姉さん、あの星はすごく明るいね
シーッ……静かに……えっと……
あれはたぶん天秤座βね。緑色に見えることがあるって……うーん……ハッキリ見えないわね
緑色?よく見てみようっと……あっ!あそこ!星が飛んでる!
流れ星?
アリサが振り返ると、姉は手を合わせて目を閉じ静かに祈っていた。その姿はかつて本で見た聖母像のようだ
姉さん?
流れ星は願い事を叶えてくれると言われているの。運よく見つけられたら、試してみるといいわ
この偽りだらけの現実の前では、どんなに非現実的な願いであっても、ほんの少しの慰めにはなれるかもしれない
もし本当に願いが叶うのなら、せめてアリサというこの子が、もう二度と騙されることのないように……
私も試してみる!でも……流れ星、もう消えちゃった。うぅ……
あら?じゃあ……今度見つけたら、すぐアリサに教えてあげるから!
それだと願いが叶うのが遅くなっちゃう……
アリサの願い事は何だった?姉さんが、早く叶えてあげられるかもしれないわ
姉さんとお父様、それから皆でずっとここで暮らしたい!ずっとずーっと!
あの時の姉さんはどんな表情を浮かべていただろう?もうハッキリと思い出せない……
ごめんなさい、こんなに時間が経ってからようやくわかった。あの場所に隠されていた全てが……
今のあなたには、本当に信じられる人がいるでしょう……
それだけで、十分よ
……姉さん?
ん……
構造体にとって朝日は眩しいものではない。暗闇から明るさに適応するのにも、さほど時間はかからない
エコーは目を開けた瞬間、慌ててバッと立ち上がって数歩後ずさりした
も……もうこんな時間!?
なんてこと!指揮官よりも長く寝ちゃうなんて!
で、でも、身だしなみを整えていないのに、指揮官がこんなに近くに!
エコーは慌てて髪と塗装を整えたが、彼女の身だしなみはそう乱れてはいない
駄目です!寝て起きたら身なりを整えるのはマナーですから!指揮官もほら、横の髪が寝グセで跳ねてますよ!
エコーの真似をして服をひっぱって整えると、「任務は完了だ」という顔で彼女を見た
……
彼女は何か言いたそうだったが、最後は諦めた様子でこちらへ近付いてきた
コホン……失礼します、指揮官。やっぱり私がお手伝いを……
これでだいぶマシに……あっ、こっちも
少女はそっと手を伸ばし、自分の横の髪をなでつけてきた
昨夜……寝入ってしまったのは私のミスです
最初は詩に関する言葉について話し始め、本の話題や珍しい文書の話になり……最後は自分が先に眠ってしまったようだ……
任務の時間は……大丈夫ですか?
言い終わると、エコーはすでに荷物を片付けて焚き火の後処理をし、出発の準備を整えていた
座席からゆっくりと振動が伝わったかと思うと、輸送機はすでに安定した飛行態勢に入っていた
それは、この「監督」の役目がもうすぐ終わることを意味している
その前に……間に合うだろうか……
端末を起動し、心の中で何度も推敲した文章を入力した。エコーと語り合ってから、スムーズに書き出せるようになったと思う
深く集中していたために、時間が経つのを忘れていた。ほどなくするとふわりとした無重力感が伝わってきて、輸送機の着陸を知らせた
シートベルトを外して素早く向かいに座っていたエコーの隣の席へと移動し、折りたたんだ紙を少女に手渡した
彼女はその紙をそっと開くと、書かれた文字を読み始めた
……これを書いていたのですね……端末で仕事をしているのかと
初心者ではあるが……彼女の感想を聞いてみたかった
夜明けの星が、希望の光を降らし……
明日へと……流れる……
彼女はその言葉を繰り返しつぶやき、ぼんやりと何かを考えているようだった
はい……率直に申し上げると……指揮官の書き方はやや稚拙です……いえ、私のレベルが高いと言っているんじゃなくて
でも、感情表現の観点から見ると……とても気に入りました!
指揮官が伝えたい気持ちや価値観がよくわかりますし、共感できます……
そして……実は指揮官の詩の一部は、私が望む景色でもあります……
エコーはもう一度読み返すと、その紙を丁寧に折り畳んでノートのハードカバーの間に挟んだ
これは……私にとって大切なものですから、しっかりと保管しますね
価値のあるものは1日では成し遂げられません。詩も、任務も、私たちの……願う景色も
詩に興味があるなら、きっといつか、指揮官にも素晴らしい作品が書けると信じています
深い色の地面が近付いてきた。話している間に輸送機がゆっくりと着陸し、エンジンの低い音が止まる
お別れの時間ですね……指揮官
それは……空中庭園でのことですか?
でも……元のルールに違反することになるのでは?
一般の構造体を厳しく扱うことはないよ
空中庭園……そこに滞在したいという訳ではありませんが、あなたがいるのならそこも悪くないのでしょうね……
エコーの髪がハッチの外の光に照らされている。穏やかに微笑む彼女は、まるで神聖な使命を受けた使徒のようだった
では、構造体エコー、指示通り任務地点に到着。有益な情報と判断すれば、協議規則に沿って速やかに報告いたします
構造体の少女は背を向け、荒れ地に向かって歩き始めた。進む先に背負うべきものがあることを、彼女は知っている
しかし同時に、ともに未来へ歩む人が側にいることも、彼女は確信している
その日が来るまで、彼らは決して努力をやめないだろう