Story Reader / Affection / セレーナ·希声·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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セレーナ·希声·その6

セレーナ

それでは、コンダクター……また会う日まで

時間はもう、別れの時を迎える深夜に差しかかっている

夕風が暗く灯った街の間に吹き抜け、それにつれて木々の影がざわめく

天幕の下で、セレーナのスカートの裾が静かに舞い上がり、優雅な弧を描いた。まるで咲き始めた花の蕾のように、岸辺に上がる波しぶきのように

この幽玄な朧月夜に、この時間がただ流れ去ることがもったいないような気がしてならない

しかし……彼女が幼い頃に読んでいた演劇にはこう書かれていたらしい

どれだけジュリエットがロミオを愛していても、彼女は淑女としての誇りを忘れず、別れの時には優雅に背を向け、静かに朝日を待ったのだと

しかし、もしその時――彼女が心のままに行動したいと思ったとしたら?

セレーナは自分の考えに驚いた。同時に心拍数も速くなった

恥ずかしさを隠すために、彼女は顔を赤らめながら頭を下げ、髪で顔を覆い隠し、振り返って口を開いた

セレーナ

待ってください――

そう言って顔を上げたセレーナは唖然とした

そこには、先ほどと変わらず立ったままの姿があった

別れたあと、彼女の想い人が家の前でじっと待ち続け、ずっと自分の背中を見つめている。その事実に、セレーナの頭の中は一瞬にして真っ白になった

セレーナ

もう一度言わせてください。私の声をたどってくれたことに、本当に感謝しています……

彼女は湧き上がる感情を必死に抑えようとしたが、口から出るのは空回りした言葉だった

セレーナ

あなたがいなかったら、私は記憶を失ったまま、誰にも知られずに……

そうじゃない――彼女が言いたいのは、こんな薄っぺらな言葉じゃない。目の前の相手は、すでに自分のこの想いをわかっているはず

セレーナ

……コンダクター、もう少しここにいてくれませんか?

理性が追いつく前に躍動する心が一歩踏み出し、彼女の代わりに行動した

セレーナは静かに前にいる人の袖を引き寄せ、ほんの少し前まで彼女を縛っていたものを思い切って捨て去った

セレーナ

さっき、あなたが私に近付いたように、私も……もっとあなたに近付きたい……

約束していただけませんか?明日も、明後日も……遠い未来も、今日のように私の傍にいてくれると

私たちはあまりにも多くの時間を失ってしまいました。この先の1分1秒を……私は全てをしっかりと感じたいのです

セレーナ

……はい

セレーナは安心して、落ち着きを取り戻した

彼女は髪に触れ、ずっと付けていたアヤメの花をそっと取り外した

セレーナ

このアヤメを……受け取ってください

街灯の光の下で、アヤメの花びらに星のような光の粒が煌めいていた

セレーナ

お返しというほどではありませんが、でも……あなたに受け取ってほしい

こんな風に……ずっとあなたの傍にいたい

セレーナ

……!

肌が触れ合った瞬間――彼女は少し驚いたが、すぐにその感触を受け入れた

人間の手が彼女の細い髪をすり抜け、セレーナの頬に体温が伝わった

セレーナ

……あなたを信じています

彼女はその温もりをそっと握り、その中に頬を埋めようとした

セレーナ

たとえどれほど遠く離れても、その言葉を心の奥に刻みます

あなたの約束の言葉がある限り、私はもうあなたのいない無限の闇に堕ちることはないのですから

何回かのテストを経て、機体の安全性とセレーナの意識海の安定度が確認されたあと、彼女は執行部隊に協力する形で簡単な地上任務を担当することが許可された

再び大地を踏みしめたセレーナは、静かに息を吐いた

再びこの青い惑星に足を踏み入れるなんて、彼女は想像だにしていなかった

地上 とある廃墟

11:22 PM

地上 とある廃墟 11:22 PM

荒れ果てた蔦が赤潮に染まった廃墟の壁を這い上がっている。ここはすでに長い間放棄されており、鳥でさえもこの地に降り立つことはなかった

カサッ――

重い金属製の靴が枯れた野草を踏みつけた。靴の持ち主はしばらく立ち止まり、この長い間に荒れ果てた劇場に佇んでいた

ここから始まったのね

赤い髪の女性はまるで何かを感じ取るかのように、手を伸ばして目の前の風に触れようとした

じゃあ……

ここで終わらせましょうか

彼女はタクトを振りながら、風の流れを紡ぎ、時間の旋律を奏で始めた

地上 保全エリア

11:30 PM

地上 保全エリア 11:30 PM

1日の仕事が終わり、セレーナは保全エリアのテントの中に静かに座っていた

ペン先にロイヤルブルーのインクをつけ、少し逡巡したあと、手紙の1行目を書き出した

「親愛なる[player name]……」

ふと銀色のペンの動きが止まった。風向きが変わったのを鋭く感じ取ったセレーナは眉をひそめた

時間が……

彼女は「時間」と「情報」が混じり合う音を聞き、不協和音が次々と奏でられていくのを感じた

空中庭園 グレイレイヴン休憩室

3:00 PM

空中庭園 グレイレイヴン休憩室 3:00 PM

最後の仕事を終えて、グレイレイヴン指揮官は深い眠りに落ちた

誰にも気付かれずに、テーブルの片隅に置かれたアヤメの花が瞬く間に透明になり、細かな光の点に変わると、やがて静かに消えていった

そして世界そのものが、この闇の中で新たに息を吹き返し、再生を迎える

8:30 PM スペクトル線の幅:0 『新地球議定書』の締結より、▁▅▃▃▅日経過

8:30 PM スペクトル線の幅:1 『新地球議定書』の締結より、▁▅▃▃▅日経過