Story Reader / Affection / ビアンカ·陽昏·その1 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

ビアンカ·陽昏·その6

どんなに手を尽くしても雪山に近付けないとわかった頃には、すでに5月を迎えていた。ロサとともに麓の集落を渡り歩き、ビアンカの行方を探した

……あいつらは、深淵から現れた怪物よりよっぽど恐ろしいんだから!

人だかりの真ん中で、ぼろぼろの服を着たスカベンジャーが後ろの張り紙を指しながら、大げさに叫んでいた

人間のふりして、俺たちを殺すんだ……もう何人も行方不明になってる!

指揮官、あの貼り紙の中に、ビアンカお姉ちゃんに似た人がいる!

あんたら、魔女を知ってるのか?あいつが何人殺したかわかってんのか?

スカベンジャーは大げさに手足を動かした

もしあいつの隠れ場所がわかってたら、誰もこんなに怯えずに済むさ!

あんたは大切な人を失ってないから、そんなことが言えるんだろ?

結局あんたもあの魔女の味方なんだ。だから、あいつを庇おうとしてるんだ!

「そうだそうだ」「魔女は町から出ていけ」…… 南の町の教会と同じように、ここの人々もビアンカに強い偏見を抱いていた

何度も言葉を尽くしたが理解してもらえず、ロサとともに静かに人混みを離れ、自分たちでビアンカの手がかりを追うことにした

あの興奮ぶりでは、まともに話もできない

煽り立てるスカベンジャーを無視して、ロサとともにそっと人混みから離れ、自分たちでビアンカの手がかりを追うことにした

指揮官、覚えてます?私たちが町で聞いた、多くの人が深淵の信者になった噂

集落の小道を歩く中で、ロサが突然自分の服の裾を引っ張った

この集落は深淵にすごく近い……なんだか怖い……

その言葉を聞く前から、身に迫る危険を感じていた。陽が落ちると、闇に紛れて、鋭い視線がこちらをうかがっている

しかし、どれだけが経っても襲ってくる様子はない……

指揮官、あそこ、すごい煙!

お願いだ、許してくれ!もう二度としないから!

崩れかけた木の小屋の側で、炎が激しく燃えている。横たわっているのは、「怪物」たちの死体だ。牙はまだ完全に成長していないが、顔はすでに歪み、獰猛な表情だった

ぼろ布をまとった男が、無様に跪いていた。よく見ると、昼間、魔女のことを大声で喧伝していたスカベンジャーだった

あいつらに、「深淵」を崇めれば力と食料が手に入るって言われたんだ……まだ信じる前だったのに、あいつら変異しやがって……こんなことになるとわかってたら……!

魔女様、お願いです、娘の成長を見届けさせてください……いっそ俺を殺してもいいですから。死体は集落へ送ってくれれば、何かの役に立つはず……

彼がひれ伏した先には、フードを被った女性がいた。しかし、それはビアンカではなかった

さっさと失せろ。お前の死体を運ぶ暇なんてない

ありがとう、ありがとうございます……

わかった、本当にわかったから。もう二度としないから……

男は何度も地面に頭をこすりつけ、最後には震えながらその場を去った

無意味よ

魔女と呼ばれた女性が顔を上げ、こちらを見据えて口を開いた

たったひとりを説得したって、次の誰かがまた私たちを憎む。それだけのこと

誰かの家族、恋人、友人を私たちが殺す限り、このループは終わらない

どうせ汚れ仕事なのに。ビアンカは繊細すぎる

ここにいた信者は、全部あの子が始末したよ。でも、すぐにいなくなった。私だったら、あの男を即座に屍にしてるけどね

さあね?あんたに血が飛ぶのが嫌だったんじゃない?

彼女は意味ありげな視線を残して、背を向けて立ち去っていった

ビアンカお姉ちゃんは……ずっと私たちを見守ってるんですよね?

「彼女がいる」直感に従い、素早く振り返った

白い雪がしんしんと降りしきる。夜の帳に包まれた雪景の中に、人の姿はなかった

その後、ロサとともに世界中を探し回った。いたるところに彼女の痕跡を見つけたが、姿はどこにもなかった

もう……帰りましょう……

もう6月。ビアンカお姉ちゃんがいるかもしれない場所は探し尽くしました。彼女は、誰にも会おうとしない

……誰かが彼女の夢に訪れた。彼女がそれに気付いただけで、十分じゃないでしょうか?

ロサは前へ進もうとする自分の裾を引っぱり、小さく首を振った

わかってるはずです。もうこれ以上進めないって……

どこを探しても彼女はいない。一体どうすれば彼女に会える?

ビアンカお姉ちゃんは……ずっと私たちを見守ってるんですよね?

その時、ひとつの大胆な考えが浮かんだ

剣先が再び急所を貫き、熱い血が吹雪の中へ飛び散った。それはすぐに冷えて固まり、灰紅色の結晶となった

一撃で命を絶てば苦しみを感じない

聖剣を静かに腰へ戻し、ビアンカは無言で信徒たちの亡骸を見下ろしていた

ある者は、死んだ母に再び会いたくて。ある者は、辛い過去から逃れるために。ある者は、愛する人を激動の世界で守るため……

魂を深淵に売り渡す前に彼らが願ったことは、どれもあまりに脆く、そして儚かった

いまや雪に伏せたその姿から、人としての面影を見つけることはできない

……

全ての粛清が終わった。ビアンカはふと、山の下に立つ指揮官の姿を見つめた

ふたりが別れてから、もうどれほどの時が流れたのだろう。それでもその人その人は、なおも雪原を歩き続けていた

どうやら……無事のようですね

様子を見届け、彼女は背を向けて立ち去ろうとした

彼女がここにいるなら……必ず……

その声に、彼女の足が一瞬止まった

……誰かが彼女の夢に訪れた。彼女がそれに気付いただけで、十分じゃないでしょうか?

……もうこれ以上進めないって……

いや、まだだ……

しばらく沈黙したあと、辺りを見回しはじめた

…………

ビアンカはとっさに一歩引き、身を山影に隠した

指揮官はロサちゃんに何かを小声で言い残すと、そのままひとりで立ち去った

待って、そっちは……

ひたすらに土地の境界へと歩みを進めた。無限に広がる世界の端に、断崖のような裂け目が姿を現した。凍りついた雪の下には、数えきれないほどの骸骨が埋もれている

突風のうなりは、まるで無数の亡霊の慟哭のように響き渡る。1歩進む度に、不吉な影が更に濃く立ち込める

たどり着いたのは断崖の縁。ここが、ビアンカの悪夢の境目だ

ひとりで「深淵」へ行くって???

その言葉に、ロサは目を見開いた

なんであそこに?「魔女」の使命を果たすなら、彼女は人間の世界にしか現れないはず……

それにアシモフさんが言ってたでしょ。彼女の夢の中でも、あなたへのダメ―ジはそのままマインドビーコンに影響するって

夕闇の光が視界に宿る刹那、深淵がゆっくりとその口を開いた。まるで、純白の世界を呑み込もうとするように……

怪物

ギィ!!!!

無数の手が這い寄り、自分の足を掴もうとする

反射的にナイフを振り下ろした。触手のいくつかを切断したが、それ以上の数が喉元と心臓へ迫ってくる

ここで落ちれば、確実に死ぬだろう。それほどまでに恐ろしい黒い闇だった。触手はナイフごと腕を絡め取り、深淵へと引きずり下ろそうとする

逃げる間もなく、足下の地面が崩れ落ちた

身体は底の見えぬ闇へと落ちていき、光すら視界から消えていった

???

指揮官……!

頭の中に鋭い痛みが走り、全身へと広がっていく。心臓の感覚が失われ、息もできない。マインドビーコンが自分に危険信号を発信し続けている

彼女の悪夢の中で、死ぬのか?

???

指揮官!!

その時、鋭い剣閃が闇を切り裂き、身体が一気に上空へと引き上げられた

指揮官……殿?

足が再び地を踏んだ瞬間、身体の感覚がゆっくりと戻ってきた

深淵の崖縁で最後の触手を断ち切ると、彼女はようやくこちらを振り返った

どうして、あなたがここに?

ここがどんな場所か、あなたは知っているのですか?どれだけの人が、ここで命を落としたか?私が間に合わなかったら、少しでも遅れていたら、あなたは……!

…………失礼しました、指揮官殿

どうか教えてください……あなたが命を賭けて「深淵」に来た理由を

……?

…………

だからって、あんな危険なことを!?

あなたの命がどれほど尊いか、わかっていますか?どれだけの人があなたの無事を祈っているか、平和な日常はどれほど貴重か……私に会うために、その全てを賭けるなんて!

……どうか覚えていてください。私の願いは、あなたを守ることです。それは、あなたと再会できなくても、決して変わらない約束なのです

だからこそ……教えてください。あなたは一体、何を背負ってここまで来たのですか?

……?

ビアンカの瞳を見据えながら、その言葉をただ繰り返す

…………

申し訳ありません、指揮官殿

……ええ、私もずっと、考えていました……

春になったら、教会には再び旅人が集い、神父様の足も癒え、天気も少しずつ和らいでいくはず

そして山道の雪が溶ければ、指揮官殿は軍へ戻るでしょう?でも、あなたが待つ日々はそう長くないはず。だって百合の花が咲くのはもうすぐですから

そして、私たちは再会し、一緒に百合の花を眺めるのです――あの日、約束したように

春に夏の約束をして、夏に秋の約束をして……そうして、少しずつ時間を積み重ねていけたなら……

いつか、私たちも、これまで祝福してきた無数の人々のように、生涯をともにするふたりとなれるでしょうか……

自分自身には祝福の言葉をかけられませんが、スノー神父なら、きっと喜んで引き受けてくださるでしょう。教会で、神父様のお導きの下……

その後、どこへ行きましょうか?雪原も美しいですが、南にも行ってみたい……ふふ、山の麓の小さな町に、小さな家を建てるのはどうですか?

聖剣を持たない私はきっと少し頼りないでしょう。でも、指揮官殿がいれば……信じて頼れる、そんな人が隣にいてくれるなら……

その時、私は聖女ではなく……ただのひとりの人間として、あなたとゆっくり歳を重ねていく……

ビアンカ

……

ビアンカ

……それは、私が聖剣を手に取ってしまったからです

自分の選択に悔いはありません。でも、誰かの罪を終わらせるためとはいえ、罪を重ねてしまったのは、紛れもない事実です

ビアンカ

ええ……私は聖剣を取らなければならなかった。彼らに刃を向けなければならなかった

……そうやって、私は自分を慰めてきました

風と雪が唸りを上げ、身を裂く寒さが肌を刺す。どんどん激しさを増していく暴風に、人間は後ずさりし、それ以上進めなくなった

まるで呪いのように、雪はビアンカの姿を無機質な白銀へと飲み込んでいく

確かに彼女は目の前にいる。しかし、遥か彼方の存在のように、遠く感じられた

ビアンカ

この雪は、私の手が染めた血を隠すために降っているのです

自分をいくら慰めても、亡くなった人はもう二度と戻ってきません

吹雪に包まれた場所はあまりにも寒かった。しかし……

ビアンカ

雪がやめば、また血が世界を覆ってしまいます

彼女は、自らを過酷な冬に閉じ込めることを選んだのだ

ビアンカ

もうおわかりでしょう?ここは、決して清らかな場所ではありません。そして、私は「魔女」になってしまったのです

ビアンカ

では、お訊ねします。あなたはどうして?なぜ、罪深き私のために、たったひとりで「深淵」へいらしたのですか?

ビアンカ

…………

……指揮官殿、ビアンカはもう歩むべき道を選びました

ビアンカ

その道は、罪と茨に満ち、苦しみに包まれた道です

ビアンカ

だからこそ、この道を歩むのは私ひとりで十分です

まるで聖剣の呪いのように、雪の中から黒い茨が伸び、ビアンカの身を絡め取った

ビアンカ

これ以上近付いてはいけません。この茨は、あなたをも傷つけます……

ビアンカ

お帰りになってください……

ビアンカ

もう十分です、指揮官殿……

<i>亡くなった人たちは、安らかに眠っている</i>

<i>君が守った子供たちは、時の中で成長している……</i>

<i>君がもたらした風雪は、町の平和を静かに守り続けている</i>

<i>人々が君を恐れても、君の行いは確かにこの世界を救った</i>

<i>「深淵」に足を踏み入れた瞬間、迷いは一切なかった</i>

<para\><i>「魔女」である君が血に染まっていようとも、その魂は今も</i><para\><i>聖女のままだと信じているから</i>

<i><size=40>君が闇にいるのは、他の人を光に導くためだ</size></i>

<i><size=40>そして「ビアンカ」がくれたあの約束は、永遠に色褪せない</size></i>

——かつて、君に似た「魔女」は言った。あの子はいつも優柔不断で弱いって

——でも、自分は知っている。なぜ君が、どんな時も真実を突き止めようとするのかを

——君は、知っているからだ。人は闇に堕ちるその瞬間まで、自分の中の善を守り続けようとする

——君は、一輪の花の開花を見届けるために、一輪の花の香りを愛でるために、春を渡り歩く人だ

……全ては君が愛するもの

ビアンカ

……ええ。わかりました、指揮官殿

………………

???

指揮官殿……

淡く優しい香りが、鼻をくすぐった

ビアンカ

指揮官殿?

視線を上げると、そこには聖なる光を宿す瞳があった

もちろん……違います。あなたのお陰で、私の意識海が安定しました。私たちは現実に戻ってきたんです

はい。あなたのお陰で、意識海が安定しました。私たちはもう現実に戻ってきたんです

ロサから聞きました。機体のデータはすでに覚醒させられる状態にあったのに、あなたは私が自然に目覚めるのをずっと待っていてくれたと

たったひとりで「深淵」へ向かうなんて……誰が何と言っても止められなかったそうですね。マインドビーコンが無事で本当によかった

それだけ冗談が言えるのなら、体調は大丈夫そうですね

彼女は呆れたように、でもどこか安心したように、こちらを一瞥した

……本当に、無茶ばかりするんですから

あなたを責めるのはもうやめましょう。とにかく……

ありがとうございました、指揮官殿

彼女は背後から、そっと白い花束を取り出した。それが香りの正体だったらしい

夢の中、凍える土に植えた希望の球根が今、現実の温室で芽吹き、花を咲かせていた

この夢のこと、心に刻みます……

夢は積み重なった記憶で構成されるもの。幾度辛い過去と向き合おうとも、彼女は迷うことなく、同じ選択をするのだろう

それは決して変えることのできない過去。けれど目の前のその人は、過去から未来へと歩みを重ね、果てない風雪の中で彼女の手をしっかりと握りしめてくれた

彼女もまた、[player name]の手を取り、百合の花束をその人その人の手に託した

はい、ただいま戻りました、指揮官殿