Story Reader / 本編シナリオ / 36 デイドリーム·ビリーバー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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36-4 新生の城

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アシモフが提示した複数のテスト基準による検証の結果、リーの意識海過負荷は「偶発的な異常」であり、「再現不可能な事象」として確認された

複数の制限用ソフトウェアやハードウェアを増設したあと、「超刻」という名の機体は正常に起動していた

ああ~!こんな時間に来ておいて、審査の手続きが多すぎなのよ!これが特化機体待遇ってやつなのかしら?

視線の先には、報告書から頭を覗かせたアイラの姿があった。いつもの印象と違い、どこか見慣れない

あっ、万華のこと?そうなの!新機体なんだ~

アイラは両腕を広げてその場でクルリと1回転し、ピカピカの新機体を披露してくれた

この機体は、芸術協会でもトップの天才設計者たちが心血を注いで作ったものなの。戦闘性能をより重視したんだよね

特化機体とまではいかないけど、それでもすっごく強いのよ!

もちろん!セレーナがあんなに強くっちゃ、私も負けてられないわ

考古小隊の構造体がこれからも低い戦闘能力のまま、執行部隊の保護に頼ってるようじゃ……セレーナみたいな事故が、また起こらないとも限らないしね

親友と離れて過ごした数年の話題になり、アイラは落ち込んだような表情になったが、すぐにいつもの調子を取り戻した

だから、アレン会長はずっと指揮官を擁する特殊小隊の設立を進めてきたの。「危険」と判断された考古学的任務でも遂行できるように

当初、軍はこの提案に難色を示したんだけど、「安全区域」の設置が功を奏したのか、軍の態度が急に軟化してね。芸術協会にも、戦闘用機体の開発が許可されたってわけ

空中庭園は黄金時代に失われた資料や技術を回収しなきゃいけないのよ?安全区域の範囲が広がれば、芸術協会の考古小隊の考古調査範囲だって必然的に拡大される

アレン会長は軍と再度交渉して、山ほどの条件と引き換えに、ようやくこの特殊小隊の設立を軍に黙認させたのよ

うんうん、ホント、よかったわ!

許可通知が下りて、真っ先に機体の交換を申請したの

極彩機体も優秀だけど、戦闘モジュールを中心に設計された機体ではないから。地上任務を考えると、性能がちょっと心もとないっていうか……

うん。芸術協会の協力の下で立ち上げられた小隊だとしても、名目上は執行部隊の所属だから。慣らし運転として、司令部から簡単な任務がいくつか割り当てられてるの……

残念なのは、セレーナがまだ芸術協会の別の考古小隊と任務中だってことかな。セレーナと一緒に地上に行けたら、ステキな体験になったのになぁ~

アイラは少し残念そうにため息をつく

ま、機会ならまたあるかな!

アイラはふと視線を落とし、端末に表示された時刻を見た

あっ、そろそろ小隊の集合時間だわ……[player name]指揮官、それじゃあまたね!

時間ができたら「アイリスウォーブラー小隊」の隊員を連れて、グレイレイヴンの休憩室に遊びにいくね!その時はよろしく~

アイラは手を振ると、小走りで廊下の向こうへ駆けていった

アイラに振り返した手を空中に残したまま、心の中で彼女の言葉を繰り返した

その小隊名が聞こえた瞬間、おぼろげな光景が浮かび上がってきた

分厚い濃霧の向こうに、建物群の輪郭だけが薄っすらと見える

最後に深紅の塔を見て以来、「既視感」がもたらす映像は曖昧になり始めている。まるで、自身のバグに気付いて自己修復する機械のようだ

今でもまばらに断片は見えるし、微かな囁きも聞こえる。だがカッパーフィールド海洋博物館の時のようなはっきりとした「予兆」が再び現れることはなかった

これは何の前兆なのだろう?それにこの場所は……一体どこだろうか?

「既視感」は何を伝えようとしている?それが次第に薄れつつあるのは……何を示しているのだろう?

考え込むうちに霧は晴れ、先ほどまでの光景は幻のように消えた。我に返った時には、夜の帳が静かに降りていた

……ここでいいでしょう

ガシャン――

鈍い音が響く。トロイは半分しか残っていない廃墟のレンガ壁にもたれかかり、背負っていた箱を地面に放り投げた

ふぅ……

ちょっと!ダメじゃない!いくら箱の外殻が強固でも、中に入ってるコアは繊細なんだから!

疲れたのなら、ここからは私が背負うわ

そんなに気にしなくても大丈夫ですって。この箱、衝撃吸収材も入っていますし

それに、さっきもずっと運んでくれていたし……

青い髪の構造体はアイラを見上げると、なぜかため息をついた

新機体の余裕ってやつですか?私みたいな骨董品とは大違いですね

そう言ってトロイはポケットから端末を取り出し、接続ポートを箱に向け、コホンと軽く咳払いをした

アイリスウォーブラー小隊トロイ。午後8時11分、第3ポイントにて定期点検

浄化塔コア装置の状態は良好。データに異常なし。記録を終了します

端末から録音終了の通知音が鳴った瞬間、トロイの高調子だった声が再び低い声に戻った

で……旧浄化塔に新型コアが使えるか検証するなんて、本当に意味があるんですか?適合しないなら、中継インターフェースを作れば済む話じゃないですか……

恐らく、それは目的のひとつにすぎないんだと思います……

シルカはトロイの手から端末を受け取ると、画面に自身のサインをして、隣のアイラに手渡した

この一帯は重篤汚染区域の外縁にあたります。パニシングが完全に爆発してからはほとんど人もいなくなり、浄化塔は長らく整備も更新もされていません

軍の目的は、この周辺の状況を再確認して視野を広げ、将来の作戦に備えておきたいのでしょう

……今の軍の任務って、こんなに適当なんですか?

少し離れた廃墟の後ろから女性の声が聞こえた。トロイが銃口をさっと彼女に向けたが、アイラがそれを押し下げた

味方のはずよ……

アイラは浅紫色のショートヘアの構造体に向かって身分を照合した

あなたは……ムース小隊のライナね?

……ええ。あなたたちの関連資料はひと通り確認しています。シルカ、アイラ、それから……トロイ、ですね

ええ、その通り!我が隊にようこそ!

アイラは笑顔で手を差し出した。ライナは口をきっと結んだまま、形式的に手をさっと握ったものの、すぐに手を引っ込めた

形式的な挨拶も終わったことだし、本題に入りましょう――あなたたちに情報を共有しにきました

ライナは雑談をする気はないようで、崩れかけた壁の間に落ちていた枝を足でひょいと蹴り上げると、地面に図を描き始めた

これはこの周辺の地形図です。あなたたちが探している浄化塔は大体この辺りです

高濃度パニシングが侵蝕体や奇妙な生物を多数発生させています。浄化塔に入ってコアを交換する前に、この2カ所の敵を掃討しなければなりません……

□□……□□□……

うっ……

ライナ?

……大丈夫です。多分、パニシング濃度の影響です

少し……くっ……幻覚と幻聴が

空中庭園に戻って検査する?地上に来てどのくらい経ってるの?

必要ありません

ライナは「空中庭園に戻る」という言葉に微かな抵抗感を示すように、眉をしかめて首を振り、また枝を動かし始めた

話を続けましょう、どこまで話しましたっけ

ああ、そうでした……

ライナの情報は非常に正確で、地形図に記された2カ所の敵を掃討したあと、アイリスウォーブラー小隊は町の中央にある浄化塔への進入に成功した

恐らくこの浄化塔が建設された時、人々はまだ「地球奪還」という希望に万感の思いがあったのだろう。その造りは単なる機能的な施設というよりも、芸術作品のようだった

そのお陰で、長い時間が経った今でも、浄化塔内部は完全に使用不可能というほどには至っていない

手すりにまでこんな細かい模様が施されてるなんて……これが黄金時代の面影ってやつかしら?

フン……黄金時代の足下にも及びませんよ

この場で唯一、黄金時代を経験したことのあるトロイが乾いた笑いを漏らした

黄金時代は――こんな塔くらいじゃ、町の1区画の目印にすらなりませんでした。でも、今は……

トロイは塔の頂上に積もる埃にむせながら数歩後ずさり、しかめっ面で浄化塔のコアを下に置いた

これ、本当に起動できるんですか?

多分……できると思う

アイラは廃棄された浄化塔をざっと調べ、周囲に積もった灰を払い落として、電源を接続した。そして軽く叩いて調整すると、中央制御スクリーンが奇跡のように光を放った

ふぅん、やりますね。芸術協会の人ってこんなことまでするんですか?

任務の前に浄化塔に関する資料を調べておいたの。それに、芸術協会でも大型のインスタレーションの起動原理は把握しておくものだし……

彼女は浄化塔の中枢制御システムを丁寧に調べながら、元の浄化塔コアを取り外した

科学理事会からもらった説明書では、旧型浄化塔はこのインターフェースからコアを接続するらしいんだけど……

接続ケーブル、ありました!

4人は揃って浄化塔の中心部の傍らにしゃがみ込み、じっと待った――

やがて指示灯がひとつずつ点灯し、彼女たちが接続した浄化塔コアが低くうなり始めた

やった!大成功!

――空気中のパニシング濃度が徐々に下がっています!よかった!

シルカはパニシング濃度測定器を手に、浄化塔内部をあちこち測定して回った

このまま安定稼働してくれれば――

――待って

パニシング濃度が急速に低下し、前方の状況を確認するためのドローンを放ったアイラが動きをピタリと止め、信じられないとばかりに目を擦った

これは……何?

彼女の視線が画面に向かうのと同時に、他の3人も思わず息を呑んだ

この時空に存在しない影が浮かび上がるかのように、ドローンの上昇に伴い、壮大な都市のシルエットがゆっくりと視界の向こうに現れた――

それは黄金時代の都市だ

未完成の都市です

アイリスウォーブラー小隊からの報告を基に、その都市の位置を特定しました――

その都市はコンステリアと呼ばれ、黄金時代に設計と都市計画だけが完了しました。建設が開始され始めた頃にパニシングが爆発し、未完成のまま放棄されたようです

ですが、今の様子を見る限り……

絶対に不可能です

パニシング爆発後、すでにこれだけの時間が経っています。パニシングの状況下で、重篤汚染区域に都市を建設できる人類勢力が存在するはずありません

アイリスウォーブラー小隊から送られてきた映像を見ると、どうやらこの都市には……

映像が再生される。整備された街道では、数体の小さなロボットがある種の社会活動を行っているらしく、集まってはまたバラバラと別れていく

ええ、機械体です

セリカはこちらの発言を肯定し、続けて別の映像を再生した

全ての映像が示すように、この都市に人類の痕跡はありません。代わりに大勢の機械体が歩き回っています

先日、バネッサが調査した「黒野孤児院」の状況と同じく、特異な行動パターンを持つ機械体がこの都市を支配していると、私たちは推測しています

黄金時代の末期、人類の集団社会文明の最後の「結晶」。いうまでもなく、そのような都市には計り知れないほどの価値がある

はい。地上レーダーではまだ指揮官のマインドビーコンを捉えていますが、都市内部の信号干渉が強く、アイリスウォーブラー小隊とは連絡が取れない状態です

報告後、進入と探索継続の指令を受け、彼女たちはコンステリアと呼ばれる都市に入っていきました――

ハロー、こちらアイラで――す!

ちょっと、一応任務報告なんですから、もっと真面目に――!

別にいいんじゃないですか?どうせ誰も見ませんって……

……いえ、必ず誰かは見ます。ファウンスにも任務報告の記録はたくさん残っていましたし……

あれっ、もう録画は始まっている……?

端末がすでに録画を開始していることに気付き、カメラの向こうでボソボソとしゃべっていた声がピタリと止まった

コホン、こちらアイリスウォーブラー小隊隊長、アイラです!こんにちは~

誰かに促されたのか、彼女は咳払いをすると改めて話し始めた

私たちは現在この都市の外縁にいます。都市内部では、何らかの特殊な方法によってあらゆる外部からの電磁信号が遮断されるようで、遠隔通信設備が使用できません

そのため、私たちの最初の記録資料はこの場から送信することにします

これから、私たちは「探索」を第一の目標とし、「コンステリア」都市の調査任務に向かいます

報告は以上!それでは――

ホログラムの映像はぷつりと途切れた

この任務報告の送信後、彼女たちから新たな情報は送られていません――本日ですでに3日が経過しています

明確な報告があり、彼女たちの位置も把握している。本来なら他の小隊を支援に向かわせる必要はないのですが……

会議室の中で、端末の光が不規則に明滅していた

私たちはある信頼できる筋から、黒野が秘密裏に人を派遣し、浄化塔のコア交換後に、密かにコンステリアに進入しているという情報を得ました

それは……

会議室の扉が慌ただしく開き、ニコラがセリカの言いかけた話を引き継いだ

表面上、あの都市は4つの経済共同体――九龍、アディレ、北極航路連合、環大西洋経済共同体が共同出資した超大型都市ということになっている。だが、実際は……

裏でコンステリアの建設を主導していたのは黒野だ

つい今まで議長やアレンと打ち合わせで、遅くなった

二コラは軽く頷いて席についた

いや、黒野ですら、今はこの規模の都市を接収する余力はない

私が得た情報によると、黒野がコンステリアに入ったのは、とある実験結果を回収するためだ

より正確に言えば、逃走した実験体だ

「意識海融合と分離可能なモジュール化技術」の実験結果で、内通者の情報によれば、「構造体と特殊リンクが可能」な「生物兵器」らしい

…………

二コラはこれ以上、この話題を続けたくないようだった

とにかく、私の知り得た情報はこれで全部だ

セリカ、グレイレイヴン隊員の現在の状況は?

リーは科学理事会で超刻機体の定期検査中です。リーフも新機体の適合中で、ヒポクラテスが彼女の意識海検査を手伝っています

今、グレイレイヴンで地上任務に就けるのはルシアと[player name]指揮官だけです

ホワイトスワンは手が空いていますが休養中です。テセの離反により、バネッサは新たな候補メンバーにレイアを選びましたが、まだ調整期間中です

ホワイトスワンとグレイレイヴンだ。任務目標は黒野の阻止。黒野より先に「実験体」を回収しろ

壮大な都市は投影から足下の道路へと変わった。現実とも幻ともつかないような感覚を覚える

シルカと連絡を取り、簡単に情報をやり取りしたあと、バネッサはうんざりした様子で通信を切った

まったく、面倒だな。こんな寄せ集めの雑魚小隊の尻拭いとは

黒野の部隊を阻止し、実験体まで探す。その上、密かに派遣されている粛清部隊よりも先行しろ、か……

パニシングの危機にすら動じなかったバネッサが、不愉快そうに眉をひそめた

こんな茶番、いつになったらあいつらが飽きるんだ

フン

バネッサは否定も肯定もせず鼻で笑った

先ほどの通信におけるバネッサの態度から察するに、彼女とシルカは単なる同僚という関係ではなさそうだ

お前の耳がまともに情報を聞き分けられる程度には機能しているなら――さっき聞こえた通りだ

シルカの実習期間、私は指導官だった。彼女は私が受け持った最初の「生徒」だ

何か不快な記憶を思い出したのか、バネッサは目を細めた

勤勉であること以外は、愚図だし頭も悪いし、取柄のない馬鹿だ

あれから少しも成長していないのなら、どことも知れない戦場で、訳もわからず死ぬことになるだろう

一瞬、言いようのない鋭い痛みが脳内に走った

その痛みの正体を確かめる間もなく、バネッサはさっさとこの会話を終わらせた

行くぞ。こんな任務に時間を割きたくはない

コンステリアに入ってからの道中は決して平穏ではなかった。見たことのある「敵」が次々と現れたのだ

敵は機械体が模造した意識を持たない造物にすぎなかったが、やはり多少の手を取られてしまった。シルカと合流する頃には、ホールはすでに酷く荒れた状態だった

……お前の隊員と実験体が合体しただと?

だ、大体……そんな感じです……

バネッサの圧に押され、シルカは声を震わせながらも、簡潔にここまでの経緯を説明した

機械体セルバンテスと遭遇し、このホールに入ったあと、あの鎧がライナを「乗っ取り」、ホール内の全員を襲撃して姿を消した……

……馬鹿は馬鹿な出来事に鉢合わせするものだな

バネッサは珍しく優雅さを欠いた仕草で呆れ顔を見せた

粛清部隊はすでにコンステリアに到着している。これから、我々は急いで実験体を回収しなければならない……

お、お願いします、手伝ってください、バネッサ先輩!

勇気を振り絞るようにして、シルカは小声で自身の要求を述べた

ホワイトスワンにトロイさんの護送をお願いできますか?わ、私は[player name]先輩と一緒にライナを追いかけます!

正気か?あれはチームの足手まといだろう

ラ、ライナはアイリスウォーブラー小隊のメンバーです!私には指揮官として、彼女たちに対する責任があります!

…………

しくじるなよ。もし失敗したら、粛清部隊より私が先にお前たちを始末する

そう吐き捨てると、バネッサとホワイトスワンの他のふたりはトロイを連れて去っていった

突破口を確認してライナが去った方向へ進むグレイレイヴンとアイリスウォーブラーを、意識のない戦闘機械体が四方から現れ、進路を阻むように取り囲んだ

くっ、どうしてこんな数の敵が……

力の限りに銃を構えたシルカは機械体を1体撃破すると、歯を食いしばった

ダメです、ここで全員を消耗させるわけにはいきません……

アイラさんの機体はまだ余力がありますから……

ふた手に別れましょう。片方はここに残って包囲の突破口を開き、片方は追跡に向かいます……

グレイレイヴン指揮官の励ますような目に、シルカの言葉は次第に滑らかになった

私と指揮官で道を切り拓きます。アイラ、あなたたちは仲間を追ってください

……私はもう体力がありません。ここで[player name]先輩を手伝います。アイラさん、最後の最後は……あなたに託します

わかった!

ビーム槍が鮮やかな軌跡を描き、ピンクの髪の構造体は迷うことなく自身の戦場へと駆けていった

2週間後のコンステリア。陽光は眩く輝いていた

風車塔の頂上に立つアイラの前に、彼女のイーゼルが置かれていた

それで?それから何があったの?

それからね、ホールでセルバンテスっていう人に出会ったの

なぜかわからないけど、そこで「あなた」に会える気がしたわ……

そうね、多分第六感ってやつかな。もしホントにそこでセレーナに会えてたら、また別の面白い物語になっていたかもね

そうかもしれない。もし私がそこに現れたら、きっとアイラを助けていたでしょうから

もちろんよ!だって私たち、親友だもの!

絵筆で画用紙に色を重ねながら、アイラは自分の冒険譚を語り続けた

セルバンテスはただこの物語に加わりたかっただけなのよ。私にはあまり共感できないけど、自身の理念を証明しようと彼なりの「答え」を探していたわ

敗者は敗者でしかない。「達成していたであろう結果」なんて、誰も興味を持ちません

だからこそ、私は先生を「敗者」にしたくないというごく個人的な願望から、この全てを行ったのかもしれない

さあ、では私があなたの相手になりましょう。アイラさん、突然の「追加公演」ですが、「物語」はそろそろ終幕を迎えます

あなたが私にあんな言葉を告げたからです。あなたがどう自分の理念を証明するのか……あるいは自分の失敗にどう向き合うのかを見てみたくなりました

この世界で私たちはただの塵芥であり、やがて錆びるネジです。勝利という結果を残せないなら、私たちは土に混ざる汚物、屈辱の破片でしかない

それでも私はこう思うの。全力を尽くさず終わるなんて、それは「結末」とは呼べないんじゃない?って

勝利できるかどうかは重要じゃない。たとえ敗北が運命づけられていても、きっと自分だけの痕跡を残すことはできるわ

彼の戦闘能力はそれほど高くなかった。彼はただ「結果」を求めていただけなんだって私は思ったの

それに……ライナ

絵筆は雨の風景を描き出した。淡い灰色の雲と濡れる風車塔、そして塔の中に立つ「ライナ」の姿を

戦闘が終わって目が覚めた時、ライナと鎧は姿を消していたわ

でも、私は諦めないわ。必ずライナを見つけ出す。アイリスウォーブラー小隊が再び集まる日が来るって、私は信じてるの

アイラはそう言って画用紙を破り取ると、筆を振るい、新たに紙の上に深く澄みきった青空を描き始めた

アイリスウォーブラー小隊は今、無期限で活動休止中だけど、幸い、私は別の「目標」を見つけてるんだ

コンステリアのこと?

ビンゴ!セルバンテスからコンステリアを託されたの。それがあなたを招待した理由でもあるんだけど

科学理事会と協力して、風車塔に改良した浄化塔コアを組み込んで、本当の意味での「改良型浄化塔」の第1号にしようと思ってるんだ

そして……

背景に煌くような虹を描きながら、アイラは眩しいほどの笑みを浮かべた

アイラ

私たちが努力すれば、きっと「次の時代」へ歩き出せる――そう信じてる

私たちなら、セルバンテスにもっと美しい答えを渡せるわよ

ええ、きっとそうね

風車塔の外には、澄み切った青空が広がっていた

…………

フォン·ネガットはコンステリアから離れた場所に立ち、すでに稼働を始めた風車塔を無言で見つめていた

コンステリア……あなたとニモさんには、何か新しい計画が?

いいえ

彼は、もしかするとコンステリアに何か問題があり、それが原因で異重合塔が降臨しなかったのではないか、と考えたことがあった

だが、ここで特に異常が起きた様子は見えない

……行きましょう

例の場所へ。代替プランの準備を始めます

赤潮をもう一歩前進させる時は今です

承知しました、先生