Story Reader / Affection / ラミア·深謡·その4 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

ラミア·深謡·その1

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4:00 PM 難民キャンプ

お嬢ちゃん、名前は?

アイリーン

アイリーンだよ

ああ、そうだったね。アイ……

アイリーン

アイリーン

そう、メイリンだ!

アイリーン

アイリーンだってば、お爺さん。そのメイリンって人は、このキャンプにいないよ

ふむ、メイリンではないのか……

だったら、名前はなんていうんだ?

アイリーン

……

お爺さん、お薬を飲まなきゃね

ラミアは手に持った薬のスープを、やや強引に老人の口に運んで飲ませた

(どうして私がこんなことを……)

記憶があやふやな老人に怪しい味のするスープを飲ませながら、ラミアは珍しく自分について反省し始めた

ルナから「プレゼント」を受け取ってからの彼女は、以前の無気力さを改めるかのように、真面目に怪しい場所について調査をするようになった

彼女は放棄された実験室や新しい境界に広がる異災区、数万の侵蝕体が集まる海底へと赴いた。低空飛行する白いロボットと頭をぶつけそうになったことまである

だが、それらの場所ではルナの探し物を見つけることはできず、両足を取り戻した興奮がすぎ去ってから、彼女は次第に怖くなってきたのだ

ラミア

(このままじゃ……殺される……)

ある廃墟で偶然出会った白髪の昇格者――彼女が真っ赤なバイクに跨って去る時の、あの警告のような鋭い眼差しを思い出し、ラミアは思わず身震いした

ラミア

(これ以上成果が出なければ、αさんは私の言い訳なんて聞いてくれない)

アイリーン、震えとるじゃないか。どうした?寒いのか?

だから、私はアイリーンじゃ……えっ、私の名前を覚えたの?

ああ……覚えたぞ。うん、アイリーンだ……ちゃんと覚えた

前はメイリン、その前の前はジョリーン……ちゃんと覚えておるさ……ええと、はて、何を覚えていたんだったかな?

いつものように支離滅裂なことを言い始めた老人をおいて、ラミアは飲み干されたスープの椀を片付けた

ある侵蝕体の残留データからこの場所を知り、このキャンプに来た者は定期的に秘密の場所へ送り込まれている事実を突き止めていた

そこに彼女が探す手がかりがあるかもしれない。そこは何かの実験場、または昇格者の秘密基地の可能性だってある

人類の狂気とは、彼女の想像をはるかに上回っている……黒野はその中でも最も過激な一派かもしれなかった

(時間からすると今回の輸送車は、遅れてる?)

その場所の謎を探るためにラミアは偽装スキルで子供に化け、難民キャンプへと紛れ込んだのだった

より無害である演出のために、両足を失いながらも義足を操り、たくましく生きる少女を演じている

(子供の頃のトラウマまで引っ張り出したんだから。お願いだから成果を……)

ラミアは心の中で遅れている輸送機の運転手を呪いながら、片付けようとしている空の椀を手に、ゆっくりテントの外へと歩いていった

人畜無害な外見を装って人々を欺くラミアのように、この老人もキャンプの黒幕によって、外来者の警戒心を解く鎮静剤の役をさせられている。当然本人はそれに気付いていない

善良に見える外見は悪意の偽装に最適なのだ。ラミアは過去に何度もそういう実例を見てきたし、何度もその効果を利用してきた

スープの椀を元の場所に戻すと、ラミアは人物設定を維持しながら、よく行く岩の上でぼんやりしようと思った

おや、アイリーンじゃないか

非常に親切そうに見える守衛が彼女を呼び止めた。彼らは唯一、キャンプ内で公然と武器を持てる立場だ

しかしラミアは知っている。このキャンプの現地住民のほぼ全員が、枕の下に武器を隠していることを

今守衛の側にいるのはいつもの酔っ払いの友人ではなく、顔に包帯を巻いた奇妙な人物だった

ボロボロの防風マントに、何度も修繕されてもはや原型を留めない衣服を身に着け、砂だらけの破れた靴を履いている。だがその格好はキャンプ内では特に珍しいものではない

包帯に覆われた顔では感情のない両目が、外部からの情報を受け取っている

包帯の隙間からは酷い火傷の痕が僅かに見えており、そこからは不快な臭気が漂っていた

この人は、他のキャンプから逃げてきたばかりなんだ……顔が……いや

守衛は同情の念を込めるように首を振った

知らなくてもいいことだな。俺は、見ただけで悪夢にうなされかけたよ

アイリーン、キャンプの案内を頼めるかな。終わったら、静かに休める場所に連れていってあげてくれ

(新たな犠牲者かな?まあ、私には関係ないけど)

う……うん……

ラミアは内心無関心ながらも、表向きは素直に守衛からの頼み事を引き受けた

ここでは皆、武器を没収する決まりなんだ。君だけ特別扱いはできない、理解してくれ

守衛がそう言うと、包帯の人物は頷いた

(あっさり武器を渡すんだ。これじゃ、いい餌食……ほんと馬鹿だね)

包帯の人物が口を開いた

その声色は本来の石が水を弾くような澄んだ音とは違い、低くしわがれて力がない音だった。偽りの声色だ

だが、偽装の名人であるラミアは、瞬時にその声の主を見抜いた

あまりいいとはいえない思い出が蘇ってきた。条件反射でラミアはあたりを警戒し始める

キョロキョロしてどうしたんだ?アイリーン

な……なんでもない

幸い、刀を手にした赤い人影も、ピンク髪の構造体も、遠くの山の斜面に銃を構える青年も見当たらないようだ

特に重要なのは、旗槍を手に狂った笑顔を浮かべるあの赤髪の女がどこにもいないこと!それを知った彼女はホッと胸をなで下ろした

じゃあ、この人を頼んだよ。俺は巡回があるから

わかった……ちゃんとやっておく……

彼女は本音ではあまり関わりたくなかった。しかしここであまりに拒否してしまうと、いらぬ疑いを招くだろう

ついてきて

ラミアは自身の変装にかなり自信があったが、相手の正体を見破ったあと、ますます相手の目を見れなくなってしまった

気力のない様子を装いつつもその目の奥に、暗闇で全てを見通す魂がある――ラミアは白日の下に晒される気分だった

絶対に勝てないと思っていた恐ろしい怪物は、ルナによって倒された。そのルナを目覚めさせたのは、まさに目の前にいるこの指揮官なのだ

彼女にも、勇気を振り絞って他人と真正面から向き合ったことがある。だがその勇気は、最終的に徹底的な敗北をもたらした。その現場には指揮官もいたのだ

ラミアは勇敢な性格とはいえない。彼女の目には、相手がある種の象徴として映っている。簡単にいうなら……

(またこいつか……)

(この人間に会うとロクなことがない……)

そう、一種の迷信だ。あるいは、失敗の言い訳ともいえる

ひっ!

心の中で凄まじい葛藤のただなかにいたラミアは、突然の咳払いに驚いて奇声を上げた

目の前の人物は依然しわがれた声だったが、できるだけ優しい口調でこちらをなだめようとしている

(こんな時でも自分のキャラを保つなんて、隙がなさすぎて逆に怖いって……)

(でも待って、私は何を恐れてるの?)

(グレイレイヴンは近くにいないし、あの赤い髪の女もいない。こいつは武器も持ってない、今はただの弱い人間だ)

(今のグレイレイヴン指揮官って、まな板の上の鯉なんじゃない?)

ラミアは顔を上げ、こっそりと目の前の人間を見た

(人類にとってはグレイレイヴン指揮官は重要人物らしい。この人間をルナ様に差し出せば……ちょっとした手柄にはなるかも)

(うーん……でも、ルナ様は人間のことをもうあまり気にしてないようだし、もしかしてこの人間も今ではそこまで重要じゃないとか?)

(……いいや、捕まえとくのは面倒そうだし。やっぱり先に任務を終わらせよう)

自分が追い詰められる様子を少し想像した瞬間、ラミアはすぐさま拉致計画を諦めた

(でも、ここへは何をしに来たんだろう。まさか、私と同じ目的とか?それならこの人間から、空中庭園の動向を探れるかもしれないな)

(うーん……でも口を割らせるなんて......私にできるかな……いや、やっぱ余計なことはやめとこう)

「余計なことに関わらない」と「よりいい成果で任務完了」という相反する考えが、意識海で激しく対立している

(少なくとも私の正体には気付いてないわ。もう少し話して、情報を集めておこうかな)

結局、「いい成果」という後者に軍配が上がった。彼女にとっては、面倒事よりもαの刀の方が何倍も恐ろしい

あの……訊いてもいい……?

目の前の人間は、じっとラミアの目を見つめる

……な、なんでもない……こっちにどうぞ……

自分を見つめるその真っ直ぐな視線にラミアは思わずうつむき、その人間を連れて足早に休憩エリアへと向かった

(どうしてこの人間、ちょっと話すだけなのにあんなに真剣に見つめてくるの!?)

(……明日ちゃんと心の準備をして、絶対に情報を集めてやる)

ラミアは心の中で、そっと自分を鼓舞した