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40-5 教室の決闘

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カヘティ実験中学校

2162年

免疫時代

よし、チビども!私の士官試験でのヒーローのような功績を聞いて、さぞかし胸が熱くなっただろう。その勢いで本題に戻るぞ

さっきも話した、戦場における開放性外傷の処置についてだが……

たとえ狂犬みたいな敵の前でも、これで自分や仲間の足1本くらいは守れる。だが正直にいえば、病床で目を覚ましてお前たちの顔を見上げるのはまっぴらだがな

身なりの整った男が教壇で話し続けている。彼は今回の少年兵訓練の総教官であり、カヘティでも有名な吝嗇家で、アディレ戦区で最もスピード昇進を果たした有能なリン少佐だ

諸君は今、自分をナイチンゲールの生まれ変わりだとでも思ってるだろう。だが本当の試練は肉体の傷だけではない。戦争という恐ろしい機械は、ここを砕くのが上手いんだ……

彼は自身のこめかみを指でトントンとつついた

それではもっと……詳細な状況について話していこうか

最初の質問だ。戦友が侵蝕体の砲撃で気絶したとする。外傷以外にも彼女の呼吸は荒く、皮膚は冷たく湿り、脈はロケットのように頻脈だ。さて、これはどういう状態だ?

ショック状態です、教官!

アウリスが手を挙げて立ち上がった

神経性ショックは激しい痛みと恐怖により引き起こされます。彼女を仰向けに寝かせ、両脚を高くして体を保温、及び素早く傷の処置をする必要があります!

いい答えだ。君はさっきも質問に答えていたな。名前は何という?

アウリスです、教官!先ほど「負傷者分類原則」を回答した者です

唯一、答えられたのが私です!

彼女は昂然と顔を上げ、誇らしげに興奮しながら言い放った

アウリス……スカイダイビングクラブの名簿でその名を見たことがある。確か成績も上々だった

競技大会8回の内、1位を6回勝ち取りました、教官!

君に救われた兵士が無事生還した。だがそれ以降、彼女は雷のような音、例えば食堂の皿が地面に落ちた音で、突然大きな声で叫び出すようになった。これは何の症状だ?

えっと……多分彼女は……

アウリスの笑顔が固まった。彼女が予習した資料の中にこの設問はなかったのだ

……あまりにも怖い思いをして、トラウマになったとか?彼女の心は少し弱いので、仲間たちの助けと付き添いが必要です

少佐は表情をくるくると変えながら最終的に眉をひそめた

トラウマ?答えて欲しかったのは正確な医学用語だ。医術マニュアルですぐに対処法を調べられるような

えっと……

これは病理学の問題だ、アウリス。君の実用的ではない言葉では、人々をパニシングと命がけで戦う戦場へ戻すことはできない

アウリスはしょんぼりとうなだれ、気まずそうに指で後頭部の髪をいじった

だがしかーし!専門用語といえば、やはりお前たちチビどもに、この私がアイレ島で士官試験を受けた時の話をしなければいけないな……

1分28秒、私の勝ちね!言ったでしょ、教官は3分ごとに我慢できなくなって、自慢話をするって

ちぇッ、全部アウリスのせいだ。彼女がちゃんと質問に答えていたら、廊下の掃除当番はお前のはずだったのに……

教壇では熱のこもった演説が続き、下では子供たちが小声でこそこそと話し始めていた

やった~ケーキを作ろ{226|153|170}~!ケーキを作ろ{226|153|170}~!

パン屋さん{226|153|170}~大きなケーキを焼いてね{226|153|170}~

マルガリータは最後方で机にもたれかかっていた。机の上には甘い香りのケーキが置かれ、きらきらと透明なフルーツソースに、彼女の明るい笑顔が映っていた

マルガリータ……

ネイティアはそっと椅子を引き、マルガリータの隣に座った

昨日の夜はどうして宿舎に戻ってなかったの?どこに行ってたの?

え?

隣に座った彼女を見て、マルガリータは、戸惑うような表情を見せた

あなたは……?

……?

あなたのルームメイトのネイティアよ。昨日の午後、あなたに助けてもらった

私たちは友達よ、覚えてる?

ネイティアは手を上げ、淡い紫色のブレスレットを見せた

――!

あっ、ネイティアだ!

彼女は興奮したようにパッと笑顔になり、椅子を少し近付けてきた

見てみて、これ!食べてみて!食堂のおばさんと一緒に作ったミラーケーキ、すごくいい匂いでしょ~!

そーっと……そーっと……慎重にやるのよ、マルガリータ。これはパティシエ人生で一番大事な瞬間だから

彼女は小さく精巧なスプーンを取り出し、いい香りを漂わせる「ミラー」をそっとすくった

えっと……ごめんね、私、甘いものは好きじゃない……

はい、あーん

ん……

ネイティアの言葉を待たず、マルガリータは特に美味しそうな部分を彼女の口の中に入れた

幸せに満ちた香りが舌の上に広がり、ネイティアは思わず目を見開いた

ランチを済ませたことを少し後悔するほどだ

どう?美味しい?

……うん

ネイティアがスプーンをくわえたまま頷くと、マルガリータは嬉しそうにパチパチと手を叩いた

やったあ、世界ナンバーワンのパティシエに、また一歩近付いちゃったかな~!授業が終わったらアウリスにも食べさせよっと!

マルガリータの声はだんだん大きくなり、教室中の全員の視線が集まっていることに、ふたりとも気付いていなかった

最後列のそこのふたり!立つんだ!

さっきの質問に答えてもらおうか。その人物が雷のような大きな音を聞くと……

「シェルショック」です、教官

少佐が言い終わる前に、ネイティアが言葉を発した

それは負傷者が臆病というわけではありません、一種の病気です。非器質性の精神的外傷として記録される疾患で、専門的な治療が必要です

……正確な回答だ

な、なんで知ってんの?この授業で教わる内容じゃないのに

教科書を最初から最後まで読んだので、全部覚えています

……??

ハハッ!いいじゃないか、その優等生的発言。士官学校に通っていた頃の自分を思い出す!

少佐は大笑いしたが、ネイティアを褒めているのか、それともやはり自分の自慢なのかはわからなかった

それではもうひとつ質問だ。資源が限られている状況下で、多数の負傷者に対し、迅速かつ有効的に痛みを緩和する方法は?

「極限戦場における医療実践」……!それって一番最後の授業の内容じゃない。答えられるわけないっての

現場で見つけられるあらゆる局部麻酔薬を使います。例えばコカイン溶液は表層的な傷や粘膜に対して使用可能です

もしくは簡単な神経ブロック麻酔で対処します。例えば指や肋間等、特定の神経幹の周りに少量の麻酔を注射すれば、局部的に完全な鎮痛効果が得られます

論理的かつ明晰な答えに、少佐は感心したように頷いた

名前は?

ネイティアです、教官

……転校生だな、名前はしっかり覚えた。評価に3点、加点だ

加点と聞いて、教室中がざわついた

わお、ネイティア、あったまいい~

不公平だ!これまでに正解した回数は私の方が多いのに!

マルガリータの称賛を聞いて、アウリスはもはや我慢できず、怒りのままに立ち上がった

授業の秩序を乱すな!アウリス!

教官の問題に答えただけよ、別にあなたと対立するつもりもない

教科書を暗記できたからって何?パイロットに必要なのは、本当に頭で考えた知識よ。私と他の教科でも勝負する?例えば数学はどうよ?

背後の教官の警告を無視して、アウリスはずんずんとネイティアの前に歩いていった

教室内は一気に蜂の巣をつついたような騒ぎになった。どうやら子供たちはこの展開を楽しんでいるようだ

どうぞ

ある等比数列の初項は3で、最初の3つの項の和は21。その数列の5つ目の項は?

公比をqと仮定すると、3+3q+3q{194|178 }=21。簡約するとq{194|178 }+q-6=0、つまり解はq=2または-3

ネイティアは考え込むこともなく、あっさりと解法を答えた

第5項は3×2の4乗、つまり48。または3×(-3)の4乗、つまり243

以上から、答えは48または243

教室のざわめきは更に大きくなった。アウリスは指の関節が白くなるほど拳を強く握りしめている

次は……そっちが問題を出す番!

ある直角三角形があります。斜辺への高さは6cmで、分割された斜辺のふたつの線分の差は4cm。その三角形の面積は?

ふたつの線分をそれぞれxとyを仮定して、x-y=4、そして高さh=6……その場合面積は……面積は……

彼女は両手を動かし、頭の中で問題の図形を想像していた

頑張れ~アウリス!ファイト~アウリス!

黒板がいる?パイロットさん?

いらない!幾何平均定理により、高さの2乗は……

その時、教室内のざわめきが徐々に鎮まっていった。アウリスの背後に背の高い姿があった

アウリスにネイティアも、そして君も――

x×yは36!これをx-y=4と連立すれば……うるさいっ!!

焦ったアウリスは大声で叫び、机の上にあるケーキを背後に投げつけた

ベチャッ!

教室中がどよめき、そのあと一瞬で静まり返った

わお。ネイティア、ちょっと!見て見て!

教官がサンタさんみたいになってる!

屋外トラック

カヘティ

10分後

はぁ……はぁ……

ふぅ……ゴホッ、ゴホッ……

アーウーリースー、待ってよ――!

授業を乱したネイティア、アウリスとマルガリータは、少年兵3名チームとして組まされ、罰として重りを背負って屋外トラックを5周走ることとなった

屋外トラックは学校敷地外にある。金色の夕日の下、3人の少女はカヘティのロケット工場を囲むトラックを、ウエイト入りのリュックを背負って走り始めた

高くそびえる煙突を1本通りすぎる度に、地平線の向こうからまたすぐに、同じような形の煙突が現れる

カヘティの工業的な美景も今の彼女たちにとっては、ただ終わりの見えない迷路そのものだった

ネイティアは汗だくで、午後の蒸し暑い空気を吸っては吐いていた。蜃気楼のように足下の道が永遠に続く気がして、準備運動でストレッチをしなかったことを少し後悔した

左から失礼!

風がさっと耳元を掠め、背後から聞き慣れた声がした

あれ……アウリス?ハァ……あなた、フゥ……前にいたはずじゃ……

……

1周先を走っていたパイロットさんが、ふたりの間に割り込んだ。その挑発に対し、疲れ切ったネイティアはただ彼女をチラッと睨んだだけだった

マルガリータ、ウエイトをいくつか寄越しなさいよ

彼女はそう言いながら、マルガリータのリュックから砂が詰まった布袋をふたつ取り出した

……わっ!すごく軽くなった!

これ、アウリスは大丈夫?無理しちゃダメだよ

こんなの無理じゃない。クラブの訓練と比べりゃ生ぬるいっての

アウリスは額の汗をぬぐい、反対側の息も絶え絶えになっているネイティアを見た

昨日、彼女が力なく倒れたのを見たばかりだ。その体で本当に持つのだろうか?

そう考えた彼女は、唇を軽く噛んだ。心の中に、少し不思議な感覚が芽生えていた

ネイティアが今まで巻き込まれた2回のトラブルは、自分が関与したと認めざるを得ない

ネイティア、あんたのも――

触らないで

ネイティアはアウリスの手を払い除けた

え……?

アウリスは驚いて身を硬くした。自分の善意にネイティアがこんな反応をするとは想像もしていなかった

自分のことは、自分でできる

ネイティアはリュックの肩ひもを直し、前へと走り出した

ネイティア……

……チッ!

だったら私の背中を思う存分見てりゃいいわよ、転校生!

このあと、あんたが倒れても!土下座して泣いて頼んでも!絶対に助けないから!

アウリスは一気にスピードを上げ、大股で走り出すと、必死に距離を取ろうとしたネイティアを軽々と追い越した

ふたりの視線がぶつかり、ほんの一瞬、周囲の空気が足下のトラックよりも熱くなった

左から失礼!!