美術館の階段を上って10秒後、通りは赤い潮に覆われた
後ろに下がって、赤潮に近付くと侵蝕されやすくなります
……侵蝕って……?
うん
彼女は小声で答えるとこちらの背後からそろりと顔を出し、赤潮に浸った通りを見つめた。そのか弱い姿は、いつかの夜に月季花をくれた子供を思い出させた
黄金時代にも赤潮が現れたんですね
他に可能性はありません。ここにきっと反転異重合塔と繋がっている場所があるはずです。それで赤潮が黄金時代に流れ込んだのでしょう
ここでの災害は始まったばかりで、多くの人や設備も無事だ。まだ全てが好転する可能性がある
もしここを離れられるなら、Ωファイルを今すぐ黄金時代の科学理事会に届けられるといいのですが
ええ、でもその時はΩファイルが手元になく、未来で起こる災害を事前に知らせることしかできませんでした……それもデマ扱いや、個体の異常だと思われてしまいましたが
その後は「検査」に連れていかれ、無事に帰れませんでした
ルシアはため息をつき、再び遠くを眺めた
ここは封鎖されています。まずは外に出られる場所を見つけるのが先決でしょう。でもそれ以外の懸念があります
私たちが封鎖を解除してしまったら、赤潮が早まって黄金時代に流れ込むことにならないか、という点です
…………
その名前を聞き、<b><ud><color=#34aff8ff><link=15>ローズ</link></color></ud></b>は何か訊ねたそうだったが、結局何も言わなかった
私たちが赤潮の端で調べた情報によると、フォン·ネガットはコレドールに気付かれないよう彼女を制圧したいと考えています。きっと他のことに構う余裕はないでしょう
ええ、以前この人型異合生物に接触した時、彼女はずっと人類文明に対して異常なまでの興味を抱いていました
もし、まだ完全に破壊されていない黄金時代の文明を赤潮で呑み込めるなら、彼女は絶対にそのチャンスを逃さないはず。フォン·ネガットも彼女を警戒しているほどですから
それはまだわかりません。そして、フォン·ネガットが私たちふたりを黄金時代のコンステリアへ送り出した理由……
彼はここを「霧域」と呼び、私たちを塔から弾き出す前に「霧域で、人間の本当の脅威を見届けなさい。あまりにも長い因縁に、終止符を打つ時が来ました」と話しました
それからもうひとつ、オフラインマップと環境分析の結果からすると……私たちはまだ反転異重合塔内の地点にいます
ルシアは端末に表示されたさまざまなデータを、もう一度仔細に確認した
間違いありません……まるで反転異重合塔が消えてしまったようです。あるいは、この時点では塔がまだ出現していないのかもしれません
反転異重合塔内にいた時は、他の時代に体ごと入ることはできず、情報を送ることしかできませんでした。まさか本当にこの時代に出られるなんて
反転異重合塔の出現前である今が、塔の影響の範囲内にあるのかどうかも……不明です
彼はどうしてここを「霧域」と呼んだんだろう
上層か地下……わかりました。どちらのエリアの異常も気に留めておきます
その可能性はありますね。このエリアはまだ反転異重合塔の範囲内ですし、時間が関係しているのかもしれません
デイジーお姉ちゃんは走って帰っちゃった。お姉ちゃんの友達も美術館の中にいるの
彼女はおずおずと階段を指差した
私たち、さっきカップ麺の自動販売機を探しに行こうとして、あの人たちに捕まっちゃったの
了解です
ルシアの後ろに立ち、もう一度この街を眺めた
この時、コンステリアは黄金時代の終わりの中で、まだ静けさを保っていた
それはまるで雲の中に浮かぶ宮殿のように、きらびやかで人の目を奪う。だが同時に輝かしい時代の墓碑のようでもあり、空虚で寂寞としていた