Story Reader / 本編シナリオ / 38 トゥルーインファレンス / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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38-5 壊された……

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ムーアとエレーヌのマンションの中

エリシオン

暖かな黄色の灯りや木製の家具が、部屋の中をひときわ穏やかで温かく見せている

最後の料理を食卓に並べたエレーヌは、卓上に並ぶ食器を見つめ、ため息をついた

彼女がそろそろ着くころだと考えたその時――

部屋の扉が開き、ムーアがドールベアとモワノを連れて中に入ってきた

ここが、俺とエレーヌの家だ

ムーアはコートを脱ぎ、玄関のコート掛けにかけた

まあ遠慮せず、自分の家だと思ってくつろいでくれ

ドールベアは呆れたようにムーアを軽く睨み、礼儀正しく前に進んでエレーヌと握手を交わした

私はクリスティーナ·ノルマンです。ドールベアと呼んでください

ムーアがいつもお世話になっております

モワノよ

エレーヌは少し気後れしながら、モワノに手を差し出した

握手の後、ムーアは軽くエレーヌを抱きしめた

何だよ、緊張してるのか?全員見知った仲だ、心配するな

そう言ってムーアは真っ先に食卓へ向かった

皆が席につくも、ぎこちない雰囲気が漂った

ムーアはテレビをつけ、ニュースを流すと、振り返ってドールベアとモワノを見た

君たちは、局でチームを組む前から知り合いだったらしいな?

「らしい」?

局でのちょっとした噂話さ

そりゃ知らないだろう。ふたりともいつも孤高の存在だから、局の同僚たちと交流することもないもんな

マッシュポテトを取ってくれないか?

モワノは、側にあるマッシュポテトの皿を手渡した

私とドールベアは、確かに昔からの知り合いよ

その頃、彼女はまだ憂鬱そうな少女だった

今だって……

ドールベアはムーアをキッと睨んだ

ああ、ごめんごめん

あなたは隣の家の優しいお兄さんキャラだって聞いてたけど……

どうしてか最近、いつもあのウザい男のことが思い出される……

冷たいなあ、せっかくの兄妹水入らずの時間なのに~

おいおい、マジでそこまで自分の兄に興味がないってのか?

……まあ、いいけど

ドールベアはため息をつき、ステーキを切る手にぐっと力を込めた

ムーアは、机の下で足をエレーヌに強く踏まれたのを感じた

エレーヌはいつもお花を育てたりしているの?

モワノは部屋の中の観葉植物や花を見回した

は……はい

話題が自分に向くとは思っていなかったのか、彼女の反応は、授業中にぼんやりしていて担任に見つかった生徒のようだった

……?

ただのちょっとした趣味です

素敵な趣味ですね。この街の緑化率は、本当に驚くほど低いから

そうだよな。一体エリシオンの税金はどこに使われているんだか

本能的にコードベースが反応したように、ムーアは話の流れを途切れさせまいとした

これこそ税金錬金術なのよ

このふたりはもう救いようがないわね

そういえば、まだ水をやっていない花が……

エレーヌは申し訳なさそうに立ち上がった

食事が終わってからでいいだろ?

エレーヌは答えずにリビングの片隅へ行き、花をベランダへ運んだ

ドールベアはリビングの窓辺に、どこか見覚えのあるオレンジ色のカップがあるのに気付いた。それには土が盛られ、オレンジ色の花が植えられている

……

ムーア、そちらの調査はどうなってるの?

ジャッキーについては、少し手がかりがあった

彼は模範的な市民だった。5年前にエリシオンに移住し、高級レストランを経営。専任スタッフを雇って運営させていた。事業は順調で、経済的にも安定していた

結婚相談サイトに登録し、3人の異性に会っている。そのうちふたりは1度食事をしただけで、その後は連絡を取っていない。残りのひとりは2回会ったが進展しなかった

今日はその女性たちに会いに行ったが、残念ながら有益な手がかりはナシだ

彼女たちによれば、「彼はいい人だけど少し古風で、無口だし退屈だった。彼の一番好きな映画は『ターミネーターロボット』だって、信じられる?」だとさ

今時、古風な男はあまり人気がないんだろうな

……

どうしたの?

彼の家にも行った。部屋は非常に整頓され、定期的に掃除されているのがわかった。独身男性としては、彼の生活習慣はとても健康的だ

冷蔵庫にはたっぷりの食料、果物も揃っていた――独身の男なんてのは、だいたいが自分で果物なんぞ買わず、ビタミン剤だけで済ませることも多いのに

朝食は自宅で、昼食は自分のレストランで、夕食はまた自宅

家にはプライベートシアターがあって、食後に映画を1作品観る

彼のクローゼットには、まったく同じスーツが3着もあり、更に専用のネクタイ用ラックまであった

彼は多くの人が憧れる、安定した生活を送っていたんだ

そう言うと、彼はしばらく沈黙した

唯一の疑わしい点は、彼の日記に書かれていたことだ

<i>「鏡をじっと見る度に、私は川に浮かぶ1本の丸太の上に立つ男を思う」</i>

<i>「私たちの過去と現在、そして未来」</i>

<i>「全ては泡のようなものだ」</i>

<i>「あなたは鍵のかかった部屋の中で夢を見ている」</i>

<i>「もし世界が幻なら、意識さえも幻覚にすぎない……」</i>

共通項がある

何だって?

ずっと考えてたの。クリスティーナとジャッキーの事件はどちらも、暴走機械が現れた。じゃあふたりの被害者の間には、必ず何らかの共通項が存在するって

この繋がりは、必ず犯人の動機に関係しているわ

犯人の動機か……

ジャッキーとクリスティーナは、世界の真実性に疑問を抱いていた

つまりその連続殺人犯は、世界が偽りだと考える人々を狙っている、ということ?

馬鹿げてるように思うけど

……

……もうひとつ手がかりがある。彼の銀行明細書からわかったんだが、毎週決まった時間に送金していた。受取先は心療クリニックだ

そのクリニックの医師の名前は、確か……

ニュース音声

エリシオンウェザートークへようこそ。今回のゲストは、業界屈指の精神科医、ジョン教授です

そう、名前はジョンだ

ニュース音声

今回のテーマは、最近都市で流行している症状についてです。この病にかかった人は、世界は偽りではないかと疑うそうです。事実なのか、それとも噂にすぎないのでしょうか?

食卓が静まり返り、3人は揃ってテレビへ目を向けた。ムーアが音量を少し上げた

テレビの中の男性は、上品なグレーのシングルのスーツに白衣を羽織り、ネクタイは瞳の色に合わせた黒と緑のストライプ。手入れの行き届いた髭と髪も印象的だ

彼には説得力のあるオーラが漂い、患者は疑うことなく彼を信頼するだろう

この病は学術的には「アイデンティティ·クライシス」と呼ばれています

かつてある心理学教授が、誰の内面にも、強い自己破壊的傾向が潜んでいるという見解を示したことがあります

もしかすると、画面の向こうのあなたも同じような経験をしたことがあるかもしれません。高い場所に立って見下ろすと、どこからか耳元でささやく声が聞こえる

「飛び降りろ」と

鋭利な刃を持ち、その刃先をじっと見つめると、あなたは思うかも……

「どうして自分の体で試してみないんだ?」と

手に銃を握ると、思わず自分に向けてしまい……

引き金を引く

あの……教授?

この病の患者は、身分や職業に明確な共通点はありません。高級レストランを経営する中年男性も、港湾で働く労働者も、世界の現実に疑念を抱くことがあります

実際、精神科医としての立場を離れれば、なぜ人は世界の現実性に疑念を抱くのかをよく理解できます

教授、それはつまり……

司会者は完全に圧倒され、話の主導権を握ることができない

私たちひとりひとりの意識は、せいぜい体の助手席に座っているにすぎません。では、運転席に座っているのは一体何なのでしょう?

人それぞれ、運転席に座っている「何か」は違います。ある人は「本能」、またある人は「感情」や「習慣」かもしれません……

助手席でふと顔を上げると、窓の向こうに「飛び降りる」理由が見えてくる

なんて精緻な世界であることか。広大で、美しく、そして残酷。それが繰り返される

誰もがこの瞬間、疑うのです――自分の生きているこの世界は、本当に現実なのか?と

男は落ち着いた口調で、常識を逸したような論説を語っていた

彼の言葉を聞くうちに、あなたの中で何かが目を覚ました

あなたは助手席に座り、顔を上げようとする

あなたは顔を上げる

あなたは見た――

クリスティーナ/あなたの顔を

ピッ

テレビが消された。エレーヌはリビングに立っているが、その表情は読み取れない

…………

明日、俺はこの精神科医を調べに行く

夕食はここで終わり、それぞれの思いを抱えながら別れを告げた

帰る前、ドールベアは再び視線をリビングの窓辺に向けた。あのオレンジ色のカップはすでにエレーヌによってベランダに移されていた

あの花の名前は何ですか?ベランダにあるオレンジ色の花ですけど

……ワスレグサです

綺麗だわ

ドールベアは背を向けて去ったが、心の中ではあのカップのことを考えていた

(なぜ私は、あのカップが血清を入れるためのものだと思うの?)

(血清……何の血清?)

ムーアは食卓を片付け、エレーヌはキッチンで皿を洗っていた

俺が洗うよ

……

エレーヌは答えず、部屋の中は奇妙な静けさに包まれた

なぜ、あなたは捜査官になる道を選んだの?

……俺は真相を追い求めなければならない

それはあなたの責任じゃないはずよ

……

助手席でふと顔を上げると、窓の向こうに「飛び降りる」理由が見えてくる

なんて精緻な世界であることか。広大で、美しく、そして残酷。それが繰り返される

誰もがこの瞬間、疑うのです――自分の生きているこの世界は、本当に現実なのか?と

男は落ち着いた口調で、常識を逸したような論説を語っていた

彼の言葉を聞くうちに、あなたの中で何かが目を覚ました

あなたは助手席に座り、顔を上げようとする

あなたは顔を上げる

あなたは見た――

黒いワンピースを着た女性が、深紅の液体の中に横たわっていた

エレーヌ

この世界は、本当に真実なのか?

ガシャン――

陶器の皿がエレーヌの手から落ち、大理石の台の上で粉々になった

エレーヌは恐怖におののきながら、振り返ってムーアを見た

ムーアはようやく自分が何を口にしたのか気付いた

いや……俺はただ、ジャッキーがなぜそんな風に思ったのかを考えていただけだ……