世界政府芸術協会
空中庭園
ねえ!それでそれで?その物語の最後はどうなったの?
それで……騎士と<M>国王</M><W>女王</W>は、最後に「未来から来た戦士」を倒したの?
最後はね……
賑やかな声の中、機械仕掛けの人形を操りながら、優しい女性の声が再び幻想的な「物語」を語り始めた
騎士は<M>国王</M><W>女王</W>の記憶を消し、お城から遠ざけて、「未来から来た騎士」とひとりきりで戦おうとしたの
でも、<M>国王</M><W>女王</W>は、もちろん騎士を見捨てたりしなかった。たくさんの試練を乗り越え、茨の道を踏み越え、記憶を取り戻し、全力でお城に戻ってきたのよ
わあ……さすが<M>国王</M><W>女王</W>だね!
<M>国王</M><W>女王</W>と騎士は力を合わせて、未来から来た戦士を倒し、彼女をお城に閉じ込めました
じゃあ……お城を失った<M>国王</M><W>女王</W>と騎士は、どこに行ったらいいの……
<M>彼ら</M><W>彼女ら</W>はどうなったのか……それはもちろん、物語の最初の通りよ
<M>国王</M><W>女王</W>と騎士は、旅の始まりの場所へ戻り、他の仲間たちと一緒に幸せに暮らしたの
彼らには、この先にまだまだ長い時間があるから
さあ、これで「人形劇」はおしまい。そろそろ集合時間ね……先生のところへ行ってくださいね
公共基礎教育センターの子供たちはキャッキャとしゃべりながら駆け出していった
芝居を終え、機械人形を片付けていたセレーナがふと身を起こした時、少し離れた場所に立っている姿に目を止めた
コンダクター?
「時の牢獄」から戻ったあと、この時空は徐々にセレーナに対する記憶を取り戻し始めた
何ページにもわたる調査報告、次々と修正された通知書……この時になってようやく、空中庭園は、自分たちが大きな危機とすれ違いかけていたことに気付いた
消えていた文字は次第に浮かび上がり、消された記憶はゆっくりと蘇った。そして、時間の狭間に追放されていた少女は、ついに本来いるべきこの世界へと戻ってきた
ホワイトノイズ装置は、科学理事会によって「特級危険物」として封印され、二度と封を解かれることはない
途中の「情報」は失われたが、潔白を証明したアベイス研究チームは、再び「<b>暗力</b>」エネルギーの研究を再開し、今もその材料の特異点を探し続けている
全てが軌道に戻った
「時の牢獄」事件後、ホワイトノイズ装置が、自分とセレーナの意識海やマインドビーコンに影響を残していないかを懸念し、定期的な科学理事会での検査を求められた
あっ、すっかり忘れていました……
困ったように首をかしげ、セレーナは手早く箱を片付けた
では、行きましょう、コンダクター
彼女は急ぎ気味に歩き、半開きの扉を開けて振り返った。そして、明るい陽射しの中に立って微笑みかけた
群れからはぐれたクジラは、ついに家に戻った
夜空の星々はキラキラと輝くが、陽の光には及ばない。彼女は、白い鳥になりたいと思った……
明るい陽光の下、皆とともに、きらめく波間に揺られるのだ
無限の「劇場」
時の牢獄
時の牢獄、無限の「劇場」
イノ·ルアは静かに観客席に座り、舞台上でぎこちなく「演じている」赤い機械体を見つめていた
ピンク色の髪の構造体が音もなく現れ、彼女の側に座った
来たのね
ええ。ここへ通じる扉を見つけてきたんです
残念ね、ここでの茶番を見られなくて。こんな粗末な檻、壊すのも時間の問題よ
そうですね、あなたにとっては「時間の問題」でしょう
上映されるべき演目に干渉する権利は、そちらにはない
冷徹な表情の赤髪の構造体はようやく振り向き、側にいる女性を睨んだ
もちろん原因があっての結果です。私は意図的にあなたと彼らの物語に干渉するようなことはしません
じゃあ、何をしに来たの?謎めいた言葉を残して立ち去るつもり?
ふふ……
訊ねたいことがあるんです。あの人間に触れた時……何を見ましたか?
…………
彼女は何を見た?
彼女は……滔々と流れる広大な河を見た
あれは時間の大河だ
そこには、びっしりと無数に分かれた仄暗い支流も、途中で干上がる泥もなかった。ただ、勢いのある大河の水が、彼女の知ることのできない未来へ向かって流れていた
それが何の証明になるというの……
[player name]が、この全てのアンカーポイントです
あなたのいる世界に……[player name]の存在はありますか?
[player name]……
彼女の世界では、この名前は、空中庭園が墜落したあとに一瞬現れただけだった
彼女がいる「支流」では、空中庭園はある事故によって大部分が壊滅的な被害を受け、生存者たちは地上へ避難せざるを得なくなった
だが、地上も決して安全ではなかった。赤潮が荒れ狂い、パニシングは温床の中で絶えず進化し続け、人類が生存できる領域は次第に狭まっていった
戦いに勝った者たちは、全ての資源を掌握し、敗れた者たちは赤潮へ投げ込まれた。戦争、暴動、終わりのない砲火と紛争。それらが織りなす蒼白の劇が延々と繰り返されていた
人々はホワイトノイズ装置を基盤とした「反響」技術を研究し、「過去」に戻り、「未来」を改変しようと試みた。だが全て失敗した。異重合塔内からの反響が聞こえるまでは
異重合塔は「過去」に消滅していた
異重合塔が存在しないから……世界はこうなったのだ!
大量の資源を得た戦勝側は、世界の崩壊が迫ることに怒り、狂的なまでに構造体技術を改良した。更にホワイトノイズ装置で過去へ戻り、異重合塔を取り戻そうとした……
ルアはこうしてこの世界に生まれた
……つまり、全てが間違いだったと?
そうとはいえません。ただ……
本来なら、あなたはもっといい世界に存在しているはずでした
…………
観客席に座るふたりは、同時に沈黙した。彼女たちは舞台で繰り広げられる、滑稽だが現実味のある機械体たちの演劇を静かに見つめていた
科学理事会
空中庭園
空中庭園、科学理事会
マインドビーコンの定期検査が完了し、ロサは端末から出した結果を確認した
全て正常ですね……マインドビーコンも問題ありません。次回の検査はもう必要ありませんよ、<M>指揮官さん</M><W>指揮官ちゃん</W>
も、もちろんです。私たちの検査は厳密なんですから……
彼女は慌てて端末を手に取り、画面上のデータを見せた
検査結果をもらって立ち去ろうとした時、アシモフが向こう側のラボから足早に歩いてきた
[player name]、ちょうどいいところにいた
マインドビーコンは関係ない……
カッパーフィールド海洋博物館のことだ
自分が「戦争後遺症」の発作を起こしたのは、006号都市から帰還し、作戦報告を行った時だったのをぼんやりと覚えていた
ハセン議長は「カッパーフィールド海洋博物館の戦役に、グレイレイヴンの協力が必要になるかもしれない」と言っていた
そうだ
昨日、先に派遣された3つの救援部隊が、カッパーフィールド海洋博物館で全員消息を絶ったという報告が入った。軍はまもなく任務指令を下すはずだ
恐らく、グレイレイヴンがカッパーフィールド海洋博物館へ派遣されることになる。準備しておけよ
返事をすると同時に、意識の中に何かが猛烈な勢いで沸き上がった
記憶はまるで割れた破片のようで、その破片の鏡面に奇妙な映像が次々と光って現れては消える
見知らぬ機体のビアンカ、荒れ狂う赤潮……
あれは……一体何だ?過去の記憶か、それとも……
<i>時間の大河は激しくうねりながら、滔々と流れ続ける</i>
<i>曖昧な言葉は、でたらめな色彩の中に埋もれている</i>
<i>過去、現在、未来は、いつか重なり合い、いずれにしろ、相まみえることになる</i>