Story Reader / Affection / 曲·啓明·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

曲·啓明·その6

怪我をしていることに気付いていないのですか?

そう言われて、ゆっくりと防護服を脱いだ

あのトラブルで副腎皮質ホルモンが大量に分泌され、痛覚が鈍くなっているのでしょう。道理で痛みに気付かない訳です

肘のかすり傷……たいした傷ではありませんが

曲に言われてすぐに右腕を上げて見てみると、インナーの肘の部分が赤く染まっていた

そこだけ見ると深い傷のようだが、実際は小さなかすり傷だった。子供の頃、転んで傷つくのとほぼ同じだ

適当に袖をまくり上げ、装備箱の整理を続けた

お待ちなさい

私の心配りをぞんざいに扱うつもりですか?

曲はそう言ってぎゅっとこちらの腕を掴んだ

小さな傷だからと無視はいけません。傷から細菌が入ると発熱することもあり、他にも潜在的なリスクがあります

数多の戦場を経験した歴戦の兵でありながら、こんな初歩的なこともわからないのですか?ましてやあなたはここの首席でしょう

あなたの負傷は私の責任でもあります。傷口を

曲は医療キットを取り出し、中から半分使われたヨードチンキ、綿棒、そして清潔な絆創膏を取り出した

彼女は綿棒を茶色のヨードチンキに浸してしばらく待ったあと、こちらの傷口に軽く押し当てながら、傷の上を滑らせていった

傷口を応急処置しながら、曲は考えているようだった

血と肉でできた体、肉体の苦痛……負傷、意識不明……そして死

こういった光景を何度も見てきました。ともに戦う仲間が次々と命を落とすのを目の当たりにしながら、私には何もできなかった

人の肉体には限界があります。ある程度までダメージを受けると、単純な縫合だけでは命の維持すらままならない

今のあなたを見ていると、かつての戦友を思い出しました。もちろん、あなたは彼らとは違う存在ですが……

穏やかな日常の中で出会えたことは、本当に幸運でした

かつて衡杼先生が私に伴侶を見つけるように仰ったのは、辛い時に誰かに側で支えてもらう心強さ、それを知ってほしかったのかもしれませんね

支え合えれば、傷ついても倒れても、お互いの思いやりの中で新たな希望を見出すことができます

恐らく、私たちはそのような関係……

処置してもらっている間ずっと曲の髪が自分の顔をかすめ、こそばゆくてたまらなかった。思わず、頭の位置をずらしてみる

その動きが曲の注意を引いた。彼女はちょっと不思議そうにこちらを見つめている……

どうしました?気分が悪いのですか?

よかった。力加減を適切にコントロールできるか、危ぶんでいたのです

少しの間ですから我慢なさい。我慢できないほどではないでしょう

そう言って曲は絆創膏をしっかり貼りつけてから確認し、その後に自分の肩をポンと叩いてきた

曲(キョク)

終わりです。もう問題ありません。ともにホログラフィックの星図を見に参りましょう

ホログラフィックの前まで行くと、コントロールパネルの上に1枚のメモが置いてあった

曲はメモを手に取り、注意深く読み始めた

キキが書いた取扱い説明書のようですね。これに従って操作すれば、ホログラフィックプロジェクターを起動できます

操作はわりと簡単なようです。適切な座標を入力して、範囲を調整するだけ

曲は全域をカバーするホログラフィックを起動し、なぜか遠い星々をスクリーンに投影した

部屋の明かりがひとつひとつ消えていく。暗闇の中を、数本の淡い緑色の光線が交差しながら通過する……

そしてひとつの星が光り、それに続いて、次々に多くの星が花のように咲き乱れていった

銀河が空に出現した。星々は集まったり、孤独だったり、遠く離れたり、緊密に結びついたりしている……

異なる形の星体が黒い背景の中で煌めき、飛び跳ね、美しく輝かしい宇宙の絵巻物を作り上げている

星々は静止しているのではない。非常にゆっくりながら移動している。星空を見上げると、その位置の微妙な変化が手に取るように感じられ、不思議な感覚が芽生えた

曲(キョク)

これらの星の輝きは、人間の文明のように華やかです

個々の存在は小さく儚いものでも、それぞれに輝きを放ち、周囲を照らしています

散在する星の光が網を編み、眩しく美しい星系を形成する

九龍も空中庭園も、人類文明のやまない火種を象徴している……そう思いませんか?

いつか私たちは地上の全ての人々をひとつの場所、ひとつの文明に集結させることができるかもしれません……

燃え盛る希望の火元に集結すれば、人類が星空に投じる道標となることでしょう

星空を見上げ、曲が述べた深遠で壮大な宇宙に思いを馳せる

曲(キョク)

ここは天文台と呼べるほどの規模ではありませんが、より星空に近い場所ですね

空中庭園には、目を見張るような斬新なものがある……

もっと時間に余裕があれば、ここでもっと多くの体験をしたかったところですが

私は九龍の主。雑事も多く忙しい身ですから、今回は仕方がありません

そんな中で、今日あなたに話したいことが……

曲(キョク)

衡杼先生が私を助けてくれたように、九龍の統治は私ひとりの功績ではありません

先人の努力も民の犠牲もあり、無数の志士が九龍に血と汗を捧げました

それゆえに、信頼でき知見のある誰かを身近に置いて、助言を請いたいと思うことがあります。最近、これが悩みの種なのです

多くの候補者がいますが、私は……あなたが一番の適任者だと考えました

そう、私にとって、あなたは唯一無二の存在なのです

私の右腕というだけでなく、伴侶としても……

あなたが私と生活をともにし、手を取り合って人類の希望を見出してくれればと望みます

この提案について、どう思いますか?忌憚なき意見を

ホログラフィックの投影が終了し、周囲の照明が次第に明るくなっていった

先ほどまで眼前に広がっていた星空が消え、代わりに現れたのは曲の美しい姿だった

室内が暑すぎたせいか、彼女の頬が少し赤くなっている。表情は少し強張っているようだ

返事がないのであれば、私の提案を黙認したと理解します

曲はこちらの手を取って、そっと握ってきた

お互い静かに見つめ合いながら、彼女に何と答えるべきかわからなかった

沈黙したふたりの間に、気まずい空気が流れている

その時、背後からキャタピラが回るような奇妙な音が聞こえた

振り返ると、ロボットAがこちらに向かってきていた

オ客様、天文観測所ヘヨウコソ

今カラオフタリニ「中性子星の恋」トイウ曲ヲオ届ケシマス

君ヘノ愛ハ、マルデ潮汐~

タエマナク心ニ響ク~

ア――

……

誰かこの道化を止めなさい

このロボットに搭載された機能は、論理の欠片もありませんね

理由もなく突然歌い始め、止めることもできず、機能停止もできない。まるで怒ったプログラマーの仕業です

君ヘノ愛ハ、ブラックホールヨリモ強ク~

ロボットAに鉄拳をくらわすと、その動きがピタッと止まった

ウ……

ようやくおとなしくなりましたね

最後は力ずくで問題を解決、ですか?さすが、私が選んだ伴侶です

今、私に約束したことを覚えていますか?

よろしい

私の右腕兼、伴侶になってもらいます

あなたに許可しましょう。しばらくの間、私の傍らに侍ることを

仕事や生活、そして私について……誰よりも多く知ることを