Story Reader / Affection / ビアンカ·陽昏·その3 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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ビアンカ·陽昏·その6

どんなに手を尽くしても雪山に近付けないとわかった頃には、すでに5月を迎えていた。ロサとともに麓の集落を渡り歩き、ビアンカの行方を探した

……あいつらは、深淵から現れた怪物よりよっぽど恐ろしいんだから!

人だかりの真ん中で、ぼろぼろの服を着たスカベンジャーが後ろの張り紙を指しながら、大げさに叫んでいた

人間のふりして、俺たちを殺すんだ……もう何人も行方不明になってる!

指揮官、あの貼り紙の中に、ビアンカお姉ちゃんに似た人がいる!

あんたら、魔女を知ってるのか?あいつが何人殺したかわかってんのか?

スカベンジャーは大げさに手足を動かした

もしあいつの隠れ場所がわかってたら、誰もこんなに怯えずに済むさ!

あんたは大切な人を失ってないから、そんなことが言えるんだろ?

結局あんたもあの魔女の味方なんだ。だから、あいつを庇おうとしてるんだ!

「そうだそうだ」「魔女は町から出ていけ」…… 南の町の教会と同じように、ここの人々もビアンカに強い偏見を抱いていた

何度も言葉を尽くしたが理解してもらえず、ロサとともに静かに人混みを離れ、自分たちでビアンカの手がかりを追うことにした

あの興奮ぶりでは、まともに話もできない

煽り立てるスカベンジャーを無視して、ロサとともにそっと人混みから離れ、自分たちでビアンカの手がかりを追うことにした

指揮官、覚えてます?私たちが町で聞いた、多くの人が深淵の信者になった噂

集落の小道を歩く中で、ロサが突然自分の服の裾を引っ張った

この集落は深淵にすごく近い……なんだか怖い……

その言葉を聞く前から、身に迫る危険を感じていた。陽が落ちると、闇に紛れて、鋭い視線がこちらをうかがっている

しかし、どれだけが経っても襲ってくる様子はない……

指揮官、あそこ、すごい煙!

お願いだ、許してくれ!もう二度としないから!

崩れかけた木の小屋の側で、炎が激しく燃えている。横たわっているのは、「怪物」たちの死体だ。牙はまだ完全に成長していないが、顔はすでに歪み、獰猛な表情だった

ぼろ布をまとった男が、無様に跪いていた。よく見ると、昼間、魔女のことを大声で喧伝していたスカベンジャーだった

あいつらに、「深淵」を崇めれば力と食料が手に入るって言われたんだ……まだ信じる前だったのに、あいつら変異しやがって……こんなことになるとわかってたら……!

魔女様、お願いです、娘の成長を見届けさせてください……いっそ俺を殺してもいいですから。死体は集落へ送ってくれれば、何かの役に立つはず……

彼がひれ伏した先には、フードを被った女性がいた。しかし、それはビアンカではなかった

さっさと失せろ。お前の死体を運ぶ暇なんてない

ありがとう、ありがとうございます……

わかった、本当にわかったから。もう二度としないから……

男は何度も地面に頭をこすりつけ、最後には震えながらその場を去った

無意味よ

魔女と呼ばれた女性が顔を上げ、こちらを見据えて口を開いた

たったひとりを説得したって、次の誰かがまた私たちを憎む。それだけのこと

誰かの家族、恋人、友人を私たちが殺す限り、このループは終わらない

どうせ汚れ仕事なのに。ビアンカは繊細すぎる

ここにいた信者は、全部あの子が始末したよ。でも、すぐにいなくなった。私だったら、あの男を即座に屍にしてるけどね

さあね?あんたに血が飛ぶのが嫌だったんじゃない?

彼女は意味ありげな視線を残して、背を向けて立ち去っていった

ビアンカお姉ちゃんは……ずっと私たちを見守ってるんですよね?

「彼女がいる」直感に従い、素早く振り返った

白い雪がしんしんと降りしきる。夜の帳に包まれた雪景の中に、人の姿はなかった

その後、ロサとともに世界中を探し回った。いたるところに彼女の痕跡を見つけたが、姿はどこにもなかった

もう……帰りましょう……

もう6月。ビアンカお姉ちゃんがいるかもしれない場所は探し尽くしました。彼女は、誰にも会おうとしない

……誰かが彼女の夢に訪れた。彼女がそれに気付いただけで、十分じゃないでしょうか?

ロサは前へ進もうとする自分の裾を引っぱり、小さく首を振った

わかってるはずです。もうこれ以上進めないって……

どこを探しても彼女はいない。一体どうすれば彼女に会える?

ビアンカお姉ちゃんは……ずっと私たちを見守ってるんですよね?

その時、ひとつの大胆な考えが浮かんだ

剣先が再び急所を貫き、熱い血が吹雪の中へ飛び散った。それはすぐに冷えて固まり、灰紅色の結晶となった

一撃で命を絶てば苦しみを感じない

聖剣を静かに腰へ戻し、ビアンカは無言で信徒たちの亡骸を見下ろしていた

ある者は、死んだ母に再び会いたくて。ある者は、辛い過去から逃れるために。ある者は、愛する人を激動の世界で守るため……

魂を深淵に売り渡す前に彼らが願ったことは、どれもあまりに脆く、そして儚かった

いまや雪に伏せたその姿から、人としての面影を見つけることはできない

……

全ての粛清が終わった。ビアンカはふと、山の下に立つ指揮官の姿を見つめた

ふたりが別れてから、もうどれほどの時が流れたのだろう。それでもその人その人は、なおも雪原を歩き続けていた

どうやら……無事のようですね

様子を見届け、彼女は背を向けて立ち去ろうとした

彼女がここにいるなら……必ず……

その声に、彼女の足が一瞬止まった

……誰かが彼女の夢に訪れた。彼女がそれに気付いただけで、十分じゃないでしょうか?

……もうこれ以上進めないって……

いや、まだだ……

しばらく沈黙したあと、辺りを見回しはじめた

…………

ビアンカはとっさに一歩引き、身を山影に隠した

指揮官はロサちゃんに何かを小声で言い残すと、そのままひとりで立ち去った

待って、そっちは……

ひたすらに土地の境界へと歩みを進めた。無限に広がる世界の端に、断崖のような裂け目が姿を現した。凍りついた雪の下には、数えきれないほどの骸骨が埋もれている

突風のうなりは、まるで無数の亡霊の慟哭のように響き渡る。1歩進む度に、不吉な影が更に濃く立ち込める

たどり着いたのは断崖の縁。ここが、ビアンカの悪夢の境目だ

ひとりで「深淵」へ行くって???

その言葉に、ロサは目を見開いた

なんであそこに?「魔女」の使命を果たすなら、彼女は人間の世界にしか現れないはず……

それにアシモフさんが言ってたでしょ。彼女の夢の中でも、あなたへのダメ―ジはそのままマインドビーコンに影響するって

夕闇の光が視界に宿る刹那、深淵がゆっくりとその口を開いた。まるで、純白の世界を呑み込もうとするように……

怪物

ギィ!!!!

無数の手が這い寄り、自分の足を掴もうとする

反射的にナイフを振り下ろした。触手のいくつかを切断したが、それ以上の数が喉元と心臓へ迫ってくる

ここで落ちれば、確実に死ぬだろう。それほどまでに恐ろしい黒い闇だった。触手はナイフごと腕を絡め取り、深淵へと引きずり下ろそうとする

逃げる間もなく、足下の地面が崩れ落ちた

身体は底の見えぬ闇へと落ちていき、光すら視界から消えていった

???

指揮官……!

頭の中に鋭い痛みが走り、全身へと広がっていく。心臓の感覚が失われ、息もできない。マインドビーコンが自分に危険信号を発信し続けている

彼女の悪夢の中で、死ぬのか?

???

指揮官!!

その時、鋭い剣閃が闇を切り裂き、身体が一気に上空へと引き上げられた

指揮官……殿?

足が再び地を踏んだ瞬間、身体の感覚がゆっくりと戻ってきた

深淵の崖縁で最後の触手を断ち切ると、彼女はようやくこちらを振り返った

どうして、あなたがここに?

ここがどんな場所か、あなたは知っているのですか?どれだけの人が、ここで命を落としたか?私が間に合わなかったら、少しでも遅れていたら、あなたは……!

…………失礼しました、指揮官殿

どうか教えてください……あなたが命を賭けて「深淵」に来た理由を

……?

…………

だからって、あんな危険なことを!?

あなたの命がどれほど尊いか、わかっていますか?どれだけの人があなたの無事を祈っているか、平和な日常はどれほど貴重か……私に会うために、その全てを賭けるなんて!

……どうか覚えていてください。私の願いは、あなたを守ることです。それは、あなたと再会できなくても、決して変わらない約束なのです

だからこそ……教えてください。あなたは一体、何を背負ってここまで来たのですか?

……?

ビアンカの瞳を見据えながら、その言葉をただ繰り返す

…………

申し訳ありません、指揮官殿

……ええ、私もずっと、考えていました……

春になったら、教会には再び旅人が集い、神父様の足も癒え、天気も少しずつ和らいでいくはず

そして山道の雪が溶ければ、指揮官殿は軍へ戻るでしょう?でも、あなたが待つ日々はそう長くないはず。だって百合の花が咲くのはもうすぐですから

そして、私たちは再会し、一緒に百合の花を眺めるのです――あの日、約束したように

春に夏の約束をして、夏に秋の約束をして……そうして、少しずつ時間を積み重ねていけたなら……

いつか、私たちも、これまで祝福してきた無数の人々のように、生涯をともにするふたりとなれるでしょうか……

自分自身には祝福の言葉をかけられませんが、スノー神父なら、きっと喜んで引き受けてくださるでしょう。教会で、神父様のお導きの下……

その後、どこへ行きましょうか?雪原も美しいですが、南にも行ってみたい……ふふ、山の麓の小さな町に、小さな家を建てるのはどうですか?

聖剣を持たない私はきっと少し頼りないでしょう。でも、指揮官殿がいれば……信じて頼れる、そんな人が隣にいてくれるなら……

その時、私は聖女ではなく……ただのひとりの人間として、あなたとゆっくり歳を重ねていく……

ビアンカ

……

ビアンカ

……それは、私が聖剣を手に取ってしまったからです

自分の選択に悔いはありません。でも、誰かの罪を終わらせるためとはいえ、罪を重ねてしまったのは、紛れもない事実です

ビアンカ

ええ……私は聖剣を取らなければならなかった。彼らに刃を向けなければならなかった

……そうやって、私は自分を慰めてきました

風と雪が唸りを上げ、身を裂く寒さが肌を刺す。どんどん激しさを増していく暴風に、人間は後ずさりし、それ以上進めなくなった

まるで呪いのように、雪はビアンカの姿を無機質な白銀へと飲み込んでいく

確かに彼女は目の前にいる。しかし、遥か彼方の存在のように、遠く感じられた

ビアンカ

この雪は、私の手が染めた血を隠すために降っているのです

自分をいくら慰めても、亡くなった人はもう二度と戻ってきません

吹雪に包まれた場所はあまりにも寒かった。しかし……

ビアンカ

雪がやめば、また血が世界を覆ってしまいます

彼女は、自らを過酷な冬に閉じ込めることを選んだのだ

ビアンカ

もうおわかりでしょう?ここは、決して清らかな場所ではありません。そして、私は「魔女」になってしまったのです

ビアンカ

では、お訊ねします。あなたはどうして?なぜ、罪深き私のために、たったひとりで「深淵」へいらしたのですか?

ビアンカ

…………

……指揮官殿、ビアンカはもう歩むべき道を選びました

ビアンカ

その道は、罪と茨に満ち、苦しみに包まれた道です

ビアンカ

だからこそ、この道を歩むのは私ひとりで十分です

まるで聖剣の呪いのように、雪の中から黒い茨が伸び、ビアンカの身を絡め取った

ビアンカ

これ以上近付いてはいけません。この茨は、あなたをも傷つけます……

ビアンカ

お帰りになってください……

ビアンカ

もう十分です、指揮官殿……

亡くなった人たちは、安らかに眠っている

君が守った子供たちは、時の中で成長している……

君がもたらした風雪は、町の平和を静かに守り続けている

人々が君を恐れても、君の行いは確かにこの世界を救った

「深淵」に足を踏み入れた瞬間、迷いは一切なかった

「魔女」である君が血に染まっていようとも、その魂は今も聖女のままだと信じているから

君が闇にいるのは、他の人を光に導くためだ

そして「ビアンカ」がくれたあの約束は、永遠に色褪せない

——かつて、君に似た「魔女」は言った。あの子はいつも優柔不断で弱いって

——でも、自分は知っている。なぜ君が、どんな時も真実を突き止めようとするのかを

——君は、知っているからだ。人は闇に堕ちるその瞬間まで、自分の中の善を守り続けようとする

——君は、一輪の花の開花を見届けるために、一輪の花の香りを愛でるために、春を渡り歩く人だ

……全ては君が愛するもの

ビアンカ

……ええ。わかりました、指揮官殿

………………

???

指揮官殿……

淡く優しい香りが、鼻をくすぐった

ビアンカ

指揮官殿?

視線を上げると、そこには聖なる光を宿す瞳があった

もちろん……違います。あなたのお陰で、私の意識海が安定しました。私たちは現実に戻ってきたんです

はい。あなたのお陰で、意識海が安定しました。私たちはもう現実に戻ってきたんです

ロサから聞きました。機体のデータはすでに覚醒させられる状態にあったのに、あなたは私が自然に目覚めるのをずっと待っていてくれたと

たったひとりで「深淵」へ向かうなんて……誰が何と言っても止められなかったそうですね。マインドビーコンが無事で本当によかった

それだけ冗談が言えるのなら、体調は大丈夫そうですね

彼女は呆れたように、でもどこか安心したように、こちらを一瞥した

……本当に、無茶ばかりするんですから

あなたを責めるのはもうやめましょう。とにかく……

ありがとうございました、指揮官殿

彼女は背後から、そっと白い花束を取り出した。それが香りの正体だったらしい

夢の中、凍える土に植えた希望の球根が今、現実の温室で芽吹き、花を咲かせていた

この夢のこと、心に刻みます……

夢は積み重なった記憶で構成されるもの。幾度辛い過去と向き合おうとも、彼女は迷うことなく、同じ選択をするのだろう

それは決して変えることのできない過去。けれど目の前のその人は、過去から未来へと歩みを重ね、果てない風雪の中で彼女の手をしっかりと握りしめてくれた

彼女もまた、[player name]の手を取り、百合の花束をその人その人の手に託した

はい、ただいま戻りました、指揮官殿