Story Reader / 本編シナリオ / 28 星灯宿す氷帝 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
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28-35 彼岸であろうとも

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九龍

11月10日、05:47

華胥再起動終了、万世銘陥落

九龍環城地下1200m、万世銘物理層

「……11月、南東に天傾き、流れる彗星あり、帝崩ずる」

曲が自分とリンクを切断してから2分も経たないうちに、激しい地震が起こり、華胥再起動の結果を示した。その結果の吉凶は誰にもわからなかった――

低い咆哮が絶えず聞こえ、戦場を彷徨っていた意識の投影も消えていった

そして、何らかの理由で意識投影の制御が失われたのだろう、異合生物が次々と地面から起き上がった。そのまま地下へと突き進んでいく

万世銘の人工ドームもこの激しい怒りによって震撼し、巨大な吊り天井も緩んで落下し始めた。数百tの巨大なドームの下では、もはや異合生物や人間、構造体の区別などない

九龍の大地に抱かれた万世銘はまさにこの瞬間、終わることのない激しい怒りを一身に受けていた

だがその地震は工兵部隊の作業を結果として後押しし、北西側の工事用通路がついに開通した。底層にいた九龍住民はカレニーナとストライクホークに護衛され、移動を始めた

指揮官ッ!!!

何が起こったのか理解する間もなく、反対側から突進してきたルシアに抱えられたまま数m先に倒れ込んだ

顔を上げると自分がつい先ほどまで立っていた場所に、太い鉄筋がまっすぐに突き刺さっていた

指揮官、お怪我はありませんか?

倒れ込んだ時の衝撃を和らげようと、ルシアはその体で激しい衝撃を受け止めていた

……よかったです

まだ覆いかぶさっていることに気付いたのか、ルシアはすぐに体を離し、立ち上がった

ここにいては目立ちます。早く――

バン!

ふらふらとルシアの背後に迫っていた機械体が、赤い光を放ちながら倒れた

侵蝕体

私……は…………

生き………………て………………

ルシアの刀が侵蝕体の機械脳を貫き、そのギィギィとゆがんだ奇怪な声はやんだ

ありがとうございます、指揮官……

華胥の再起動が終わってから、侵蝕体はどれもがこんな状態です

私たちを攻撃するだけでなく、異合生物の進行を阻止するような素振りも見せています

ですが、少なくとも工兵部隊が底層に合流できました

とにかく、ここを離れましょう

リー

指揮官

構造を分析するに底層へ行くより、安全のためできる限り端のエリアに留まるべきです

ドーム天井は中央から落下し始めるので、なるべく端にいてください。僕と嘲風は安全のため、指揮官たちの反対側に留まります

はい

ルシアと指揮官も……気をつけてください

リーは側にいるルシアを見て、心から心配そうな目を向けながらも通信を切った

先ほど隊長のクロムから、工兵部隊が開通させたトンネルを通って、すでに30%の人が避難していると連絡がありました

彼らが避難する時間を稼ぐためにも、異合生物をこれ以上、地下へ向かわせる訳にはいきません

絶えず崩れ落ちてくるドーム、周囲を焼き尽くす戦火。それはまさに終末の光景だった

蒲牢さん!蒲牢さん!!!

背後で悲痛な叫び声が聞こえた

蒲牢がどうしたんです?

あ……あなたたち、蒲牢さんを見なかった!?

皆でどこを探しても見つからなくて、それに――

その少女は一瞬言葉に詰まりつつ、歯を食いしばって話し続けたが、その声はすでに泣き声になりつつあった

それに蒲牢さんの……

蒲牢なら大丈夫です

ルシアは枳実を慰めたが、最悪の想定を口にすることを避けていた

あなたは、本当の喪失を経験したことがない

あなたにとって何よりも大切だった人や事柄は、一時的にあなたのもとを離れても、最終的にどれもがあなたのところに戻っています

ただその時まであなたは自分自身を欺くしかない、最終的には自分がいる世界まで欺くことになる

ただその時まであなたは自分自身を欺くしかない、最終的には自分がいる世界まで欺くことになる

枳実もそう思ったのか、唇を噛み締めて頷き、手の中の武器を強く握りしめた

有機生命体の時代は終焉する

不気味な文字が再び自分の前に現れた

誰!?誰です!

誰かが……目の前で話している?

誰なの!私の頭から出ていって!!!

直接、意識海に侵入して他人の思考を操るなんて……

華胥ですか!!!

華胥はすでに私の一部となった

私は帰ってきた。最初のなすべきことを完了した

人類にもはや未来はない。機械が自らの世界を創造する

この世界に、王はふたりもいらぬ

突然、万世銘の下の中心部から純白の光が噴き出し、新しい太陽に火が灯ったかのように新たな昼を創り出した

次に目に映ったのはその光ではなく、万世銘の数kmのドームを貫く、連綿と続く山々だった。それは自らの存在を誇示するかのように、九龍の新たな背骨を支えていた

それらはひとつの世界に近い「情報」を抱えている

その「情報」は常に生と死の境を漂い、理由なく生まれたり消えたりすることはない

それらはただ、ある場所から別の場所へと移動することしかできない――

本来は彼女だけが、九龍の運命を決める場所へと向かうはずだった。なぜなら、彼女だけが、「彼」の傲慢さや渇望、憎しみを目の当たりにしたからだ

なぜなら、屠り殺すことだけが常に一幕の劇中に生きる「魂」を満足させ、名目上の本物の「肉体」を得られるからだ

なぜなら、築くためにはまず壊さなければならないからだ

なぜなら、復讐は本質であるとともに、形式でもあるからだ

これまで未来が見えたことがない彼女の足に、蒲牢は重苦しい表情を浮かべて行く先々をついていった

今、その蒲牢が地面に倒れている。ぼんやりとしたふたつの姿が蒲牢を守るように、すぐ側に佇んでいた

そして九龍に釘付けにされた彼女自身も、彼女が見た無数の未来を超えていた――

本来機械の心臓に送り込まれるはずの循環液は彼女の胸の中で暴れまわり、そして音もなく肋骨の間から流れ出ていく

長槍が彼女の胸を切り裂き、彼女は背骨が折り重なり、また引き剥がされたことを知覚する――

長槍は、肉色の表皮から赤色の真皮、その下の金属光沢のある骨、更に黒い血管、鮮やかな血と真紅のパニシングまで、全てを貫いた

???

果敢にも私に会いに来るとは、予想外だった

しかし、それも無意味な勇気だ

有機生命体の時代は終焉する

華胥はすでに私の一部となった

私は帰ってきた。最初のなすべきことを完了した

人類にもはや未来はない。機械が自らの世界を創造するのだ

この世界に、王はふたりもいらぬ

彼女は完全に自分の体を貫き、釘付けにしている長槍の柄を握ろうとしたが、もはや手は力を失い、なんとか柄に手を置くだけだった

だがほぼ同時に、彼女の体を貫く長槍が突然引き抜かれた

彼女は声も出せず、呻き声すらあげることもなかった

ただ彼女の血だけが、地面の上に飛び散っている

???

全て終わった<end_loop>

曲<name=qu>

私が<name=schulz_igor_roseum>お前を……

死刑<DEATH>に処す

私の子……ヨ……ヨ……

彼女を連れて……

ヨヨ…………

蒲牢が再び目を開けた時、彼女の前にあったのは、一面に転がる死体と……

ドームに向かってそびえる白く巨大な光だった

私の子……ヨ……ヨ……

誰?誰が話してるの……

生きて……ヨヨ……

生き延びて……

蒲牢はその白い光の中から朧げに、白い姿の集団が現れるのを見た。ある者は傘を差し、ある者は旗を掲げている。彼らはその白い光の雲の中に見え隠れしていた

曲様……

曲様は!

私の子……彼女を連れて……

彼女を連れて、外へ……

彼女が行くべき場所へ連れていきなさい

ぼんやりとしていたその間に、蒲牢は昔のあの日に戻ってしまったかのようだった。ただひとり、大切な人がいない――

パパ、ママ?

ヨヨ、行きなさい

彼女を連れて、彼女が行くべき場所へ

パパ、ママ、ここにいるの!?

私……

わかってる……わかってるの……

ふたりはもういないって……でもそんなの、受け入れられない……

だって、ヨヨはふたりに会いたい……

ふたりがもういないなんて、私……

ヨヨ、私たちはここにいる

私たちにはヨヨの鼓動が聞こえるよ

たとえヨヨに触れられなくても

私たちはずっとヨヨと一緒だから

その淡く立ち昇る白い光から伸びた2本の白い糸の先に、小さなメモリーがあった。それはぽとんと蒲牢の手の中に落ちてきた

ヨヨ、私たちはここにいる

あなたがどこへ行こうと、私たちはいつも側にいるからね

だって、私たちはヨヨの心の中にいるんだから

ママ……

強くなりなさい、ヨヨ

勇気を出して、ヨヨ

魔法少女は簡単に泣かないはずだよ

苦しみや絶望なんかじゃなく

皆に愛と希望をもたらすんでしょう?

パパ……

さあ立って、ヨヨ

曲様は彼女がいるべき場所に行かなければ

九龍の首領は、九龍の首領がいるべき場所にいなければ

曲様を連れて、九龍の最後の運命を見届けることができるのは君だけだ

行きなさい、ヨヨ

私たちは、ヨヨと一緒にいるよ

…………

うん。わかった

行こう、パパ、ママ