どれほど戦闘が続いたのだろう
色の異なるふたつの稲妻が交差するようにして、刀と剣が再び交わった
刀と剣が対峙したのはほんの一瞬だった。αは自分の姿勢を変えると、その勢いで自分の体を左前方へ滑らせ、黒服の少女の重心を崩しにかかった
しかし相手は体を安定させるべく、素早く半円を描くようにして左足を後ろに動かした。そして剣をαに向けて構え直した
……
……
双方の息がいよいよ荒くなってきた。αの瞳に微かな興奮が煌めく
久しぶりに全力を尽くして戦っている。あのウィンターキャッスル以来のことだ
……あなたは強い
対峙している時、黒服の少女がαに告げた
ふ……ありがとうって言うべきかしら?
少し態度が変わったように見えるが、αの警戒心は戦闘前よりも強くなっていた
彼女は一体何者なのか皆目見当もつかない、だが計り知れない戦闘力があるのは事実だ。空中庭園に突然にこんな、強大な力を持つ構造体が現れたとは思えない
お互い探り合っている中で、αは相手の体から一切のパニシング反応を検知できなかった。彼女が昇格者である可能性は完全に排除される
あなたも無数の「闘争」で洗練された、選ばれた存在なのが感じられる
何を……さっきから意味不明なことばかり言っているのね
でも残念だけど……あなたは「彼ら」のように「外来者」だから、「撃破」されるわけにはいかない
彼ら……?
αはまだ状況を把握しきれていなかったが、体が勝手に反応した
身を翻して刃を振りかざすと、後ろから自分に襲ってきた「何か」を真っぷたつに切り裂いた
異合生物?
真っぷたつに切り裂かれた異合生物は完全に絶命しておらず、もがきながらαの方へと近付く。遠くから異合生物と侵蝕体も次から次へと現れてきた、彼らの目標は明らかだ
どうして異合生物が……
異重合塔が現れたところで、異合生物が変わったとしても、彼らが自らより強い昇格者を襲うなんてありえないことだ
それに今もまだ、その辺に変化していない侵蝕体が混じっている
誰かに操られている?
αが後ろを振り向くと、黒服の少女も先ほど彼女に襲いかかってきた異合生物と戦っていた
少女は黒色の大剣で1匹の異合生物の体を貫いたと同時に、空から襲ってきた鳥型の異合生物の群れを、高精度の射撃で撃ち落とした
爆発による衝撃波で少女のフードが飛ばされ、左右の長さが異なる黒色のツインテールが露わになる
異合生物の相手をするαに視線を投げながら、蒼い瞳をパチパチと瞬かせている。何か考え事をしているようだ
……?
少女は砲口をαに向けると、砲弾1発でαの後方にいた異合生物を粉々にした
……手伝ってくれない?
彼女は目線でαに、一緒に目先の問題を解決するように促した
……ふざけてるの?
態度がころころ変わる少女に苛つきを覚えながら、αは刃を構え、異常行動をしている異合生物を片付けてから再考しようと決めた
黒色の刃が最後の異合生物を断ち切り、耳をつんざくような末期の悲鳴とともに、街は再び静寂に包まれる
異合生物の死体の山の隣に立つαを見て、黒服の少女は頭を下げてしばらく考えた挙句、剣を地面に突き刺した
……ブラック★ロックシューター
なんですって?
αはしばし呆気に取られたあと、今のは自分が最初に聞いた質問への答えだとようやく気付いた
それでも、αは簡単に警戒心を解いたりはしない。彼女は自分の手を腰の小太刀に置いたまま、眼光鋭く少女を睨んでいる
だが少女は彼女の敵意を無視した。まるで空気を読むことができない者のように、αの方へずんずんと近付く
彼らみたいな気配だったから、てっきり彼らの「仲間」かなって
地面に倒れた異合生物を指で示しながら、αを襲った経緯を説明した
「パニシング」のため?冗談じゃない……
あなた、本当に「パニシング」、あるいは「昇格者」については何も知らないようね……
パニシング……「この世界」にもともとそういう概念がないから、知らないのも当然でしょう
「この世界」……?あなたは一体何を言っているの?
自分がどうやってここへ来たのか覚えていない?
……
少女の予想外の質問に、αは少し戸惑った
彼女はこれまでのように、ルナと昇格ネットワークとの根源的なリンクを切断する方法を探すため、地上に駆け回っていたのだ
そして突如この少女に襲撃されたのだった。今に至るまで、具体的に何があったのかをうまく理解できない
じゃ、その城のことを知っている?
……城?
αは無意識の内に振り返り、彼女が指さす方を見た
次の瞬間、αは思わず険しい表情になった
今までありとあらゆる不思議な造物や奇観を目にしてきたが、今彼女の目に映った景色は明らかに彼女の想像を超えていた
それは遠くにそびえ立ち、雲を突き破る城だ
周囲の崩れかけの廃墟のせいで、黒と白の城がひときわ華麗かつ厳かな雰囲気を漂せている
自分の視覚モジュールの故障を疑って、αは首を振りながら目を閉じた。しかし再び目を開くと、城はやはりまだそこにあった
あれは決してひと晩で地上に現れるような代物ではない。それによって放たれる存在感が、今目に見えている全てが幻ではないことをαに信じ込ませた
あなたの元の世界、あの城は存在している?
……
答えは明らかに否だが、少女からの自分への態度とこれまでの会話から、αの頭の中にある受け入れがたい考えが浮かび上がった
ここは、彼女がよく知るあの世界ではない。あのパニシングに侵蝕されている地球ではないらしい――そう彼女は悟った
αはこの身分不詳の少女をじっと見つめた。自分の考えを誇示するかのように、少女の左目の炎は静かに燃えている