今回はシミュレーション訓練室ではなく、もっと古い施設にある射撃訓練ルームだ。訪れる者も少なくひっそりとしている。実際に銃を握る感覚はやはり模擬訓練とは違う
遠くの標的に照準を合わせ、深呼吸だ。ここは無風。周囲からの干渉もなく、初歩の精度練習に戻ったような訓練だった
心の中で訓練項目の要点に思いを巡らせながら、指で安全ボルトを起こした
「パン」という銃声とともに、ヘッドフォンから訓練結果を読み上げるシステムの音声が伝わってきた
10ラウンド、第3ショット、標的リング:7.6、もっと頑張りましょう
右手にやや痺れを感じる
呼吸を整え、視線を再びスコープに戻した
まず銃をしっかり構えて
気を取られない。銃を握ったら目標だけに集中して
銃を持ったら……必ず……命中させる……ふわぁぁ
誰かもわからない声に指導されながら、とりあえずまた目標に意識を戻した
長いあくびの後は無言だったが、また聞こえてきた時の声は口調も会話のスピードも落ち着いて穏やかになっていた
スナイパーライフルは君が普段使い慣れている拳銃とは違う
精密射撃は射撃システム全体の試練だ。「照準」を合わせればいいってわけじゃないんだよ
射撃の照準は実際、空中の放射物の飛行軌道を予測するだけだ。何か影響する要素があれば、それが発射結果を変えて、実際の発射も着弾ポイントもずれてしまう
「照準」を合わせることに集中しすぎているよ
呼吸と脈拍は体勢に影響を与え、そして観察、思考は人為的な誤差を生じさせる。このシステム全体のデメリットなんだ
だから射撃システムはネガティブな影響を減らせば減らすほど、高精度の射撃ができる
……それになんだかうわついている、落ちついてよ
スコープが銃身の上部と完全に垂直になるようにして……
準備できた瞬間に……ためらわずに
10ラウンド、第4ショット、標的リング:8.6、もっと頑張りましょう
銃を下ろして振り向くと、いつ来たのか、近くのラウンジチェアにバンジがいた
ふぁあ……ここで訓練されると、僕の眠りの邪魔なんだよね……
確かに……うん……
あ……そうだったかな?
う~……週末にこんな古ぼけた射撃訓練室に来る指揮官なんていないと思ってたから
話しながらちらっと上を見上げたバンジの目線を追うと、「バンジ休憩室」というメモが壁に貼られていた
うん
……うん、そうだろうね
…………
……僕が話すのを待っているの?
……教えなきゃいけない義理はないしさ。たくさんしゃべって、もう疲れた……
……まあいいか。えっと、狙撃は戦術であって、銃の性能の良し悪しじゃないんだ
……まぁ、もちろん遠距離での命中率でいえば、最新鋭のスコープがあれば、ド素人の女の子だって数時間の訓練で1000m先の目標も当てれるさ
でも現実の戦争は射撃よりもはるかに複雑で……射撃の腕前が全てじゃない
だから……射撃の腕前にこだわる必要はないよ
指揮官としての役割は十分果たしてるんだし
正直に話しただけ……
え……気づかれてた?
隊長に訓練ではすぐに射殺せず、指揮官が練習できる時間を与えるようにって言われたんだ……まぁ、その時は相手が君とは知らなかったし
うーん……もう少し上手に演じられたかも……
うん……とにかく君はいい成績だったんだから、もう訓練をやめてもらえない?
もし……ずっとここで訓練されると……僕が……眠れ……ない……
その小さなつぶやき声は徐々に消え、しばらく待ってみても反応がなくなった
人間は正確な射撃のために体力が絶対に必要なんだ
訓練室から出ようとした時、再びひとり言のような声が聞こえた
……無理はよくないよ、体力を保たなきゃ
今度は本当に答えはなく、バンジは壁に向かって体を丸め、すっかり熟睡しているようだ
構造体はおかしな姿勢をしていても疲れを感じないとわかっている。でも変な体勢で「睡眠」をしているのを見ると、しっくりしない
少し前に世界政府芸術協会から宿舎に送られた形状記憶枕があった。人間用だけれど……バンジの寝姿を見るとあれをあげたほうがいいかも……
そう考えながら、射撃訓練室を出てバンジのためにドアをそっと閉めた