Story Reader / Affection / アイラ·万華·その2 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.

アイラ·万華·その1

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空中庭園、昼食後の休憩時間――

廊下のガラスを通して眩しい日差しが差し込み、まるで日向ぼっこしているような暖かさに包まれていた。こんなのどかな午後は、やっぱり――

サボっちゃえ!

アイラはご機嫌で鼻歌を歌いながら、端末を開いて、最近のチャットのログをチェックした

ワンダフル!指揮官は今日は任務に行ってないわ!

グレイレイヴンの休憩室でサボっちゃお~

彼女は軽やかな足取りで、喜色満面といった様子だ。アイラは差し込む光に思わず目を細めながら、窓の外の青い人工天幕を眺めた

あぁ……最後にこんな風に太陽の光を感じたのは、たぶん……

地球の保全エリアに午後の暖かい日差しが降り注ぎ、荒れ果てた大地に束の間の安らぎをもたらしていた

今日は本当に天気がいいわね……

柔らかな光が木々の隙間からこぼれている。ピンク色の髪の構造体は目を閉じて、安らぎのひと時を楽しんでいた

宇宙ステーションの戦闘の後、アイラはしばらく空中庭園に戻らず、考古遠征隊とともに地上のさまざまな保全エリアを転々とし、セレーナの情報を集めて回っていた

よく考えてみると、しばらくこんな風にのんびりと休むことはなかった……

その時、考古遠征隊の仲間が、何かを話したそうに静かに近付いてきた

聞いた?グレイレイヴンもこの保全エリアに到着したらしいよ

え?グレイレイヴン?彼らの次の地上任務ってこの保全エリアの近くなの?

そうみたい。任務途中の休憩なんだって。指揮官と隊員ひとりだけがここに来て、他のふたりの隊員とは別行動しているらしい

午後遅くには立ち去るって。保全エリアのスタッフが話しているのを聞いたんだ

そう……どこにいるか、知ってる?

塀の後ろの小屋にいるよ。周辺の防衛施設の修理の手伝いをするって

まだ伝説の指揮官を見たことがないから、ちらっとだけでも見てみたいな……

ってあれ?アイラ?どこに行くの?

すぐ戻るから!

言い終わらない内に、ピンク色の髪の構造体は遠くへ駆け出していった。彼女は振り返って嬉しそうに手を振ると、すぐさま仲間が指差した方向へ走り去っていった

地上の保全エリア内、任務の合間――

今回の任務は緊急性がなく、物資を指定された保全エリアに輸送したあと、午後いっぱいが休みとなった

ルシアとリーフは前の任務場所で後片付けをしている。リーは保全エリアの責任者に防衛施設の修理を頼まれていた

皆と一緒に行動することに慣れているので、ひとりになると、少し落ち着かない……

直前の任務の記録作業を終えて、ノートを閉じた。顔を上げて疲れた目に映ったのは、大きなテントと淡々と作業している難民たちだった

彼らは機械のようにもくもくと作業を続けている。時々手を止めて言葉を交わしているが、彼らの表情に希望の色はなかった

パニシングがもたらしたのは、戦争と避難だけではない。不確実かつ絶望に満ちた未来、それこそが人間を心の芯まで苦しめるトラウマになる……

灰色の保全エリアの中では窓から差し込む光にさえ温もりを感じられず、逆に寒気を帯びているように感じられた

考えを巡らせていると、灰色の景色の遠い場所に、明るいピンク色の人影が現れた

はい!指揮官!

私のこと、覚えてる?

ピンク色の少女は軽やかに笑った。目の前の小さな窓に突然現れた光のように、その出現は周囲をぱっと明るくした

忙しい?入ります

こちらが答える間もなく、少女はさっさと部屋の中に入ってきた。不思議そうに周囲を見回している

ほんと、お久しぶり~

いくつかの素晴らしい戦闘で、指揮官は空中庭園中で評判になってるわ

アイラはウィンクをして、持ち歩いているスケッチブックから不可解な絵を抜き出した

絵の中の人は、指揮官の制服を着ている。でも……その指揮官が誰なのかはその絵では特定できなかった

身長2mほど、広い肩幅、背中に背負った巨大なキャノン、奇妙で複雑な外骨格……

こんなキャノンを使う指揮官……いる?

あ、な、た、よ!指揮官!

これは私が特別に用意した、指揮官へのプレゼント!空中庭園で流れてる指揮官に関する噂を全部この絵に凝縮して、やっとの思いで完成させたんだから!

ええと、噂ではグレイレイヴン指揮官の身長は2m21cm、片手で軽々と巨大なキャノンを操って、特殊な外骨格のお陰で構造体と同様に戦闘ができる……

アイラは目を細めて、手にした作品を眺めている

その他にも色々あったけど、まだ絵には描けてないの。例えば、指揮官の背中には翼が生えているとか、えっと何だっけ、千里眼とか……

ただの誇張表現よ、皆、それぞれの方法で指揮官への敬意を表現してるの

私の心の中の指揮官はもちろんこんな風じゃないわよ、私はちゃんと本当の指揮官を知ってるから!

だって、ずっと指揮官のことを見てるもん

アイラはこちらに向かってまたウィンクすると、期待を浮かべた表情で見つめてきた

優秀な軍人で、立派な指揮官……

そうね、ざっくり表現するなら、「太陽」かな?

太陽のように人に希望を与える……関わったほとんどの人はそう思ってるんじゃない?

私は、太陽よりも、暗闇を照らすランプみたいだなって思うけどね。暖かく周りの全てを照らす……

私はそれをテーマに作品を作ったのよ

目の前の少女は微笑んで手を後ろに回し、こちらの言葉を待っているようだ

しかし……予想外の評価をもらってしまい、どう言えばいいのかすぐには思いつかなかった

こちらが困惑していることに気付いて、アイラはひらひらと手を振った

恥ずかしがらなくていいわよ。自分への賞賛を素直に受け入れるのも、成功する秘訣

私も「傑出した気鋭のアーティスト」って褒められたら、すごく嬉しいわ~

こんな時はただ「ありがとう、頑張るよ」って言えばいいの

少女は仕切り直すかのように、わざとらしい咳払いをした

そうそう、その調子!

アイラはその奇妙な作品を机の上に置いた。そして何かを思い出したかのように、興奮して振り向いた

そう言えば……指揮官は、誰かから私のことを聞いたことがある?

私、どんな風に言われてた?大注目のアーティスト?独創的な作風?センスの塊の構造体、とか?

え?嘘でしょ?

指揮官は噂話を聞く暇もないくらい忙しいってことか

そうだと思った!

私の作品は、簡単にオワコンになったりしないもの

あ!それなら、指揮官の、私に対する印象ってどんななの?

アイラはこの新しい質問への答えに興味津々のようで、待ちきれない様子でこちらを覗き込んできた

そう!訊いてみたいな、指揮官が思う私ってどんな人?

窓の側に立つ彼女を、太陽の光が明るく照らしている。アイラはいたずらっ子のように瞳を輝かせながら、自分の答えを待ち望んでいる

なぜかわからないが頭の中に――先ほど見た灰色の保全エリアのこと、そして、その暗い景色に彩りを添えた鮮やかなピンク色が浮かんだ

あれ?いい言葉が見つからない?

例えば「身長2m21cm」みたいな感じでもいいわよ!

そう言われれば、空中庭園ではしょっちゅうアイラの名前を聞くし、アイラの作品も数多く見てきている。しかし……

瞳を輝かせながらこちらを見つめている本人の前で言葉を紡ぎ出そうとしても、うまく頭が働かなかった

……どんな言葉で言い表せばいいのかわからないのね?

そうだ!描いてみるってのはどう!?

こちらがためらう間を与えず、アイラは素早くスケッチブックの白いページをめくって、ドンと机の上に置いた

細かく描く必要はないわ、パッと見た感じの「特徴」みたいなのを描いてよ!

例えば「身長が2m21cm」とか、「2つの翼が生えている」みたいな!

しかし、考えてみると、絵を描くというのはいい方法かもしれない

こんな風に改まって絵を描くのは久しぶりだ。ペンを持つ手がぎこちない。少し悩んだが、つい先ほど窓からアイラを見た時、自分の頭に浮かんだイメージを描いた

……ピンクの……女の子?

アイラはこちらの後ろに回り込むと、顔を覗き込むようにして、不思議そうにスケッチブックを眺めた

花……ぷっ、この線は何を表現してるの?

白い紙の上、シンプルな線で窓と太陽の光を描いた。ベレー帽をかぶったピンク色の少女の周りには、たくさんの花が咲き誇っている

指揮官の心の中では……私はこんな感じなのね!

アイラはまだインクが完全に乾いていないスケッチブックを持ち上げて、描かれた彼女の「イメージ」に驚いているようだった

パレットとか、絵筆とかじゃないんだ?私が人々に与える第一印象って、「新進気鋭の芸術家」だと思ってた……

絵を太陽の光が照らし、そこに描かれた少女を温かく染めていく

……指揮官は絵を習ったことがあるの?すごく才能がある感じよ

アイラ大先生が、基礎から教えてあげましょうか?

私、サロンでレッスンをするの大好きなの!でも……

なぜか、誰も参加してくれなくなるのよ。あまりにも概念的で、わかりづらいとか言われちゃって……

でも、指揮官も一度トライしてみない?真面目にちゃんと教えるから

ふふふ、じゃあ決まりね!

空中庭園に戻ったら、連絡して!

じゃあ、ゆっくり休んでね、そろそろ失礼する~

スケッチブックを片付けて、アイラは茶目っ気たっぷりに首を傾げた。そして現れた時と同じように、風のように部屋から出て行った

これが……芸術家なんだろうか?

窓から見ると、アイラは鼻歌を歌いながらテントのほうへ歩いていく

そう遠くないところで、小さな女の子がもつれたロープの山を抱えながらよろよろ歩き、うっかり転んでしまった。アイラは素早く駆け寄って、少女を抱え起こす

大丈夫?怪我はない?

彼女はそっと包帯を取り出して、泣いている女の子の傷の手当てをした。そして巻いた包帯に素早く何かを描いた

ほら、キュートでしょ?このピンク、私が作った特別な色なのよ

こんなにたくさんのロープ……偉いね、テントを補強するお手伝いをしてるの?

私も一緒に行って手伝うわ!

ピンク色の髪をした彼女は、女の子が持っていた重いロープをひょいと持ち上げ、明るく笑いながら女の子を連れて別の方向へと歩き出した

彼女は女の子に何かを話したようだ。女の子の視線が自分が立っている窓の方に向いたかと思うと、彼女と一緒にくすくすと笑い始めた

……いつの間にか、窓から降り注ぐ太陽の光が暖かく感じられた