Story Reader / 本編シナリオ / 34 フォーサイト·ドリーム / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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34-17 帰郷

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セレーナ――

——アイリス

セレーナとともに戦ったあの記憶は、手を伸ばせば届きそうなのに、遥か彼方にある。歪められた時間によってバラバラに切り裂かれた断片が、もつれながら脳内に浮かび上がる

届きました……アシモフ先生!

執行部隊が持ち帰った「ホワイトノイズ装置」です!

ロサがいくつかの「ホワイトノイズ装置」が密封された箱を抱えながら駆け寄ってきた

全部で……6つです!

十分だ

ホワイトノイズ装置を受け取ると、アシモフは一瞬立ち止まり、すぐに向きを変えて、幾本ものケーブルが絡みつくハムレットの方へ歩いていった

すぐに終わる。前から、「装置がひとつとは限らない」という可能性は考えていた。接続ポートを増設し、アルゴリズムの出力を上げるだけでいい

お前もいつでもできるよう、状態を整えておけ……もしこのまま続けるつもりならな

耳元の太陽は夜の帳に真っ白に塗り潰され、不協和音は急げ、急げと急かしている……

忘れないでください……最後のループだということを

「最後のループ」とは……具体的にどの時間点を指すのだろう?

まだ鮮明に残る記憶を必死にかき集め、最も可能性の高いタイミングを必死に探った――

そ、そうでしたっけ?確か最初、アイリスさんは……

条約の正式な署名が完了したら、それでようやく「終わり」だって言ってませんでした?それなら、まだ後1週間はかかるんじゃ……

1週間……

「時の牢獄」から抜け出したあと、アシモフと計算したことがある。「時の牢獄」内の時間の流れと、こちら側の時間の流れは同じはずだ

今日は……自分が空中庭園に戻ってきて7日目だ

アシモフは落ち着いた手つきで、テキパキと次々パーツを組み立て、ハムレットの接続ケーブルのもう一端に組み込んでいく

2号ホワイトノイズ装置の接続準備が完了。第一次テストを開始する。データ記録を

第一次データ記録、開始――

人間の耳には聞こえないホワイトノイズが室内で振動する

リズムについてこれてないわよ、アイリス

…………

劇場の階段下に身を潜める。脳内では、聞き慣れた旋律が彼女を前へと駆り立てる

後少し……

スペクトル線幅:4

データ記録完了、データ異常なしです

4号ホワイトノイズ装置の接続準備が完了。第三次テストを開始する。データ記録を

第三次データ記録、開始――

間に合わないわ、アイリス。あなたに倍の時間を与えたとしても足りないでしょうね

時間が深淵に沈み切るまでに、私はあなたを完全に粉砕できるもの

…………

ルアがじりじりと追ってきたが、アイリスは何も言葉を返さなかった。呼吸は次第に荒くなり、体にかかる負荷は限界へと近付いていく

歯車は猛スピードで回転し、体に刻まれた亀裂は更に深くなった。外装の光が一瞬暗くなったかと思えば、また明るく輝きを放つ

もうすぐよ……アイリス……持ちこたえるの……

唇が震え、食いしばった歯の隙間から循環液が滲む。しかし、その瞳に宿る光はかえって輝いた

スペクトル線幅:4……

最終確認だ

これからこの7つのホワイトノイズ装置を使い、3つのノイズデータと照合しながら位置を特定し、逆方向へたどって本体装置の座標を探る

このプロセスは、マインドビーコンに干渉する可能性がある。意識を保ち、構造体からの逆元信号を常に探れ。そして、検出した信号がお前の探しているものか見極めるんだ

リンクの確立に成功すれば、マインドビーコンを通じて彼女と接触できる

理論上、彼女の意識海がまだ活動しているなら、お前のマインドビーコンは彼女を見つけ出せるはずだ

くれぐれも気をつけろ

指揮官が再びハムレットとのリンクを開始するための、全ての準備が整った

遠隔リンク技術を使えば、構造体との共感覚が可能になる。だがこの距離だ。「ホワイトノイズ装置」を通してそれが実現できるかはわからない

チャンスは一度きりだぞ

再び目を閉じると、激しいノイズが耳を震わせ、脳全体が揺さぶられるような感覚が広がった

本物のようで本物ではない無数の映像が瞬き、すぐに全てが闇へと沈んだ

意識の深部から、澄んだクジラの鳴き声が響いた

ドォン!――

くっ……

轟音が響き、アイリスは壁に強く叩きつけられた。砕けた瓦礫が彼女の機体表面をえぐり、獰猛な傷跡を残した。アイリスの腕の関節は今にも外れそうになっている

しかし、アイリスには息をつく一瞬の休息すらも許されない。ルアは大きく踏み出し、アイリスの目の前に迫った

舞台を降りる時が来たわね。どれだけ足掻こうとも、演者は幕引きを受け入れる覚悟が必要なの

ハァ……ハァ……

アイリスは必死に顔を上げ、霞む瞳でルアの背後に広がる天空を見た。虚構の星空が次第に真実の世界から分離していく

光と影は変化し、時間は引き延ばされる

「枝葉」が「幹」から切り落とされようとしている。ここが……この劇場が、ルアを閉じ込める最後の牢獄となる

コンダクター……ごめんなさい……

ぼんやりと霞む視界の中で、心に刻まれたあの人の姿が儚く散る

ごめんなさい、私の愛しい人。どうか許して……

ごめんなさい、私の愛しい人。どうか悲しまないで……

夢の中のうわ言のような呟きとともに、アイリスは静かに目を閉じた。地面に力なく垂れた腕が土埃を舞い上がらせた。彼女は、目の前に迫る切っ先を感じた

コンダクター……

スペクトル線幅:4……

ふいに意識海の深奥からクジラの鳴き声が高らかに響き、彼女の別れの言葉を掻き消した

混濁する意識の中で、見慣れた灯台が目が眩むほどの光を放ち、耳元に鳴き声がこだまする。アイリスは一瞬茫然となった