彼女は荒れ果てた地を歩いている
ここは……どこ……
林立する廃墟が交差し、空を飛ぶ鳥は白い骨と哀歌をくわえている
塗装は風砂によって徐々に剥がれ落ち、彼女は重い墓碑を背負いながら終わりのない道を茫然と見つめている
私は……誰?
ゆらゆらと定まらぬ視線が、すぐ側の崩れた壁に落ちる。壊れたガラスの中、徐々に顔がぼんやり映し出され、ひとひらの雪片がふうわりと彼女の睫毛に留まった
雪……
私は……雪原で生まれた……
雪原……
……雪原で、自分を育ててくれた神父を殺したって聞いたぞ
いいえ……違う……
やっぱり……「魔女」と関わったりするから……
私じゃない……
出ていけ!この町から出ていけ!二度と俺たちに近付くなよ!
私は……誰?
裾が汚れに染まっている……
修道女……?それとも……魔女?
感情なんてものは無意味です。侵蝕体すら処理できないとは、本当に軟弱だな
「魔女」と呼ばれていると知った時、人間味が一切ない、判断も行動も恐ろしく早い人だからなのかと思いました……今思えば笑っちゃいますけどね!
話しているのは誰?私を見ているのは……誰?
私がこだわっているものは……正しいのでしょうか?
私は一体、誰?
私は一体、どのような「身分」で……この世界に存在するべきなのでしょうか?
足下の砂利は次第にぬかるんでいき、彼女は沼の底へと沈んでいく――
彼女は見た、赤潮の中に浮かぶ自分を
私……
声は乾いた喉に詰まり、意味もなく手を伸ばすが、赤潮に蝕まれゆく意識は徐々に身体から離れていく
このまま倒れてはいけない、ダメ……
深く暗い闇が彼女の視界を奪った
ビアンカ……
私を呼んでいるのは……誰……?
視覚モジュールが突然、暗闇に包まれる
フォン·ネガットの臨時拠点
フォン·ネガットの臨時拠点
先生……約束していた「目覚め」の時間ではありません
ええ、あなたを目覚めさせる時間を早めたのです
「赤潮」の培養開始を早める必要が出てきたので
ですが……そうすると……
少し予想外の出来事があり、カッパーフィールド海洋博物館の下にある拠点の使用が早まりました
男はノートをめくり、淡々と口を開く
塔……
目を覚ましたばかりの紫色の髪の昇格者は、明らかにまだ完全に目覚めておらず、フォン·ネガットの口から出た言葉をすぐには理解できなかった
先生が以前言っていた、あの「塔」ですか?
代行者は彼の戸惑いに気付く
何かあったのかもしれません、ですから……
カッパーフィールド海洋博物館の方で準備したものを早めに使わなくては
では、海洋博物館の地下3階の方は……
そこはまだ今のところ必要ありません
仮面が男の表情を隠している。彼はざっと2ページをめくり、ノートを閉じてから、再び紫色の髪の昇格者を見た
すぐに準備を進めてください。時間がありません
……わかりました