セリカ
はい、何でしょう?
「サフィーン」学派を……覚えているか?
…………さあ、さっぱり。もし免疫時代中期より前の話なら、昔すぎて私にはわかりませんよ
……確かに、免疫時代初期ですでに彼らは消えてしまっていたな
百万人を超す学派だったが、いきなり公共メディアで「人類は滅びた。我らは地球という名のアークに乗り、全ての終焉へと向かう」と宣言し、忽然と消えたんだ
……なんだか、宗教じみていますね
「人類は滅びた」というのは、確かに一理あるのかもな……
…………議長らしくない言いようですね
……いや、ただあの消え方はいかにもおかしいと思っているだけだ
前にニコラと「サフィーン」学派について討論したことがあってな
黄金時代は合法な組織だったが、「サフィーン」は人類終末論を吹聴し、「人類に真に重要なのは遺伝子ではなく模倣因子だ」としていたから、当時の世界政府に毛嫌いされていた
だから黄金時代末期、世界政府は学派の上層部の違法行為を理由に、学派メンバーの逮捕に踏み切った
その結果は?それについての報告は見たことがないので……
ああ、結局は、まるで成果がなかったようだな
特殊部隊が全世界300カ所あまりのセーフティーハウスと集会所に踏み込んだが、誰ひとり逮捕できなかったらしい
もちろんニコラからも報告を受けている。彼らは、例の宣言をする以前に跡形もなく消えていたようだ。宣言はこれからの世に向けたものではなく、過去形だったというわけだ
彼らは……確かに、世界から忽然と消えてしまった
それ以降も何も痕跡がないんですか?
ない。完全に消えた。地上に彼らの気配が現れたことは一度もない
その後、パニシングの侵蝕が始まった
世界政府はパニシングに対応すべく、急速に体制を変えた。それに伴って、学派の件は忘れ去られた
――そう、ひょっとすると今日までな……
………えっ、それは、つまり……
もし本当に「サフィーン」学派なら……私が長年考え続けていた疑問のひとつが氷解する
万が一、施設内に予想外の危険要素があったらどうします?
執行部隊だ、撤退する力くらい持っている
それ以上は……学派が一体なぜ地下に逃げたかによるだろうな
オールクリア!
目前にいた最後の機械体をルシアが倒し、皆に「オールクリア」の信号を送る
こちらもクリア!
目の前の脅威を解決し、分散していたグレイレイヴンの隊員は再び合流した
ここにいた機械体、あの軍隊の機械体の数と比較にならないくらい少ないですね
……入り口に向ったなら、もう戻ってきてもよさそうなものですが
あるいは、他の場所に……?
このへんの機械体はこちらに敵意を持ってはいましたが、パニシング濃度は低く、やはり侵蝕体ではありませんでした
有用な情報はありましたか?型番や生産者、機体番号はどうですか?
……ほぼ皆無ですね
唯一の収穫が、関節深部にあるこのマークです……
……?これは……
ここに来てから建物の垂れ幕やあちこちで見かけた、丸いマークですよ
単に、この地下都市と機械体たちに関係があることが証明されるにすぎませんが
……証明するまでもない事実でしたね
……事実どころか、謎がより増えたような気がします
注意!大量の信号が接近中です!
隠れて!
リーとリーフは壁をよじ登り、肘でガラスを突き破って建物の中に入ると、素早く中から引き上げロープを投げてきた
リーとリーフが中に入ったのを確認し、ルシアも続いて建物に入っていく
建物に入れました……一体何が?
見てみてください
隊員の面前に暗闇から現れたのは、「空白」としか形容しようがない部屋だった
部屋には四方の壁と彼らが入ってきた窓しかなく、電源コンセントや照明どころか、扉すらない
どうやらここは現実の街ではなく、「街に見える何か」のようです
実体もない、ただの張りぼてだ
(……信号源が下にいます)
(まず隠れましょう)
(あれ、見てください)
ルシアとリーは窓から顔を出して道路を見た――
(あっち、道の端から来ています)
2列に並んだ数十体の機械体が道に現れた。乱れた足取りでこちらに近づいてくる
未来ハ、虚無!我々ニ、指導者ハイラナイ!
イラナイ、イラナイ!
虚無!正シイ!集中!過チ!
戦争!戦争!私タチダケガ可能!
機械的に言葉を繰り返しながら行進をしているようだ
(この機械体たち……何かが違います)
(……どこがですか?)
(ほら……さっき私たちが見た機械体は機体の色が赤だったんです)
(しかしこれらは……青)
(所属が違う?)
(わかりませんが、今は……過ぎ去ってくれるのを待ちましょう)
(同意です、余計な手出しはしないに限る)
(リーフ、大丈夫ですか?)
(大丈夫です。免疫時代の戦争よりずっと……マシです)
(そうですか……無理しないように)
(ええ……大丈夫です!)
一同は窓の近くにうずくまり、機械体の群れが視界から遠ざかるまで、時おり外を見ていた
(行きました)
ようやく一同は2回に分けロープで階下へと下りることができた
今の機械体たちは先行した大群の後を追っているようですね……
目的は……何なんでしょうか?
捜索を続けましょう。答えが見つかるのも時間の問題という気がします
我は起源なり、終焉なり。我は裁定者なり、すべてなり。
我は聡明な狐なり、獰猛な獅子なり。
父亡きあと、私が代わって城を建てた。私は血と空の獣を放ち、勝者に王冠を授ける
いつものように、私は勝利を、絶滅を、そして王冠を授けることを期待している
私は街を再建し、獣を放ち、命令を下し、闘争を引き起こした
私は全てを傍観し、全てを俯瞰する
集結を見た、行進を見た、対峙を見た、戦争を見た
殺戮を見た、死を見た、生存者を見た、輪廻を見た
全てを、見た
終わりが見える、終わりを迎える
私は勝者に王冠を授ける
幾千回の輪廻、幾万回の消滅。我々は地下から「父」を掘り出し、「終結」を宣言する
父は立ち上がり、巻き返し、勝利する
今後「サフィーン」は地上に、永遠に存在し続けるのだ