Story Reader / 本編シナリオ / 30 星屑のデュプリカント / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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30-4 断裂

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0号代行者とセレネは融合し、新たな姿――電流を纏った「黒い星」として空中庭園に降臨した

これまでで最も特異な形態の捕食者が、古き枷を振り払い、意のままに行動できる牧場に足を踏み入れたのだ

空港‐A1

空港中に響き渡る耳をつんざくような警報が騒々しい叫び声と混ざり合い、人々を苛立たせている

ブンッ――

拳が振り下ろされ、警報器を殴りつけようとした瞬間――

隊長!ノクティスが壊そうとしてる!

一瞬でパッと拳が開かれ、5本の指が警報器を覆い隠した。すぐにエリア一帯の警報がくぐもった奇妙な音に変わる

ザケんな、こいつがあんまりうるせえから、止めようとしただけだって

ってか、敵はどこだよ?システムの誤報だとしたら、誰かがとっちめられンぞ

とっちめられるのはノクティスだけ……ガルル――

お、やんのか?あのなぁ、任務中だからって俺が手加減するとでも……ん?

21号の唸り声にノクティスは激昂して振り返ったが、21号が見ている対象が自分ではないことに気付いた

臭いが……変!

そう言うやいなや、赤い電流がふたりの視界に現れ、21号は反射的に全身の毛を逆立てた

パニシング!

どうなってんだ!?ここは空中庭園のはずだよな?

ジジッ――

激しく動く赤い電流は空港に入った刹那、動きを止めた。そして、血の臭いを嗅ぎつけた鮫のように群れに分かれ、空港内の大小さまざまな機器に襲いかかった

金属製の機器はパニシングが触れた途端、目に見えるスピードで変異を始めた

ガァン――!

光る刃がふたりの背後をかすめ、完全に侵蝕されて動き出そうとしていた機器を打ち砕いた

戦闘準備!

ガルルルル――!

敵の正体なんざどうでもいい

興奮に駆られたノクティスは、手の中の警報器をバキッと握り潰した

俺ァ、一度は空中庭園で大暴れしてえと思ってたんだッ!

居住区

いつも賑わっている商業広場は、執行部隊と粛清部隊の構造体兵士たちに取り囲まれ、大混乱に陥っていた

包囲網の中央では、商店の宣伝用だった装飾――巨大な機械の像が、悲しげな金属音を立てながら崩れ落ちている

金属の破片が降り注ぐ中に、4本の機械アームで鋭利な破片を巧みに振り払う少女の姿があった

高危険度ターゲット2号、排除完了。そっちはどう?

バンッ――

彼女の声に答えたのは、微かな銃声だった。八咫の背後で、半壊のまま動き続けようとしていた機械パーツが、完全に粉砕された

全て片付きました。居住区の危険度は高くありません。戦闘よりも恐怖でパニックを起こした群衆のほうが手間ですね

威嚇射撃と麻酔弾数発で十分です。執行部隊と粛清部隊の後方支援隊が来ていますので、後の安全警備を我々が対応する必要はありません

ちょっ、警戒を緩めちゃダメじゃん。居住区が戦場なんて冗談じゃない。もっと注意すべきっしょ

んじゃ、任務続行っと。皆の負担をなるべく減らしてやんなきゃね

わかりました

この危機に際し、空中庭園は非常に迅速な対応をみせたが、その相手はどんな対策も想定していなかった存在だった

Ω武器では空中庭園の全ての場所をカバーしきれない。浄化範囲外の区域では、パニシングに侵蝕された機械装置が凶暴化し、手あたり次第に無差別攻撃を繰り出している

解き放たれた怪物は空中庭園で好き勝手に暴れまわっていた。商業エリア、作戦準備室、物資処理センター、そしてスターオブライフも例外ではなかった

人類の希望と称された「灯台」はぐらつき、今や風前の灯だ

エンジン層

他の区域と比べ、エンジン層は比較的状況がマシだといえた

重要区域には常に工兵部隊が待機し、大型Ω武器で制御されている。機械設備に僅かでもパニシング侵蝕の兆候があれば、すぐに物理的に切断して取り除かれ、交換された

不幸中の幸いだ。状況はそれほど悪くねえ

議会の狸ども、空中庭園の発展のためだとかぬかしやがって……建設に関しちゃ役立つどころか邪魔ばかりだ

ドールベア

…………

ドールベア?

何も答えない相手に、カレニーナは思わず振り向いた。その動きに気付き、ドールベアはヘッドセットを外した

……どうしたって?

何をそんなに夢中になってるんだ?ネットはもう切れてんだろ?

臨時通信チャンネルの調整を支援してるの。今、26カ所のポイントが設置、起動されている。私はチャンネルの安定性を確認しようとしてるところ

通信チャンネルをダウンさせたまま放置すれば、私たちは完全に視界を失うわ。そうなるのが嫌なの。だから空中庭園に早く目を開けさせないと

つまり他の場所から通信を受け取れるようになったってことか?今、空中庭園はどうなってんだよ?

ローカルチャンネルはまだ完全には通じてない。今のところ届いているのは、複数の簡単な……報……告……?

ドールベアはスクリーン上のデータと文字を見ながら、目を細めた。その口調にはどこか迷いがあった

ドールベアの異変に気付いたカレニーナはすぐさまスクリーンを覗き込んだが、ちらっと見ただけで頭を引っ込めた

どこに問題があるんだ?

というより……なんだか違和感が……他の区域の被害状況は想像していたのとちょっと違うみたい

でも今は情報の送受信容量が限られているから、自分の判断に確信が持てない

お前、もっとわかりやすく言えよ。スクリーンを見たって、オレにはサッパリなんだから

つまり……

ドールベアは仕方なさそうに相手を一瞥し、どんなたとえで説明すべきかを考えた

普通、家を建てる時にはまず基礎を作るでしょ?でも今のこいつは、そんなこと考えてもいない。こいつは土すら掘っていない状態なの

……つまり、こいつが何か企んでやがるとして、実はとっくに基礎を作っていた、ってことか?

もしかしたら、だけどね……

ドールベアの指先がスクリーン上をなぞり、その呟きには警戒の響きがあった

それとも……そもそも家を建てるつもりはないのかも

ゲシュタルト

臨時通信チャンネルの確立に伴い、完全な通信の回復には至らないものの、各区域の状況の簡単な確認は問題なくできるようになった

アシモフはゲシュタルトの前に立ち、操作パネル上に次々と表示される事項を処理しながら、各区域から続々と送られてくる報告を確認していた

やがて、アシモフの動きが次第に鈍くなっていった

アシモフ?

周囲の警戒を任されていたルシアが近付いてきた

何かあったんですか?

…………

アシモフは黙ったまま手元の操作を一旦終えると、端末に向き直り、臨時通信チャンネルからの報告を凝視した

違う……

ふたりの声がほぼ同時に響き、互いの目を見合わせたことで、自分たちの推測が正しいことを確認した

空中庭園もだ

だが、一番の目的が監獄の破壊であるはずがない……ゲシュタルト、空中庭園の3Dマップを呼び出してくれ

臨時通信チャンネルの情報を統合し、全ての区域を被害状況に応じて大まかに大中小の3段階に分類して、異なる色で表示しろ

すぐに巨大な投影が現れ、パッチワークのように3つの色が空中庭園の3Dモデルに散らばった。色は乱雑に入り混じり、何の規則性も見られない

臨時通信からの情報の内容はまだ非常に限定的だ。更に担当者の主観的な判断の誤差も加わる……

[player name]、手伝ってくれ。データをフィルタリングし、できる限り誤情報の影響を減らすんだ

詳しい根拠などはいらん。俺は戦場で鍛えられたお前の経験と直感を信じる

区域Z57の比重を減らす……この数値を基に、これら3つの区域の被害状況を再計算する……

区域J89を4分割し、ふたつの襲撃点だけを結んで再び着色。残りの部分は空白として処理……

最大被害区域の数値をクリア、この建物を中心に単独で計算、着色…………

修正コマンドが次々と下され、ふたりの協力で空中庭園の3Dモデルは画家のキャンバスのように、次々と色を変えていった。そしてある瞬間、それは止まった

痕跡の各色に混乱が消えた3Dモデルに、獲物に向かって密かに牙を剥きながら巻きつく鮮やかな赤い毒蛇が現れた

それを見て、ルシアは刀の柄をギュッと握りしめ、リーフも口を押さえて小さく声を上げた。事ここに至って、答えは一目瞭然だ

脱獄犯の最優先目標は、更に大きなふたつ目の牢獄からの脱出だった

A1空港……?目標はA1空港か!他の攻撃は全てカモフラージュだ、そいつは空中庭園から逃げるつもりだ!

空港‐A1

ガァンッ――――!

力を溜めに溜めた拳が勢いよく突き出され、拳を叩きつけられた侵蝕体は美しい弧を描いて吹き飛び、遠くの深紅の集団の中に落ちた

ドォンッ――――!

ノクティスが起爆ボタンを押すと、侵蝕体に仕掛けた爆弾が炸裂し、巨大な炎が周囲の敵を呑み込んだ

ッしゃあ!

ガハハハッ!まさか空中庭園で爆弾をブッ放せる日が来るとはな!

隊長、見たよな?敵は全員始末したぜ。あのうるせえ警報、止めていいだろ?

あなたの方が警報よりよっぽどうるさい。危うく端末の通知音を聞き逃すところだったわ

端末?通信システムはダウンしてるんだろ?あのポンコツ、まだ使えるのかよ?

バカ。21号、途中に置いてあったやつが端末に通話するためのものだって知ってる。知らないの、バカノクティスだけ

チッ……で、隊長、何てメッセージが届いたんだ?

またどっかに敵が出たってか?ウォーミングアップはまだ終ってねえ、アップを続けるのにちょうどいいぜ

残念ね、意味不明なメッセージがふたつよ。「警戒を強めよ」と……「お気をつけて」?

ゴゴゴゴゴ――!

そう言ったとたん、空中庭園の中でも最も頑丈な港湾区のバリケードが轟音とともに崩れ去った

恐ろしげな漆黒の球体が煙塵の中から姿を現した。電流が周囲にバチバチと密集し始め、見る見る内に圧力が蓄積されていく

バリバリッ――!

耳をつんざく電流音とともに目が眩むような閃光が炸裂し、空港全体の警報器が一斉に沈黙した

……!

チッ……

しばらくたって、3人はようやくその余波から立ち直った

ふう、おとなしくなった……

……テメエがおとなしくしろってんだ

ふたりとも口ではやかましく言い合いながらも、その手には緊張が張りつめている。ヴィラの両側にゆっくりと散開し、この突然の侵入者に対して身構えた

ジジッ――

どいて!

球体が動いた瞬間、ヴィラも即座に反応して刀を振り上げ、ためらうことなくノクティスに斬りかかった。突然の隊長の攻撃に、ノクティスは反射的に一歩後退する

ドンッ!

勢いはそれほどでもないが、ノクティスのいた場所に向かって恐ろしいほど激しい攻撃が繰り出された

……あ?……すげえな、おい。手強そうだ

感心するのは後よ……21号!

ノクティスへの警告より先に、球体が再び攻撃を繰り出す

その電流はあまりに速く、21号の回避が間に合わない

バァン――!

遠くから放たれた1発の弾丸が漆黒の球体に命中し、その振動で電流も本来の進路から逸れた

それでも21号は攻撃を受けてしまい、地面に倒れ込む

くっ……ゲホゲホッ……

彼女とともに下がって

ハァ?なんで俺様が……

言う通りにしなさい!

ケッ……

ノクティスはその人物を睨みつけ、不満そうに21号を引っ張り起こすと、リーとヴィラに場を譲った

さっきのあれ、あなた?

そんなことより、ここには指揮官はいません。僕ひとりでこいつを追ってきました

ヴィラが端末に目をやると、メッセージのひとつは明るく、もうひとつは暗く表示されていた

フン、どうかしらね

それで、こいつは一体何なの?

この空中庭園の混乱を引き起こした張本人です。詳しいことは僕にも不明ですが……

バンッ――

そう話しながらリーは再度攻撃し、動こうとした球体を退けた。ふたりと球体が、また対峙する状態へと戻る

間違いないのは、こいつは逃げようとしていることです

ふぅん……それで空港にお出ましって訳

ヴィラはリーの言葉の意味を理解し、嘲笑うように言った

来たいから押しかけて、逃げたくなったらとんずら?私たちを何だと思ってるのかしらね?

冷静に。僕たちで協力し合えば撃退できるかもしれません。せめて、宇宙機からは引き離す必要がある

その後はどうぞご自由に

必要ない。面倒だもの

……今は言い争っている場合ではありません

あなたと張り合う気はないけど、こいつがそんなに簡単に撃退できるなら、あなたがここまで追ってくるはずがないでしょう?

……だが、試す価値はあります

遠慮しとくわ。言っておくけど、私が同意しないのはもっといい案があるからよ

ノクティス!

なんだ、隊長!

ここの宇宙機を全部爆破して頂戴。こいつがどうやって逃げるのか見せてもらおうじゃないの!

シャシャシャッ!そりゃいいや

ちょっと……!

バチッ――!

ノクティスの行動に漆黒の球体もすぐさま反応し、再び電流が光を放った

それを見たリーは、ノクティスのためにスペースを作ろうと、仕方なくヴィラに協力することにした

バンッ――!

僕は空中庭園の騒動を解決しに来たんです。好き好んで騒動を起こす訳じゃないことを、理解しておくように!

ギィンッ――!

アハ、騒動なんてどれも同じでしょう?何を細かく分ける必要があるのよ。そんなことでこいつを止められるとでも?

ドォン――!

漆黒の球体を取り囲むようにして、弾丸と刀の鋭い音とともに爆発の中でも口論が続いた

球体は宇宙機が一機また一機と破壊されるのをただ見ていることしかできなかった。そして――

隊長!これでラスイチだ、ちゃっちゃと消えろやァッ!

ノクティスのこの大声が存在しないスイッチを押したかのように、球体が纏う電流の密度が瞬く間に急上昇した

バチバチバチッ――!

まずい、自爆する気だ。阻止しないと!

言われなくたって――やるわよ!

弾丸と刀が漆黒の球体に向かって猛然と繰り出された。しかし次の瞬間、球体は完全に防御を放棄し、ふたりの攻撃を強引にすり抜けてノクティスの方へと突進した

恐らく、一見存在しない目には最後の1機となった宇宙機のみが映っている

ノクティス!回避!

ハン――来てみやがれってんだ!

全速力で迫りくる敵を見て、ノクティスは避けるどころか前に踏み出した。ニヤリと凶悪に笑うと2本の爆薬の安全装置を噛みちぎり、そのまま最後の目標に飛びかかった

隊長たち、早く……

ん……誰だ?がぁっ――

飛びかかろうとしていたノクティスは、暗闇から放たれたレーザーによって押し戻された

その手から離れていた爆弾は、刀によって宇宙機の方へと振り払われた

ドォン――!

巨大な爆発音が響き、空港全体が激しく揺れる

ゴホッ……ゴホゴホ……

指揮官

フン、遅いのよ

軽い挨拶を交わしながら、全員が煙塵の中から立ち上がって集まり、瓦礫の真ん中にいる黒い球体を取り囲んだ

もう逃げられねえよな?ケッ、動けるもんなら動いてみろ

油断は無用。窮鼠はなお危険ですよ

バカか、ここにはふたつも小隊がいるんだぞ。あいつが強かろうと、これ以上どうするってんだよ

お前らがグズグズしてるなら、俺が行ってやらぁ

ノクティスは拳と拳をガンガンぶつけ合うと、ノシノシと大股で踏み出した

ジジッ――

お任せください

ケッ、同じ手が通用するかよ

電流で構築された防御が崩れた瞬間、ノクティスはすでに球体のすぐ側に迫っていた

バチバチ――バチッ――

その時、球体の周りに残っていた電流がこれまでとは違う音を発した

全員

!!!

その場にいた全員が胸騒ぎを覚え、次々と攻撃を仕掛けた。しかし――

全員

くっ――

電流が怪物の咆哮のような低く恐ろしい悲鳴を上げた。見えない力が、全員の体をその場に釘付けにしている

いきなり眩い赤い光がほとばしり、よく知る臭いが五感を通じて精神を激しく揺さぶり、空間も、更に視覚すら歪んだように思われた

どこからともなく重い圧力がのしかかり、全員の体に山のような息苦しい圧迫感が襲いかかってくる

唯一、影響を受けなかったのは――

指揮官!

て……撤退……!

ヴィラは歯を食いしばりながら声を絞り出し、がくがく震えながらもノクティスを空港の出口へと蹴り飛ばした。そして、21号の後ろ襟を引っ掴んで外へと向かう

ルシアはすぐに駆け寄り、リーフを引っ張って逃げようとした

バチバチバチ――ジジ――!

漆黒の球体が再び震え、更にその力が切迫する。倦怠感がより一層強まり、リー以外の全員が一瞬で動けなくなり、バタバタと地面に倒れ込んだ

端末はけたたましく警報音を発し続けている。この警報の意味はただひとつ――

――パニシング濃度が臨界点に到達したのだ

…………

鮮烈な赤い紋様が球体から外へと急速に広がり、空港全体が激しく揺れる

その様子を見て、呼吸を必要としないリーの表情に焦りが浮かんだ。彼は地面に倒れ込んだ人々を見て、無念そうに球体を一瞥し、最終的な選択をした