まるで夢のような時間だった
少女のドレスの裾はくるくる回る度にこちらの衣裳をかすめ、彼女の瞳の光は天井のライトよりもまぶしかった
最後の音が静かに消えた。彼女は軽く後ろへ下がり、膝を軽く曲げてお辞儀をした
一曲のダンスがこんなに短いことに初めて気づいた
舞台にいる奏者たちが立ち上がって一礼した。指揮者は拍手をしている客たちに微笑むと、再びタクトを振り上げた
タクトが銀色の弧を描くと、今度は軽やかなバイオリンソナタの演奏が始まった
言葉を交わしながらダンスフロアを降りてご馳走が並ぶテーブルへと向かう人もいれば、目を見交わし微笑みながら次のダンスを始める人もいる
一緒に他の場所に行きませんか?
少女と一緒に静かな場所に来た。窓からエデンの外を眺めたが、地球は見えず、ただ真っ黒なカーテンと星の道のみがはるか彼方まで伸びている
自分の隣を歩く少女は目を閉じたまま首をかしげ、遠くから響いてくる音楽を聞いている。バイオリンソナタの軽快な音符はまるで枝を飛び移る鳥のようだ
「Gavotte en Rondeaux」
[player name]はこのパルティータを聞いたことが?
作品番号BMV1006、黄金時代の偉大なる作曲家が書いた組曲なの。黄金時代のバイオリン組曲の頂点と呼ばれています
アイリスの目が輝き、口調は更に軽快になった
その通りよ
そう、あなたの想像通り
アイリスの顔に恥じらうような表情が浮かんだ。考古小隊の一員として実績を語ることにはまだ慣れていないようだ
これは私……考古小隊が前回の任務で回収した資料で、復元した完全版の楽譜。今回の舞踏会で初めて空中庭園で演奏されたの
それだけじゃなくて
この曲は特別なレコード盤に収録されていたから、とても気になって
黄金時代の人々は音楽をレコードに吹き込んで再生していた。今ではとっくに実用性もなくなって、壁画や彫像と同じ、華やかな歳月への追憶と幻想になっている
そのレコードのタイトルは――「地球のつぶやき」
アイリスは窓から見える星々を見つめながら、彼女が話したかった物語を語り始めた
人間が星々に向かって初めて旅立った時、彼らは地球の音を金メッキされたレコードに収録した。広い宇宙への敬意として、それを載せた探査機と一緒に銀河へと向かった
何十種類もの言語でのあいさつ、地球を代表する風景の資料、巨大な地球の自然を描いた詩篇
火山の轟き、大地の震え、風の叫び、雨の協奏、雷の雷鳴
夏の虫の声、鳥の鳴き声、ジャッカルの遠吠え
人間の足音や、機械の轟音、無線電波が語る人類文明のクロニクル
――そして、異なる文化から生まれた不朽の楽章。それらの楽譜がこの故郷奪還の起点となった空中庭園で再び奏でられた
今の人々からすれば、これはとても無意味なことかもしれない
探査機は旅立って4万年後にようやく初めてどこかの恒星に近づき、そこに存在するかもしれない文明に発見されるのを待つの
探査機も私たちも、広大な宇宙と無限の時間の前では……ちっぽけな存在です
でもその存在は私に大きな影響を与えてくれた
「この広大な宇宙に小さな漂流ポッドを送ることができたのは、この惑星で暮らす生きとし生ける者が皆、希望にあふれているからです」
あの時の私が思ったのは、こんな方法をとるのは本当に――とてもロマンチックだなって
彼女はそう言ってため息をついた
構造体になってからは、今まで知らなかった別の世界が見えた
いつも思うの……この世の全てを経験したら、私の両手は本当の世界を描けるようになるのかな?って
少女は振り返ってこちらを見た。柔らかそうな長い髪が肩からさらさらと滑り落ちた
だって……あんなに美しい芸術と文化を持っているのに、歴史の埃をかぶったままなんて悔しいでしょう?
私たちが4万年先の星々に向かって伸ばした手は、かなり遠くまで届いたけれど、残念なことに災厄のせいで止まらざるを得なかった
だけど……
思わずに口に出してしまった
そう。あの今も宇宙を航行している小さな漂流ポッドのように、人類だって必ず希望に満ち溢れた道をずっと歩いているはず
少女の話に、脳裏にある光景が浮かんだ。宇宙探査機は巨大な惑星に比べれば見えない塵に等しい。だが希望を積み込み、一度も止まらずに星と星の間を独りで進んでいる
とっくに地球との連絡を失ったその孤独な旅人は、今どこにいるのだろう?
今どこにいるのだろう?
少女のつぶやきと自分の思いが意外にも重なった
別の文明が見つけてくれるかしら?
搭載された芸術は、種となり、新しい土地で花開くかしら?
少女の疑問に、上手く答えられなかった
この質問は、今の自分が直面しているどんな問題よりも遠いものだ
これは……とても甘い考えかもしれないけど、必ずその日が来ると信じているの
探査機は新しい場所に到着し、私たちも再び故郷に帰る。仲間と再会し、一緒に新楽章を演奏し、新しい歌を歌う日を
少女は身を翻し、こちらの目を見つめた。アヤメ色の紫色の瞳はいつも以上に真剣な光に満ちていた
[player name]、もしいつか私が地球で歌ったら、誰かに歌声が届くかしら?
――歌声をたどって私を見つけてくれる人は、いるのかしら?