Story Reader / 本編シナリオ / 35 ビヨンド·ザ·シー / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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35-3 繰り返されるループ

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おはよう、ビアンカ

授業の予習はしてきた?今日やるところは……

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王道フラグを立てるなよ……

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それから?それから……彼はそのまま命を落とした

そうだ、彼はそのまま……頭を食べられてしまった……

列車は轟音を立てて走り抜ける――

ビアンカ……

どこかで……聞き覚えのある声が、呼んでいる気が……

……[player name]……指揮官殿?

……ここは、海洋博物館じゃない……

混沌とした視界の中で海と空は溶けて混ざり、嵐の前触れを思わせる陰鬱な空気に沈んでいる

うっ……意識海の偏移が原因で、視覚に誤差が生じているのでしょうか……

その姿が、視覚モジュールの境界に映り込んだ。虚空にぽっかりと現れた駐機場。必死に何かを話すが、ビアンカにはその声がまるで聞こえない。

意識海の中の幻覚であろうとなかろうと……

……熱帯魚に……気をつけて……海洋博物館に赤潮が……

昇格者に気をつけて……

隊長………………

隊長、隊長!

ゲホッ……

口内に残る循環液の苦みはなかなか消えず、ぼんやりとした意識はやがて重たい身体へと引き戻されていった

シルフ……

かろうじて眼前の隊員を認識すると、ビアンカは喉にまとわりつく循環液を咳き込みながら吐き出し、鈍く痛む意識海をどうにか安定させようと努める

今のは……意識海の幻覚?でも、なぜ[player name]の声があれほどまでに現実味を帯びていたのか……

深く考えている余裕などない。意識海の激痛がようやく収まると、彼女はすぐに現在の状況確認を行った

……1階に撤退したのですか?

いいえ

それでは、私たちは今……

状況は最悪です

…………

誰かが海洋博物館の赤潮を意図的に操作しています。しかも、相手は明らかにここの構造を熟知しています

我々は現在地下2階にいる可能性が高く、1階へ通じる道はほぼ赤潮に封鎖されている……つまり、このまま撤退するしかありません

…………

通信は?空中庭園に連絡は可能ですか?

難しいです。パニシング濃度が非常に高いため、情報発信が断続的になってしまいます

ビアンカは俯き、機体の状態データを取り出して確認する――

鮮やかな赤が広がっている

長時間にわたる激しい戦闘で、ビアンカは赤潮の侵蝕に対する抵抗力を失いつつあった。難民や隊員を可能な限り保護し、彼女の意識海は徐々に偏移し始めていた

――だが今は、意識海の安定を待っている場合ではない

……包帯をください

循環液の流出が多い傷口を手早く数カ所きつく縛り上げ、ビアンカは周囲の状況に目を光らせた

ここは海洋博物館の地下観光ホールのようだ。両側の大きなゲートは確かに封鎖されているが、赤潮が僅かにゲートの隙間から流れ込んできている

難民たちはぎゅうぎゅうになって座り込み、奇妙な物を手にひたすら祈りを捧げている。一方、粛清部隊の一部の隊員は警戒態勢のまま、残った隊員同士で治療し合っていた

ビアンカは端末を持ち上げてしばらく考え込み、録画ボタンを押した

こちら粛清部隊隊長、ビアンカです。第3救援小隊を率いて海洋博物館に侵入し、現在は4回目の任務情報を記録しています

この記録映像が保存されたチップをここに残します。後続者が手がかりを見つけ、進むべき道を把握できるよう、目印をつけておきます

地上2階の探索を行いましたが、第1及び第2救援小隊の行方に繋がる情報は何も発見できませんでした

ですが、予期せぬ発見がありました。昇格者が地下水路を通じて海洋博物館最下層の大型水槽に大量の赤潮を貯め込み、それを利用して攻撃しています

……パニシング濃度が高すぎます、赤潮に間違いありません

空気は冷たく、湿気を帯びた泥土の匂いが感覚を覆う――ビアンカが率いる小隊は、海洋博物館の地下1階に足を踏み入れたばかりだった

ここに足を踏み入れると同時に攻撃を受けた。ドロドロとした濃色の液体が至るところに流れ出し、異形の異合生物が赤潮から次々と現れて救援小隊に容赦なく襲いかかったのだ

偵察ドローンを前方に配置して、赤潮が漏出している具体的な位置を探知させます

あなたなら……他の実験効果があるかも

赤潮の後方に紫色の髪の姿がサッと横切った

誰です!出てきなさい!

ただの実験。じっとしていれば、痛くなくて済むから

――総員警戒!周囲の下水道の出口に注意!

うわっ――

下がりなさい!あとは私が――

……このような追撃戦を何度も繰り返したあと、私たちは昇格者にこの地下2階の中央部辺りに「追い払われた」のです

幸運なことに、私たちはここで第1及び第2救援小隊の救助目標を見つけました

赤潮の天啓の信者と……そのリーダー、グレースです

うわああ――!

驚く声で録画が中断された。ビアンカは手にある端末を勢いのままに隣の隊員に投げ渡し、剣杖を振りかざす――

赤潮はドロドロとした形に歪み、ぼやけてはっきりしない声が赤潮の表面の泡から弾けた

▂█▇▃フラグ█▇立てる█▇よ……

味は▃▇▃▇悪▃██▇▃ノー▇▃█ス……

…………

シルフが横からとっさに現れ、赤潮の最後の触手を断ち切った

……ありがとうございます

……お気になさらず

進み続けますか?それとも引き返しますか?

転進しましょう、なんとしても撤退しないと。赤潮の天啓の信者たちは非戦闘員です、このまま進めば無駄に死傷者が増えるだけです

救援小隊とセン副隊長は、まだ見つかっていませんが

……先に信者たちを地上に送り届け、迎えの隊員たちと合流させます

任務は……きっと、無事に遂行できます

……はい

フードをかぶり直し、シルフは口を噤んだ

ふたりの会話が終わったと見て取ったグレースは、自分の存在をアピールするかのようにあえて裾で衣擦れの音を立てた

あの、ビアンカ……隊長?

深い緑色の髪の女性は妙な飾りのついた棒を手に、どうやって切り出すか考えていたようだ

ありがとうございます……危険を冒してまで助けに来てくださって

……いえ。こちらこそ、先ほど制御室のゲートを素早く開けてくださったこと、感謝いたします

慌ただしく顔を上げたグレースは、ビアンカと目が合った。彼女は1歩後ずさると、注意を逸らしたいのか手にした棒を指でトントンとつついた

……ごめんなさい

制御室のゲートを開けたのは確かに赤潮の天啓の者たちだ。だがゲートは、それより前に彼らによって故意に閉められていた

地下2階の制御室で、グレースはとっくに監視カメラによって新しい救援者を確認していた。そこで意図的に信者たちをこの大広間に移動させ、制御室でゲートを閉じた――

救援小隊の者はここを必ず通る必要がある。彼らに貸しを少し作るために、中に入れるようにゲートを開けてやれば――

彼女はその力を疑い、恐れつつも、それに頼りたくてたまらなかった

……あなたたちがここに入ってどれくらいですか?

ビアンカはグレースの「ごめんなさい」に含まれたさまざまな意味合いに気付かないかのように、単刀直入に訊ねた

恐らくビアンカは追及してこないだろう――そう予想していたグレースは、その問いに低い声で答えた

少なくとも10日は経っていると思います

入ったのはある日の早朝でした。ここに入ってからは時計が機能しなくなったので、空腹度合いで棒に縦線を書いていました

途中で空腹のあまり気絶したりで、多少誤差はありますが……大体10日間くらいです

10日……

セン……いえ、空中庭園の救援小隊は来ませんでしたか?

いえ、そのような人たちは……あの、センとは青髪の構造体の方ですか?

そう、その彼女です。何か彼女に関する手がかりはありませんか?

……すみません、彼女は小隊と一緒に昇格者を止めてくれたんです……お陰で私たちは逃げられた……

…………

その後、私たちは地下2階の制御室に逃げ込んだのですが、怪物だらけで食べ物も残り僅かに……

……大丈夫です、きっと無事に地上に戻れます

……ごめんなさい。この言葉以外、他に言えることがなくて……

彼女は不安そうに呟いた。ビアンカが彼女たちを見捨て、戦闘能力のある隊員ごといなくなってしまわないか恐れているようだ

あの、何かお手伝いできることは?

偵察くらいなら私たちにもできます!他のことでも仰っていただけたら……

……ご親切に、でもお気持ちだけで結構です。現状、犠牲者を出してまで道を開く必要はありません

全員を地上に無事に導けるよう、努力いたします

ビアンカはそう言って端末の中にある地図情報を調べ出した。崩れていない、または大規模の赤潮に覆われていない道を探そうと目を細めている

監視室の中では漆黒の代行者が、その様子を監視カメラからの映像で見つめていた

…………

人がまた増えました。少し赤潮を放出して分散させますか?

たまには賑やかなのも悪くない……

男の口調に、気付くか気付かないかの微かな混乱がある

……先生、意識が……

……なんでもありません

フォン·ネガットは雑音の中からなんとか正しい思考を取り戻そうと、その人差し指で仮面を擦るようにして思考を続けた

センの融合はどうです?

思っていたより成功しています。彼女はグレースより人型異合生物との融合に適しているのかも

…………

彼は微妙な違和感のせいで少々不快感を覚えていたが、情報を細かく整理しても、これだというミスは見つけられない

彼にはわかっていた、徐々に何かの制御を失いつつあることを――あやふやで、正確に特定するのが難しい、ある瞬間から

「塔」は……彼との接続を切断している

この「結果」に気付き、彼は全ての手記をくまなく調べたが「塔」の接続切断を示す内容は見つけられなかった

数え切れないほどの記録を調べたあと、ようやく彼は大まかな手がかりの輪郭を掴んだ。変化の啓示は――カッパーフィールド海洋博物館かもしれない

でも一体、どのような変化が?

取り乱すような、制御不能な感じはまるで象の体に潜む虫けらのように掴みづらい。彼の計画に影響はしないものの、常に彼の心を乱す一因となっていた

一体何が原因なのか……海底のゆりかごが失敗したか、あるいは塔内に何か異変があったか、それとも……

これは彼にとって初めて制御できなかった「想定外の出来事」であり、そして初めて気付いた事実だった――自分の視界の外に、何者かが存在しているようだ

それは宇宙全体を吞み込むほどに巨大で、彼の知覚を曇らせる一方、黄昏どきの虫けらのように小さく、息を吹きかけるだけでその飛行の軌跡を邪魔できるほどだった

彼は「未知」がもたらした疑いを、確かに感じ取っていた

惑砂は依然として彼の指示通り、実験の進捗報告を続けている

センは人型異合生物の残骸とうまく融合しています。もっと強大な意識をこの赤潮に縫いつけたら、多分……更に完璧な生物を育めると思います

例えば、あの粛清部隊の隊長とか

…………

より完璧な生物は……より多くの可能性を意味する。そうでしょう、先生?

その通りです

微妙な違和感はまだ残っているが、代行者にはもう、この制御不能な感覚に対処する術がわかっていた

「塔」さえ降臨すれば、全てが滞りなく進むはず

もし「塔」が既定日時に降臨しなかった場合、自ら「塔」をここに呼ぶ――これは、彼の手段のひとつにすぎない

さあ、子羊をあなたの牧場に追いやりなさい。実験の時間は……まだまだ残っています

彼はそう言って、惑砂の話を黙認した

カッパーフィールド海洋博物館はまだ彼らの手中だ。時間はたっぷり残っている