Story Reader / 本編シナリオ / 35 ビヨンド·ザ·シー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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35-21 「信仰」

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テントの外では、山の全ての植物を根こそぎ引き抜き、土を全て洗い流すような激しい雨が降りしきっていた

赤潮の天啓の信者たちはテントの中で身を寄せ合い、激しく降り注ぐ雨を不安そうに見つめていた

こんなにも激しい雨が……

グレースは心配そうにルーン文字が詰まった麻袋を揉みしだき、「雨はいつやむのでしょう」と呟くと、何度も考えた末に袋の中から最初に手に触れたルーンを取り出した

その木に刻まれたルーン文字は、アルファベットに置き換えると――Hだ

雹……

遅延、制限、終焉……これは占いではあまりいい結果ではない

変えられない時は、ただ信仰にすがるしかない。もともとグレースは占いが得意ではなかったが、時間が経つにつれて次第に熟達していった

神よ……どうか私たちを導いてください

私たちの物資はすでに不足し、蒔いたばかりの種も大雨で流されてしまいました……神よ、どうか私たちを導き、進む方向をお示しください

目を閉じ、グレースはしばらくぶつぶつと呟きながら祈りを捧げ、再び麻袋を手に取ると、軽く振ってから袋を机の上に置き、別のルーンを取り出した

これは石に刻まれたルーンだった――このような世界では、彼女が大きさや形の揃った石や木の占い道具一式を揃える余裕などなかった

アルファベットに置き換えると――N、制限、要求、危機……

はぁ……

グレースは眉を曇らせ、ルーンを全てしまい込んだ

天啓者様……神は何かお示しになられましたか?

グレースがルーンをしまうのを見て、信者たちはグレースの口から「雨はもうすぐやみ、私たちは必ず生き延びられる」という答えを得ようとして取り囲んだ

顔色の悪いやつれた面々を見つめ、グレースは歯を食いしばって、再びあの言葉を口にした

神は仰いました、耐え忍べと。現在の状況は私たちへの試練であり、その後、必ず困難を乗り越えられると……

レーション1袋、レーション2袋、レーション2.5袋、2.7袋……

……神は仰いました、この時期を耐え忍びさえすれば……

……缶詰4個、缶詰4.5個、缶詰4.8個……

……ヘビースモーカー!

――はい!天啓者様、お呼びでしょうか?

中年の男が外から慌てて戻ってきた。粗末なテント布を羽織っていたが、ほとんどずぶ濡れになっていた

こんな時に缶詰を数える必要がありますか!それに、なんで4.8個なんて数え方になるんです!

いやいやいや、俺が盗み食いしたわけじゃないですよ

あの0.5個は、この前オーウェンちゃんが病気の時に、レーション入り缶詰粥を作った分。あと0.3個はおととい、ゾーイがパニシングに軽く侵蝕されて、死にかけて……

彼はモゴモゴと言葉を詰まらせ、大きな音を立てて鼻をかんだ

彼女はもう死にかけだったけど、あなたが最期はせめて少しでも楽にしてやれって言うから、3分の2缶を食べさせたんですよ

……もうこれだけしか物資が残っていないのですか?

そうです……この物資も先月、通りかかった保全エリアの外で、並んで受け取った救済物資ですよ

でも今の状況じゃ、あの保全エリアがいつまた補給を配るのか誰にもわかりませんや。恐らく彼ら自身の食べる分も足りないでしょうよ……

……はぁ

グレースは今日何度目かわからないため息をついた

いつになったら……雨はやむのでしょう

テントの外では、数人の信者たちが集まり、ボロボロの紙に書き写された赤潮の天啓の教義を唱えている

彼らは「災厄」から「呪詛」までの章は避け、「自省」「祈願」「救済」を繰り返し呟いていた

「私はもう頼るものも求めるものもなく、ただ救いを得たいと願うのです……」

「神よ、私はあなたの尊き御名を讃え、あなたの足下にひれ伏します……」

「神は天国を創造し、神は赤潮の中で人々に永遠の命をお与えになります……」

雷鳴が轟いた

なんて災難だって、こんなに雨が降りやがって――

長髪の構造体は大声で悪態をつきながら、羽織っていたテント布を無造作に地面に投げ捨てた

教義を唱えていた信者たちは小声で不満を漏らしたが、その長髪の女性には聞かれないようにしていた

ルル、お帰りなさい……収獲はどうだった?

こんなものも「収獲」と呼ぶなら、あるけど

彼女は乱暴に、雨に濡れた小さな包みをグレースのすぐ側に放り投げた

包みが開くと、中から包帯がふたつ、未開封のフルーツ缶詰がひとつ、いつのものかわからない食糧が1袋と、ひと握りの籾が散らばった

これが、そっちの「占い」――の結果ってわけ

長髪の女性は大きく息を吸い込んで、今にも溢れ出しそうな汚い言葉をかろうじてこらえると、しばらく考え込んでから再び口を開いた

あんたがのたまったあの方向に向かってずっと進んで、先にある廃墟に近付いたところで、とても小さな――赤潮に沈んだ――難民エリアを見つけた

何体もの侵蝕体と、しつこい異合生物を相手に苦労して、ようやくこれっぽっち

占いじゃ、まさかこんな大雨が突然降るなんて出なかったじゃない。私の銃が危うく不発になりかけたっての

彼女はぶつぶつ文句を言いながらグレースの側に座り、手慣れた様子で工具を取り出し、「腕」として使っている銃を取り外した

……ご苦労さま、ルル。少なくとも今日の食料は確保できたわ

チッ、人の苦労も知らずにさ

女性構造体は鼻で笑い、引き続き自分の「腕」の修理に集中した

やがて、料理に使う金属製の鍋と焚き火が用意された

古くなった食糧を煮た匂いは何ともいえず、あの0.3個の缶詰が加えられたせいか、今日は皆、いつも以上にこの食事を楽しみにしていた

赤潮の神よ、私たちに食べ物を授けてくださり、感謝いたします……

食事の前に、信者たちはいつものように小声で祈りを捧げた

……【規制音】、赤潮に感謝するのかよ。感謝すべきは私じゃないの?

……私たちに導きを与え、明日の太陽を見せてくださり、ありがとうございます……

はっ、こんな大雨じゃ、明日太陽はお出ましじゃないかもよ……ちょっと、何引っ張ってんのよ

祈りを妨げる者が脇へ連れていかれたことで、残った信者たちは祈りを続行できた

チッ、私、嘘なんか言ってないって

……その話じゃないの。あなたはさっき、何か私だけに話したいことがあったのでは?

ルルが自分の側に座り、何度も言いかけてはやめる様子を見て、グレースは彼女のボディランゲージを読み取っていた

うーん、話すべきか判断ついてないんだけど……

腰の防水ポケットからボロボロの紙を取り出し、ルルはしばらくためらったあと、グレースにそれを差し出した

これ、もしかすると赤潮教の他のメンバーが残したものかもしれない

……赤潮の天啓、よ

ルルの変な呼び方を訂正しつつ、グレースはその紙を受け取った

これは……招待状?

「赤潮の天啓」のメンバーを「カッパーフィールド海洋博物館」へ招待する――試練を乗り越え、その「海に近い場所」にたどり着ければ、「赤潮の中で新生を得られる」……

胡散臭さ爆発って感じ

これ、仲間が残したもんなの?

……どうでしょうね。もう長い間、他の天啓者とは連絡を取っていませんし。でもこの印は確かに私が知る天啓者のひとりが残したものです

グレースは手紙をなでながら、心の奥に不安を覚えた

あの難民キャンプは、その天啓者がかつて駐留していた場所だったのかもしれない。そこはすでに赤潮に侵蝕されている。ということは……

その天啓者は果たして「新生」を得たのだろうか、それとも……「試練」に向かっているのだろうか?

この場所に行くべきでしょうか?

え?……は?まさか私に訊いてる?

じゃ答えるけど、行ってみればいいんじゃない

物資が少なすぎるし、近くに保全エリアもない。空中庭園のサギ……人たちから食料を分けてもらうのも無理だし。ここにいても遅かれ早かれ飢え死にだしね

それにこの辺りは隅々まで探したけど、私が使えそうなパーツは見つからない。私がこの大雨で完全に壊れたら、手を取り合ってそっちがいう「新生」とやらに入るしかないね

ルルは乾いた声で笑った

どう思う?占いが得意なんでしょ?占ってみたら?

私……

グレースは麻袋を揉みながら、占いをするべきか迷っている。最近の占いはどれも期待したくなるような結果が出ていない……

ああ、そうだ、もうひとつ……

そう言いかけた矢先、「パチッ」という音がして、テント内の薄暗い電球が切れた。グレースは驚いて麻袋を落とし、ルーンが地面に散らばった

はっ、やっぱりね

私が戻った時、近くのまともだった発電機が侵蝕体に壊されてた。試してみたけど、修理は難しそうだった。ネジのひとつが赤かったもの

このキャンプは今後、電気が不通になるかもね

…………

うずくまったグレースの頭の中に、さまざまな思いが交錯した

海辺に行って、試練を受けるべきだろうか?

おい――暗がりに紛れて缶詰をこそこそ盗み食いしようなんて思うなよ!クソガキ!

ヘビースモーカーの大声が暗闇の中に響き渡り、ネズミのようなカサカサという小さな物音がピタリとやんだ

物資箱から離れろ!どけどけ!言っておくぞ!盗み食いしたやつが赤潮に入って新生を得るなんて絶対に無理だからな!

肉の缶詰を盗むのもダメだし、フルーツの缶詰を盗むなんてもってのほかだ!

パタパタとまばらな足音が響き、子供たちが押し合いながら物資箱の側から離れていった

レーション1袋、レーション2袋、レーション2.5袋、2.7袋……今日はレーションを消費せずに済んだ。赤潮の神に感謝を……

【規制音】が

……缶詰4個、缶詰4.5個……

チッ、また3分の1個の缶詰をあの際限なく欲しがるイナゴどもに与えてしまったし、残りは缶詰4個だけか。新しく植えた作物も大雨で流されたし……

あーあ

ヘビースモーカーはため息をつき、物資箱の後ろにいたグレースとルルに気付かないまま物資の確認を終えると、テントを出ていった

海辺に……行くべきだろうか?グレースは暗闇の中で無意識に手探りし、地面にあるルーンに触れた……

R――馬車、旅行、如何なる交渉も有利な方向に終わる

…………

おっと、なんだか急に悟りを開いたような顔付きだけど?

何でもありません、神がもう答えを教えてくださいました

グレースは大きく息を吐き、ルルがようやく灯した松明の光の中で、全てのルーンを拾い集めた

……まあ、そっちがそれでいいならいいんじゃないの

焚き火が再び燃やされ、不安げな面持ちの信者たちを前に、グレースは焚き火の側に立った。微かな光が彼女の瞳に揺らめいている

皆さん――神はすでに未来への道を指し示してくださいました

私は新たな天啓を得ました

それはよかった、天啓者様……

神は私たちに新たな試練をお与えになりました

炎に照らされ、あのボロボロの紙に記された「赤潮の天啓」の印がひときわ目立っていた

彼女が紙を焚き火に投げ入れた時、テントの外から風が吹き抜けた。手紙は炎に焼かれ、金と赤の火の粉が炎の束縛を逃れ、たちまち宙へと舞い上がっていった

私たちは出発し、海辺へ向かい、この――神の試練を受けます

この試練を乗り越えることさえできれば、私たちは……「新生」を得ることができるのです

「神よ、私はあなたの尊き御名を讃え、あなたの足下にひれ伏します……」

「神は天国を創造し、神は赤潮の中で人々に永遠の命をお与えになります……」

信者たちは跪き、赤潮の天啓の教義を呟いたあと、少しばかりの物資を忙しく数え、新たな旅立ちの準備を始めた

グレースはテントの中央に立ち、ルーンが入った麻袋をなでていた――彼女にもう再び占う勇気はない。別の悪い結果が出ることを恐れているからだ

彼女は希望を未来に託すしかなかった……

R――馬車、旅行、如何なる交渉も有利な方向に終わる

もしかすると、未来には本当に「新たな希望」があるのかもしれない

そんな幻想を抱きながら、グレースは古びた地図の指示に従い、赤潮の天啓の信者たちを率いて出発の準備をした。「カッパーフィールド海洋博物館」――

あの「新生」を得られると告げられた場所へ