Story Reader / Affection / ヴィラ·緋耀·その5 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

ヴィラ·緋耀·その1

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横に、縦に、そして真っ直ぐに槍を突き刺す

キィ――キィ!

人間の悲鳴のような機械の摩擦音とともに、ヴィラの旗槍によって、侵蝕体は突き倒された

ふん

ためらいなく旗槍を引き戻し、横から忍び寄る侵蝕体に向けて振り下ろした。それと同時に、槍先は次の目標へと向かっていた

灰色の空の下、金属片が散らばる大地で、彼女は旗槍を振り、次々と侵蝕体をなぎ倒していく。まるで踊るかのように、あまたのバックダンサーの間を行き来している

彼女の後ろについてその激しい踊りを見ながら、飛んでくる破片を慎重に避けていた

何?

ダンサーは振り向くそぶりもなく、旗槍を振りながら、「用がないなら呼ぶな」というような視線をこちらへ投げた

構造体が前線で侵蝕体と戦って、指揮官が後ろで高見の見物をするのは普通のことでしょう?何が問題なのかしら?

確かに、構造体に主な戦闘を任せて、指揮官が後ろで援護されながら指揮をするのは一般的な戦術だ。しかし問題は……

ドン!ヴィラの旗槍が再び1体の機械体を貫通した。その躯体はすでに反撃する力を失っていたが、手足を空中でバタつかせており、最後の止めを刺す必要があった

彼女はまったく意に介さず、その機械体を適当に後ろに放り投げ、もがく侵蝕体が自分の目の前に落ちてきた。真っ赤な目をこちらへ向け、口から鋭く金属の摩擦音を発している

キィ――キキィ――

ヴィラは敵に止めを刺さずに、適当に2、3回斬って投げ捨ててしまう。作戦開始からというもの、彼女の後ろで投げつけられる侵蝕体の対処に追われっぱなしだった

より構造体に近付いて、安全域を広げようとする。しかし、前方で舞い踊る旗槍はまるで薔薇の棘のようで、近付けば容易に負傷するのは明らかだった

キィ……

腕を上げて発砲すると、カメラアイの真っ赤な光が消えた。同時に、自分が刺される寸前だった武器が地面に落ちた

やっと気付いたの?

前方で道を切り開くヴィラが少し攻撃のテンポを落として、戦闘しながらこちらに向かって嘲笑を浮かべてみせた

グレイレイヴン指揮官、普段はこうじゃないの?私はただ後処理の作業を少し分けてあげただけよ

アハ、好きに言ってなさい。怖いんだったら、無理に今回の任務に参加した自分を責めることね

でも、今さらもう遅い。もう少しで任務地点に着くわよ

ヴィラはそう言うと同時に足を止め、旗槍を地面に突き刺してしゃがみ込んだ

目の前に広がるのは、一面の機械の廃墟といえるような眺めだった。重苦しい空気の中を金属の匂いが漂い、時折、機械片が動くのが見える

ググ……グゴ……

ヴィラがしゃがんだすぐ横で、突然、機械が起き上がって音をたてた。その機械部品には人らしき面影が少し残っていた。おそらく破壊された構造体の一部なのだろう

へえ、こんなに侵蝕されてるのに、まだ動けるのね?

――死になさい

旗槍を構えずに、ヴィラは侵蝕体のコアに直接手を伸ばした

グシャッ。心臓部が握り潰されたような鈍い音が聞こえた。侵蝕体の硬い体がぐにゃりと折れ曲がり、まるで眠る赤ん坊のように力なくヴィラの手からぶら下がっている

さて、こいつの体には、他にどんなものがあるのかしら……

ヴィラは体を屈めて、先ほどまで動いていた機械体の中を手で探っていた

前に出ることができず、ヴィラの動きが見えない。彼女の行動が発する音をそのまま聞いているしかなかった

初めは、比較的小さな摩擦音だった

次第に、カチンカチンと金属がぶつかり合う音が聞こえてきた

機械がぶつかり合う巨大な音が鼓膜に響いてきた時、彼女はようやく侵蝕体の躯体から顔を上げて立ち上がり、何かのパーツを持った手で髪をかき上げた

あーあ、資源回収って本当に厄介ね。構造体ひとりだけ遣わすなんて、上の人たちは何を考えているのかしら。調査しながら収集しましょう

あなたが?あなた、何かわかるの?遠くで立ってればいいわよ。邪魔しないで頂戴

もちろん、構造体の死体解剖を見学したいなら反対はしないけど。でも、飛び出したパーツで首がちょん切れても責任は持たないわ

死体解剖。空中庭園にはもっと肯定的かつ中立的な正式名称があるが、ヴィラにはこの作戦の本質を誤魔化すつもりはないようだ

今回の作戦は一部の資源を回収するだけではなく、今後の任務のための現地調査でもある。ここで亡くなった兵たちも調査対象だった

この調査自体は珍しいことではないが、これまではほとんど参加したことがなかった。そして多くの参加者は、ヴィラのような行動はとらなかっただろう

ふん……この跡からすると、どうやら何の戦術もない構造体たちは、死ぬ直前に相当激しく抵抗したようね

結局はコア部分が一瞬で完全に破壊された。ふうん、抵抗する力がなかったというより、何かを見て絶望して諦めたような感じね

おそらく2時の方向にある逆さ吊りになった構造体――あれは彼らの隊長だわ

彼らは付近の戦線を死守していた。5、6回の攻撃に耐えて、反撃に転じようとした時に、巨大な侵蝕体が彼らの隊長を踏み潰し、あの木に蹴り上げたのを見たってとこかしら

きっとそうね。その後、彼らはもうそれ以上の攻撃には耐えられず、そのまま撃破された

まあ、心の支えをなくすと、なんと脆くなるものかしらね

これ以上聞きたくはなかったが、ただ目を閉じることしかできなかった

ヴィラは落ち着いた声で、ここにいる死者たちが経験した戦闘をひとつひとつ再現して語っている

ある者は必死に抵抗し、ある者は悲惨な状況で命を落とし、ある者は逃げ出した。彼女の分析によって彼らの惨状が生々しく想像できた。そしてやがて訪れる死という結末も――

今、その結末がヴィラによって塵の中から拾い上げられ、解剖され、分解され、戦況分析の材料になっていく

どんな気持ちでこの者たちの結末を受け止めればいいのだろう?わからない、それは容易にはわからないことだ

だが、ヴィラの行動には迷いがない。彼女はただ淡々と任務を遂行し、結果を記録し、報告している

その姿は彼女のふたつ名――「死神」の通りといえた。死と共存する存在だ

ねぇ、グレイレイヴン指揮官。離れてなさいとは言ったけど、本当にいつまでもそこでぼうっとしているつもりなの?

もう少し気をしっかりしないと、あなたもこの人たちの二の舞よ。まずこの地に慣れ親しんだらいかが?

へぇ?なら、そこに行っておとなしくしていなさいな

私は忙しいの、あまり構ってあげられないわ。侵蝕体が襲ってきたら、自分で自分の命を守って頂戴

ふふ、いい子ね

破損した機械から顔を上げ、ヴィラはこちらに向かって微笑んだ

その時、彼女は目の前の構造体の中からひとつの小さなパーツを取り出した。ガラス製の筒状の容器の中に、エメラルドグリーンの溶液が半分ほど入っている

見たことのないパーツを見て、好奇心から思わず口を開いた

あぁ、これ――

ヴィラは少し間をおき、話を続けるか迷っているようだ

彼女の睫毛が少しだけ動いて瞬き、それから意味深な笑顔を見せた

――いいわ、見られちゃったし、教えてあげる

ヴィラは手元にあるカプセルサイズのガラス管を高く投げ上げ、ぱっとキャッチした

これは、逆弁膜スケール抑制剤という、空中庭園非公開の試薬よ

そこはわからなくてもいいわ。とにかく秘密の薬よ。原材料から製造まで、表に出せない事情がうんとあるの。全身に痛みを感じさせる薬効もある

アハハ、まだあのことを覚えてるの?なら、これはナイショにしておかなきゃって、わかってるわよね

さ、説明は以上でおしまい。とにかく、これは一種の静脈注射剤で、瀕死の人間を蘇らせる強心剤みたいなものよ

これは全ての構造体の体内にあるわ。だいたい背骨の下あたりね。だから構造体をまるごと解体しないと取り出せないのよ

ふふ、これが公になったら、命の危機に瀕した指揮官の多くが、構造体の体をバラすようになるでしょうね。たった1体の構造体で、自分の命が助かるんだから

命を引き換えにするような状況が起きるのを避けるため、このことは秘密にされてきたの。特定の指揮官しか知らないはずよ

そうねえ、あなたが特別ってことかしら、グレイレイヴン指揮官。命の危機を感じたら適当な構造体を見つければいい、自分は助かるわよ

ま、もしあなたの身に何かあったら、あなたのお仲間さんがたが次々と身を捧げてくれるでしょうよ

上々ね。これを嘘だと思う者は、この事実を口外しない。どうぞ、嘘だと思い続けて頂戴

でも、あなたが死の危険に晒され、彼らに頼むからこれを使わせてくれと懇願する――そんなところを見てみたいものね

考える前に、その言葉が口をついて出た

ヴィラの言うことが本当であろうとなかろうと、自分は絶対にそんなことをしない。グレイレイヴンであれ、他の隊の構造体であれ、彼らの体を分解したりなどしない

それだけは、自信を持って言える

……そうなの?

ヴィラはそれ以上、何も言わずに肩をすくめた

いいわ、どうでもいいことよ。ここでの資源回収も終わったから、そろそろ保全エリアに戻りましょうか

彼女は立ち上がって、周りに散乱している構造体を適当に蹴り飛ばした。そして、収集したパーツをこちらに投げてきた。どうやら自分に持たせる気のようだ

さぁ、出発よ

彼女の口調が一気に棘をはらんだ不自然なものになり、それは動物のドキュメンタリー番組に出てくるような猛禽類を連想させた

――愛しい指·揮·官

鳥肌が立つようなその声に、身体中に緊張が走った