ネイティアが宿舎に戻ったのは夜も更けた頃だった
宿舎内は静まり返り、たまに窓の外の木の葉が夜風でさわさわと音を立てるだけだ。ネイティアは静かに廊下を歩き、そっと303号室の扉を開けた
室内は真っ暗だった。彼女は窓際のベッドを見たが、そこは空っぽだった
……マルガリータ?
返事をしたのは窓の外の風の音だけ。いつものこの時間なら、マルガリータはベッドで眠っているはずだ
周囲は静かな闇に包まれ、なぜかネイティアは退院したばかりの病室を思い出した。彼女は不安にかられて胸に微かな痛みを覚え、無意識に袖を握りしめた
瞬きほどの僅かな時間で、宿舎内のラベンダーの香りが消毒液の匂いに変わったように感じた。ネイティアの心に不安がじわじわと広がっていく
彼女の呼吸はどんどん早くなり、無意識にぐっと握りしめた指が白くなり、じんわり痛んだ
{226|153|170}~
突然、背後から軽やかな足音が聞こえた
――!?
ネイティアがハッと振り返ると、数本のロウソクの火が闇を明るく照らし出した
ハッピーバースデートゥユー{226|153|170}~ハッピーバースデートゥユー{226|153|170}~
マルガリータが粉砂糖を振ったモルテンチョコレートケーキを捧げ持ち、満面の笑顔で誕生日の歌を歌っていた
アウリスも、早く入っておいでよ
う……
マルガリータが体をずらすと、彼女の背後に落ち着かない様子のアウリスの姿が見えた
ハッピー……
彼女は顔を横に向け、頬についたチョコレートソースを拭った。ロウソクの光で、彼女の顔が微かに赤らんでいるのが見えた
……ハッピーバースデートゥユー、ネイティア
世話が焼けるよ~
マルガリータがアウリスの手を引いて近付いた。揺らめく光の中で、3人の少女はお互いの顔を見つめ合い、それぞれの瞳に互いの姿を映していた
……誕生日?私の?
ネイティアは自分がどこで生まれたのかさえ忘れていた。ましてや誕生日など覚えているはずがない
ネイティアの学生証を見たの。2月3日にカヘティに来たんだよね
はい!あなたの学生証と鍵。床に落ちてたの
えへへ、私も303なんだ。今日から私たちはルームメイトだね!
ネイティアが過去を覚えていないなら、ここからまた始めればいいんだよ
授業でも言ってたよね、カヘティは我々の家だって。つまり、私たち3人は家族。そうでしょ?
彼女はアウリスの手の平を軽くつねった
コホン、そう。私たちは……家族
彼女はいつものように髪をくるくると指にまきつけていじっていた
アウリスってば。あと言うことは何だったっけ?
えっと……
この前、私が……悪いことをした。謝るよ……ごめんなさい、ネイティア
それで……このケーキは……私が……
ぷっ……
顔を真っ赤にしてへどもどしているアウリスを見て、ネイティアは思わず笑ってしまった
な、何笑ってんだ!私はすごく真面目に言ってるのに!
大丈夫。気にしてないもの。どうしてかっていうと……
彼女は笑いながら、ポケットからゆっくりと1枚の木の札を取り出した
震えるな。標的はあんたを哀れんだりしない。 ――射撃場最高得点者、アウリスより
あなたの1位、私が奪い取っちゃった
それ、私のプレート?誰が持ってっていいと言った!
アウリスが奪い返そうと手を伸ばすと、ネイティアは1歩下がった。ふたりは追いかけ合いながら、マルガリータの周りをぐるぐる回った
これで、おあいこってことでいい?
彼女が先に足を止め、笑いながら言った
それはノーカンだよ。私の1位の方がもっと価値あるもん
ぷっ、言うわね
ハハハ!
深夜の宿舎、少女たちの笑い声はだんだん大きくなり、広がっていった
明日の最終試験で勝負をつけよう
私たちは同じチームなんだよ。私と張り合うためだけにいいカッコしないでよね
はいはい、明日のことは明日ね~。今はロウソクを消して願い事をするのが先
マルガリータはケーキを机に置くと、ネイティアをケーキの前まで引っ張った
ネイティアは手を擦り合わせながら、アウリスとマルガリータを見た。ふたりが彼女に向かって頷く
私の願いは……
ネイティアは両手を合わせ、軽く頭を下げた
その時、彼女は窓の外から、夜風にまぎれる鈍い音を聞いたような気がした
ブウウウン――
突如、頭上で鋭い警報音が鳴り響く
それは防空警報の音だった
チッ、こんな真夜中に避難訓練?
違う、赤いランプが3つ点灯してる……
これは訓練じゃない!
少年軍全員に告ぐ! こちらはエリア司令部!緊急戦闘警報を発令! 繰り返す、緊急戦闘警報を発令!
侵蝕体によるカヘティ襲撃!これは訓練ではない! 全ユニットはただちに指定された集合エリアへ集結せよ!
世界政府第324航空師団は爆撃支援作戦を承認した。所属の爆撃機第7中隊はまもなく離陸し、約35分後に第一次攻撃を開始する予定だ
各隊の指揮官に通達。3個旅団規模の侵蝕体が現在カヘティに向かって進攻中。司令部より、堅固たる意志で陣地を守り、この街の防衛線を死守せよとの命令だ
我々は決して孤軍奮闘するわけではない。現在連合政府の援軍がこちらに向かっている。我々の背後はカヘティだ。1匹たりとも侵蝕体に中央河岸を渡らせてはならない!
前進指揮本部
カヘティの衛星都市
第2大隊、第3大隊の前線部隊はエリアK-20-1で侵蝕体と交戦中。部隊の消耗率は約8%です
第1大隊が守るエリアK-20-2が、ドローンによる侵蝕体の空中攻撃を受けました。防衛線に穴が開き、少数の侵蝕体が川に落下するも、衛星都市の港への攻撃はまだです
パブロフ同志、ザーナ大隊長はもう持ちこたえられません。空からの脅威を排除するよう、航空隊を派遣してほしいとの要請が届いています
ダメだ。低空飛行ではパニシングに侵蝕される恐れがある。そのリスクは冒せない
我々に予備隊はもういません。制空権を奪い返さなければ、第1大隊は非常に危険な状況に陥ります
アジールを守るためにあれほどの兵力を割いたのに、いざ本当にことが起きても、アジール号側がまさかひとりたりとも派遣してこないとはな
ヒース一派のくそったれが
ザーナにこう伝えろ。飛行機支援はない!兵士が犠牲になったら、お前が行け。お前が犠牲になったら、俺が行くとな!
パブロフは怒鳴りながら、いつでも自分がそうしてやると言わんばかりに拳銃を抜いた
……同志の皆さんに質問があります。インテリジェント機能を搭載していない回転翼機がパニシングに侵蝕されることはあるのでしょうか?
しわがれた声が、混乱していた人々の注意を引いた。発言した男性は作業服を着ており、周りの軍服姿の人々の中で明らかに浮いていた
グレゴリー同志。現在ここは非常に危険だ、ここに来るべきでは……
パブロフは話の途中で、グレゴリーの背後に日に焼けた色黒の顔をした大勢の同行者がいることに気付いた
……この人たちは?
カヘティ労働者武装隊、152人に召集をかけ、152人全員が参上いたしました!団長!
戦争になると聞いて、全員が応じたんです
パブロフは目の前の労働者たちを見渡した。彼らの多くは基本的な訓練すら受けていないが、その目に宿る強い意志は、彼の部下の兵士たちに負けていない
グレゴリー同志、パニシングは回転翼機は侵蝕できないが、エンジンの物理構造を破壊する可能性がある……今は緊急事態だ、もし提案があるなら率直に言ってくれ
黄金時代以前からカヘティはずっとアディレの軍事要地でした。かつてカヘティは異民族の侵略戦争で、港ひとつとこの衛星都市だけを残して陥落寸前まで追い詰められた
その最も危険な時期、衛星都市の労働者たちは不眠不休で数えきれない戦車と航空機を造って川の向こうへ送り、ついに街全体の解放に成功し、最終的な勝利を勝ち取りました
衛星都市東部の郊外に我々が「墓場」と呼ぶ古い倉庫があり、そこに例の戦争のための銃器、車両と航空機が保管されています。その量は旧時代の標準的師団が武装できるほどです
グレゴリーは部屋中央の戦術地図のホログラムに近付き、赤色の交戦エリアの端にある位置に印をつけた
全員が彼の意図を理解し、指揮本部内にしばらく沈黙が流れた
あの骨董品……まだ飛べるのか?
一部は飛べます。将来の訓練機にと、スカイダイビングクラブの子たちがずっと整備していました
我々のパイロットがその骨董品を飛ばせるとしても、今は人員が……
お若いの、我々労働者を信じてほしい
鉄の塊と付き合った時間なら、我々はあなたたちに負けていない
グレゴリーは自分のヘルメットをぐっと深くかぶり直した
我々が道を切り開く。そのあとは頼みます
カヘティの衛星都市エリアK-20-2
2162年2月4日
01时33分
大隊長、また来ました!ピルグリムが約200体、収穫機約30体!
敵軍は地雷原を突破し、谷に進入しました!!
今だ、爆破!
大隊長の命令と同時に、巨大な爆発音が谷に響き渡った。10数tの爆薬が岩盤を穿ち、津波のような岩の奔流が起きた
狙い撃て!ロケット弾を惜しむな、全て叩き込め!!
谷の入口は岩で塞がれ、尾根で待ち伏せしていた兵士たちは一斉に立ち上がると、下に閉じ込められた侵蝕体にありったけの火力を浴びせた。戦場は一瞬で炎に包まれる
敵が崩れ始めている!制圧し続けろ!1匹たりとも逃すな!
だ、大隊長!上を!
硝煙が広がる中、空から緋色の閃光が恐ろしいほどのスピードで迫ってきた
あいつらがまた来た!
10機ほどの大型武装ドローンが煙の中から現れた。それらは狩りをする鷹の群れのように戦場を見下ろし、逃げ惑う人々に大口径機関砲を向けた
隠れろ――!
機関砲の掃射音が響き渡り、灼熱の弾丸が雨のように降り注いだ
身を隠す遮蔽物のない尾根の上で、兵士たちはひとりまたひとりと、次々に斃れた。待ち伏せしていたはずの狩人は、瞬く間に逃げ惑う獲物になってしまった
クソったれども!!
ザーナは武器を構え、仲間の命を奪っている空の戦争機械に狙いを定めた
引き金を引き、弾丸は目標に命中したものの、鉄の皮に浅い掠り傷を残しただけだった
こっちだ!!
決死の覚悟で叫びながら、彼女は無意味とわかっていても引き金を引き続けた
数機のドローンがザーナに気付き、狙っていた標的から彼女へと狙いを変え、銃口を向けた
本能的な恐怖でザーナの心臓がギュッと締めつけられる。最後の瞬間、彼女は歯を食いしばり、目を閉じた
爆発音が次々と響き、熱風が髪を巻き上げた。しかし彼女には想像していた「死」の痛みが訪れなかった
……?
ザーナが目を開けると、赤い星が描かれた3機の旧型戦闘機が轟音を立てて飛び去っていった。戦闘機が高性能爆弾をまき散らしながら、敵の群れに突入していく
それは信じがたい光景だった。200年も前の戦闘機が再び空を飛び、その「子孫」と死闘を繰り広げていた
味方だ。航空支援が来た!
全ユニットに告ぐ、航空行動を援護しつつ、反撃開始!
3機のイル2攻撃機が前線へ到着しました。戦況は順調で、我々は空中での優勢を奪い返しました
グレゴリーたちは?
労働者武装隊は先ほど敵の追撃を振り切り、現在第2大隊の陣地へと移動中です
よろしい。各大隊の損害状況を把握し、第3大隊の補充を終えた部隊を、すぐに第1大隊の支援に回せ
了解。現在も情報を収集中です
空の奇兵が戦場の圧力を緩和したことで、指揮本部内にようやく安堵の空気が流れた
……妙なことがあります。浄化塔基地が2分前に、不明な音紋データを検知したようです
浄化塔?川向こうの市中心部にあるのに?確認を続けろ
はい……音紋データが侵蝕体「エクスカベーター」と一致していることを確認しました。位置は……
カヘティ市街地の真下です!
リン少佐は息を呑んだ
先ほど川に落下した侵蝕体か?だから港を攻撃しなかったのか……
彼は何かを思い出したように、電子地図をカヘティの地下構造へと切り替えた
一面にまるで迷路のような網目が広がる。それは黄金時代以前に、カヘティ人が最終戦争に備えて作った地下防空ネットワークだった
数はおおよそ34、現在移動ルートをアップロード中です
侵蝕体のリアルタイム情報がホログラム地図に表示された。たくさんの小さな点が地下から湧き出し、カヘティ市民の集団宿舎と、その背後にある巨大建築へと向かっている
やつらの目標は……カヘティロケット工場です!
あのクソども、カヘティを丸ごと爆破するつもりか
戦闘可能な部隊はただちに川を渡り、防衛に戻れ。絶対にあいつらを工場に近付かせるな!
それでは間に合いません……少年軍の投入を提案します。彼らは現在市内で待機中です
パブロフは一瞬迷ったが、他に方法がないことをすぐに理解した
……許可する。彼らに段階的防御を展開させるんだ。侵蝕体との近接戦を避け、できる限り被害を抑えろ
「あの子」は……今どこに?
彼は小声で訊ねた
E組です。現在工場に最も近い位置にいます
通常通りの命令を出せ。これは「検証」のいい機会だ
……承知しました
カヘティ市街地ロケット工場外周
2162年2月4日
01时49分
スポットライトが煌々とカヘティの夜を照らし、都市全体がまるで真昼のようだった
ネイティアは空き部屋の窓辺に武器を据え、身を潜めながら眼下の坂道を狙っていた。そこはロケット工場へ向かう時に必ず通る道だった
およそ1分前、この先の建物の間で光っていた銃火と発砲音が同時に消えた。それは、侵蝕体が殲滅されたか、あるいは防衛線が突破されたかのどちらかを意味する
川の向こうでは爆発音が絶え間なく響き、無数の銃火が交錯している。遠くから見ただけでも、前線の戦闘の激しさが想像できた
ネイティアは遠くから漂ってきた硝煙の匂いに気付き、思わず銃を強く握りしめた
(これが本物の戦場……)
バンバンと響く弾丸の音がまるで太鼓のように、ネイティアの胸を圧迫し続ける。彼女は深く息を吸いながら、頭の中でこれまでの全ての訓練を何度も繰り返した
ちょっと、息を吐く時はマイクから離れて。全部聞こえてる
そんなに緊張してるの?あんたが漏らしたって、面倒みてやる暇はないから
え?私、マイクから離れてるよ?
マルガリータじゃなくって……
……アウリス、ネイティアをいじめたら許さないからね!
無線通信の中で、少女たちの声がひっきりなしに響いていた。それぞれのやり方で、戦闘前の緊張を和らげようとしている
高揚と不安が同時に彼女たちの心を占めていた。本物の戦場で実力を見せたいという気持ちと、本能的に仲間と自分の安全を心配する気持ちが入り混じっている
……こっちに来た!
やはり最悪の事態が起きた。一対の赤い光の点が道の先にゆらりと現れた
ふぅ……
深呼吸をして、ボルトを引いて弾を装填、敵に狙いを定め、引き金を引く
バンッ――眉間に命中し、鉄製の頭部が大きく凹んだ
排莢して再装填、引き金を引く――再び発射された弾丸は侵蝕体頭部の保護を完全に打ち砕き、その下にある赤く光るコア部品を露出させた
まず1体!
再び引き金を引くと、バンッという音とともに弾丸が飛び出し、頭部を射抜かれた侵蝕体はその場に倒れた
ガ――ァ――!
後方にいた数体の侵蝕体が脅威を察知し、まるで刺激された狼の群れのように、咆哮しながらネイティアの方向へ突進してきた
そっちに向かってる、ネイティア!後ろに走れ、私が側面からあいつらをやっつける!
了解!
マルガリータ、西側は任せた!
……オッケー!
瞬時に下された戦術に従い、ネイティアはバルコニーへ飛び上がり、一直線に走り始めた
カヘティの労働者用集合宿舎は南北に長く伸びている。資源の節約と、全ての家庭に無料の住居を提供するため、建物は数十戸の部屋が横並びになっていた
突然の市街戦に直面した住民の一部はすでに避難を完了していた。残された人々は少年軍の助けの下、窓と扉を閉め、屋内に留まっていた
同じ階の部屋のバルコニーは全て繋がっており、人影もない。そのためネイティアは素早く移動しながら、何度も振り返っては発砲し、侵蝕体の注意を引きつけることができた
2体目……3体目!こんなの、動く的を撃つのと同じじゃん!
当たった……!よ、4体目!
その調子!怖がることはない、私たちならできる!
側面から攻撃する戦術は大成功だった。たった数分のうちに、侵蝕体の大半が倒された
あああぁ!!
足下から悲痛な叫びが聞こえた。ネイティアが身を乗り出して見ると、1体の侵蝕体が群れから離れ、反対側の宿舎へ突入していた
射撃角度が取れない。ネイティアは迷わずバルコニーから飛び降り、侵蝕体に突進した――
はぁッ――!!
彼女は気合の声とともに銃剣を構えて部屋に飛び込み、全力で侵蝕体の肋骨の間を銃剣で突き刺した
キンッ――銃剣は鉄の皮に掠った痕だけを残し、横へ滑った
ギィ――!
くるっと向き直り、振り回した侵蝕体の腕が、ネイティアの銃を直撃した。強烈な衝撃で彼女は銃ごと吹き飛ばされ、ガラスを突き破って部屋の外へと放り出された
ゲホッ……ゲホゲホッ!!
骨が何本も折れた感覚と、背中に裂けるような痛みを覚えながらも、ネイティアは血を吐き出すと歯を食いしばって立ち上がった。銃を構えて室内に潜む侵蝕体を狙う
ゴーッ――
その瞬間、頭上から空気を切り開く音が響いた。連合政府の爆撃機がカヘティの上空を通過していく
ネイティアが引き金を引こうとした時、川の対岸からまばゆい光がいくつも上がった
その直後、耳をつんざく爆音が連続し、火の雨が四方八方に飛び散った。轟音の中、都市全体がグラグラと揺れているようだ
くっ――
胸が締めつけられ、足の力が抜ける。ネイティアはガックリと地面に膝をついた
█▄▆█
彼女は再びあの空を見た
……前に……走って
あの顔がはっきり見えない女性だ
……振り返っ……
――!
危ない、ネイティア!
刃が振り下ろされるその瞬間、マルガリータが間一髪で駆けつけ、銃を構えてネイティアの前に立ちふさがった
バンッ――銃の銃床とスコープが一瞬で砕け、マルガリータは支えきれずに武器を落としてしまった
ガアアッッ!
ぐっ……!
侵蝕体はマルガリータの首を掴み、乱暴に横へ投げ飛ばした
マルガリータ……!
ネイティアは唇を噛み締めながらなんとか立ち上がろうとしたが、爆発するような痛みで手足は硬直し、どうしても動くことができない
彼女は、侵蝕体がゆっくりと刀を振り上げ自分の方に向き直るのを、ただ見つめるしかなかった――
このクソキモ野郎――
顔を上げた侵蝕体の真上で、野獣のように血走り、猛り狂った目つきのアウリスが、巨大な岩を持ち上げていた
上から――失礼ッ!!!
彼女は怒れる獅子のように咆えながら飛び降り、抱え上げていた巨岩を轟音とともに叩きつけた
巨岩が鋼鉄にぶつかる鈍い音が、戦場の喧騒をかき消した。周囲の銃声は次第に遠のき、スローモーションのように時間の流れが遅くなる
視界がぼやけ、意識を失う寸前のネイティアは、マルガリータとアウリスがこちらへ駆け寄ってくる姿を見た気がした……
…………
ひそやかに流れる暗闇がネイティアの体を包み込み、彼女を空虚な海へと沈めていった
時間が少しずつすぎていく。どれほど経ったのだろうか、耳元のせせらぎのような水音が次第に明るく大きくなり、しっとりと暖かいそよ風が鼻先をなでた
暖かい光が幾重にも重なる影を通り抜け、頬に落ちている。それは薄暗い闇を切り開き、彼女の眠っていた感覚を呼び覚ました
ネイティアが再び目を開けたのは、まさに太陽がカヘティの地平線からゆっくりと昇ってきた時だった
穏やかな夜明けの光が次第に広がり、ようやく静まった戦場を金色のベールで包んでいた
うっ……
彼女は左の頬に温かさを感じた。ふと見ると、マルガリータが彼女の頬をなでていた
目が覚めたね、ネイティア
普段から甘いものを食べすぎてんだろ?どうりで走るのが遅いわけだ……
マルガリータとアウリスがそれぞれ彼女の腕を支え、3人は市中心部の通りに立った
周りには忙しく動く人々が溢れていた。医師と負傷した少年軍、そして見舞いに来た熱心な市民の姿もあった
私たち……勝ったの?
あぁ、勝ち
朝のひんやりした空気が、戦争の余韻を吹き払っていた。弾痕だらけの壁にもたれて休む人もいれば、アスファルトの上に仰向けに寝転び、新しい朝の光を浴びている人もいた
その時、街のあちこちで放送が流れ、人々は皆、威厳に満ちたその声に聞き入った
この数時間、カヘティはかつてない規模のパニシング襲撃を受け、大きな被害を受けた
戦力差が圧倒的な状況で、カヘティの労働者や兵士、そして学生たちが心をひとつにして団結し、ここを滅ぼそうとする侵蝕体の企みを打ち砕くことができた
最も危険な時に、労働者武装隊は困難を恐れず、駐屯兵団と力を合わせてともに戦い、戦局を見事に逆転させた。彼らは労働者と鋼鉄の城というカヘティの名に恥じない人々だ!
言葉が終わると同時に、現場は大きな歓声と拍手に包まれた
それだけではない。今期のカヘティ少年軍を特別に称えたいと思う!
彼らは危急存亡の際に任務を引き受け、敵の進撃を阻止し、ロケット工場を守るという困難な任務を果たした
この長い夜を戦い抜いた少年兵の誰もが、カヘティの誇りだ。この実戦試験では、完璧な答えを示してくれた
この称賛は、その場にいる全ての少年軍を一瞬で奮い立たせた。彼らは喜びと興奮に満ち、互いに顔を見合わせ、誇らしげに笑った
ここでカヘティ駐屯兵団を代表して発表する。今期のカヘティ少年軍訓練生全員、最終試験に合格ッ!
その言葉と同時に、学生たちはどっと歓声を上げた
この偉大な戦いの重要な場面に、他にも多くの優れた個人や部隊がいた。彼らは冷静に敵と向き合い、勇敢で粘り強くパニシングに立ち向かっていた……
団長の放送は続き、次々と新たな称賛が述べられるにつれ、喜びと熱気を顔に浮かべた人々が、勝利のスローガンを高らかに叫んだ
そんな時、3人の少女の前にいた群衆の中から、突然ざわめきが起こった
声がする方を見ると、そこには見慣れた姿があった……リン少佐だ
彼はマイクやカメラを持った数人の記者を引き連れ、人混みの中を大股で歩いている。どうやら誰かを探しているらしい
少年軍E組はいるか?少年軍E組――!
教官!ここです!
あそこだ、見つかった!
彼はほっと息をつくと軽く襟を整え、背後に記者を従えながら彼女たちの前へ来た
教官、これはどういう……?
コホン!少年軍E組に告ぐ――
少佐は厳粛な面持ちで軽く咳払いをすると、まじめくさった様子で命令を読み上げた
この偉大な戦いの重要な局面において、少年軍E組の訓練生たちは敵前で冷静に行動し、市民の安全を守り抜いたと同時に、侵蝕体撃破数の最高記録を達成した……
駐屯兵団司令部の特命により、今期少年軍の「ドミニク班」に、E組のネイティア、アウリス、マルガリータの3名を任命する!
――!
3人はほぼ同時に目を見開き、信じられないという表情を浮かべた。周囲の人々も次々と振り返り、驚きと称賛の視線を向けた
ぼやぼやするな!この人たちは世界政府の記者だ、早く決めポーズを取れ!
ほぼ同時に記者たちもカメラを設置し、3人の少女にレンズを向けた
えっ?えっ?
私たちが……?
ほ、本当に!?
突然向けられたカメラに、3人は驚き戸惑い、どうしていいかわからないでいた
わっ、フラッシュが光った!
え、えっと!こんな時にどう言ったらいいかわかんないんだけど
あれを……言おうか
ネイティアは両サイドのふたりに微笑みかけた。ふたりもすぐに意味を理解し、微笑み返した
まばゆい朝の光の中、3人は手を取り合い、カメラに向かって声を揃えて叫んだ――
よりよい明日のために!
