瓦を積み重ねただけの簡素で飾り気がない、素っ気ない屋根だ――
今、グレイレイヴン小隊は魔法使いの手によって、それぞれが子供の姿に変身し、この簡素な屋根の上に並んで這いつくばっていた
10分ほど前、小さな船の側で待っていた旅の魔法使いは、熊笹がめいっぱい詰め込まれた箱を見るなり驚き呆れかえった
原材料を運ぶために、旅の魔法使いが漁師から借りていたのは村一番の大きな船だった。しかし、グレイレイヴンが担いできた箱の量は、彼の予想を大きく上回ったらしい
勇者様……まさか山の熊笹を全部集めたのですか……
ごめんなさい、魔法使いさん。船のスペースに限りがあることをすっかり忘れていました……
いえ、それはいいんです。ただ、勇者様が隠れるスペースを確保しておいたんですが……船着き場を通る時、また村人たちに熱烈歓迎を受けるのはお嫌でしょう……
うーん……でも大丈夫、なんとかいたします。変化魔法であなたたちを子供の姿に変えましょう、そうすれば箱の中に隠れられますから
これで万事オッケーです
その後、魔法が4回成功し、グレイレイヴンはチビグレイレイヴンに姿が変わった
それを見て旅の魔法使いは何かを言いかけたが、それ以上言葉を発しなかった
一行が旅の魔法使いの臨時作業場に着いたことは、どこからか情報が漏れていたらしい。大勢の村人が英雄たちをひと目見ようと集まってきた
材料の準備は整いました。安心してください。問題はすぐに解決されますよ
屋根の下、村人に囲まれた旅の魔法使いは熊笹を高く掲げ、集まっている人々をなんとか解散させようと必死だ
え?なんです?勇者たちはどこかって?
群衆の騒音にかき消されないように、旅の魔法使いは声を張り上げ、叫ぶように答えた
勇者の方々はまた山へ戻りました。お礼が言いたいのなら、村で待っていてください
はいはいはい、誓いますって。彼らは向こうにいますから!
説得力を持たせるためか、旅の魔法使いは人差し指を上に向けて屋根の方を差して、大声で誓いの言葉を言った
人々が立ち去ると、旅の魔法使いは地面に座り込んで、ようやくひと息つくことができた
ありがとうございます、旅の魔法使いさん
リーフが屋根に這いつくばりながら頭を覗かせた。村人のほとばしるパッションを目の当たりにし、グレイレイヴンは彼らの前に直接姿を現さないよう、隠れていることにした
いいんですよ。ただ、歓迎される英雄だからこその名誉を、まさか辞退するとは思いませんでしたが
私たちは名誉のために村を助けるのではありませんから
では、村の人たちを代表して、あらためて勇者様に感謝の意を表します
ただもう時間がありませんね。次はどこに行かれますか?
旅の魔法使いさんが仰っていましたが、「龍の故地」以外からの材料には限りがあるので、古の三角形の模造品を日常的にお供えするのは無理がありますよね
そうです
この問題を根本的に解決できるのであれば、頑張って挑戦してみようと思います。ただ「龍の故地」に入るには、鍵として古の三角形の模造品が必要なんですよね
だったら、まず王城に行きましょう。模造品に必要な3つのパーツを集めなければいけません
それは名案ですね
熊笹はたくさんあります。魔法使いさんが必要な分を取ったら、残りは道中で人々に差し上げましょう。あのエリアで武装していない人たちが材料を収穫するのは危険すぎますから
それは素晴らしいですね。勇者様はいつ出発されますか?すぐに?今すぐですか?
いや、ちょっと待ってください……
僕はまず、報酬の問題を先に解決すべきだと思いますけどね
……
報酬のために助けるつもりはありませんが、もし報酬があるのなら、これから先の旅の途中でもっと多くの人を助けることができますね
おっと、うっかり忘れるところでした
先ほど山の神が金貨の入った大きな袋を渡しているのを見ました。どうやら、何らかの頼まれごとを僕たちがついでに完了させたようですね
……村人たちがあなたに宣誓を強要した理由がよくわかりましたよ
そんなことを言わないでくださいよ。私はただ偉大な神のために村人を慰めているだけなんです
それは、神の名を騙って嘘をつくことですか?
神に誓って申し上げます、絶対に嘘はついていません
旅の魔法使いはここぞとばかりに胸を張って、堂々とした様子で言い放った
まあそれはもういいでしょう。これですが、歴代の勇者によって修正され、書き加えられてきた「龍の故地」に関する勇者の記録です。きっとあなた方のお役に立つでしょう
旅の魔法使いがノートのようなものを高く掲げた。表紙には幾度も補修された形跡があり、中には大小さまざまな紙が挟みこまれている。どうやら彼は事実を言っているらしい
体が子供の姿に変えられているので、リーフが必死に手を伸ばしても、屋根の下のノートに触れることができない。ルシアは、その記録に手が届くようにリーフを支えた
旅の魔法使いは勇者の記録を手渡すと、物静かに格好よく手を振って、無言の内に別れを告げてきた
旅の魔法使いはその言葉など聞こえなかったというように、踵を返して体を屈め、走り出そうとしている
体が子供サイズになっているため、「敏捷」判定の難易度が上がっています……実行結果……成功です
旅の魔法使いの実行は「幸運」です……
指揮官は屋根から降り立ち、旅の魔法使いのマントを素早く掴みました。しかし、「幸運」な相手はマントの紐をするりとほどいて逃げ去り、森の中へと消えていきました
体が子供サイズになっているため、「パワー」判定の難易度が上がっています……実行結果……成功です
旅の魔法使いの実行は「幸運」です……
指揮官は屋根から降り立ち、旅の魔法使いを押さえつけました。しかし、「幸運」な相手は魔法で体を滑らせ、マントを脱ぎ捨てて、素早く森の中へと消えていきました
指揮官、捕まえますか?
しかし一行が動き出そうとした時、予想だにしなかったトラブルで足止めされてしまった
ルシアが屋根から降りようとして、そのまま頭から芝生に突っ込んでしまったのだ
どうしてこんなことに!?
体が子供サイズになったことで全属性が低下しています。現在の能力に応じたスキルを実行するのは、かなり困難です
私が試してみます、実行
結果……失敗。チビリーフは両足がからまって宙を舞い、同じようにチビルシアのすぐ側に落ちました
ありがとうございます。でも必要ありません
忘れないでください。指揮官も子供の体なんですよ。安直な行動はリスクを増やすだけです。アイラ、今から実行します
颯爽とそう言い放ったチビリーはジャンプのタイミングを思い切り間違え、背中からズドンと落っこちた
前に旅の魔法使いが言った「一緒に解決しなきゃいけないこと」はこれのことかもしれない……
強力な力を持つ魔法使い、この魔法に匹敵する魔法が使える者でなければ、解くことはできません
勇者の記録とは勇者自身が書いたものなんですよね、その中にこれまでの勇者たちに関する情報はないでしょうか?勇者の中には強い魔法使いがいたんじゃないでしょうか
ノートを開くと、リーフはすぐに手書きの地図を見つけた
あ、ありました。王城への道……指揮官、名もなき賢者の屋敷の前を通るようです
筆跡は新しいもので、まったく色褪せていません
なんとかして元の姿に戻らなければ……