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ヴェロニカ·竜骨·その3

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ここは人が訪れないからだろう、群れのライオンたちは人間に対する警戒心があまりなかった。乳母ライオンが許可したのか、ふたりと1頭は群れと一緒に過ごすことができた

草原で最も元気な存在は、やはり子供たちだ。ヴェロニカのマンツーマンの特訓が、いつの間にか仔ライオンたちの幼稚園になっていった

小さな覇者たちは戦術の名の下に背後から襲いかかり、前脚を振り回し、幸運な子が総攻撃を仕掛ける一方、我が家のひ弱ちゃんは鳴きながらこちらの胸に逃げ帰ってきた

残念ながらうちの子は不器用なタイプみたいだ

お前、どこかに失せろ

お前がここにいると、この子はいつまでたっても真剣に学ばない

群れから離れて育てたら、野生で生きられなくなるって言ったのは誰だ?

それなのに、お前は何をしている?この子の成長を妨げて、戦い方も狩りの仕方も勉強させない。このままで、どうやって群れに受け入れてもらうつもりだ?

どこか後ろめたさを感じて、思わず鼻をかいてごまかし、ヴェロニカの冷たい視線に追われるように数歩後ずさった

移動し始めたこちらを見て、仔ライオンたちはすぐに新たな獲物とみなし、わっと群がってきた。押し合いへし合いしながら足下に全員集合してくる

ヴェロニカは眉を寄せ、遊び始めた仔ライオンたちをしつけようと前に出た

一方、自分は仔ライオンたちの無鉄砲な突進を避けようと動き回るが、仔ライオンに足を取られて上手く動けず、何度も足がもつれて体勢を崩しかけた

そのまま、ふたりの距離はどんどん近付き……

ドォンッ!

肉体が鋼鉄の装甲にぶつかった瞬間、予想以上の痛みより「またヴェロニカに触れてしまった」という事実が、ずっと恐ろしく感じられた

以前、ヴェロニカが人間との接触に激しい嫌悪を見せたことを思い出し、痛む肩をさすりながら彼女の反応を窺った

いつものように顎を傲慢に持ち上げたまま、冷たく鋭い視線がこちらを射抜いていた。今にも怒鳴り出しそうな雰囲気だ

チッ……脆弱な炭素生物が

予想していたような激怒ではなく、ヴェロニカはただ不機嫌そうな視線をこちらに投げてきただけだった

気を抜くな!こっちに来い!

全員、こちらだ。訓練を続ける。サボりは許さない

仔ライオンたちを厳しくしかりつけたあと、ヴェロニカは背を向けてその場を離れた。意外にも、騒ぎもなく事態は静かに収束した

木陰にのんびりと寝転がると、遠くからヴェロニカの厳しい指導の声が聞こえる。風に乗って届くその響きは、もはや心地よいノイズのようでもある

うぅ……

ふと気付くと、我が子がまたサボって帰ってきていた。丸い頭で手に頭突きを繰り返し、構ってアピール全開だ

そっとヴェロニカの方を見ると、遠くからでもわかるほど怜悧な目線が飛んできて、「早く連れ戻せ」と無言の圧をかけてきていた

ふわふわの我が子を持ち上げて、ヴェロニカの方へひょいと振ってみせた。そしてそのまま抱きかかえ、もふもふのお腹の毛をなでまくった

……

ガオガオ、アオオーン

気付くとサボりの仔ライオンが1頭ずつ増えて、周りにはいつの間にかふわふわの毛玉が集まっていた。どうやらこの子たちは皆、自分のなでなでの虜になっているらしい

日ごとに子供たちの重みが少しずつ増していく。このバカンスのような穏やかな時間はもう数日が経過しており、何回かの大雨をやりすごしていた

穏やかな昼下がり、自分の周りで仔ライオンたちはいつものように、まるでキャットタワーのように登ったり降りたり。暴れん坊の我が子は、頭上という展望台を陣取っていた

授業を終えたヴェロニカは、唯一真面目に勉強した小さな雌ライオンを連れて群れへ戻った。その子は今年、この群れの女王ライオンが生んだ子の中で、唯一生き残った娘だった

自分たちが保護したチビちゃんとは違って、小さな雌ライオンは健康で逞しく、幼いながらも母親譲りの冷静さと聡明さを備えていた

その早熟な雌ライオンに手を伸ばすと、彼女は大きく鼻を鳴らし、毛を逆立ててサッと逃げてしまった

この年頃の幼獣たちは、まるで小さな暴君だ。底なしの体力を持っているので、士官学校時代の特訓モードで挑んでも、正直きつい

……私の担当は、特訓だ。遊び相手の担当は、お前だ

そう言ってヴェロニカは更に距離を取り、尻尾も草の中へ避けるように隠しながら、退屈そうに地面を軽く叩いた

小さな我が子のお尻をぐいと軽く押して、ヴェロニカの尾の方へと追いやった。そのしなやかな動きが幼獣の興味を惹き、小さな前脚で勢いよく飛びかかり始めた

ヴェロニカの鋭い視線が突き刺さる。どうやら彼女は犯人を特定したようだ

うっ……

ヴェロニカが尾を揺らす動きはまるで魅惑の釣り糸だった。幼獣たちは尾に夢中になり、ヴェロニカは目を閉じたまま、静かにその場で仔ライオンたちを走り回らせた

そして彼女はここにいたのかという素振りで手を伸ばすと、自分になでられるのを嫌がった小さな雌ライオンをひょいと抱き上げた。そしてそのまま、頭から尻尾までをなでまくる

雨上がり、アカシアの木が柔らかな若葉を茂らせる頃。その枝を数本折り、緑の「冠」を編んだ。仔ライオンたちは訓練の合間に、例の栄養液を夢中で飲んでいた

あのナルシストな雄ライオンが、跳ねるようにして近付いてきた。甘いミルク目当てにすっかりこちらの手下と化した彼は、媚びる術まで身に着けていた

ヴェロニカの訝し気な視線を受けながら、編んだ「冠」を彼女に差し出す

冠は勝者のものだ。ならば、当然勝者に渡すべき

さぁ皆立て、試合の時間だ!

ヴェロニカの監督の下、互いに認め合うようになった仔ライオンたちは、名残惜しそうに栄養液の食事をやめて全力で「仔ライオン格闘大会」に取り組んだ

ヴェロニカは「仔ライオン格闘大会」の優勝者に、自分が編んだ勝利の冠を丁寧に被せた。残念ながら我が子はまたも最下位で、勝者となったのは女王ライオンの娘だ

仔ライオンたち

ガオオ――アウアウアウゥ――

もう彼らの間に敵意は存在しない。喧嘩を通じて絆が生まれ、小さな我が子が授乳に近付いても、誰も追い払おうとはしなかった

ナルシストな雄ライオンがのそのそと歩いてきて、小さな雌ライオンの頭にある「冠」を興味深そうにしばらく見つめたあと、期待に満ちた瞳でヴェロニカを見上げた

……

機械生命は冷たい目で彼を拒絶した。落胆した雄ライオンはうなだれて自分の側に伏せ、チビちゃんのために用意した、細かく刻まれた柔らかな生肉を食べ始めた

そのたてがみをなで、軽く三つ編みにしてやった。すると雄ライオンは嬉しそうに頭を振り、小さなお下げが風になびいた

ガァアァ!

機嫌をよくした雄ライオンはいつもの水場へ向かい、「俺カッケー」タイムに入った。水辺の女王ライオンは優雅にヴェロニカの傍らで、雄ライオンに白い眼を向けている

ヴェロニカはその目に疑問を抱いたのか、手を伸ばして雌ライオンの目を確認したが、機能的には特に問題はないようだった

心配なんてしてないぞ

ヴェロニカは苛立ったようにこちらを睨みつけたが、以前のような殺気はなく、今は少しイライラしている程度だった

ヴェロニカは答えず、仔ライオンたちを見つめた。ふたりはライオンの群れに溶け込んでいる。この群れは、1頭とその奇妙な保護者ふたりを完全に受け入れているようだ

バンッ――バンバンッ――

数発の銃声が草原の静寂を破った

安穏な日々でも警戒心は失っていなかった。銃声が響いた瞬間、即座に岩陰に身を潜めて武器に手をかけた

ヴェロニカは上空から急降下し、アカシアの木の上に止まると、銃声のした方角を見据えた

人間だ。人間どもの銃声だ

チビちゃんを拾ったあの日の、皮を剥がれた母ライオンの死体のことが、ヴェロニカの記憶に蘇った

ちょうど今はライオンの狩りの時間だ。仔ライオンたちも見学でついていっていた。幸い距離は遠くない。ふたりは視線を交わすと、すぐに銃声がした方向へと駆けつけた

オゥ――アウアウゥ――

道中、チビちゃんと仔ライオンが悲鳴をあげながら駆けてきた。しゃがみ込んで仔ライオンをしっかりと受け止める。怯えたチビちゃんは毛を逆立て、こちらの庇護を求めてきた

ヴェロニカは険しい顔で、全速力でライオンたちの狩場へと飛んでいった

そこには、中規模の流浪者たちの車列があった。ライオンたちに周囲を取り囲まれて咆哮と突撃を受ける中、流浪者たちはお互いに援護しながら銃を乱射していた

ふたりが到着すると女王ライオンが明らかに動揺し、銃撃の中で激しく吼えながら、自分たちを戦場から追い払おうとした

混乱の中で、1発の銃弾が自分の頬を掠めて飛んできた

ガウッ!――激怒した女王ライオンが咆哮を上げ、銃弾を放った車両に飛びかかり、流浪者たちの防御線に突破口を作った。たちまち、銃弾が女王ライオンに浴びせられる

おい、撃つな……誰か人がいるぞ

撃つな撃つな、誰かがいる!誤射してしまう!

彼らが銃撃を止めた隙に隊列を素早く観察した。意外にも、装備はそこまで強力ではなかった

よくある若者ばかりの即席武装集団ではなく、年配者や女性、子供、更には負傷者もいる。末世をともに生き抜いてきた、互いに助け合う小さな集団のようだった

申し訳ない、ケガはありませんか?

このチームのリーダーのサヴァナです。あなたはなぜここに?

彼女が一歩踏み出そうとした瞬間、風を裂いて飛来したランスが、サヴァナのつま先を掠めて地面に深く突き刺さった

死ぬ間際に、名前を知る必要はない

この変な人間としばらく一緒に過ごしたせいで、お前らがどれほど醜い存在か、忘れかけていた

何?待って、やめて!

ヴェロニカが飛び出し、ランスを地面から引き抜いたかと思うと、一瞬でサヴァナの首を掴んだ

機械生命は氷のような眼差しでこちらを射抜いた

どうした?やはりこいつらを庇うのか?

ライオンたちは低く唸り声を上げ、警戒する流浪者たちは緊張の面持ちで銃を構えた

人間はお前の同胞なのだろう?ライオンたちにどれほど優しく接していても、いざ人間がライオンたちと敵対すれば、お前は安易に人間側につく

呆れたようにため息をつくしかなかった

それだけか?お前は人間の命がライオンより貴重だと思い、人間を庇おうとしているのだろう?それとも、人間が動物を狩ることは正義だとでも言いたいのか?

力で押し潰すのがお前たちの正義じゃないのか?

ヴェロニカは更に手に力を込めた。サヴァナは必死にその冷たい指を引き剥がそうとしたが、呼吸はすでに苦しそうだ

ちょうどいい。暴力なら、私の最も得意な分野だ

指揮官の表情は氷のように冷たかった。厳しい視線を受けて、ヴェロニカは冷笑を浮かべながら、サヴァナを地面に叩きつけるように放り投げた

やはり人間の味方か。いいだろう、あの子たちは私が守る

ヴェロニカは鋭い視線のまま、冷たく鼻で笑った。手に持っているランスの穂先が僅かに震えている。それは、攻撃の前兆だった

あの時、私たちに選択の余地はなかった

ケホッケホッ……ちょっと待って、何か誤解してない?私たちがライオンの群れを襲ったんじゃないわよ!!!

確かに食料は必要だけど、それなら草食動物、例えばヌーやインパラを狙うわ。最悪でも単独行動のヒョウとかね。ライオンの群れをターゲットにしたりしないわよ!

誰が好き好んでライオンのプライドにケンカを売るのよ。命がいくつあっても足りないわ!

私たち、仕方なくライオンの縄張りを通るしかなかったの。多分、それが狩りの邪魔になって襲われたんだと思う……

自衛のためじゃなければ、絶対に銃なんて使わない。弾薬だって限りがあるもの。これから先、どんな危険が待っているかもわからないのに……

ふん……ライオンを攻撃しない、か。それだったら、お前のそのマントはどう説明する?

サヴァナの肩には、なめされたばかりの新しい皮製マントが掛かっていた

それはライオンの皮で作られたものだろうが

ヴェロニカの質問に対し、サヴァナは眉根を寄せた。苦しげな表情だが、慌てた様子はない

……その通りよ。でも――

ライオンを襲ったことはない?嘘だな

違うんだ!あの時、あの雌ライオンはもう助からない状態だったんだ!

ということは、お前たちの仕業ってことか

話を最後まで聞いてくれない?少し前に、ライオンとバッファローが争ってる場面に遭遇した。その時、1頭の雌ライオンが重傷を負って、群れからも見捨てられたの

腹が貫かれてて、もう生きられる状態じゃなかった。だからせめてこれ以上苦しまないように、楽にしてあげたのよ

どうせ死ぬなら、少しでも苦しまない方がいいんじゃない?

側にはハイエナの群れもいた。俺たちが手を下さなくても、もっと惨い死に方をしていたはずだ

だから?それから皮を剥ぎ、肉を切り取ったと?

ねえ、機械のお嬢さん。私たちは飢えてるし夜は寒い。車には小さな子供も病気の老人も乗ってる。皆生きるために必死なの。そこに物資があったの、目の前に

物資?命だ。誰がお前らにそんな資格を与えた?私欲のために奪っていい命なんて、どこにも存在しない

ヴェロニカが勢いよく振り返った。その眼差しには失望と怒りが静かに燃えていた

黙れ!

たかが数日の馴れ合いで、私の思考を左右できるとでも思ったのか?

だったら邪魔をするな

正義、公正、真理……それらは目に見えず、触れない。それをどう理解し、どう行動に移すか。それはいつだってヴェロニカにとって、直感に頼るしかない苦しい問いだった

ランスの冷たい切っ先が再び喉元に突きつけられた

黙れ!

仲間?

ヴェロニカは冷たく鼻を鳴らした。数日をともに過ごした者が敵に回ったその姿に、かつての悪夢が再び自分の前に立ちはだかったように感じていた

私は決して人間の仲間にはならない。人間が私に与えた痛みと罪は、絶対に許さない

目の前には、「団結」して警戒と嫌悪の眼差しを向ける人間たち。背後には、声なき不安を抱え、人のルールから外れた場所で生きるライオンたち。過去とまったく同じ構図だ

この世界は何も変わっていない。しかし、草原はどこまでも広く、ここが全てではない。孤独な竜騎士は翼を広げ、群れから離れて飛び去った

ヴェロニカの姿が空の彼方に消えていくのを見届けて、サヴァナは首をさすりながら歩み寄ってきた

あなた、肝が据わってる。あんなに狂暴な相手に、ひと突きで首を貫かれたらどうするつもり?

彼女のことを信じてるのね?

……あぁ強者ってわけね、失敬失敬

自分も苦笑いするしかなかった

空中庭園の人?道理で……

私たちの保全エリアはずっと前に崩壊したの。生き残った者で物資をかき集めて、あちこち放浪してる。他の保全エリアにも行ってみたけど……運が悪かったのかな……

新しい安住の地が次々と災厄に呑まれたの。所帯の人数もどんどん増えて、車も1台から3台に増えて、今では8台で動く大所帯、まさに流浪者一家って感じね

この草原に来たのは最近……そういえば、どうしてあなたはここに?もしかして空中庭園はここに保全エリアを作るの?ここを奪還するの?

そう……

端末に地図を呼び出し、サヴァナたちに一番近い保全エリアへの道を案内した

ありがとう……よかった、まだ行ける場所があるってだけでも救いよ……

サヴァナは息をつき、僅かに寂しげな笑みを浮かべた

ううん……ただちょっと寂しいだけ。ここは、私の祖父母が暮らしてた場所なの。自然保護区の研究員をしてた。私の名前も、祖父母の言語では草原っていう意味なのよ

小さい頃から、この草原の話を聞いて育ったの。動物や植物の話をたくさん聞いたわ。だからこそここに来れば、新しいチャンスを見つけられるかもしれないと思った……

ここは私が想像してたより、ずっと美しかった。ここにいると、まるで祖父母と両親と一緒にいるみたいな気がする

サヴァナは厳しい表情で首を横に振った

実は……ここの様子がおかしいの。動物たちの移動時期がどうも変よ。雨季もまだ終わってないのに、草原の動物がほとんど姿を消してる

例えばライオンの群れだ。若い雄ライオンが1頭しかいないし、リーダーは雌が担っている。若い雄ライオンが縄張りを奪ってもおかしくないのに、全然現れない

多分、群れの構成が崩れて慌てて移動し始めたのね。近くの狩場にいた群れも、皆逃げてるから今は安全に見えるだけ。本当は皆、逃げたのよ

あの雨の夜の雷鳴が、また耳元で鳴り響いたような気がした

何かおかしいとは思っていた。この短い範囲で、3、4つの群れから仔ライオンの新しい居場所を探せたこと。移動の季節だとしても、これは自然の摂理に反していた

とはいえ、パニシングによって荒廃しきったこの地球では、もはや生態系という概念自体が通用するのかさえ不明なのだ

あの雨の夜、死の淵から救い出した仔ライオンを見つめて、その子に位置特定装置を装着した

大自然の子供たちは、危険に対して誰よりも敏感よ。もしかすると、まもなくここの平和に終わりが訪れるのかもしれない

指揮官さんも、早くここを離れた方がいいかも

アカシアの木が風にそよぎ、寂しげな笛の音が道を切り開く。流浪者たち一行は、再び新たな旅へと踏み出した

ライオンたちは散り散りになり、再び狩りに戻っていった

女王ライオンに従っていつものヌーの狩場へと向かうと、穏やかな咆哮に導かれたその先で、鋭い視線を感じた

崖の上でヴェロニカがひとり佇み、この空間に踏み込んだこちらを静かに見つめていた

足音が近付いても、ヴェロニカは振り返らなかった

何についてだ?

ただ裁く理由が見つからなかっただけだ。今は無実でも、この先も無実かどうかはわからない。人間は信用できない、劣悪な存在だ

ヴェロニカの隣に立ち、彼女と一緒に野性と静けさが共存する草原を眺めた

崖の下ではライオンたちが狩りをしている。かつて一緒にアカシアの木の下で涼をとった母ライオンが、ヌーの首を嚙みちぎり、草を血で染めていた

……

人間は、底なしの沼みたいに欲望を貪る。生きるため以上のものを、無限に求め続ける。たとえあの流浪者たちが今は無実で、たとえお前が善良でも……

人間の本質は変わらない。お前たちは食物連鎖の頂点に立つことを当然とし、挑戦や反逆を決して許さない生き物だ

私は機械体を動物、人間もただの動物とみなす場所から逃げ出した。そこは、コロシアムと呼ばれていたが、ただの獣の檻だった。だから、私は動物の目に映る世界を知っている

仔ライオンにとって、人間は気まぐれな神のような存在。目の前の人間は、慈しむ神か、蹂躙する悪魔か?そんな時に頼れるのは運だけ。ただ祈るしかない

同じ世界に生きる動物も人間も、滅びの中でもがいている。だが未来を決めるのは、いつも人間の意志と価値観だ

自然界の狩りは生存競争だ。誰が死んでもそれは運命なのに、人間だけが、道徳の高みから物を言う。正義の名で他者を裁く

なぜ動物は、人間と同じ神の座に立つことが許されないのか?なぜ人間は、動物が定めた基準を尊重せず、認めようともしない?

私はただ皆と同じ高さに立ちたいだけだ。この世界のルールを作り、未来を決める側に。ある時は愛されるペットとして、ある時は非常時に殺される餌としてではなく

だが人間がそんな権力を機械生命に渡すだろうか?私だって、人間にそんな力を渡そうとは思わない。だから私たちは敵になるしかない

自分が知っている機械生命はヴェロニカだけではない。正直、彼女たちと敵対する状況をあまりリアルに想像できない

そうか?だが究極の選択を迫られたら、私は同胞を守るために迷わず人間を犠牲にする。違うな……より正確には、私は自らを含む全てを犠牲にできる

お前は?同じ状況なら、お前は何を犠牲にする?

全てを賭けて、か……少なくとも、信じられないような綺麗事を言わなかったのは、評価できる

だから、私はもう決めている。取り返しのつかない瞬間が来たら、私たちは敵対する

ヴェロニカの言葉は、まるで重い槌のように心を打った

ほう?努力するのはお前の自由だが……しかしこの世界とは、事実こういうものだ

彼女の声に、初めて出会った頃のような鋭さはなかった。けれどその静かな語気の中には、世界に対して何の希望も抱いていないという、冷たく確固たる諦めがあった