Story Reader / Affection / 21号·森息·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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21号·森息·その6

様変わりした川辺で、呆然と佇む

透明だった川は今、深く濁っていた。泥で底が見えないほどだ

濁流がものすごい勢いで全てを押し流していく。川べりの太い木が揺れている。流されてしまうのも時間の問題だろう

いつの間にか静けさは消え、耳に響くのは雷鳴のような轟音だ

今、自然の脅威を目の当たりにしている。なるべく安全な場所にはいるが、その巨大な力を体験した直後で、まだ冷静さを取り戻せていなかった

川辺でサンプルを採取していると、21号が突然警戒しながら、川上で大きな音がしたと言った

彼女がいなかったら、土石流に巻き込まれていただろう

山津波のせいで、下山するための道が塞がってしまった

端末で地図を確認すると、川を迂回して車に戻るには、来た時に比べて5倍の時間がかかりそうだ

本来の予定では、今夜は新しい保全エリアに戻るつもりだった。鞄に詰まっているのは容器ばかりで、テントや寝袋は持ち合わせていない

21号、ここで大丈夫

21号は地面を指さした

自分も21号のように地面に寝てもいいが、山津波の後に雨が降る可能性を考えて、臨時の小屋を作るのが賢明と判断した

どうしてふたつ?

構造体は風邪を引いたりしない。だが自分は小屋の中で、小さな21号が囲いのない地面で寝ているのを想像したら……

雨に打たれて風に煽られ……想像しただけでも、良心が大声で抗議している

21号は一瞬困惑した表情を浮かべたが、すぐ無表情に戻った

21号、どうすればいい?

その言葉を聞くやいなや、小さな体がびゅんと飛び出して木を切りつけた。しばらくすると、長さの異なる枝が自分の前に積み上がった

山のように積まれた枝の周りに、まだどんどん木が切られて積み上がっていくのを見て、慌てて彼女を止めた

21号は地面に着地すると、木屑をはたいて武器を収めた

次は?

21号はこちらを見た。その瞳は好奇心に満ちている

まずナイフで短い枝を尖らせた。そして地面を露出させると、その枝で地面にいくつか穴を掘った

それから背が高くて丈夫で葉が茂っている枝を何本か選び、それぞれの穴に差し込むと、枝同士を絡ませてアーチを作った

最後に、アーチの外側を短い枝と葉っぱで覆うようにし、地面には乾燥した葉を敷き詰める。これで、簡易宿舎のできあがりだ

1時間以上かけて完成した作品を見ると、満足感が湧き上がってきた

21号……やってみたい

工程を見ていた21号は無表情のままだが、珍しいことにその口調からかなりの興味がうかがえた

まさに、新しい獲物を捕らえようとするような響きだ

21号は頷き、申し出を断らなかった

4時間後――

ググ……[player name]のと、違う

でき上がった簡易の小屋は斜めに歪んでいて、半分に切られたガチョウの卵みたいだった

たくさんの枝があちこち突き出しているので、緑色のウニのようにも見える

21号はふたつの小屋を見比べた

いい、21号は自分の小屋

21号は歪んだ小屋に入った

ここが、21号の縄張り

日が落ちて暗くなってきたので、ナイフの火打石を使って焚火をつけてから、自分の小屋に入った

パチパチと燃える炎の音が、まるで時間を引き延ばしているように感じられる。深い静寂の中、このまま夜が永遠に続くような感覚に陥った

21号

[player name]……

葉の壁の向こう側から、少女の声がした

21号

[player name]は、21号の知らないこと、たくさん知ってるし、できないこと、たくさんできる

それは全て、必要なもの?

21号

じゃ、いらないもの?

少し沈黙して、21号は次の質問を切り出した

21号

21号、わからない

将来どうなるか、誰にもわかりはしないのだ

だから、結局はできる時にできることを全力でやるだけなのだ

最後に欲しい物が手に入るかどうかは、あまり関係ない

21号

[player name]、心残りがたくさんだと……それは後悔になる?

21号

……

21号は黙り込んだ。彼女は寝たんだと思っていると、隣からヒソヒソと声が聞こえた

21号の小屋の方の壁に、こっそりと小さな穴が開けられていた。その穴から真っ白い手が入ってきて、障害物がないかを確認すると引っ込んだ

雪の花のような瞳が見えた。自分と目が合って、思わず目を逸らそうとしたが、覚悟を決めたようにこちらをじっと見つめてくる

これで繋がった

縄張り。21号と[player name]の縄張り

前に21号、[player name]の縄張りに入った

[player name]、21号の縄張りに入ってほしかったけど、ずっとできなかった

[player name]が、21号の縄張りに入りたいかわからない

21号、[player name]を自分の縄張りに入れるのが、怖い

[player name]が、縄張りに入ってほしいかどうか、よくわからない……

……怖い、断られるのは怖い

でも、わかった。怯えるより、やらないことが後悔になる

「必要なことをして、不必要なことをしない」。21号には、これが必要……

21号の雪の花のような瞳に焚火の炎が映って、あかあかと燃えている。儚い雪を融かしてしまいそうだ

その時、雨の音がした。小屋の葉にぶつかり、それから焚火の中へと落ちていく

炎の光が少し弱くなった。残っているのは、見つめ合うふたりの瞳の光だけ

最後まで言う前に、焚火が消えて世界は再び闇に包まれた

明かりが消えた瞬間、瞳の雪が溶けた少女が囁いた

21号、[player name]に、縄張りにいてほしい

闇の中で柔らかいものが穴をするりと通り抜け、自分の胸元に伸びてきた

同じ縄張りの者は、温めあう

[player name]は持ってない、21号のを貸す

しとしとと降る雨の中、もこもこの感覚がある胸から、温もりが広がっていく

これはぐっすり眠れそうだ

びっくりしましたよ。執行部隊のエースを失ったかと思いました

態度、豹変

そんな目で見ないでください!私だって、頑張ってあなたたちを理解しようとしてるんですから!

だって協力者ですもの……きゃあ、サンプルをこんなに!

再び温室に戻ったのは、翌日の昼だった。責任者はサンプルの山を目にして、警戒を全て忘れて興奮しきっている

でも、まさか山に閉じ込められるなんて。私がサンプルばかり気にして、しっかり準備しなかったせいですね

こうしましょう。ここには他に何もないので、お詫びに花をプレゼントします。お好きな花を選んでください

そうですか、じゃあ21号さんは?

21号は花を見比べたあと、真っ白な蕾に注目した

彼女は蕾に近付き、その香りを嗅いだ

21号、これにする

これがいいですか?これはアブラギリから移植したもので、母木から離れても正常に育つか実験中なんです

だから、花は咲かないかもしれません。他にも花はたくさんありますけど

匂い、21号と近い

そうですか……じゃあプランターに入れましょう。うまく花が咲くといいですね

そうだ。今日、歓迎会をやるんですが……おふたりもいらっしゃいませんか?

別に強制じゃないんですけど……個人的には来ていただきたいなと……

人と人との関係は、絶えず変わっていく

巡り合った瞬間、真摯に胸の内を語り合った瞬間に、その進路は変わるものだ

21号も、行く

重要なのは一歩踏み出して、手を差し伸べて、後悔のない決断ができるかどうか

再び空中庭園の輸送機に乗り込んだ時、21号は大切そうに蕾が植えられたプランターを抱えていた

21号は首を傾げ、何かを手で測るような仕草をした

花が咲くとどうなるか、わからない

21号、この匂い、好き

彼女はプランターを持ち上げて窓から差し込む光にかざした。プランターの影が壁に映り、長く伸びている

思わず欠伸が漏れた。熱心に見送ってくれる研究者たちへの挨拶で、かなり疲れてしまった

顔を横に倒すと、待っていたといわんばかりに、柔らかい感触が当たった

今度は、肩を貸す

ふたりの影に、明確な境界線が存在したとしても……

しっかりと繋がった縄張りという心に、もはや距離という制限は存在しない