Story Reader / Affection / ロゼッタ·極鋒·その2 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

ロゼッタ·極鋒·その1

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雪原にトラックのタイヤの深い跡。ひとりの研究員がその跡を眺めながら俯いている

その研究員は雪原に刻まれた車輪の跡に心を奪われているのか、そこに潜む不思議な科学の世界で、学界を揺るがす重大な発見をしようとしているように見える

だが、その願いは叶わなかった。科学に捧げるはずの才気は、後頭部から見るにたえない赤い花となって流れ出していた。露わになった頭蓋の内側に、雪が静かに降り積もっていく

彼が見つめているタイヤの跡も長くは続いておらず、10mほど先で半分になった輸送トラックが横転し、炎上していた

もう半分のコンテナは上階を失った研究所にめり込んでおり、あたかもブルータリズム建築のような美しさを醸し出していた

現場には毛髪と皮革の焦げた臭い、不完全燃焼状態の人間の皮膚から出た黒煙が満ちている。その惨憺たる光景の一部である逃げ遅れた犠牲者は巨大なガラス窓の前に集中していた

燃えさかる炎の中で彼らの体は不自然に折れ曲がって手足が絡まり合い、この崩れかけの研究所をまるで蜘蛛の巣のように演出していた

全員、すでに死んでいる

北極航路の某極秘研究所内

数時間前

数時間前、北極航路の某極秘研究所内

機体の交換は順調に進んでいます。データ同期完了率は97%。グレイレイヴン指揮官、そんなにじっと見守ってくださらなくても、大丈夫ですよ

お気持ちはわかります。しかしインブルリアの件が公になってからは、私たち北極航路の研究所は構造体技術の開発に関して慎重すぎるくらいに権限の確認と規定の順守を……

クロム、リーフ、ヴィラ……多くの構造体の記憶が脳裏によぎるが、人間は軽く頭を振ってその不穏な記憶を消し去ろうとした

私たちに偏見をお持ちでないなら何よりです。おっと、同期が完了しました。[player name]、少しご協力いただけますか?

本来ならこれで機体交換は完了なんですが、これは少し特殊な機体なんです。亜人型と人型の2形態を有するため、その調整と意識海のメンテナンスが必要になります

[player name]……

なんだか……少し変な感じ。幻みたいな影がたくさん見えたような……

幻覚、ですか?やはり新しい機体に交換した影響で意識海が乱れているようですね……

指揮官はひとまず少しご休憩ください。ここの名物の極氷コールドブリューコーヒーをお持ちします。意識海を安定させていただくのはそのあとで

研究員はまるでひと仕事終えたかのように、軽やかに鼻歌を歌いながら実験室の出口の扉へと向かっていった

彼は気付いていなかった。扉の隙間から、外の気圧に押されるようにして、血の匂いを含んだ冷たい風が部屋に忍び込んでいることに……

そして、扉が開く――

[player name]――!

ドォン――!

敵襲!

実験室の扉が開いた瞬間、ロゼッタは不慣れな新機体をなんとか操り、指揮官に飛びかかって押し倒した

次の瞬間、ついさっきまでコーヒーを淹れてくると笑っていた「研究員」だったモノが、爆風とともに指揮官がいた辺りに撒き散らされた

戦闘に支障はないわ

全て侵蝕体、少なくとも30……いや、60!重火力武装!

ロゼッタは斧槍を振るい、実験室の入口で侵蝕体の突撃を食い止めた

[player name]、私たちだけでは無理。近くの守備部隊に連絡できる?

通信チャンネル1

(ノイズ)

通信チャンネル2

(ノイズ)

通信チャンネル3

……

通信チャンネル3

とにかく退避を!そこら中に侵蝕体が……あなたは今、どこに……

通信の声は、血肉が引き裂かれる鈍い音で遮られた。通信機越しに、血の匂いが鼻を刺したようだった

通信チャンネル3

逃げ……ろ……

死にゆく者の声帯を血が塞いだようだ。彼はどこが安全かもわかりはしないが、それでも「逃げろ」という言葉を残した

侵蝕体の群れ

ギィ!!

通信機が侵蝕体の手に渡ったようだ。無意味かつ不快なノイズ越しに冷たく鉄錆びた血風が肺を突く前に、通信を切断した。

どう?やっぱり、状況は悪い?

大丈夫……あなたを連れて撤退するくらい、問題ない

……できる限りやってみる。で、どこなら撤退可能?

外に使えそうな輸送車がある。私が道を切り開くから、あなたは生存者を集めて

あなたも

ふたりは役割分担を確認し、タイミングを合わせるために、3、2、1とカウントダウンしてから同時に飛び出した

高エネルギーの斧槍が雪を溶かすように滑らかに侵蝕体を切り裂き、ロゼッタは指揮官を中心に円を描くようにして安全圏を広げていく

ロゼッタの援護を受けながら、人間は侵蝕体の群れからの攻撃を必死でかいくぐる。命の危機を何度も紙一重で避けながら、ようやく輸送車の運転席へ飛び込んだ

た、助かった!死ぬかと思った!

人間は乗り込んだ重装輸送車を操り、侵蝕体の群れを掻き分けた。今にも壊れそうなノアの方舟に乗客を満載し、荒れ狂うパニシングの波の中へ漕ぎ出そうとした

[player name]!車両側面!避けて!

衝突の連続で側面を確認するためのミラーは吹き飛んでいた。ロゼッタの叫びで、膨れ上がり蠢く侵蝕体たちが輸送車の側面から襲いかかろうとしていることにようやく気付いた

ロゼッタは斧槍を振るい迎撃を試みるが、未調整の機体と不安定な意識海がその動きを鈍らせた。侵蝕体が一瞬の隙を突いて輸送車に這い上がると、その目に宿る赤い光が消えた

ギィ――!

ドォォ――ンッ!!!

とてつもない衝撃が輸送車を弾き飛ばし、コンテナは半壊した研究所へと叩きつけられる。僅かに残された希望であった方舟は、船出の前にパニシングの荒波に飲み込まれた

爆発の後、雪原にはそれが残した炎だけが静かに揺らいでいた。安息がもたらされるのは死者だけなのだと、この星の掟を囁くかのように

雪原

北極圏

北極圏、座標不明、雪原

爆発で転倒したことによる打撲と軽い火傷。つまり命に別状はないんだな?なら、いつものことか……お前の豪運に今更驚きはしない

状況は把握した。空中庭園は救援を急いでいる。だが……

人間は、端末の向こう側でアシモフが言い淀んだのを察した……

わかっていると思うが、極地で動かせる戦力は限られている。それと……ちょうど今、ニコラから連絡があった

不安定な通信の中で、人間はこの悪い知らせを聞いた

空中庭園と極地の通信はほぼ遮断された。現時点で人間は極地で唯一、空中庭園と連絡を取れる存在となった

撤退ポイントのセーフハウスの位置と移動ルートをお前の端末に送信した。そこには予備の輸送機もあるから、お前たちは空中庭園に帰還できる。だが……

極地で強力な信号干渉が発生している。その範囲は急速に拡大中で、お前のいる場所もじきに飲み込まれるだろう。地上部隊とも連絡不能、この通信も15分後には遮断される

長くはかからないはずだが、正確な時間は不明だ。つまり、お前たちがセーフハウスに移動している間の支援ができない。頼れるのはお前自身とロゼッタだけだ……他に質問は?

お前からの報告で状況は把握している。新機体へ変更直後に意識海が不安定になったまま戦闘に突入し負傷。更に輸送車が爆発時にお前を庇って衝撃を受けた……他に補足は?

ロゼッタは近くにいるか?状態を確認したい。通信途絶まであと数分ある。ロゼッタに代わってくれ

ロゼッタはただ雪原を見つめていた。雪が地平線へ伸び、凍てつく夜に溶けていく。天上を巡る巨大な星は静かに地上の命運を左右し、潮を引き寄せ、世代を巡らせていく

極夜の空に月が高く昇り、珍しく風ひとつない夜だ。だが逃亡者にとって、それは決してよい兆しではなかった

月光は白昼のように雪面を照らし、その反射が逃げるふたりの影をさらけ出す。疲れた重い足音だけが、荒い息とともに雪原へ刻まれていく

明るい月の下、吹きすさぶ寒気が耳を裂く……

この音は……?

[player name]、聞こえない?この音……

いや……聞こえた、はず……

???

――

[player name]、こっち、ついてきて……

これは……波の音?

ロゼッタは、聞こえるはずのない声を確かに聞いた。懐かしい記憶との再会が、傷ついた身体を支える力となり、よろめく足取りで大きな雪の丘を越えた

疲労と痛み、あらゆる不快感が負傷によって何倍にも増幅され、新しい機体に重くのしかかる。ロゼッタの視界は負荷の高まりとともに闇へと落ちていく

そして再び目を開けた時、そこには単調な雪原とはまったく異なる風景が広がっていたのだった

ここは……?

先ほどまでの果てしなく続いていた雪原ではなく、褐色と緑の苔むした地面にむき出しの岩肌が見える。僅かに残る雪が、この地もかつては白に覆われていたことを物語っている

遠くには氷の海が湾となって広がり、その岸辺の小さな集落には誰かの帰りを待つ明かりがいくつも灯っていた。波の音は懐かしい人を迎えるかのように、喜びを奏でていた

小屋?あれは、お爺ちゃんの小屋……?

お爺ちゃんの小屋が、どうしてここに?どうして、ここに町が……?

それは……ここが死者の国だからだ……ロゼッタ、わしに会いに来てくれたのか

突然、ロゼッタの耳にもう二度と聞けないはずの懐かしい声が届いた。老いて、嗄れた声に込められた再会の喜びは、ひと言ひと言が過去からの贈り物のように胸を打った

質素な木造の小屋には、まるで帰郷を祝福するような温かく柔らかい明かりが灯っている。その玄関には、ヒョードルが思い出のままの姿で立っていた

お爺ちゃん…………

大きくなったな……ロゼッタ。もう立派な大人だ

小屋に入ると、背を丸めた老人は自分より視線が高くなったロゼッタを見上げながら、彼女の機械の部位にそっと触れた。その目には喜びと心配の色が宿っていた

辛いことも、苦しいことも多かったんだろうな?

ううん、お爺ちゃん、心配しないで。自分のことも、周りの人のことも、できるだけ守ってきた……今は、弱った時に支えてくれる人もいる

そうか。ならよかった。わしもその人その人に会ってみたいもんだ

[player name]も近くにいる。お爺ちゃん、待ってて、すぐ呼んでくるから

いいんだ、ロゼッタ

どうして?お爺ちゃんにも、指揮官に会ってもらいたい

ここは、死者の国だ

ヒョードルはその言葉を改めて強調した。ロゼッタは心の奥底で理解していた事実を直視せざるを得なかった――

彼女と祖父を隔てているのはこの世界で決して破れぬ法則、死だ

死者?……ここにいる人は皆、死んでるってこと?ここは、死後の世界?

彼女は信じられない思いで、海辺の穏やかな集落を見渡した。暖かな光をたたえた窓のひとつひとつは、全て命を落とした人々のもの……

じゃあ……私も?私も死んだの?

ロゼッタ、そうじゃない。ここは過去の世界だ。わしとお前が一緒に生きてきた世界。必死に働き、もがき、生き抜いていた世界だ

そして、お前はまだそこに生きている。それはわしにとっての一番の幸せだ

老人は優しくロゼッタを見つめ、それ以上は何も言わなかった

太陽が水平線からゆっくりと昇っていく。ヒョードルはロゼッタの肩にそっと手を置き、窓の外を見るよう促した

集落に朝の気配が満ちてゆく。懐かしい、または見知らぬ人々が仕事道具を手に外へと出てくる。この世界で、人々はまた今日を生きるために目覚めたのだ

見てごらん、もう皆、新しい1日を始めている。わしらも行かないとな

老人は背を向け、壁にかけていた馴染みの狩猟弓を取ると、ロゼッタに渡した

狩りに出よう……ロゼッタ、まだわしが教えたやり方をおぼえているか?

ロゼッタは弓を受け取った。かつては重たかったそれが、今の彼女にはぴったりと馴染んで感じられた

まずは、獲物を探す……

この季節なら、鹿がちょうどいいだろう

お爺ちゃん、どっちに行けばいい?

鹿の気配を感じるんだ。少し勘が鈍ったようだな、ロゼッタ?

ロゼッタは少し恥ずかしそうに笑いながら、祖父の後ろに続いて森の奥へと歩き出した

足跡……でも鹿じゃない。少し先を見てくる!

落ち着いて、音を立てるんじゃないぞ。ロゼッタ、わしらは鹿を狙うんだ。鹿より速く走る必要なんぞない

お爺ちゃん、今の私なら、鹿より速く走れる

その会話を遮ったのは鋭い弦音だった

どこからか放たれた矢が森を駆け抜けたかと思えば、極彩色のたくましい雄鹿が森の奥から飛び出し、ふたりの訪問者を見た

ロゼッタと雄鹿の目が合う。その瞳の奥に、なぜか懐かしさのようなものを感じる

ロゼッタ!

ヒョードルの声でロゼッタは我に返り、とっさに弓を引いた。しかし、放った矢は驚いて逃げた鹿の背を追って森へと虚しく消える。これは、確かに腕が鈍っている

ロゼッタ、なぜためらった?

しくじった!追いかけなくちゃ

悔しさでいっぱいのロゼッタには、ヒョードルの言葉が届かなかった。再び弓を背負って鹿を追おうと身を翻す。この構造体の体ならば鹿に追いつけるはずだ

ロゼッタ、何が見える?

その時、1本の手が彼女の腕をしっかりと掴んだ

人間は傷ついた体で雪原を駆けようとするロゼッタを止めた。冷たい月が極夜に高く浮かび、この地は変わらず氷雪に支配されていた

ロゼッタは人間の心配そうな表情を目にしてから再び森の奥を振り返った。白い雪の眩しい反射が視神経を打ち、幻のような痛みが走った

……わからない。でも、私、お爺ちゃんに会ったような気が……

わからない……

指揮官は不安げな目でロゼッタを見ながら、通信端末を彼女に差し出した

ロゼッタは黙って端末を受け取る。端末から聞こえてきたのは冷徹だが信頼できるアシモフの声だった

しばらく話すことができたが、やがて通信機からは「ザー」というノイズしか聞こえなくなった。アシモフが予告した通り、信号干渉がここにもやってきたようだ

アシモフは、5日以内に撤退ポイントのセーフハウスに到着しろって言ってた

その言葉に指揮官は少し驚く。つい先ほどアシモフと話した時にはそんなことは言っていなかった

[player name]、セーフハウスの座標を再確認する……うん、間違いない

無理な戦闘をしなければ問題ないって。大丈夫

大丈夫。あなたがいるから。あなたが、私を呼び覚ましてくれる

ふたりは会話を終えてから最後にもう一度、装備を確認した

……出発

雪を踏みしめて進むふたりの足音だけが、雪原に微かに響く。極夜の月が高く見下ろす中、今静かに、長く孤独な旅路が始まった