Story Reader / 本編シナリオ / 37 厄夢の淵に眠る / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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37-15 1日

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保全エリアでの葬儀は極めて簡素だった

夜も明けきらぬ頃、粗末な棺を耕作用地以外の場所に掘った穴に埋葬し、墓標が立てられた

ここでは、グレイレイヴン指揮官を知る者はほとんどおらず、見送りに来たのは数人だけだった

墓標の傍らで、布製の白い花が朝の風に揺れていた――鉱区に野の花は少なく、モリノアが夜通し古い毛布を使って作った弔いの品だった

……ご愁傷様です、リーフさん

手にした白い花を墓標の傍らに置き、モリノアは静かにため息をついた

……ええ

目を伏せたリーフの顔からは感情が読み取れない

モリノアはリーフの肩をそっと叩き慰めようとしたが、どう声をかければいいのかわからなかった

……さあ、しばらくリーフと指揮官だけにしてあげましょう

保全エリア責任者はあまりにも多くの別れを見てきており、このような場面の対応には慣れていた

孤独な妻、苦しむ母、悲しむ友人。似たような筋書きがこの星では常に繰り返され、それぞれの異なる傷跡を描いている

見送りの人たちは朝霧とともに去った。リーフは質素な墓標の前で無言のまま立ち尽くし、朝露が髪の先を濡らすのに任せていた

リーフ……

まだ何か言いたげなモリノアと、何が起きたのか理解もできず、傍らの野生の実を摘もうとしているアシュリンを連れ、保全エリアの責任者はリーフをそこにひとり残した

鉱区の朝に、鳥の囀りなどはない

絹のように滑らかな空は淡い青色に染まり、鮮やかな朝焼けが広大な山々を覆った。太陽が昇り始めている

リーフは静かに指揮官の「墓標」の側に座っていた

どうして……いつもこうなるのですか

どうしていつも……あなたを代償にしなければ、束の間の休息も得られないのですか

彼女は数えきれないほどの別れと死を経験し、星の数ほどの悲劇を見てきた

彼女はかつて、自分ほど「災厄への直面」に精通している者はいないと思っていた。あまりにもたくさんの涙と棘で絶対的な鎧を作り上げてきたから

しかしなぜ……指揮官の体が次第に冷たくなっていくのに直面した時、彼女の意識海は粉々に砕けるほどの痛みに引き裂かれたのだろう?

私が経験したことのない未来、あるいは現在を彼らがどう描いたって

私が背負うことで、全てを変えることができると純粋に信じていました……

グレイレイヴン――指揮官――[player name]

自分で刻んだ碑銘を指でゆっくりなぞりながら、リーフは心の中でその名を唱えた

彼女は指揮官指揮官が昏睡し、瀕死となった姿を見た

指揮官指揮官の「遺体」も見た

そして今回……また自分の手で指揮官指揮官の墓碑を刻んだ

でも……もしも未来の旅路にあなたがいなければ……

私はどうやって霧の中の灯台を見つければいいのですか?

あなた以外に、グレイレイヴン以外に……私には何もありません

ひと粒の涙が彼女の頬から転がり落ち、ポツンと落ちた

大丈夫です……まだその時ではありません

彼女はそっと涙を拭った

まだ泣く時ではありませんよね、指揮官

私はあなたのために嘆いたりしません。なぜならこれはただの、ほんのちょっとのお別れだからです

リーフは墓標の傍らに跪き、自分の手で刻んだ名前に敬虔な仕草で口づけをした

私たちは……きっとまた会うでしょう

どこかの世界の片隅で

「墓地」の曲がり角で、モリノアは不安な気持ちで待っていた

リーフが歩いてきたのを見て、彼女は急いで駆け寄った

リ……リーフさん?大丈夫?

モリノアはハンカチを差し出した

……ええ、私なら大丈夫です

リーフは青白い顔で微笑み返した

…………

枝が揺れ、葉の隙間から差し込む朝日が奇妙な影を落とす小道を、ふたりは黙ったまま歩いた

あの……これからどうされますか?

つまり……今後のご予定は?別の保全エリアへ増援を求めるのか、空中庭園に戻るのか、それとも……

私は368保全エリアにしばらく留まるつもりです

しばらく留まる……?

モリノアはその答えに喜びつつ、やや驚いたようでもあった

はい、しばらくここにいるつもりです

彼女はモリノアから少し距離を取った

指揮官の……この件には結果が必要です

私はすでに空中庭園に連絡し、こちらの状況を全て報告しました

空中庭園は迎えの人員を派遣してくるでしょう。他の小隊が到着するまで、私は368保全エリアに留まります

……そうですか

下げた帽子のつばが、唇をすぼめたモリノアの表情を隠した

道は短く、数分ほど話すうちに彼女たちは保全エリアへと戻ってきた

モリノアはグレイレイヴンが仮住まいしていた家までリーフを送っていった。玄関から中を覗くと、かつて活気に満ちていた部屋が不思議なほどガランとして見えた

ためらいながらも、モリノアは口を開いた

リーフさん……あなた……ひとりきりで大丈夫?

…………

彼女は沈黙でその問いに答えた

……アシュリンをあなたの側にいさせましょうか?ここを出ていく時まで

モリノアは名残惜しそうにため息をついた

私が彼女を養い、もう誰にも渡さないつもりでしたが……

あなたひとりでは孤独すぎます

アシュリンですか……

それもいいですね

彼女はショックを受けて、今は医務室にいます。後で……あなたのところに連れてきますから

リーフが答えるのを待たず、モリノアはそそくさと立ち去った

アシュリン……が?

リーフは顔を上げ、澄んだ水のような空を見つめた

雲の向こうでは、絡み合う蜘蛛の巣が空全体を覆い、この小さな世界を束縛していた

深い裂け目の奥に隠れたその目は、テラリウムのようなその場所をじっと見つめていた

あの人間の指揮官が死んだあと、リーフ……「あの者」が選んだ人物は、不思議な忙しさに追われていた

彼女は「端末」と呼ばれる小さな機器で誰にも理解できないデータや文字を操作し――

この小さな世界には存在しない「空中庭園」へそれらを送ったりしていた

医務室に行ってモリノアに傷の手当てのやり方を教えて患者を治療したり、暇な時には「アシュリン」と遊んだり、読み書きを教えていた

彼女は本当の優しい母親のようだった

まだ……そちらは準備がいるの?

もちろん

なら……こちらは?

……そろそろだろうか?

深宇宙の呟きが静かに漂う

いや……まだその時ではない、もう少し待とう

厚い雲を隔てて、「あの者」は温かな波紋を貪るように感じ取っていた

彼女は私のものになる……彼女は私に服従し、私に属することになる

彼女は私の下にひれ伏すだろう

リーフはいつも通り保全エリアで生活していたが、彼女の生活にもうあの人間の存在はない

夕陽が建物の影を長く歪ませ、雲は地平線の輪郭をぼかしていた

また一日がすぎた

彼らは日の出とともに働き、日没とともに休んだ。太陽も月も変わらず巡り、四季は予定通りに訪れる。ただ……

「時間」という概念はここでは消えたかのようで、万物は混沌とし、透明な琥珀に閉じ込められている

誰も今日が何月何日かを覚えていない。指揮官の死からどれだけ経ったかも覚えていない――

しかし、リーフだけは覚えている

扉の側に座り、リーフは手の中の弾丸をそっとなでていた

意識海の中では血の色をした霧が充満し、嵐と雷鳴が空に轟き、大地は裂け、荒れ果てている

彼女は棘だらけの地を歩き、絶望と愛で深い傷跡を刻みながら時の流れを記録し続けていた

モリノア

リーフさん?

訪問者の小さな呼び声が、彼女を意識海から呼び戻した

モリノア、来たんですね

リーフは頷いたが、立ち上がって出迎えはしなかった

アシュリンの様子を見に来たんです……彼女はどこに?

中央広場で遊んでいます

まるで普通の保全エリア住民のように、ふたりは気安く会話をしている

今日は夕焼けがきれい……明日もいい天気になりそうだわ

また医務室でお手伝いを頼んでも?まだお礼を言えていなかったけど、先日教えてもらった止血法は本当に役立ちました……

明日ですか……では明日、医務室に手伝いに行きます

よかった

モリノアは心からの笑顔を見せた

それでは、お邪魔してすみませんでした。また明日

さようなら

モリノアの後ろ姿を見送りながら、リーフは意識海にもうひとつの痕跡を静かに刻んだ

指揮官がいなくなってから7日目

彼女はいまだここを離れる方法を見つけられていない

「時間」を質問してみたこともあったが、意味不明な表情と理解できない数字しか返ってこなかった

手伝う口実でモリノアを1日中見張っていたこともあったが、結局は感謝の言葉しか得られず、何の手がかりも見つからなかった

意識海を再びかき乱そうとしたが、距離が遠いのかはたまた別の理由か、指揮官のマインドビーコンを見つけられず、連絡も取れなかった

しかし指揮官は……すでに自分によってあの簡素な墓標の下に埋められたのではなかったか……

リーフが戸惑いながら考え込んでいた時――

カラン――

弾丸が地面に落ちる鋭い音が、徐々に麻痺しつつあった意識海を呼び戻し、彼女の顔色は突然、紙のように真っ白になった

弾丸を拾うと、彼女は無言でその小さな金属を肌に押し当て、痛覚を刺激した

指揮官は死んでいない、指揮官はきっと……まだ自分を探している

彼女はゆっくり深呼吸し、意識を手の平の冷たい弾丸に集中させた――

それは発射されていない弾丸だった

それは……指揮官の「遺体」の側に存在するはずのない弾丸だった

鉱坑の深奥

鉱坑の深奥

しばらく……あるいは「かなり」前

リーフの意識海の混乱はほぼ逆方向に働き、人類のマインドビーコンにも影響を与えた

耳鳴りが続き、マインドビーコンの向こう側から痛みが持続的に伝わってきた。まるで何か外的な力が……リーフの意識海を押しつぶしているようだ

リーフに……一体何が起こっている?

霧雨が降り、雲霧が立ち込めるリーフの意識海。だが、意識海を覆う厚い雲が僅かに裂けた

指揮官!具体的な位置を――

意識海の幻覚といわんばかりに、雲の裂け目は再び閉じてしまった

でも、少なくとも合流地点はリーフに伝えられた

少なくとも合流地点は伝えられたと思っていたが、それは自分の思い込みにすぎなかった

ねえ……どうしたの?

女の子は戸惑いながら指揮官の服の裾を引っ張った

まずは安全区域に入って……

両側から数体の異合生物が逃げるように飛び出し、所持している僅かな弾丸を更に消費させられた

ようやく安全区域に着いた

ここも安全区域なんだ……

彼女は周囲を興味深そうに見回した

私たち……リーフと合流できる?

じゃあここから出るの?

子供の質問に答えながら、安全区域の物資を点検した

いくつか弾丸はあったが、型が自分の銃とは合わないため使えない

弾倉から弾丸を取り出して数えると、残りは2発だけだった。幸い、この付近の異合生物はある程度掃討され、リーフがここに到着するまで持ちこたえられそうだ……

足下の岩層から微かな震えが伝わってきた

あっち――崩れた――!

女の子は怖がって悲鳴をあげた

遠くにある分かれ道に、ゴツゴツした岩が崩落している

低い轟音が遠くから近付き、強烈な揺れが襲った。地面には坑道全体を呑み込まんばかりの巨大な亀裂が走っている

1発の弾丸を弾倉に装填したが、亀裂はすでに足下にまで走っていた。銃と装填できなかった弾丸が地面に落ち、弾丸はコロコロと遠くの物資箱の方へ転がっていった

本当に運が悪い……弾丸はそもそも2発しかないのに……

意識を完全に失う前に脳裏に浮かんだのは、この少しばかりの無念さだけだった

ポタッ――

――最初に回復したのは触覚だった。冷たい水滴が肌を叩き、微かな痛みをもたらした

ポタッ――

混沌としていた意識が次第にはっきりし、目を開けて見回した。周囲には冷たい光を放つ鉱物しかない

鋭い痛みが体の隅々から脳へ駆け上がる。動こうとすると、擦れ合う骨と関節がきしむような悲鳴を上げる

幸い……深刻な骨折はしていない

傷を確認し、腰の応急ポケットから薬と包帯を取り出して簡単に手当てをした。端末を取り出し、道を確認しようとした時……

記憶が繋がり始める。端末は……あの女の子が持っているはずだ。銃は……

ポケットは空っぽだ。地震の時、あの「安全区域」で落としてしまったのだろう

ひと息入れ、まだ動けることを確認し、岩壁に手をついて立ち上がった

鉱坑の地形は複雑だが、自分が転がり落ちた位置から推測するに、ここは「安全区域」の左側下方にあたるはずだ

岩壁を登って戻るのは当然無理だが、幸いにも近くに分かれ道があった記憶がある――

ひとつ目の分かれ道まで進むと、以前に自分が残した目印が見えた

尖った石を拾って「武器」とし、壁沿いにゆっくりと進む。あの訳のわからない「幻覚」さえなければ、きっとあの安全区域まで戻れる

歩いている間は異様なほど静かだった

背後に潜む「敵」はここまで手が回らないのか、安全区域へ戻る道中では、生物の姿も幻影も一切現れなかった

敵は去ったのか?それとも標的をリーフに変えたのか?

3つ目の「目印」にたどり着いた時、地面の上には異合生物の死体が転がっていた

高濃度パニシングのせいで起こる軽い眩暈に耐えながら、石で異合生物の残骸を引っくり返した

これは自分の銃弾で倒した異合生物ではない。体中が傷だらけだ。鉱坑内でこれほどのダメージを与えられるのは……

パニシング濃度がまだ高い。この異合生物が死んだのはつい先ほどのはずだ。つまり……

リーフは……この先にいる?

真っ直ぐ進むと、異合生物のバラバラにちぎれた残骸がいくつか散乱していた。明らかに自分の銃によるものではない殺傷力だ

体中を切り刻み、鉱坑内でこれほどのダメージを与えられるのは……

パニシング濃度がまだ高い。この異合生物が死んだのはつい先ほどのはずだ。つまり……

リーフは……この先にいる?

岩壁に刻まれた刃の痕跡、異合生物の体に残る鋭い切り口……

まるでリーフがわざと自分のために残した「足跡」のようだ。それを頼りに進むと、1本の分かれ道の前にたどり着いた

分かれ道は石と土くれで完全に封鎖されていた

周囲は他に痕跡がなく、リーフはこの道を進んだとしか考えられない

しかし、これほどしっかり石や土砂で塞がれるなんて……「地震」による自然崩落なのだろうか?

手元にある「道具」だけでは、このがっちりと封鎖された入り口をこじ開けるのは不可能だ

石と土砂の間に隙間はほとんどなく、しばらく必死に頑張っても、頭ほどの大きさの石がふたつほど取り除けただけだった

軽いとはいえ、怪我をした体でこうした動きに耐えられないのは明白だった。石と土の「扉」を蹴り破る前に、脚の骨が不穏な音を立て始めた

必死に記憶を掘り起こす。この近くに……ローデンツ小隊の「安全区域」があったはずでは?

残された目印を頼りに急いで探すと、予想通り、目立たない小さな洞窟の中に、かつて自分とリーフが見すごした小さな「安全区域」を見つけた

物資の箱がふたつ、そこに置かれていた

ひとつ目の物資箱には、大口径の弾丸といくつかの乾パンが入っていた

メモ

ヴィーア! なぜこんなにたくさん乾パンを持ってきた! 構造体に食料は必要ないのに…… 「念のため」ってなんだ! 何度備えようが、お前に食料は必要ない!

ふたつ目の物資箱には、数袋の小型爆薬が入っていた

メモ

イミル…… 何度も言うが、 爆薬をそんなに持ってくるな。 ここは鉱坑だ、爆発したら 我々全員生き埋めだ! まあいい、言うことを聞け。 ここにいくつか置いておくんだ……

体の疲労を回復させようと急いで乾パンを噛み下した。そして物資箱の小型爆薬を全てかき集め、先ほどの入り口へと戻る

――ドォン!!

小型爆薬が狭い鉱坑で爆発し、煙と塵が舞い上がった。その爆発の勢いで道が開かれた

リーフが残した痕跡が、やはりこの分かれ道に再び現れた

マインドビーコンは安定し、混乱や幻覚もない。この唯一の道を真っ直ぐ突き進む

直感が告げていた。リーフはこの先にいる

またもや「偶然」による鉱坑の崩落に阻まれても、もう驚くことはなかった

先ほどの爆発が何かの注意を引いたらしい。常に何かにじっと見られている気がするが、見回しても、「生物」の痕跡はまったくない

それが背後に潜む敵なのか、この鉱坑の別の生物かはわからないが、自分の歩みを止めることはできない――

――ドォン!!

眩い光が四散する。ローデンツ小隊の小型爆薬には不思議なほど威力があった

幻覚に幾度も翻弄された鬱屈も、爆発とともに吹き飛んだ。まるで空中庭園最強の武器を握っているかのように石を握り締め、迷いなく進み続けた

ドォン――!!!

偽装された岩壁が爆破され、黒々とした穴を開けた

爆薬を使い切る前に、ついに指揮官指揮官はリーフを見つけ出した

彼女は無数の奇怪な鉱物に包み込まれて横たわっていた

異合生物の咆哮が近付いてくる。黒幕の狙いは明らかだ

ドォン――!!

あらかじめ設置しておいた爆薬が、外にいた異合生物を粉砕した。次の異合生物が現れる前に、リーフが眠る温床へとよじ登った

マインドビーコンが眩しく輝く。この距離なら確実にリーフと深層リンクできる――

指揮官がいなくなってから19日目

指揮官が……いない?指揮官……どこへ行ったんです?

意識海がのろのろと動く。鉱物が生み出した温床が、人間に関する全てを彼女の脳から消そうとしている

リーフは窓辺の洗面台の前に立ち、鏡に映る自分を見つめていた

私……

意識海がブーンという音を立てながら震え、彼女はやっとの思いで口を開いた

私は……

私はグレイレイヴンの……

私は……368保全エリアの……

私は……

蛇口から水が勢いよく流れ出し、冷たい水流が彼女の両手を刺激した――彼女は驚いたように慌てて手を引っ込めた

ポケットの中の弾丸が突然熱を帯び始めた。リーフは震えを抑えきれず、その熱い金属の弾丸を握り締めた――

意識海の中に雨が激しく降り注ぎ、血の色をした霧を吹き飛ばした。骨が見えるほどの深い傷跡が豪雨で洗い流される

洗面台の鏡の向こう側に、彼女の骨と血に刻み込まれたあの顔が現れた

指……

その言葉を口にするのは久しぶりで、彼女の唇と舌はほとんどもつれていた。意識の歯車が、錆を剥がされたように徐々に回り始める――

指揮官!

一瞬のためらいもなく、リーフは拳を固く握り、目の前の鏡を粉々に砕いた――

空間全体に暴風が吹き荒れた