2体の機械体は正面堂々、大きな扉を蹴り開けた。すると、騒がしい音が響いてきた
ここに来るたぁいい度胸だな、サンダースパーク!
今日は、お前たちを倒すために戻ってきたんだ!アビスレイジウェーブ!
おい、まさかそいつはグレイレイヴン指揮官!?な、なんてヤツを連れてきやがった!クソッ!
あら、知らなかった?この前の楽園祭で、あなたはコンステリアの有名人に仲間入りしたのよ
ドールベアはこちらに向かってウィンクし、口を出すなとジェスチャーしてくると、慣れた手つきで争い合う機械体たちを離れさせた
……そっちは練習場も失くしてる、今さら何を賭けてバトルしようってんだよ!?
そうね……今回はグレイレイヴン指揮官を賭けるのはどう?
担保は効果絶大な宣伝費……どう?こちらはあの有名なグレイレイヴン指揮官よ!
悪くねぇ……
よし!話に乗ってやる!ただし、テーマはこっちが決めるぜ。今回のバトルも「MIX」だ!
レイジウェーブと呼ばれる機械体は、ガハハハハと大きく笑った
――望むところ!
キスクが口を挟む間もなく、ドールベアが代わりに応じた
決まりでは、双方に一定の準備時間がある
観客をよそに、「アビスレイジウェーブ」は自信満々で録音室に入っていった。キスクも自分とドールベアを連れて「サンダースパーク」の部屋に入る
うっ――今回はドラマーどころか、ちゃんとした編成のバンドすら組めない……
やはり無茶だった……リズム画家になるしかないのか……
あなたの自信って、灰よりも脆いのね……
彼女は落ち着いた様子で座ると、ちょっとぎこちない様子で楽器のキーボードのボタンをいくつか押していった
よし。じゃあ邪魔しないで、あっちへ行っておいて
彼女は魔法陣を展開するようにして同時に3つの端末のバーチャルモニターを開くと、両手を素早くモニターに叩きつけ、変わった和音を奏でた
こ、これは……
いえ、何も。ただただ凄いなと感心してしまいまして
作業モードに入ったドールベアは怖いほどに集中している。彼女は完全にモニターのコードの波に没頭しており、外界の音は何も聞こえないようだ
あのう……彼女にガソリンカクテルを1杯奢ると言ったら、喜んでくれるでしょうか?
どう考えても、ドールベアはそんなヘンテコな味のものを好んで飲むタイプではない
狭い録音室で、あっという間に時間がすぎていった
しばらくすると、レイジウェーブが「ガンガン」と乱暴にドアを叩いてきた
おい――サンダースパーク!準備はいいか?
バッチリよ
彼女は端末からストレージを取り外し、こちらに向かってまたもやウィンクすると、機械体に続いて外に出た
ここは俺たちのフィールドだ。決まり通り、俺たちが先攻だぜ
そう言って、彼は自信満々に手に持っているストレージをプレイヤーに差し込んだ
すぐに騒々しい音がプレイヤーから流れ出す。ドラムの速いビートと弦の響きが、地下のライブハウスの雰囲気を一気に高揚させた
アビスレイジウェーブはますます強くなっている……こんなにも長いMIX、そして広い音域、なんてことだ……
もうダメだ、もう私たちは終わりだ……
待ってってば、あなたの自信ってホントに灰より脆いのね
全て私に任せてって言ってるでしょ
再生が終わった。レイジウェーブは得意満面といった顔でキスクを見ている
おい、これでもまだ演奏する気か?今すぐグレイレイヴン指揮官に、アビスレイジウェーブの次のライブの宣伝をしてもらった方が時間の節約だぜ?
クッ!
慌てないで、私……あっ、私たちサンダースパークの作品はこれからよ
ピンクの髪の構造体は怪しげな笑みを見せ、プレイヤーに近付いた
この言葉はすでに手遅れだった。ドールベアは怪しい笑みを浮かべながら、ストレージをプレイヤーに差し込んだ
指揮官渾身の――名曲MIXよ!
スピーカーから流れてきたのは――当然というべきか、聞き慣れた自分の声だった
え?違うわ。これは仕事じゃなくて、単なる小さな合成プログラム
分解、合成、再構築
音を分解し、合成し、新しい曲として組み合わせる!?
誰が予想できただろうか。こんな短時間で、ドールベアは指揮官が「歌った」曲を完成させてしまったのだ
うわあ――!
なんてことだ、さすがグレイレイヴン指揮官!今度は、ぜひ私たちのボーカルに!
結局のところ、その曲は満場の歓声の中で終わりを迎えた
くっ、グレイレイヴン指揮官が自ら歌った曲を持ってくるとはな!
で、でも、アビスレイジウェーブの方がグレイトだ!お前らの曲は長さも音域も、俺たちの足下にも及ばな……
この曲だけだって、誰が言ったの?
な、何ィ!?
お次はこれ!
勝利を確信したように、ドールベアは別の曲を再生した
高らかな歌声が空へと昇り、重く低い音が足下を包む。これほど滑らかで調和の取れた曲は聴いたことがない
ありとあらゆるジャンルの音楽を取り入れ、完全に異なる曲を完璧に乗りこなしていく。そのハーモニーに、全ての機械体が夢中になって耳を傾けた
その曲の再生が終わった時、勝敗が決していた
バカな、サンダースパークに、こんな芸当が……
チート行為だ!これは絶対にチートだ!
はい?その証拠は?
この高音の部分、そしてここ……どれも演奏は不可能なリズムのはずだ!
絶対、何かの加工技術を使ってやがる!
あら?あなたたちは一切、そういった技術を使わなかったの?
お、俺たちは……
機械体は噓をつけない
ドールベアは次々と、彼らがアルゴリズムを用いて演奏した部分を指摘していった。やがて、レイジウェーブはがっくりとうなだれた
確かに、俺たちは……アルゴリズムを使ってた
構造体のガキ……いや、お嬢さん、できるならそのプログラムを売っちゃくれないだろうか?
ごめんね、それは無理な相談なの
彼女はモニターを数回タップして、先ほど書いたその「小さなプログラム」を素早くゴミ箱に入れてしまった
とにかく――あなたたちの負け
はい、サンダースパークのコレクションはどこ?返してあげて
しぶしぶアビスレイジウェーブは負けを認め、サンダースパークのコレクションを返して練習場を明け渡すと、トボトボと練習場を後にした
あなた、怒ってないの?
指揮官の声で合成したあの曲、いいの?
怒るもんか、怒るほどのことじゃない
さすがは天才技術者だ。こんな短時間でここまで精密なアルゴリズムを作れるなんて
もっとすごいこともできるんだけど?
ピンクの髪の構造体は気怠げに、でも笑顔を浮かべていた
――あった!これです!よかったぁ、まだ売られてなくて!
キスクは物置からワイヤレスヘッドホンを慎重に取り出し、恭しく運んできた
約束した金額をそのまま、そちらの口座に振り込んでおくわ
彼女は慎重にヘッドホンを受け取ると、状態をチェックした
うわ……本当に美品ね。こんなのは、ここでしか見つけられない
こちらはさっき約束した、追加の「報酬」です。サムズちゃんに頼んだら交換してくれました
機械体は謎のボックスを取り出してドールベアに手渡した。そして、更にカチカチと音を立てながら別の物を取り出してきた
それと……こちらは、あなたに受け取っていただきたいお礼です。私が提供できるものは、あなたの労力と交換できるほど価値があるとは思えないので……
別のコレクションからこれを見つけました。優しい構造体のお嬢さん、あなたならたぶん興味がおありかと
これは……
黄金時代よりも更に以前の品で、セルバンテスと一緒に地上を旅した時に私が見つけたものです
頑張って修復しました。あと、それに合った箱も見つけておきました
プレゼントします、優しい構造体のお嬢さん
サンダースパークを助けたお礼として、どうか受け取ってください。今日がもっと素敵な一日になりますように