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世界の意味は、世界の外にあるに違いない
――ルートヴィヒ·ウィトゲンシュタイン
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お帰りなさい!今お届けしているのはスーパー地球で最も強烈·刺激的·オゲレツな番組――ミッドナイトシンドロームラジオ!
皆さんのイヤホンの旧友、そしてあなたの鼓動を独占する偉大なMC――memeちゃんでーす!
……無駄口が多いわね。どうも、無口さんよ
超ド級にクールでスリリング!そしてちょっぴりクレイジーなバンドの新アニメについて語り尽くしたところで、ちょっと現実に戻って、最新の世界のニュースについて話そっか!
リスナーの皆さん、
ああ、最近トレンド入りしてたやつね
これ、すっごい危険な病原体らしいの。罹患初期には眩暈、吐き気、意識の混濁、そして記憶の混乱が起こるんだって
時間が経つにつれて、罹患者は基本的な社会性を失っていき、仕事や競争に異常なまでの執着を見せるようになるとか
眠らずに会社、ジム、ゲームセンター……ありとあらゆる場所で活動し続けるの。それこそ倒れるまで、止まることなく
簡単にいうと――
……まるで古い映画に出てくるロボットみたいね
でね!もっと恐ろしいのは、この病気は罹患者の理性を壊すだけじゃなくて外見も変えちゃうんだって!
まず罹患者の体から色が抜けて……
最終的には理解不能な存在に変貌しちゃうんだって!
……どこからそんな気色悪い画像を拾ってきたの?やめてよ
もし皆の周りに異常なほど仕事に没頭してたり、記憶が混乱してたり……あと外見が変わっちゃってる人がいたらすぐに離れて、大統領府に報告して!
ホットラインは……なんだっけ?
それは――……あれ?思い出せない
どこまで話したっけ?ああ、そうそう――
リスナーの皆さん、
ねぇダーリン、
ぼんやりとした暗闇の中で、イタズラっぽい声が耳元で弾ける。それは深海の釣り針のように、夢の狭間に漂う意識を引き上げた
こんなにぐっすり眠っちゃって、赤ちゃんみたい
Vieちゃん特製·栄養満点の朝ご飯ができたよ。ほら、あーんして
ガラスの器が唇に触れ、甘く滑らかな液体がゆっくりと喉を滑り落ちていく
どう?目が覚めた?
明るく広々とした部屋の中、見慣れた少女が自分の上に跨っていた
彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべながら、手に持ったガラス瓶を軽く振った
起きて早々、別の子の名前を呼ぶなんていい度胸じゃない。お仕置きとして、Vieちゃんの愛情たっぷりの朝ご飯、全部飲み干してもらうからね?
ゴクゴクゴク――
ジェタヴィはガラス瓶を力強くこちらの唇に押しつけ、温かくて美味しい「朝ご飯」を無理やり口に流し込んだ
液体を飲み干すと、彼女は満足げな表情を浮かべて、指先で優しくこちらの口元を拭った
あれ、もうバッチリお目覚めなの?仕方ないなぁ、もう一度言ってあ·げ·る
彼女は左手で口元の笑みを隠しながら、右手のガラス瓶を揺らした。瓶の中で、深紅の液体が妖しく輝いている
はい、あーん。おとなしく全部飲み干したら、Vieちゃんがご褒美をあげるから
返事をする間もなく、彼女はガラス瓶をこちらの唇に押し当て、温かい液体を口いっぱいに流し込んできた
ゴクゴクゴク――
よくできました、いい子ね
彼女はそう言いながら、そっとこちらの耳元に口を寄せた
愛情たっぷりの朝ご飯のお味はどうだった?ダーリン?
少女は首を傾げ、ひと言ずつゆっくりと発音しながら、じっとこちらの反応を窺っている。その顔には小悪魔のような笑みが浮かんでいた
こちらの質問を聞いて、彼女は困惑した表情で腕を組んだ
ジェタヴィ?誰それ、私はVieちゃんよ。スーパー地球の美少女大統領――Vieちゃん!
寝てる間に記憶をなくしちゃったの?もしかして、あの悪い「大人たち」の邪悪な電波攻撃を受けた?
早く起きて、Vieちゃんが記憶回復術をしてあげる
彼女はこちらの手を取ると、ベッドから引っ張り起こした
「これら」を見たら、ちょっとは思い出すかも
少女はこちらの手を引いて、扉を開けた。次の瞬間、視界が黒と白で埋め尽くされた
中央の長机の上に置かれているのは、水冷式のPCケース、照明機材、スタンドマイク、ダンスマット、VRゴーグル……まるで高級ゲーミングルームだ
足下には、ピクセル化したジェタヴィがデザインされた白いカーペットが敷かれ、壁一面に「ジェタヴィ」関連の写真がびっしりと貼られていた
そして、その全ての写真には必ず自分の姿があった
ここは大統領の秘密基地。壁に貼られた写真は、私たちの軌跡を記録したものよ
キミは私の、一番大切なレイヴンちゃん
彼女は後ろ手を組み、首を傾げながら、こちらの疑問を先回りして答えた
そう!
細い指がそっと伸び、こちらの胸元のグレイレイヴンの紋章をなぞった
レイヴンちゃんは詩人であり、剣士であり、哲学者であり、航空力学の先駆者であり……そして最近は、Vieちゃんの首席プロデューサー
少女は得意げな顔で、よくわからない肩書きを並べ立てた
少女が高いところに立っている写真――彼女はそれを指差した
これはVieちゃんが大統領に立候補した時の有名なシーン!拳を握りしめて演説してるでしょ?ほら、レイヴンちゃんが隣にいる
写真の中の自分は、彼女のすぐ側で護衛のように立っていた
こっちはレイヴンちゃんとVieちゃんが、敵軍の本拠地に突撃した時の戦場写真!あの時、彼らに「この写真を渡さないと、あとふたつの基地を吹き飛ばすよ」って脅したの
「たった1枚の写真のために、俺たち全員を吹き飛ばすって!?」――アハハハ!あの時の彼らの顔、想像できる?
写真の中の自分と彼女は、まるでSF映画の兵士のような鎧を身につけ、チェーンソーのような武器を構えていた
そして……これが、私たちがスーパー地球上の全ての企業を解散させた瞬間
それ以降、全ての企業はゲームかアニメ制作会社になった。もう「大人たち」の権謀術数に振り回されることもなく、スーパー地球はかつてない平和な時代に突入したの
新しい時代では誰もが自由に未来を選び、好きなことを仕事にできる。エブリバディ、ハッピーってやつね
「大人たち」はすごく嫌がってたけど、結局Vieちゃんが「銃で説得」したってわけ
彼女はそう言って右手でピストルを作り、ウインクしながらおどけた仕草で「バンッ」と撃つ真似をした
この自由奔放なストーリーの中で、自分は常に彼女の側にいた重要な人物のようだ。しかし、そんな記憶は自分の頭のどこにも存在しない
最近、スーパー地球では
彼女はリボンを結んだ尻尾を揺らしながら、PCデスクに歩み寄った
彼女の尻尾がPCケースに軽く触れると、並んだ2台のモニターが一斉に光を放ち、
歪められた歴史、奇怪な写真、リラックスした環境でしか抑制されないという特異な病状……
次々と押し寄せる不可解な情報の波に、思考が混乱していく
全部
閣僚ちゃんたちがまとめた資料によると、病気の拡大を抑えるには、皆をハッピーにするのが一番効果的なんだって
だからスーパー地球を救うために、大統領Vieちゃんは決断したの!毎日19時からライブ配信するネットアイドルになることを!
彼女は堂々と腰に手を当て、人類の運命を左右するデビュー宣言を高らかに発表した
ねぇ、どうしてまだ寝起きみたいな顔してるの?自分の過去を思い出せないの?
まさか、レイヴンちゃんも
大統領CQC治療術、緊急発動!
彼女の細くて長い尻尾がするりと伸び、こちらの体にくるりと巻きついた。そして、そのまま左右に大きく揺らし始めた
尻尾が触れた瞬間、手首の端末が突然光った。そこには2行の鮮烈なメッセージが浮かんでいた
>>>>>【任務目標】三次元病の浄化(65%)<<<<<< >>>>>>【任務報酬】現実転送ゲートの開放<<<<<
端末の文字を見た瞬間、脳内にある一連の記憶が押し寄せた――
ほら、このデータケーブルを貸してあげる。首の後ろに貼りつけて
相互確約型の破滅装置ってところかな
ボタンを押したら、空中庭園はQu星系まで吹っ飛ぶよ
ジェタヴィは真顔で恐ろしいことを言いながら、赤いボタンに指を置いた
しかし、彼女は耐えきれずに吹き出し、手を叩いて笑い出した
アハハハ!冗談だって!もし本当にそんなボタンがあったら、迷わずに押してるよ
彼女は隣に座り、もう片方のデータケーブルを首筋に貼りつけた
調べたところ、「ホワイトボックス」の内部には仮想のローカル演算サーバーが搭載されてる。簡単に言うと、簡易版のマトリクス世界ってこと
どんな世界かは、実際に入ってみないとわからないけど
ユイが残してくれたプレゼントだから、きっと面白い世界に決まってる
ただ、マトリクスみたいに思いがけないリスクが潜んでる可能性もある。データの中で迷子になりたくなかったら、おとなしく私と手を繋いでてね?
彼女はそう言うと、こちらの手にそっと右手を重ねた
ジェタヴィと天に選ばれた人の華麗なる冒険小隊、出発!
そう言って、彼女は起動ボタンを押した
No Target connected
Error: EPERM: operation not permitted
No Target connected
Errorrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
Target connected
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世界の意味は、世界の外にあるに違いない
――ルートヴィヒ·ウィトゲンシュタイン
ねぇダーリン、起――き――て!
んん……?
目を覚ますと、少し困惑した表情の「ジェタヴィ」がいた
改めて手首の端末を見ると、そこにはまだあのメッセージが――
>>>>>【任務目標】三次元病の浄化(65%)<<<<< >>>>>【任務報酬】現実転送ゲートの開放<<<<<
記憶をたどる限り、先ほどジェタヴィと「ホワイトボックス」に入った。そして何かに干渉されて、
目の前の「ジェタヴィ」ことVieちゃんは、この世界を統べる大統領を演じている
そして自分は、この世界で「プロデューサー」として、Vieちゃんのライブ配信をサポートする役割を担う
端末に書かれた言葉が本当なら……この世界でVieちゃんに協力することが、現実に戻るための唯一の手段かもしれない
ねぇ、何ボーっとしてるの?どうして黙ってるの?
ま·さ·か――Vieちゃんの魅力にやられちゃった?
返事を聞いて、Vieちゃんは最初は少し驚いたが、すぐににっこりと笑った
よかった!もしレイヴンちゃんが何も思い出せなかったら、キミを気絶させて催眠療法を使おうと思ってたんだ
記憶を取り戻すのが間に合ってよかった……
咳払いをして頭を切り替えた。「プロデューサー」としての役割に集中しなければ
今夜19時!しかもVieちゃんのファーストライブ!ダンスライブの予定だよ
彼女は少し興奮した口調で、PCの横にある「9:30AM」と表示されたデジタル時計を尻尾で指した
ええっ、プロデューサーなのに知らないの?
ダンスをメインにしたライブ配信のこと。Vieちゃんが歌ったら、そのライブ配信は「ソングライブ」って言うの
ってことは、今日はレイヴンちゃんのプロデューサーとしての初仕事!しっかりVieちゃんをサポートしてね
……まあまあかな。大統領って激務で時間がないでしょ?だから、イタズラほど得意ってわけじゃないけど
彼女は肩をすくめ、認めたくないように視線を逸らした
特訓……それって、一緒に遊びに行くってこと?面白そう!
彼女の瞳がキラリと光り、待ちきれない様子ですぐに賛成した
全ては人類を守り、スーパー地球から
コホン!ではここに、プロデューサーのレイヴンちゃんを大統領の特訓トレーナーに任命する!見事に全うしたら、Vieちゃんが素敵なご褒美をあ·げ·る
こうして、摩訶不思議な童話のような物語が幕を開けた
同時に、現実という名のゴールを目指して、バーチャルアイドル育成の旅が始まった