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All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

カラフルな気持ち

……これで、ほぼ結論が出たといえるでしょう。以上が小隊単位における作戦の戦術指揮の注意点です。指揮官、他に補足することがあればお願いします

ありがとうございます。指揮官のお考えが明確だったため、整理が容易だったからです

まさか、首席だった君が冗談を言うとは……

クロムは端末に映る時間を見て笑みをこぼし、作戦会議の資料をまとめ始めた

時間も……ちょうど1時間です。そろそろ私の任務も終わりですね

これで前回の作戦に関する戦術討論は終了です……こんな日に時間を取らせてすみませんでした

クロムは頬を緩ませ、首を振りながらホログラフで表示された作戦記録をスライドした。すると、ストライクホークのメンバーとの共同作戦時の写真が映った――懐かしい一枚だ

いつの間にか、君も指揮官として我々ストライクホークと多くの困難を乗り越えてきました……今となっては、笑える話もありましたね

腕を組みながら、当時の記録を見ていると、クロムとは長年の戦友のようだった――もしアルバムを見ながら語り合う機会があったら、時の流れを忘れてしまいそうだ

その通りです……過去よりも未来に目を向けるべきですね。ストライクホークは更に精進して、より強くならないと……理想の自分に近づくためにも

クロムは画面に映るストライクホークのメンバーを見て、ひとり微笑んだ

君のお陰で皆成長しています。カムイもバンジも、私もカムも助けられてばかりで……今日はストライクホークを代表して私からプレゼントがあります。受け取ってもらえますか?

クロムはそう言って、リボンで飾られたプレゼントを渡してきた。とりあえず受け取ってみたものの、なぜプレゼントされたのかがわからない

プレゼントについて訊ねようと思ったその時、ストライクホークの休憩室の入り口にツンツン頭が現れた

ねえねえ、隊長!グレイレイヴンの指揮官はもう行っちゃった?

何だ、指揮官にご用でもあるのか?しかし、何度も言ったはずだぞ。客人がいる時は大声を出さないようにと……

おう!緊急の用事だよ!今戻ったら、あのセリカが分厚いファイルを持って指揮官を探してるって。もうすぐここに来るから、指揮官、早く逃げなきゃ!

仕事の追加は嫌だけど逃げなくても……

大事な話なら、あのセリカなんだ、きっと通信で繋いでくるだろ?それにファイルの厚さがスゴイんだ……ゼッッタイにどうでもいい報告書とか、しち面倒な書類だって

フフン、バンジからセリカの扱い方については、教わってるからな

訓練報告もこれくらいロジカルにまとめてくれたら……

クロムは眉間のシワを擦り、ため息をひとつ漏らしたあと、出口へと向かった

本来、こういうことには賛同できませんが、今日だけなら……特別ということで

セリカは我々が引き留めておきますから、指揮官はまずグレイレイヴンの休憩室に戻って……

早く行って!ルシアたちが待ってるからさっ

ふたりの真剣な顔からして、「今日、皆どうしたの?」と訊ける雰囲気ではなさそうだ……

あと、ルシアに「すまない」と伝えてもらえますか。私とカムイは多分遅れそう……

結局「どういうこと?」と訊けなかった。とりあえずグレイレイヴンの休憩室に戻れば、ルシアたちが何か教えてくれるだろう。セリカには……悪いことをしただろうか……

ストライクホークの休憩室を出てからも、手にしているプレゼントについて思い当たる節はない。このまま彼らを置いて逃げたら……代わりに怒られるのでは……

でも、クロムたちからはグレイレイヴンの休憩室に戻るようにと念押しされている。確かにそちらも気になるし、どうしたものかと考え込んでいた

すると、廊下の曲がり角で思案に耽るのはよくないと身をもって思い知らされた。考えごとに気を取られて、曲がり角の向こうから現れた誰かと正面衝突してしまったのだ

【規制音】!ボーっとしてんじゃねぇよ!……ったく、プレゼントが無事でよかったぜ……じゃなかったら、テメェ、ブッ殺っ……あれ!???

カレニーナ!どうしましたか……指揮官殿!?

なんと、ぶつかった相手はカレニーナだった。手には綺麗に飾られた箱を持っているようだ。しかしこちらの視線に気づいたとたん、カレニーナはさっとそれを後ろに隠した

見んなよ……!

カレニーナはボソッと文句を言った。どうやら機嫌が悪そうだ

チッ……面倒くせぇなぁ。なんでこんなとこにいるんだよ……これじゃサプライズにならないじゃねぇか……

そうでしょうか?思いもよらぬところで出くわすなんて、十分にサプライズだと思いますよ

ま、確かに、それも一理ある……

今日お渡ししなかったら、あのプレゼント選びの苦労が水の泡になります

べ、別に苦労なんてっ!それに選んだのはビアンカじゃねぇか。オレはちょっと手伝っただけだし……

カレニーナはひと呼吸おいてから後ろに隠したその箱を取り出し、ぐいと渡して寄越した

これは……その、プレゼントだよ。ビアンカとオレのセンスで選んだもんだから、グレイレイヴンのやつら……ルシアのよりは絶対にいいに決まってる!

プレゼントを受け取ると、カレニーナは素直に笑ってくれた

プレゼントには気持ちがこもっているのです。だから、比べられるものでは……

でも、オレたちが一番最初にプレゼントしたんだから、勝っただろ!

ビアンカが微笑みながらカレニーナの頭をなでていると、ストライクホークからのプレゼントを発見したようだ

これは?……指揮官殿はもう、他の誰かからプレゼントをもらっていたのですか?

ストライクホーク……カムイが所属する斥候小隊ですね

そうですか……それは何よりです……あのことがあってから、彼のことを見かけないので……でも粛清部隊と会いたい人なんてあまりいないでしょうが

指揮官殿がいなかったら、あの時の私は、カムイをパニシングに侵蝕された兵士として始末してしまうところでした

あなたにとっては当たり前のことかもしれませんね。でも私にとってはかなり意味が違うんです。ずっと粛清部隊にいる私にとっては……だから、心から、感謝しています

あの時だけじゃなく、指揮官殿のことをその後もずっと拝見してきました。あなたの信念は、いつも奇跡を創り出しますね

いえ、積み重ねてきたその努力は、確実に皆に希望を与えています。そのプレゼントが何よりの証明ですよ

そんな、水臭い話はもういいって。今日はおとなしく皆に祝福されてたらいいんだよ!

ほらっ、ルシア……グレイレイヴンの連中が待ってるぜ。せっかくだし、一緒に行ってやるとするか

そうですね、主役は遅れてやってくるとはいいますが、待たせすぎるのも失礼になりますし

カレニーナに促され一歩足を踏み出すと、遠くから激しいタイヤの擦れる音が聞こえてきた

???

見つけたよ!グレイレイヴン指揮官!!

勢いのある声とともに、セリカの姿が廊下の端に現れた。正確にいうと、彼女だけではなかったが――

ジャジャジャーン~!ナナミ様のおなーりー!!!

ナナミは機体に装着されたローラーで前進してきた。その背中にはセリカを乗せ……あまりの勢いに、古代騎士の突進を彷彿とさせる出で立ちだ

物語にはやっぱり悪役がいなくっちゃ!魔王の手下役はナナミに任せてっ!

魔王って、一体誰のことですか……

今日だけは、指揮官殿をセリカに捕まえさせる訳にはいきません……ロゼッタ、お願いします!

ビアンカの叫びとともに、遠くからスラスターの炎が急速接近してきたと思った瞬間、何者かが一同の隣にそのまま着地した

今はそれよりも……私に掴まって、指揮官……さあ、行くわよ!

指揮官……もっと強く掴まって。この機体は頑丈だから

なっ……!?指揮官、悪いけど強すぎると怪我するかもしれない。この機体はかなり硬いから

ロゼッタの比較的細い腰に後ろから掴まった。振り返ると、ナナミとセリカがすぐそこまで迫っていた

ナナミがやってきたよ!!!全速前進!!!

逃がしませんよ!!!

指揮官、しっかり掴まって。飛ぶよ!

まだ準備ができていないというのに、周りの景色が凄まじい速度で後ろへと流れ始めた。両耳からは風圧とスラスターの轟音が流れ込む……

あまりの高速に意識が飛んでしまいそうだったが、そんな中でも、辛うじて「手を放すものか」という意識が残った――なぜならば、ここで手を放したら……

風の音が緩やかになり、ようやく空中庭園の疑似重力に引き寄せられるようにして、両足が地面に着いた

たった数分間なのに、ファウンスの耐G訓練を半日も続けたみたいにフラフラだ……

しばらくは追ってこないはず……指揮官、大丈夫?

ロゼッタはホッとしたように着地した――彼女が支えてくれたお陰で、なんとか立ち上がれた

視界はまだぐわんぐわんとしているが、周りの景色はよく見知ったものだった。たとえ見えていなくても、ここだけは間違えることはない

じゃあ、この先がグレイレイヴンの休憩室だから。皆が中で待っている。多分、まだ遅れてはいないかと……

ロゼッタは少し言いよどんだが、そのまま手を放し、両肩のスラスターを展開して空中に浮いた

私は……セリカたちを引きつけて時間稼ぎしてくる

グレイレイヴンの休憩室で何が起きるのかはわからないが、皆が集まるようだ――しかしロゼッタは、無意識なのか意識的か、自分をその「皆」から除外しているようだった

彼女は寂しそうな笑みを浮かべ、グレイレイヴン休憩室の扉を見た

今でも空中庭園の監視を受けている私と一緒のところを見られたら、指揮官が何か言われるかもしれない――今日は、皆と楽しんで

ロゼッタは少しびっくりしたようだが、すぐに優しい笑顔を見せると、補給ポケットからとても綺麗に飾られた箱を取り出した

感謝の印として、このプレゼントを贈るべきかどうかずっと悩んでいた。あなたが私……守林人にしてくれたことと比べたら、あまりにも取るに足らないものだから

ロゼッタは目を閉じ、額をくっつけてきた――これは守林人が真摯に感謝の気持ちを表す行為だと聞いたことがある

でも、「感謝」というのは、プレゼントの重さで図るものではないのかもしれない

しつこいようだけど、ありがとう、指揮官……

ロゼッタは再び目を開き、自信に満ちた面持ちでぐいと胸を張った。その虹色の翼から生き生きとしたエネルギーを感じる

あなたの言う通り、私も一員として、あとで皆のところへ行く。でも今は……

ルシアに、すぐに行くから少し待ってと伝えてほしい

その言葉を残して、彼女はスラスターの出力を上げ、廊下の反対方向へと飛んだ――セリカの説教が、あまり長くならないことを祈ろう

ロゼッタが稼いでくれた時間を無駄にすべきではない――好奇心と期待を抱きながら……慣れ親しんだグレイレイヴン休憩室の扉を開けた

しかし休憩室の扉を開けると、中は真っ暗で、グレイレイヴンの皆は誰もいないようだ

暗い室内に入ったが、いつもなら自動で点く照明がなぜかつかなかった。異変を感じ、持っていたプレゼントを置いて、懐にあるピストルに手を伸ばそうとした

しかし銃のホルダーに触れた瞬間、今日は休日で銃を持っていないことに気づいた――戸惑っていると、いきなり休憩室の照明が点き、後ろからクラッカーの音が聞こえた

指揮官、お誕生日おめでとうございます!

お誕生日おめでとうございます、指揮官を驚かそうと思って、ずっと待っていました

鳴らし終えたばかりのクラッカーを手にしたルシアとリーフが部屋の隅から現れた――彼女たちの姿を目にして、ようやく安堵できた

指揮官、びっくりされましたか?

本当ですか?それはよかったです……でも伝統的には、「サプライズ」は驚いてもらった方がいいみたいですけれど……

本当ですか?「総監督」はホラー要素も入れるつもりだったみたいですが……

それはそうと、さっき彼女らは「おめでとう」と言っていた。多分それがこの集まりの理由なのだろう

ルシアとリーフは困惑した様子で互いの目を合わせた。どうやらこの質問は予想外の展開だったようだ

それは……指揮官ご自身の、お誕生日です

そうです。なので、皆で集まって指揮官のためにお祝いしようと思っていたんですが

この時初めて気がついた。休憩室の中が色とりどりに飾られている……まさかここまで準備してくれていたとは

簡単な飾りつけだが、少し冷たい印象がある普段の休憩室が、少しの温かみを感じさせてくれていた

今日1日で何回目のありがとうなのかはわからないが、彼女たちには自分の口で直接感謝の言葉を言うべきだろう

指揮官はご存知ないでしょうけれど、この飾りつけは全部リーさんが作ってくれたんです!

私とリーフではあんな高いところにまでは飾りをつけられないですから、リーに任せることにしました

まさかこれを飾ってくれたのがリーとは……さすがに予想外だった

???

たとえば、ここの飾りはもう少し自然にハズすの。でなきゃ、アートにならないじゃない!

アート?何の話ですか……

休憩室の奥から言い争う声が聞こえた。どうやらリーと……アイラのようだ

世界政府芸術協会の一員として、こんな中途半端な飾りつけ、絶対に許すもんですか!

誕生日パーティーの飾りについてはよく知りませんが、助力を求めるのなら、こんなに何度も場所を変えるのではなく、的確な指示をお願いします

あら、グレイレイヴン指揮官じゃない。ご自分の誕生日会へようこそ

ここはグレイレイヴンの休憩室ですから。アイラの方こそ、ようこそになるんですが

指揮官の誕生日をお祝いしたいのですが、いいアイデアが浮かばなかったので、アイラにお願いしようということになりまして……

ちょっと、物事は正確に言って。私はデザインのトータルディレクターよ。だから私は全てのクオリティを一定のレベルに保たなきゃいけないの!

全ての人にとって誕生は特別で記念すべきものなのよ――昔、黄金時代ではそうだったし、人類文明が衰退した今の時代も……存在を覚えておくためにも大切だと思う

確かにアイラの言う通り、明日のことすらわからない時こそ、今をもっと大切にするべきなのかもしれない

世界政府芸術協会の記録によると、昔は誕生日パーティーを開いて、家族と一緒にこのかけがえのない日をすごしたらしいわ

そうですね……子どもの頃、私は誕生日が1年の中で一番の楽しみでした

リーフは昔を思い出しているようだった。その笑顔は少し寂しそうでいて、懐かしさで満たされているのがよくわかる

家族が集まった温かい黄昏時、お母さんが作ってくれたパイのいい香り――あの味は、構造体になった今でもはっきりと覚えています……

でも味覚が変わったせいで、同じ味を作ろうとしても全然できなくて……指揮官にも食べていただきたいんですけれど

その代わり、指揮官と皆さんのために特別なケーキを用意しました。気に入ってもらえるといいんですが

リーフがケーキを用意してくれたと知ったら、マーレイも喜ぶと思います

マーレイは甘いものが好きなんですか?

厳密には、マーレイは誕生日ケーキというものに好奇心を持ってるだけだと

うちは裕福ではありませんでしたが、僕たちはお互い、誕生日をはっきりと覚えています。いつも頑張って誕生日プレゼントを準備して贈り合っていたので

リーはまるで水平器で測ったかのように真っ直ぐに飾りをつけながら、淡々と昔のことを話してくれた

リーさんが自分の昔の話をするなんて……珍しいですね

……以上です。僕のことを知ってもどうしようもありませんよ。今日の主役は指揮官なんですから

そういえば、私の誕生日には、何が起きていても必ず家族が賑やかなパーティーをしてくれました……

今日のように家族と友人が集まって、指揮官と同じく私もたくさんのプレゼントをもらいました

ルシアは微笑みながら頷き、横に置かれたプレゼントの山を見た。それはグレイレイヴンの休憩室に来る途中でもらったプレゼントだった

プレゼントを見ると、こんなに多くの家族に祝福されて私は生まれたんだと、自分がいかに恵まれているのかを気づかされました……

だから、どれほどの窮地に陥ったとしても、私は決して諦めないと決めたんです――そのことが、最後まで戦うと決めた私を今も支えてくれています

ルシアは拳を握りしめ、頷いた

今の私を支えてくれているのは過去の思い出だけじゃなく、皆も……指揮官も、私の大切な「家族」ですから

ルシアが言うように、無数の困難に遭遇したが、グレイレイヴンの指揮官、空中庭園の指揮官であること、そして皆と「家族」になったのを一瞬たりとも後悔したことがない

でも、ひとつ疑問が……

覚えている限り、誕生日の情報は誰にも話してないし、そのことを書類に書いた覚えもない――むしろ自分でもよく覚えてないくらいだ

ルシアとリーフは本当のことを言うか言うまいか迷っているようだ。やがてリーが口火を切った

実は、ヴィラのお陰で……

今日、指揮官が定例報告に向かったあと、僕たちはケルベロスが何らかの手段で「機密ファイル」を手に入れたことを知りました

ヴィラ……それは指揮官の個人情報です。正規のルートで入手したことを証明できなければ、返すべきです

グレイレイヴンの3人はヴィラを引き留めた。ケルベロスも同様に3人が揃っていた。するとヴィラは笑いながらルシアに答えた

冗談を言わないで頂戴。あの指揮官の機密ファイルですって?どこにそんなものがあるって言うのかしら?ねえ、ふたりとも、知ってる?

21号、見てない

へぇ、自分たちがちゃんと守れなかったクセに、こっちにちょっかい出すってのか?

ルシア、話しても無駄です。普通に交渉できる相手じゃありません

リーは懐に手を入れた。銃を取り出す仕草を見て、ノクティスと21号がすぐさま応戦する態勢になった

はーあ?喧嘩売ってんのか!いつでも買ってやるぜ!

「ぶっとばす!」

しかし、リーが取り出したのは銃ではなく、通信端末だった

こんなことで連絡したくないですが、マーレイは……あなたたちの指揮官ですね?

彼のことならよくわかっています。面倒事に巻き込まれたくないから、違法な手段で手に入れた資料ならばさっさと返すようにと言うでしょう

ヴィラは目を見開いて少しびっくりしたようだった。しかしすぐに彼女は笑い始めた

アハ、いいことじゃない。まさかこんなに丸くなったとはね……でも、最も大笑いなのが、これをどこから手に入れたのかを知らないことだわ

ヴィラは笑うのをやめて、何かを考え始めた

まあ確かにね。私には役に立つものじゃないし……

それなら、返してください……

このままファイルを渡してくれたら、どこで手に入れたのかについては追求しません

ヴィラは何か面白いアイデアでも思いついたかのように、ニヤリと笑ってみせた

これはね、正規ルートで取引して手に入れた資料なの。かなり骨が折れたわ……タダって訳にはいかないわね

無駄口は結構ですよ、条件を言ってください

ひとつだけ、大したことじゃないわ。ちょっと手伝ってくれたらいいだけ

そう言うとヴィラは持っていたファイルの袋をリーに投げた。袋は明らかに一度開封されていた

中を見たんですか……

当たり前じゃない。「あいつ」は価値のある機密情報だって言ったけど、私にとっては何の意味もないものだったわ

リーはヴィラが小細工していないか確認するように合図をして手渡した

この……日にちは?

これは[player name]の誕生日……指揮官の誕生日の日にちです!しかも、これは、今日です!!

ヴィラは自分の話がまだ終わっていないことをグレイレイヴンの3人に誇示するように、指を2回鳴らした

手伝ってほしいことっていうのは、あの指揮官と親しい構造体たちを集めて、誕生日パーティーを開いてほしいの。人数は多ければ多いほどいいわね

ヴィラの話をよく理解できず、リーは不思議な顔で彼女を見ていた

それだけ、ですか……?

そうだけど。何だと思ったのかしら……誰かを暗殺して、とか?ご心配なく、そんなことなら自分で足りているわ

ヴィラは怒りを隠す風でもなく、鼻で笑った

「あいつ」、騙したわね……バカにされたままじゃ気が済まないわ

だから、この情報を構造体たちにばら撒いてやるの。そうなったら「機密情報」の価値はなくなる。あいつも自分の愚かさに気付くでしょうね

しかし、リーはまだ疑いの目で見ていた。ヴィラはそう簡単に手に入れたものを他人に渡すタイプではない

一体、目的は何ですか。誕生日を祝うなんて些細なことじゃないはず……

誕生日は些細なことじゃない!

まさか隣でずっと黙っていた21号が人の話を遮ってくるとは……リーは思いもよらない事態に驚愕した。彼女の目には怒りが溢れている

誕生日、人がこの世界に生まれた日……その日を祝うことは、人類にとって特別な意味がある

21号は何かを考えているのか、それとも耐えているのか、葛藤する表情を見せた

これは指揮官が21号に教えてくれたこと。だから指揮官もきっと誕生日が……好き

ヴィラは21号の頭をなでながら、興味深そうに笑った

やるじゃない、あの口八丁のリーを黙らせるなんて

……

21号、口達者。ノクティスより10倍賢い

バカ言え!喧嘩で解決できることを話す必要がないんだよ!時間の無駄だ

ヴィラはグレイレイヴンに視線を戻し、ため息を漏らして、早く行けと言わんばかりに手を振った

突っ立ってる場合じゃないでしょ?もう時間がないわよ……

まさかこの誕生日パーティーにそんな紆余曲折があったとは……ケルベロスと喧嘩にならなかったことが幸いだ

指揮官、ご自分のプライバシーはちゃんと守らないと……

だが、そのお陰で、残酷な戦闘と終わらない仕事から一時解放されて、皆で一緒にすごせるのだ……そう悪くはないのかも?

キーッと甲高いブレーキ音を響かせ、人影――正確にはふたりの人影――が、凄まじい速度で休憩室の扉に迫ってきた

どうも!!!!ナナミ宅配便です!

急ブレーキで、ナナミの背にいたセリカが放物線を描きながら宙を舞った。幸いにも「飛行」中にアイラとぶつかり、巨大な「緩衝材」のお陰で怪我はなかったようだ

セリカさん……大丈夫ですか?

うわぁ、ふわふわ……じゃなくて!ナナミ!!!死ぬところでしたよ!!

ナナミの後ろから、スラスターを収納し着地しているロゼッタが現れた。彼女は少し落ち込んでいるようだ

ごめんなさい……指揮官、ナナミたちを引き留められなかった

でもさぁ、ロゼッタンのスラスターって超かっこいいねー。直線での加速時は、このスピードスターのナナミ様でも追いつけなかったよ~!

ロゼッタはナナミが差し出した手を掴み、照れ臭そうに笑った

私もナナミのローラーの複雑な地形での機動性には驚かされた。まさか構造体にもあんな機動力があるとは

空中庭園で白熱のレースを終えたふたりの間には、謎の友情が生まれているようだ

いけない、忘れるところでした……そこの指揮官!もう……どうして私から逃げるんですか!お渡しするものがあるんです

やっぱり逃げられないか……だが、心の準備はできている。ルシアたちの準備が無駄になってしまったけれど

指揮官……

何を言っているんですか……?今日は休みでしょう?仕事なんてありませんけど

このファイルのことですか?なるほど、だから……逃げてたんですね!

セリカはやっと気付き、持っているファイルの袋をテーブルに載せ、それを開けてみせた。すると、中からは写真や祝福の言葉が書かれた大量のカードが現れた

リーフはそのカードを手に取って、じっくりと読んだ

指揮官、これは誕生日のカードです!見てください、ハセン議長とニコラ司令からのもあります

指揮官の誕生日の情報が議会と司令部にも漏れましたので、指揮官にカードを準備するという提案が上がりました。これも文化をPRするイベントになるのではと……

ふふふ、それはアレン会長ね

こういうイベントに関して、アレン会長はいつも精力的だ……議長も司令も巻き込まれたのだろう

提案したのはアレン会長でしたが、皆も心から感謝したいと思っていたんです。指揮官はいつも不可能に近い任務を遂行し、空中庭園を守ってきてくれましたから

セリカは山積みになっているカードから、可愛い絵が描かれた1枚を取り出し、笑顔で渡してきた。そのカードには「セリカ」と書かれていた

お誕生日おめでとうございます、グレイレイヴン指揮官。私からのささやかな気持ちです

頷きながらその特別なカードを受け取った……どうやら、また明日から忙しくなりそうだ

すると、リーは何かを思い出したように、横にある任務用の端末を操作し始めた

セリカが持ってきてくれたカードで思い出しましたが、今日はオブリビオン基地とアディレ商業連盟からもメッセージが届いていました

もしかしたら、指揮官への祝福メッセージかと……

リーにメッセージの開封を指示した――誕生日の情報がどのようにして彼らに流れたかはわからないが

おい、ちゃんと撮れてるのか?

“ちまき”

もちろんです。俺はミスなんてしたことないんで

頭でも打ったのか――空中庭園の指揮官の誕生日だろう?正直、私たちまで祝う必要があるのか甚だ疑問だが

“ちまき”

よく言ってたじゃないですか!指揮官とは戦友で、オブリビオンは決して忘れないって。誕生日パーティーはなくても、せめてもの礼儀を果たすのが友人なのでは?

反論する言葉が見つからないワタナベは、仕方なくカメラの方を向いたようだ

わかったよ……ゴホン、オブリビオンを代表してまずは礼を言わせてくれ。この1年、あなたはオブリビオンを大いに助けてくれた。その努力でオブリビオンたちからの尊敬を得た

このメールが設定した時刻に空中庭園に届くのであれば、まだあなたの誕生日当日のはずだ……

誕生日……我々オブリビオンにとっても重要な日だ。この地で声も上げられず明日孤独に死ぬかもしれないからこそ私たちは死者を弔い、そして生まれてきた意味を決して忘れない

だから最後に、オブリビオンを代表して言わせてほしい。「誕生日おめでとう」と

“ちまき”

オーケーッ!ワタナベさん完璧です。カンペ読んでるようには全然見えないですよ

余計なことはいい、ビデオは完成したのか?

“ちまき”

ご安心を。このビデオは専用の暗号チャンネルでグレイレイヴンに送っておきますんで

ただ、ちょっと問題がありまして……

何だ?

“ちまき”

本番開始前の俺たちの雑談から収録されちゃったみたいで……って、ワタナベさん!?その危なっかしいナイフ、戻してくださいって!!!

オブリビオンは相変わらず賑やかだな……次はアディレからかな?

ハロー指揮官

ソフィア、もう始まってるじゃん!どうして起こしてくれなかったんだよ!!

遅刻は自分の怠け。同情をかける必要はない

ちょっと「タイミング」を逃しただけじゃん。「遅刻」とは全然違うだろ!

時は金なりよ。あなたたちには、喧嘩するより言わなきゃいけないことがあるんじゃなくて?

そうだった。今日は指揮官の誕生日だと聞いたので、おめでとう……

いいなぁ。指揮官の誕生日だったら、きっとみんな集まって遊んでるんだろうな……空中庭園に行けなくて残念だよ

指揮官も私たちも、仕事ばっかり

今度のあなたたちの誕生日はお休みにしてあげましょう。ついでに空中庭園からもおいでいただければ嬉しいわ

商品を売りつければ……大儲け

しまった……指揮官がカモにされちゃうな

どうやら、あの時のアディレの少女も、かなり成長したようですね……

まーったく!さっきだって――オレたちだけじゃねぇよ。皆揃ってるぜ

指揮官、さっきはどうも。って隊長、全然遅れてないじゃないっすか!

お前が道草を食わなければ……もっと早く着けるはずだったんだぞ……

バンジを探してたんだって。アイツ任務から戻ったのに、どっかに消えやがってさぁ……

その時、リーフが見事なケーキを持ちながら入ってきた。一同の注目が一気に集まる

ちょっと隊長ッ!ケーキっすよ!

うっせーな……おおっ、確かにいい匂いじゃねぇか。リーフの手作りなのか?

はい、今回は特に力作なんです……皆さん、ぜひ召し上がってください

はははっ、だからカムの野郎、ひと切れ残しといてくれって言ってたんだな。アイツ「グレイレイヴンの指揮官におめでとうと伝えておけ」って言い残して、任務に出たからさ

たくさん作ったので、ご心配なく。でも、これだけは特別で……

ケーキの上に「ハッピーバースデー」と書いてあり、作り手の愛情がひしひしと伝わる……食べるのがもったいないくらいだ

リーフがケーキをテーブルに置いたとたん、テーブルが少し動いた。いきなり、白衣を着た構造体の姿が下から現れた

バンジ……!?なんでここにいんの?

今朝、訓練任務があって、そのあと寝坊して指揮官の誕生日に間に合わなかったら嫌だから……ここで……ふわぁぁ……

バンジは大きくあくびをした。まだ全然目が覚めていないようだ

夢の中でいい匂いがして、懐かしい声も聞こえてきたから、起きてみたら……指揮官、まだ誕生日のおめでとうは間に合う?

では、皆が揃ったので、パーティー開始です

ぐるりと見渡すと、小さな休憩室には各小隊の構造体が集まっている。全員異なる性格を持ち、個性豊かな面々だが、顔に溢れ出ている笑顔だけは、同じように明るい

――できることなら、皆の笑顔が溢れているこの瞬間に時間が止まってくれたらいいのに

そうそう、指揮官。もうひとつプレゼントがあるの。きっと役に立つものよ

普通のビデオ録画機器とは違う、黄金時代のクラシックカメラだった。紹介された資料を読んだことがある。確か「インスタントカメラ」というものだ

見ることも触ることもできないデータより、思い出を写真という形にして触れるカメラの方が有意義かなと思って。特に記念すべき日には、ね

ゆっくりとカメラを構え、休憩室に集まる全員を画角に納めた。この瞬間がいつまでも続きますようにと願いながら、シャッターを指で押す……

指揮官、お誕生日おめでとうございます!

指揮官、お誕生日おめでとうございます!