Story Reader / コラボ / 黒炎廻る迷城 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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瞳の中の影

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ハアアッ――!

黒い刀が、振り下ろされた大鎌を弾く。回し蹴りで相手のバランスを崩すと、カノン砲をチャージして最後の一撃をお見舞いする

煙が散ると、大鎌を持った少女が興奮の笑みを浮かべながら近付いてくる

ステキ――!

私が惚れ込んだだけあるわ……ブラック★ロックシューター!

デッドマスターを取り囲んでいるサイコロのひとつが光ってブラック★ロックシューターの下へ飛んでいく。サイコロはブラック★ロックシューターの身体に落ち、この戦闘の勝者を示した

今回はあなたの負け

ええ。でも、次はどうかしら

スコアボードのターン数が27から28へと変わり、黒のターンになった

ここからはこっちがリードする

そう?ここまでずっと私に釘付けで、後ろを気にする余裕なんてなかったでしょう?

緑の瞳の少女はブラック★ロックシューターに近付きその耳元で囁く

……

ブラック★ロックシューターは頭上のバーチャルの城を見上げた。彼女とデッドマスターの光はすでにゴール付近だ。他の駒たちはまだ中央で争っている

ルシアの「ナイト」は白の2枚の駒に挟まれ、後方に取り残されたフェクダに至っては……ブラック★ロックシューターは始めから戦力外だと感じていた

誰が一番にゴールするかに意味はないわ。あなたたちの敗北はもう決まってるから

私ひとりで十分

ええ……そう、そうよ。他人は必要ない、あなたは私だけ見てればいいの

あなたを逃がすことのない悪夢、それが私。運命の「宿敵」よ!

……本当にしつこい

でも……

でも?

何でもない

ブラック★ロックシューターは首を振ると、ただ黙ってチェスボードの変化を見つめた

私は……どんな選択をするのかな……

フェクダは機械的に一歩ずつ歩みを進めながら、先ほどのワーカーの言葉を思い出していた

サイコロの指示を無視することも考えたが、実際に反抗する勇気はなかった

このゲームの「ポーン」にゴール到達の資格はない。それを理解しているのに、最後に「犠牲」になるのを拒むかどうかが、彼女にもわからなかった

本当に何を望んでいるかさえもわからない、ただ逃避を選び続けている

なんでこんなこと始めちゃったんだろ……

彼女は恥ずべき臆病者、戦場の逃亡兵だ。すでにスピリッツとしての運命を捨てたと思っていたのに、残された者に代わってここまで来てしまった

私は一体……

フェクダ、ここにいたのですか?

メラク……

ここ数日、毎晩村に帰らないで、どうしたんです?

私……

まだあの日のことを考えているのですか?皆、きっとわかってくれていますよ

他の人たちがどう思おうと関係ないんです

私はただ……自分自身に……

何を考えているのか、聞かせてくれますか?

……

メラク、私たちはどうして彼女と敵対するのですか?

えっ?

あなたが教えてくれたひと言ひと言は、全てあなたの本心でしょうか?

私たち、一体何のために……ずっと戦っているんですか?

回廊の稼働?世界の発展?私たちの間にそんなご大層な理由があって、それで殺し合いを始めたっていうんですか?

フェクダ……?

あの日、あの黒い剣を向けられた時、あの目の向こうに何を見たと思います?

彼女は溢れる疑問を抱え、その炎の中で最後の答えを見つけようとした

死体だらけの戦場に立ち……無数の血で染まった黒い服の人……

剣を握り、恐ろしい笑みを浮かべていた

それは……私だった

彼女は幻想を見た

彼女の剣が敵の胸を穿つと、鮮血が蝶の羽のように飛び散った

その瞬間、彼女の感情が沸き立ち、感じたことのない爽快感を感じたのだ

体内にぽっかりと空いた空洞を埋めるかのように、彼女はその剣で近付くもの全てを傷つけたいと望んだ

その時、彼女は気付いてしまった

その表情は何度も見てきた。ただ、ずっと直視することを避けてきただけだ

敵対するスピリッツを殺す度に。彼女が何度も戦場に立つ度に――

――皆、同じ表情だった

皆が、人を傷つけることを心底楽しんでいたのだ

その時になって彼女は理解した。自分が初めて目を開けた時、メラクが彼女に手を差し伸べたと同時に、口角に笑みを浮かべた意味を

あれは新た生命の誕生を祝福するものではなく、この世界の争いが続くことを祝福する喜びだったのだと

私……怖い

彼女じゃなくて、自分自身が

もしいつか、私があなたにも――

なるがままに受け入れます

メラク……?

前の「フェクダ」のことを、話しましたっけ?

まさか……

親友でした

あなたの言う通り、スピリッツたちが争いに明け暮れていたとしても、彼女が敵になることはない、と信じていました

でも、私は間違っていた。私たちは自分が思っている以上に心が狭い存在なのです

私たちの関係が、いつ綻んだのかは覚えていません。ただ覚えているのは、彼女が私に武器を振り上げ、最後はこの手で彼女を殺してしまったことだけ

その日、あなたが私の目の前で生まれたんです

じゃあ、私は……

私たちは完璧ではないから、いつまでもこのままではいられないでしょう

だから、あなたと敵対することは別に怖くありません。もしその日が来たとしても、それは私たちの意志によるもの

でも、私の言葉が本心かどうか疑われるのは……悲しいですね

そんなつもりじゃ……

争う理由が浅はかであったとしても。目指した先に何もなかったとしても。私たちはその行為に深い意味を与えることができます

ただ自分自身に言い聞かせているだけかもしれませんが、それでも信じたいのです

しかし、何があっても確かなことは、100%私の本心だということです

いつか敵対したとしても、この先の未来で私たちの存在が消えたとしても、ね

心から、次の「メラク」と「フェクダ」も友達になることを願っているんです

それに……何の意味があるのですか?メラク

彼女がつぶやいたその瞬間、前方で剣のぶつかる音が聞こえた

あれは――

なんてしつこい――!

刀を持った少女は白いスピリッツの刺突をひらりと躱すと、すぐさまもうひとりのスピリッツの斬撃を刀で弾いた

3枚の駒が同じマスに留まっているせいで、彼女は白の「ナイト」と「ポーン」の同時攻撃を受けている

2枚の駒での進攻は利益こそ少ないが勝率は高い。白の「キング」はそうやってルシアのサイコロをすり減らしていっている

見くびらないでください!

敵ふたりを相手にしようとも、少女の気迫が衰える様子はない

彼女は再びスピリッツたちから距離を取ると、刀を肩の前に構え集中した

次の瞬間、彼女が刀を振るうと、蒼白の暴風が巻き上がり、無数の氷片が白の「ナイト」の動きを封じた

そして、閃光が走る

……

白の「ポーン」が反応する間もなく、彼女の刀は真っ二つに折られた

「ポーン」の最後のサイコロがゆっくり消えると、彼女の姿も消え、ゲームからの退場を告げられる

このまま一気に――!

敵をひとり片付け、ルシアは旋回の勢いに任せて、氷に封じられたままの「ナイト」に刀を向けた。絶好のチャンスだ

背中の噴射装置を出力し、彼女は電光石火の速さで突進する

だが、切っ先が「ナイト」の首に迫った瞬間、彼女の機体から異音が響いた

彼女の左足の排気口で、耳障りな音とともにオレンジ色の火花が飛んでいる。突然のオーバーロードに身体のバランスを崩され、彼女の攻勢が止まってしまう

こんなタイミングで――

激しい戦闘が著しく機体を損耗させ、一瞬の内に致命的な綻びを生んだのだ

「ナイト」は氷を切り裂くと、その剣でルシアの胸を切りつけた

やめて――!

フェクダは思わず叫んでルシアの方へと走ったが、マス目を区切っているバリアに阻まれてしまった

ルシアの少ないサイコロが減るのを見ているしかできない彼女に、白の「ナイト」が気付く

……

お前……!

彼女は拳をバリアに打ちつけ、目を見開いて白い服のスピリッツをじっと見つめた

顔はマントに隠れて見えず、過去の雰囲気とまったく違っていても、彼女にはそれが誰かわかった

フェクダ……

白の「ナイト」に扮したスピリッツが、ゆっくりと彼女の名を呼んだ

本当に行くんですか?メラク

ええ、誰かが責任を負わなければ

城が脅威になるのは、ひとつの村に限ったことではありません。いずれ回廊全てが危険に晒されるでしょう

本当にそう思います?

いつの間に私の信用はそこまで落ちてしまったんでしょうね?

まだ迷っているのはわかっています。だから、一緒に来てとは言いません

それはあの黒い悪魔に挑むってこと、あなたもわかってるでしょう

……ええ。でもあなたと同じで、私も「答え」を探している

止まる訳にはいかないんです、フェクダ

……

そなたの駒は指示を拒絶したようだな

そなたの負けだ

チェスボードの上で、黒の駒が次々と色を失っていった

……それで、敗者にはどんな罰が?

罰?なぜそんなことを?これはただの「ゲーム」だ、違うか?

ゲーム……?

ただの暇つぶしの遊びだ。勝とうが負けようが、何も変わらない

あなたは……私たちを消滅させるんじゃ……

それは手段であって目的ではない。そなたたち欠陥だらけの産物には興味がない

私が求めるのは、「闘争」に操られし知性の手が届かぬもの

手が届かない……?

なんだ、信じておらぬな?

「闘争」の果ては無だ。出口も答えもない

この回廊は無意味に循環し、最後は滅亡へと向かうだけ

……私たちの「意味」を定義するのはあなたではありません

定義ではない、述べているにすぎない

もとよりそなたの理解など求めぬが……これはこれで見物かもしれんな

己の目で見たいか?そなたが真に答えを求めているのなら

……

彼女はしばらく沈黙した

彼女には拒む理由が数多くあったが、結局は「キング」の差し伸べた手を取った

その瞬間――

彼女はまったく違う世界を見た

無数の生命が死んでいく

無数の価値が儚く散っていく

空が崩れ落ち、黄金の海は一夜にして決壊した

作り出された災厄、取り返しのつかない過ち

苛まれる魂、絡み合う運命

留まり続ける影、反吐の出そうな狂乱

最後に、全ての幻影が1カ所へと集まっていく

それは本質であり、そして起源であり、

それは鏡だった

そして――

鏡は彼女の姿を映している

……

メラク……!どうしてそこに!?

「ナイト」はフェクダの叫びに応えることなく剣を収めた。ターンが変わると、「ナイト」のサイコロが光り、次のエリアへの移動を促している

これは……少しまずい状況になりました

ルシアは剣を支えに身を起こすと、ゆっくりと立ち上がった

機体の排気口がパチパチと火花を散らし、移動するのさえ辛そうな状態だ。彼女は動かない左足を引きずってフェクダの前までやってくると、苦笑いを浮かべた

「ナイト」は……後続の駒を阻止し、強制的に自分との戦闘に持ち込めるんです

「ナイト」の駒の特性上、ルシア自身が黒の「ナイト」であっても、白側の防衛は突破できない

今の……状態では……

彼女のサイコロは残りふたつ、白の「ナイト」がその行く手を阻んでいる

これ以上無理しないで!ここに留まっていればいいじゃない?

それはできません……指揮官のお傍に行かなくては

私はおそらくゴールにはたどり着けません。でも、お役に立つことはできる……

まだこの「ゲーム」の勝算はあります。指揮官のために、私がそのチャンスを作ります

どうして……?

えっ?

どうして、そんなこと簡単に言えるの?

その指揮官って人のために……どうして進んで犠牲になれるの?

……

「犠牲」ではありません

お、怒った……?

いえ、まだ私たちは出会って間もないですから、お互いのことをよく知らないのは仕方ありません

私と指揮官の付き合いはもうずいぶん長いものです。グレイレイヴンが組織されたあの日から今まで、三日三晩では語り尽くせないほど色々なことがありました

楽しいことも、辛いこともありましたし、何度も衝突しました

でもどんなに離れても、私たちは最後には必ずグレイレイヴンで顔を合わせるんです

そうやってこれまで一緒にたくさんの経験をして、お互いのいい面も、悪い面も知っているからこそ、こう言えます――

指揮官が私に自己犠牲を求めることはないし、私も……安易に自分を犠牲にすることはありません

言葉できちんと伝えられない状況でも、あの方の行動からはその心が伝わってきます

私は、ただその信頼に答えるだけです

信頼……

とはいっても……確たる根拠のない、曖昧な直感のようなものですが……

ターンが切り替わり、ルシアのサイコロが光る

彼女は顔の埃をささっと払うと、フェクダを励ますように揺るぎない笑顔を見せた

剣を握り、身体を立て直す

私と指揮官はこれまでも、数えきれないほどの苦境や危機に遭遇してきました――

いつもこれが「最期」だと覚悟するのですが、私たちは必ずその「最期」を乗り越えるんです

今回もきっと「最期」にはなりません。だって……

私たちの行く道のりは、まだまだ長いのですから