晩に1回ずつ城全体を見回ってるって
隊の数は?
城内の巡査武官の情報によると中隊が8つらしい
武装は?
北側の鍛冶職人は主力部隊レベルの装備だと言ってたよ
素晴らしい、ご苦労だった
よっし!
そうだ、掲示板で見たあの勇者降臨の通知を覚えてる?冒険者が言うには、グレイレイヴンって名の勇者部隊が王城に向かってるらしいぜ
ちょっと不思議なんだけどよ……なんで皆、そんなに色々情報を教えてくれるほど協力的なんだ?
それは最近、僕たちがカムイの教会の名を使ってたくさん人助けをしたからだ。今なら、そのフードを被って頭を低くしてるだけで、妨害もなく王城の中に入れるよ
要するにお前らの……神秘の教会ごっこだっけ?あれ、まだ続けるつもりなんだな
ええ、密かに我々のレベル上げができると同時に、貴重な情報も得られて一挙両得です。よし、ではもっと依頼を受けに行こうか
飛天ラーメン神の名において!
……
何かあったのか?
DMが聴覚と幸運を実行しろと……
足音、すごくたくさんの足音だ
バンジはそう言ってさっとカーテンをめくると、幸運を実行した。飛んできた矢が数本、彼の髪の毛をかすめていった
門を破れ!
兵士が全力で複合防爆ドアを蹴る度に、大きな音が鳴り響く。そして、その音よりも更に大きな怒号が続いた
門を爆破しろ!
ドアの外の兵士は何かの物体を防爆ドアの前に積んでいる。皆が各自回避を実行するのを尻目に、カレニーナは微動だにせず、ただ自分が作った物を見つめていた
ドォォォォン!すぐに、家屋全体が激しい振動に襲われ、大きな音が聴覚を襲った……
この汚らしい物はなんだ?医療魔法!早く!
依然として、複合防爆ドアが壊される様子はない
すぐに装甲車を呼べ!
兵士長どの、横の壁を爆破しては?
全員がすぐに回避と幸運を実行する中で、カレニーナだけが違和感を覚えていた
この音……
再び大きな音が一帯に轟いた。すると、壁に大きな穴が空き、煙の中から武器を持った兵士たちが一斉になだれ込んできた
続々と入ってくる兵士は鋭い刃物を振り上げ、一行を隅へと押しやってくる
10分前、グレイレイヴンが王城に入ったのち、勇者たちの身分に気づいた守衛はすぐさま自分の上官に報告した
指名手配書は魔法で貼りつけられていて剥がれない。仕方なく、守衛は掲示板ごと運んできていた
ずる賢い悪魔……?
凶暴な獣?兵士長さん、この指名手配書に書かれているのは……?
ご存知ないかもしれませんが、こいつらは悪魔の化身なのです。あの火柱の下には釘1本が残るのみだ。もう少し遅れていたら、やつらは火柱ごと地面から引っこ抜いたでしょう
眠る暴徒……残虐な悪鬼……破滅的な害獣……これら全てが、逮捕されるべき者ですか?
そうです、勇者様
なるほど。わかりました、では守衛の人たちに準備するよう伝えてください。僕たちがすぐに向かいます
勇者様がたは、やつらの居場所がおわかりなのですか?
勇者ですから、まあ
しかし……城門の守衛としましては、まず王城守衛司令部に報告しなければなりません
まぁまぁ、ちょっと待ってくださいよ
旅の魔法使いはその腕を兵士長と呼ばれる人物の肩に回すと、身を屈めるように皆に合図した。そしてわざとらしく周りを見渡して、声を低く落とした
……どう考えます?これは大きなお手柄ですよ、この功績を誰かに渡すなんて兵士長どのも人がよろしいことだ
……どういう意味です?
考えてもご覧なさい。あなたは城の門を守るために遣わされているのです。今後、こんな大事件を扱えると思いますか?
明日の掲示板の見出しは、間違いなく「勇敢なる将軍と勇者が全ての悪党どもを一網打尽」これですよ。そして、兵士長のお名前は隅の小さな枠にひっそりと載るだけだ
兵士長はごくりと唾を飲んで、助けを求めるような視線を旅の魔法使いにさまよわせた。もう一度煽られてようやく決心し、くるりと振り向くと城門の下の階へと向かった
そこのお方、どこかで見たことがありますね……ああ、思い出した、私たちがまだ勇者だった時の城門の守衛では?
誰かさんが商会の金を騙し取ったせいで、追いかけられて、尻をつっ突かれた人かな?
静かに……早く、私が見破られたかもしれない……
兵士長が部隊を招集に行った隙を見て、旅の魔法使いはグレイレイヴン全員に見えるようにウィンクした。そして、仲間とともに城から出ようとする人々の中に紛れ込んだ
よろしい、勇者様の言う通りだ。犯人はここに隠れています
その時兵士たちの後ろで、見覚えのあるふたりがつま先立ちで顔を出していた
ルシア!ここで何してる!?
しかし距離があるせいか、ルシアは彼女の質問に答えようとせず、微笑んで手を振っただけだった
犯人め、前回は逃したが今度はこちらが有利だぞ、この勇者様たちが見えるか?おとなしく……あれ、勇者様?
グレイレイヴンのリーフが魔法の瓶から「昏睡の霧」を注ぎました
判定完了。結果は――広がった霧は蛇のようにするりと兵士たちの鼻から入りました。彼らの何名かは振り向いた瞬間、武器を振り上げる前に前方へと倒れました
大成功ですね
魔法使いのアイテムは本当に役に立ちますね
言い終えるとすぐにグレイレイヴンの4人は歩み寄り、手にしていた武器をすぐ側に置いた
そして、兵士たちの体をひっくり返したりして、全身を隈なくチェックした。任務に関係するアイテムがないのを確認して、ひとりひとり綺麗に並べて寝かせた
なんだその手練れ。一体どんだけこんなことを繰り返したんだよ……
任務の際は、あまり平和的ではない人に出会うことが多いので
お互い無駄な損耗を減らすために、リーフがこのような……手順を考えました
バンジ、城門の守備の残り人数を確認しろ
遠距離偵察、実行
実行結果……成功。バンジが窓から眺めると、門を守る勢力は明らかに弱体化していました。街の人の出入りに対応するだけでも危うい状態です
グレイレイヴンが我々の最大の問題を解決してくれたから、そろそろ次の作戦を練りましょう
でも、あの人は上長に報告もせずに、自分で兵を連れてきた。なんだか懐かしいわ
……
へい!おりゃ!あちょ!
攻撃、撃破、攻撃、撃破、超攻撃、レベルアップ……
ほら、隊長のお姉サマ、またたくさん倒してやったぜ
たったこれだけで?もっと続けて頂戴。終わるまでに必要なアイテムが集まっていればそれでいいわ
そういえばよ、この前突き飛ばしたおっさんから世界を救って欲しいとかなんとか、言われてただろ。そこに行ってみるか?
あちらはグレイレイヴン指揮官に任せておけばいい、英雄はあの人の専売特許よ
21号、魔法追加、計算できない……
なら計算しなくていいわ、近くの街を探してみて、掲示板とか
へいへい、そういやお姉サマ、遠征軍が向かってきてるぜ
遠征軍のあのリーダー、どこかで見たことがあるわね……ああ思い出したわ、あれはバロメッツ小隊の……誰だったかしら?
……
君たちは指名手配書の、北部の荒野で暴れているという「緋色の嵐」か?
その通りだけど、何か御用?
(これは台本のための単なるゲームなんだ。アイラさんの言う通り、キャラになりきれ、キャラになりきるんだ……)
我々は王城の遠征軍たるぞ。悪党どもを捕まえる命令を受けておる。おとなしくお縄につけ
本気?ノク、見せてやれ
おうよ!
最初ノクティスはしぶしぶといった体で両手を広げた。しかし、大きな体を完全に開くやいなや、太陽の下の向日葵のような満面の笑みを浮かべた
ケルベロスのノクティス、キャラレベル99です
すすすすみません、失礼しました……