Story Reader / 本編シナリオ / 28 星灯宿す氷帝 / Story

All of the stories in Punishing: Gray Raven, for your reading pleasure. Will contain all the stories that can be found in the archive in-game, together with all affection stories.
<

28-12 銘箴

>

九龍

11月10日、01:16

華胥のファイアウォール破壊まであと30分

九龍環城地下1410m、万世銘中央機械室

乙丑、趙穿、霊公を桃園に殺す

宣子、いまだ山を出でずして戻る

大史書して曰く――趙盾、其の君を弑する、もって朝に示す

宣子曰く――然らず

對えて曰く――子は正卿なり。亡げて竟を越えず、反りて賊を討たず。子に非ずして誰ぞ?

宣子曰く――嗚呼、詩に曰く、我の懐い、自ら伊の憂いを詒す、其れ我をこれ謂う

「これは九龍の古典の中の一節だ」

「私の筆力ではこの戦争の原因や結果を記録することはおろか、事件そのものさえも自らの言葉で表現できない」

「たった今起こったことを、私はこの九龍の古典の言葉を引用して、一時的に記録することしかできない」

「将来のいつの日か真実が明らかになり、後世の人々が私の記述を修正したとしても、決して遅すぎはしないだろう」

万世銘に生者はいない

この言葉は過去において全面的に正しかったが、今は完全に正確とはいえない

かつてここは世界から隔絶された無人の場所だった。しかし今、九龍の人々にとって最後の避難場所となっている

だからこの言葉を正確に表現するなら――

万世銘のデータ空間に生者はいない

そして、九龍の首領もここで死者に連なった

杜衡が群衆の面前で曲を弑逆したあと、中央機械室はまるで凍った池に落ちたような静寂に包まれた

誰もが想像だにしていない事態だった

「九龍の首領を失った。我々はこれからどうすべきなのか?」

ある者はそう考えた

「空中庭園の狗が暗殺した!」

ある者はそう考えた

「自業自得だ。罪の報いは当然……」

ある者はそう考えた

「曲亡きあと、万世銘や華胥はどうなる?」

またある者はそう考えた

沈黙したまま人々はそれぞれ散っていき、無言で見つめ合うふたりの姿だけがその場に残された

……

…………

人を殺めた

そうね

あなたは九龍に忠誠を尽くすべきなのに。曲様がどれほどあなたを信頼していたことか

なのにあなたは……曲様を裏切った

そして……九龍も

少女は数えるほどしか会ったことのない自分の叔母に、冷ややかな視線を向けた

空中庭園と……あなたが曲様を殺した。卑怯者……

王殺しよ

……私は自分のすべきことをしたまで

どういうことだ――

嘲風とともに銃声を聞いて駆けつけると、曲は虚ろな目で床に倒れていた

嘲風も目の前の状況のあまりの衝撃に、しばらくは言葉を出せないでいる

無駄よ

杜衡は震えながらセーフティを押し上げた銃を床に投げ捨てた

薄暗い灯りの中で、銃のグリップにある空中庭園と世界連合政府の刻印がぼんやり浮き上がって見える

これは処刑を行う時にのみ、粛清部隊と議会が使用する銃

この弾丸が構造体の機械の心臓部に命中すれば……構造体の機能をただちに停止させる

何の……痛みもなく――

やらなきゃいけなかった、絶対にやらなきゃいけなかったの……

自分自身を説得することは時に、他人を説得するより大きな勇気と代償を必要とする

九龍では……全ての死者が行き着くところは同じ……

杜衡はそう言うと、曲が最後まで誰も入らせなかった、固く閉じられた部屋の扉を見つめた

意識のアップロードをしなければ

万世銘の大門を開けることが曲の計画の一部だとすれば、彼女はこの盤の局面を最後まで進める責任を負っている

だが棋士が盤の前を離れてしまった今、どうやって続けるというのだろう?

ドォン!!!!

重厚な要塞すらも揺るがす振動のせいで、機械室のコンクリートの壁から灰がはらはらと散った

チッ……外にいる

通信

[player name]!気をつけろ!

リーフとバンジに通信で助けを求めようと思っていたその矢先、通信端末が突然明るく光った

異合生物がいきなり錯乱したみたいになって機械室の方へ動き始めてる!

俺たちが……できる限り足止めするから

通信

全員そこから一歩も動くな!!

端末からの、カムの吠えるような叫びがひとりひとりの耳に届いた

異合生物は何かに引き寄せられているのか、何者かが裏で操っているのか、いずれにせよ

異常な状況です、指揮官

我々は先ほど外部支援に来たケルベロスと工兵部隊の通信信号をかろうじて受信しています。ですが、彼らも正面突破に苦戦しているようです

ストライクホークは現在北西の工事通路にいますが、開通までにはまだ時間がかかりそうです

ここは僕たちに任せて、隊長

頼む。リーとルシアも外側第3通路から機械室へ迂回しています、持ちこたえてください!私も支援に戻ります

……来た……やつらだ……

クロムはそう言って通信を切った

同時に、静かだった機械室はすぐさま大混乱に陥った

蒲牢!枳実!動ける者を全て動かせ!

急いで防御態勢を構築!地形を利用して攻撃に備えるんだ!

その時、別の通信が飛び込んできた

指揮官!ご無事ですか!?

僕とルシアは今、中央機械室へ向かっています。あと3分ほどで着きます

一体何が起こったんですか?異合生物が突然狂ったように攻撃を始めました……

何ですって!?

…………

ルシアは複雑な心中だろうと思われたが、緊急事態かつ移動中のせいか、その表情ははっきり見えない

……すぐにそちらに到着します、指揮官

必ず、私たちが戻るまでご無事でいてください。必ずですよ

待っていてください、[player name]

ルシアの目には確固たる光があった。それは、誰かを何があろうと守り抜こうという眼差しだった

通信

……ジジ……ジジ……

絶え間ないパニシング信号のせいで、近距離通信でさえも干渉されている

それは、異合生物の荒波がまもなく到達することを意味していた

床に倒れていた曲は杜衡が小部屋へ運び込んでいた

慌てふためく群衆は機械室の奥の部屋へと逃げ込んだ。もし機械室を死守できず、ストライクホークと睚眦の小隊が工事通路を開通できず、ケルベロスたちと合流できなければ—―

その後のことは想像にかたくない

お願いします……

自分の耳元で静かに話しかける声が聞こえる。それは大海に沈んでいく浮き草のように、直接自分の意識の中へ入り込んできた

周囲を見回しても、自分の近くで話をしているような者はいない

変数に……変数となってどうかその責務を負ってください

直接マインドビーコンに強制侵入される、この馴染みのある感覚……

自分の意識に無遠慮に触れられるこの感覚……

華胥(カショ)

ファウンスの槍システムを通じ、指揮官リンクに侵入します

逆制御起動

あの時、075号都市で

ルシアとαが対峙していた時の――

身体を制御できない。自分の手が自分の喉元を強く締めつけ、次第に視界が暗くなっていく

混沌とした思念が脳に流れ込んでくる。無秩序な情報、錯乱したロジックが意識全体に満ちていく……

あの時、自分の意識に触れられた時と同じ感覚だ

だが、あの時のような痛みや混沌とした思考に呑まれる感覚とは少し違う。ただ温かい海を漂っているかのようだった

あなたがすべきことしてください、首席

私<//私たち>はここにいます

目の前には形こそ違えど、人の姿だとぼんやり認識できる幻が浮かんでいた

私たちは単なるデータにすぎません

私たちは生と死の間にいます

彼岸の瀬戸際に立つ、最後の番人です

私<//私たち>は力を尽くしてあなたを助けます

曲があなたを信じると決めたから

それはわからない、ただ曲が信じると決めたのは事実です

だから私<//私たち>もあなたを信じます

万世銘においては、死は終わりではありません

私たちは彼岸へは行きません。あなたたちも

何かが自分の頭から離れていくような感覚がしたあと、目の前に浮かんでいたデータの姿も消え去った

皆!ここが正念場だぞ!

機械室の正面の扉の前で、全員が敵を迎え撃つ態勢を整えていた

九龍の全てがこの戦いに懸かっている!

ここは……決して我々の終着点ではない!

指揮官

――それぞれが銃や刀、鋤、スパナ、側にいる者の手を固く握りしめた

恐れるな!武器を構えろ!