私はシュルツ·ロスム。詩や小説、時には評論を書いている
私は奇々怪々、変幻自在の突飛な物語を書いてきた。塹壕で銃を手に戦うある兵士の、宇宙の果てを目指す宇宙船を操縦するある先駆者の物語を
物語はそうあるべきだと、誰がわかるというのだ?
私は九龍へ行ったことがある。実際、そこが私の第二の故郷かもしれないと思うことがよくある。ある本に、こんな言葉が記されている――
歴史の過程では過去が現在を支配する一方で、歴史の記述では現在が過去を支配している
ご覧の通り、歴史と物語にそれほど違いはない。道徳は我々が粘土をこねるようなものだ。必要に応じて野蛮な獣のように卑劣になり、天国に列座する聖人のように高尚にもなる
これはつまり、私が多くの物語や詩を書き、当然多くの人々についても書いてきたが、それは例外なく全て物語だ、ということだ
だから物語と物語、人と人の間には違いがある。例えば、私が先週『週刊バビロン』で発表した物語の中のあの不幸な苦労人とは、実は毎日私を必死に追いかけてくる編集者だ
私は彼が大嫌いだ。なぜなら彼は自分の子供時代がとても悲惨だったと言っていた。家庭が不幸だった、家庭が不幸だったと
私は多くの人や事象を観察する必要がある。でなければどうやって物語を書けよう?それで家や雑誌社を不在にするのは理不尽か?誰も私のひらめきの源を制限できはしない
最悪に気持ちが悪く反吐が出るような、サイコパス的なモノをごちゃ混ぜにして文章に書いて読ませたがるのは、君の個人的な嗜好だな、と友人はいつも言う
その言葉は極めて不正確だ。全てのことには理由がある。誰がそんな悲しい苦難や悲劇ばかりを書きたがるものか!もっと楽しいものを書くべきではないか?
そうでなければ、私もあの見捨てられた哀れな人物について書くことはなかっただろう――本当に、私の編集者はこの世で最も哀れむべき人物だ
その見捨てられた哀れな人物以外にも、私は美的センスが悪すぎる画家や、汚い毛色の長毛種の猫についても書いた
私はこの物語を書くため哀れな編集者を観察し、1週間、いや4日間?を編集部で過ごした。それ以前のことはよく覚えていないが、毎週金曜に原稿を提出するのが決まりだった
私が話したいのは『週刊バビロン』第5786号の「ショートストーリー」の7ページに掲載された物語だ。内容は4週間前に私の頭に浮かび、3日前に出だしを書き始めた――
4億4500万年前、オルドビス紀の大量絶滅がこの星の85%の生物種を絶滅させた
3億6000万年前は82%を
2億5140万年前は95%を
1億9960万年前は50%を
6600万年前は75%を
遡ること1万年前、人々は石と木の棒を使ってこの世界と戦うことで、生き残った
しかし、人類文明の誕生以来、すでに83%の野生動物が絶滅してしまった……
(うーん、この言葉はどこかで見たような……)
なあ……シュルツ
太った中年男性がひと束の分厚い原稿をシュルツの前に差し出し、黄ばんだハンカチで脂ぎった顔の汗を拭いた。まるでシュルツの方が原稿チェックや催促をする編集者のようだ
その原稿の束は修正で塗りつぶされ、欄外には後から追加された補足説明の文字がびっしりと書かれ、まるで一昼夜続いた大手術のように酷い状態だった
シュルツは首のネクタイをゆるめながら、落ち着かない様子で壁掛け時計を見た
言っただろう、今の時代、こんな類いの古典的SF小説はもう流行ってないんだ
どういう意味ですか!
この時代、誰がSFに興味があるんだ……
それこそ合理的な想像が必要でしょう!
なぜ私たちが見ているものは絶対に正しいと仮定できるんです?私からすれば、我々が発見した理論や現象は、人間の理性や言葉で説明できるだけのものにすぎない
宇宙には、あなたに全てを理解させる義務などないんです
わかってる、それはわかってるんだ。だがな、シュルツ……
ケビンと呼ばれる太った男は、愛想笑いをしながらデータが書かれた別の報告書をシュルツに渡した
データを見てみろ……最近の新規読者は、スリリングなものを好む傾向にあり、楽しむために読んでいるんだよ
人を引きつける要素は必須だろう?これは私の意見だが、この恒星の巨大構造の設定を、無限に増殖する合成人間のようなものに変えるってのはどうだ……
そんなことできる訳がないでしょう!?
私の言うことが信じられないのか?
実際にはケビンの口調はまったく強くはなく、むしろ下手に出て懇願している声色だ
しかし、シュルツにはどうしようもない
彼はこの太鼓腹の男を少しも信用していないが、どうしようもないのも事実だった。結局のところ、ケビンは人気コラムをたくさん生んでいる
シュルツは、その「評判だが売り上げにはならない」ものがどうなるかをよく知っている――
ああ、ケビン
言ったでしょう、私たちの仕事は結局サービス業なんですよ。読者に泥沼のような生活や、悲惨な出来事や苦難を1日中見せる必要はない……
皆、もう十分に酷い人生を送っている。せめて希望が持てる内容にすべきじゃないですか?自分たちの人生が不幸だからって、人にまで見せる必要なんてないですよ
駄目だ、我々編集部はこれで食ってるんだ。君もわかるだろ、彼らはこういうのを好むんだ
とにかく!もう一度修正してくれ、シュルツ。私のためにも
あるいは……書き直すかだが
なっ――
ほら……そのためにこんなにたくさんコメントも書いたことだし……もう一度修正を考えてくれないか
シュルツは深々とため息をついた
わかりました、やってみます
誰がケビンを彼の直属の上司にしたのだろうか?
うんうん、よろしく頼むよ
ケビンはニッと笑って背を向けた。顔中に浮かぶ玉のような汗は、笑った時にできた皺のせいで今にも流れ落ちんばかりだ
シュルツは歩き去る彼の背中を見つめて長々とため息をつき、ボロボロになるまで修正された原稿を机の上に放り投げた
これが彼の生活だ
『週刊バビロン』は彼の街で最大手の新聞だ。「最大」とは、街の路地裏で刷られる艶めかしい女性の姿の違法印刷物を除けば、「相対的に最大」な一般紙という意味だ
そしてこの街は特に語るべきところはない
いつもどんよりとして、雨が降っている
シュルツが覚えている限り、一番長い時で4年11カ月と2日、雨が降り続いたことがある
湿った赤レンガやコンクリートには、ぬるぬるした苔やキノコがはびこり、オレンジ色の雨合羽を着た作業員はそれらを注射針やガラスの破片とともに排水口へと流しながら歩く
暗い路地ではいつも誰かが泣き、無職の人や浮浪者、労働者たちは酒瓶を整然と並べて蹴り倒す。これは彼らが妻や子供を殴ること以外で唯一、「合法的な憂さ晴らし」だ
こんなことについて考えたくはない。すでに多すぎるほどのことを見てきたし、自分もかつてはその一員だった。そんなことについて書きたくはない
そう考えながら、シュルツは机の上のくしゃくしゃの煙草の箱を手に取ったが、中はすでに空だった
煙草、いる?
手入れが行き届いてはいるが、少し乾燥気味の手が彼の前に伸びてきた。その指には煙草が1本挟まれている
禁煙するって言ってませんでした?
シュルツは煙草を受け取ったが、視線は彼女の胸元をじっと見つめていた。女性はクスッと笑ってすぐに視線を手元に戻すと、煙草を咥えてノートをめくった
シュヴァルツシルトは今、都市部門を担当している。だがそれ以前は、このよく笑う女性が彼の上司の編集者だった
これはいたしかたないことだった。なぜならケビンは「とても有能」だったからだ。シュヴァルツシルトは賢明にも小説部門を離れ、その座をケビンに譲ったのだ
その服、繕った方がいいわよ
シュヴァルツシルトはフッと煙の輪を吐いたが、それは煙が立ち込める編集部の空気の中へすぐさま消えていった
昨日転んでしまって……というか、煙草、やめるって言ってましたよね?
3日禁煙できたら、やめられたも同然でしょ
肺癌には気をつけてくださいよ
その言葉、そっくりあなたにお返しするわ
シュヴァルツシルトは首を振り、まだ仕事があると示すと口を閉じた
シュルツは煙草を口に咥え、ポケットに手を突っ込んでライターを探したが、その手に触れたのはシルクのベルベットに包まれた四角い物だった
(うーん……)
彼は今日の午後6時10分きっかりにオーウェン通り29号B31の古い木製ドアの前に行く必要があった。なぜならヘレナ一家がちょうど仕事から帰ってくる時刻だからだ
シュルツは煙草に火を点け、壁掛け時計を見上げた。もう午後5時半だ
ゲホッゲホッ
シュルツは煙を吐き出し、肘でシュヴァルツシルトを軽く小突いた
もう帰りますよ
まだ退社時間じゃないけど?
用事があるんです
それなら、ケビンに言っておきなさいよ
もう話しておきましたよ、全部ね
シュルツは机の上から橙黄色の紙を引き抜いた。まるで飢えた狼の前に肉の塊を見せたように、他の人々はサッと顔を上げて時計を見て、シュルツのタイムカードを睨んだ
用事があるんですよ、用事がね……
そうつぶやいて狼たちの鋭い視線をかいくぐると、あまり正確ではないタイムレコーダーにカードを差し込み、頭を下げながら煙たく薄暗い編集部を抜け出した
クソッタレめ
シュルツはぺっと唾を吐き捨てた
雨は出勤した時よりも小降りになっていたが、傘を差すかどうか迷う降り方だった。オーウェン通りまで20分、傘を差さずに歩けばそれなりに濡れてしまう
この雨は煤煙の灰と泥混じりで、非常に不衛生だ。しかもこのスーツは彼が上の階の老人から借りたもので、汚れたまま返すのは避けたかった
結局、彼は傘を差して雨の中を歩き始めた
この時間、街にはまだあまり人がいない。5時半は通常の退社時間ではなく、彼は早退しているからだ
編集部があるグレイストーン通りから、オーウェン通りのヘレナの家まではバスで15分だが、歩くと20分前後はかかる
シュルツは途中で花を買おうと思い、歩いて行くことにした
彼は片方の手で黒いポリエステル製の傘を差し、もう一方の手はポケットの中、小さなベルベットのケースを握りながら街を歩いていった
正装といってもこの一着しかない彼は、ポケットの中の手を下に押し下げ、それほど目立たない穴もできるだけ隠すようにした
そうして10分が経過した。彼はグレイストーン通りの角の路地を出てオーウェン通りに到着したが、その間は特に何も起こらなかった
オーウェン通りの端からは、霧と雨に包まれた高い煙突が見える。オーウェン第2工場だ
オーウェン第2工場は住民にこの都市はまだ腐りきってはいないと感じさせる唯一のものだ。街の古いレンガ造りの通りで、ここがオーウェン通りと呼ばれるのは唯一の僥倖だ
しかし、オーウェン第2工場が実際に何を生産しているのかを明確に話せる者はいない
この工場では1000名以上の従業員が働き、全員がオーウェン通りに住んでいる。ヘレナ一家もこの工場の労働者だった
作業員の中には、毎日2mもの鉄球を鋳造する者もいれば、毎日鉄球を溶かす者もいる。クロムメッキ板に絵を描く者、1日に300個の精密な歯車を成型する者もいる
彼らひとりひとりの作業は関連がないように見えるが、最終的には何かを生産しているらしい
そこの方、摘んだばかりの花はいかがですか?綺麗な花ですよ
薄黄色い苔がはびこる壁の下、顔色の悪い痩せこけた少女が売り子として呼びかけている。その声は細かい雨音にすぐにかき消されてしまうほど弱々しい
花はいかがですか?
いくらだ?
バラは60、カーネーションは40、スノーボールは20です
花売りの籠には数えるほどの花しかない。だが花弁を伝う雨水のせいで、それほど新鮮ではない花が露に濡れたように瑞々しく見える
バラを1輪もらおうか
シュルツはポケットから硬貨を出し、少女の手の平に1枚ずつ置いた。少女は代金を受け取って花を渡すと、少し神経質そうに自分の袖を引っ張り、目をパチパチさせた
君は何歳だ?
……
少女は話をしたくなさそうに首を振るだけだった
シュルツは手を伸ばして少女の腕を掴んだ。彼自身、力がある方ではないが、この顔色が悪く痩せ細った花売りに比べれば十分すぎるほど強い
注射の痕がこんなに――
旦那さんよ
いつの間にかシュルツの側に、ウインドブレーカーを着たガタイのいい男が立っていた。彼は手を伸ばし、花売りの袖をまくり上げるシュルツの手を掴んできた
何か用かよ?
花売りの少女はその巨大な山高帽をかぶった男性をじっと見つめ、胸を激しく上下させている
いや……
シュルツはその男が善人ではないことははっきり察していた。心中納得はできなかったが、彼は仕方なく花売りから手を離した
自分の安っぽい正義感のために、今日の計画を台無しにしたくなかったのだ
何でもない
ならいい
その男性もゆっくりと手の力を緩めた
あの、ボ――パパ
その……はい、お金……
花売りの少女が震える手で硬貨を男に差し出すと、男は無言でその金を受け取り、シュルツの肩を叩いて去っていった
ふう……
花売りの少女の目は恐怖に満ち、シュルツにまた話しかけられるのを恐れてか、すぐに背を向けてしまった
シュルツはため息をつくと手に持っていたバラの花をポケットに差し、そこを立ち去った
(この町では、こんなことは日常茶飯事だ……)
(あいつらは卑劣な手段で子供たちを支配している、子供が生きようが死のうがどうでもいいんだ)
(彼らが子供時代を乗り越えて成人になれたとしても……早死にする薬物中毒者が増えるだけだ!)
臆病な正義感が湧きあがったが、それはすぐにベタつく濃い雨の中に消えてしまった
雨は彼が編集部を離れた時と同じ強さで降り続け、強くなることもやむこともなかった
彼が腕時計を見ると、ちょうど午後6時になっていた
この通りの角からオーウェン通り29号B31まではたったの3分だ。シュルツはすでにその古い木製ドアの前に立っていた
6時10分、彼女たちが仕事から帰宅するまで、まだ少し時間がある
彼はその新鮮ではないバラをポケットに挿し直すと、ドアに背を向けた
(チッ……)
(誰かいるらしい……)
シュルツは顎をポリポリと掻いた。周囲に潜む視線が自分をじっと見ているような感じがするのに、なぜそう感じるのかがわからなかった
彼は中に入ろうかどうか、少し迷っていた
だが彼がオーウェン通り29号B31のドアノブを握った瞬間――突然、トレンチコート姿の帽子を被った7、8人の逞しい男たちが襲いかかってきた
シュルツは反応する間もなく羽交い絞めにされ、冷たい鋼鉄の輪が手首にかけられるのを感じた
何をする!!
お前たちは誰だ!何のつもりだ!
集団のリーダーのような人物がシュルツの前に立ち、彼の肩を掴んで警察バッジを彼の目の前に掲げた
地元警察警部、マーチン·ルヴィだ。シュルツ·ロスムだな。ヘレナ·クレンティン含め12名を殺害した容疑で連行する。今から署で尋問を受けてもらう
いや、待て
それは違う
シュルツ·ロスムがどうやって殺人を行うのだ?彼はただの三流作家で、体力もなければ重荷を背負いたがらない怠け者だ。そんな彼がなぜ連続殺人犯だといわれる?
ヘレナ·クレンティンは工場の女工で、シュルツは工場に行ったこともない
彼はあの労働者たちと一緒に生活していない。彼らについて何が書けるというのだろう?
考えた末、私は原稿用紙のその部分を削除した
完全に正しい訳ではないが、私は作家で、物語を書く者だ
なぜ私が殺人犯になれないのだろうか?
問題は、その方法にある
やあ、へ……ヘレナ
ん?どうしたの?
小柄で可愛らしい、自分の数十倍もの大きさの旋盤を操作していた少女が、笑いながらそう応えた
工場の騒音はあまりにも大きく、シュルツも大声で話さざるを得ない
ねえ!ヘレナ!
聞こえてるわよ、何?
何でもない、呼んでみただけだ!
仕事は何時に終わる?
6時!
おい!そこの若造!
旋盤の向こうから、気の荒そうな年配の作業員が歩いてきた
父さん!
あっ……こんにちは、クレンティンさん!
俺の娘に妙なことしやがったら許さねえからな
工場はお前みたいなやつが来る場所じゃねえ、さっさと失せろ
年配の作業員はもとは白く、だが今では濃い灰色に染まったタオルをぶんぶん振り回し、シュルツを追い払った
夜の6時、シュルツは再び工場に忍び込んだ。その時間は作業員のほとんどがすでに仕事を終え、機械が停止した工場はいつもほど騒がしくはない
ねえ!こっちよ!
なんと可愛らしい子なのだろう
「うりざね顔の彼女のつるりとした顔は灰で汚れていたが、それでも彼女の心から溢れる幸せと喜びの輝きを隠すことはできなかった」
「彼女はそれほどに美しく、灰で汚れた作業服も、彼女が着れば美しく見えたほどだった」
「彼女は側に来るよう手招きした。だが灰まみれの顔では気付いてもらえないと思ったのか、タオルで顔をごしごし拭いた。それがかえって彼女の頬をより赤く染めた」
そ、その……
着替えがないの。父さんには内緒だから、家に帰って着替えることもできなくて……
いいんだよ!こうやって君と一緒にいられるだけで嬉しいんだ
バラの花は、新聞紙に包まれていたって、本来の輝きを失わないんだ
またよくわからないこと言って!
少女は軽やかに身を翻し、重苦しい工場の奥へと楽しそうに歩いていった
中を少しぶらぶら歩こうよ
彼女はどうやって死んだ?
この哀れな少女は、私にどのように残酷に殺されたのだろう?
ヘレナのいる工場は巨大な鉄球を鍛造するための場所で、その隣にはヘレナの父が責任者を務める、鉄球を大きな炉に投げ込んで溶かす工場がある
これは徒労でしかない。オーウェン第2工場が一体何を生産しているのか誰も知らない。それはぐるぐる回転するルービックキューブのように常に変化し、再構成されていた
徒労だが規則や手順に従わなくていいのが、この工場の最大の利点でもあった
つまりこの工場は秘密を埋葬するのに最適な場所でもあった
シュルツは一方の手に彼女の首にかけた縄を握り、もう一方の手で彼女が先ほど顔を拭いたタオルを使って、彼女の口をがっちりと塞いだ
少女は爪の間に錆びた鉄や泥が詰まるほど抗ったが、それは無駄な抵抗にすぎなかった
彼女がついに酸欠で意識を失ったあと、その両手は硬く縛られ、口には大きなタオルが詰め込まれた
ごめんよ……ヘレナ
彼は震えながら、彼女を僅かに隙間が開いている鉄球の中に押し込んだ。あまりの緊張に、自分の服も少し破けてしまった
ごめん……自分を……コントロールできないんだ……
ごめんよ……本当にごめん……私は君を愛しすぎている……
どうか許してくれ、お願いだ……
彼は許しを請うように、鉄球に向かって深々と頭を下げた
彼が頭を上げた時、その巨大な鉄球に刻まれた微かな模様に気がついた。うっすらと海と大陸が刻まれている
ごめんよ……本当に……自分を止められないんだ……
彼の目から涙が溢れ、彼の視界をぼやけさせた。まるで鉄球の海の部分に流れ込み、打ち寄せる波のように
「この地球の紋様が刻まれた鉄球は溶かされ、その後再び鋳造されることになる」
「翌日バロンが出勤してきた時、皆は彼の機嫌が非常に悪いことに気がついた。どうやらひと晩中眠れなかったようだ」
「理由を尋ねても彼は黙々と頑なに作業を続けるだけだ。鉄球を溶解炉に運び込んでは溶かし、ヘレナの後任は再び新たな地球を鋳造するために鉄を流し込んでいた」
うん、これでいい
なぜ私はこうするのだろうか?
精神病院から放り出された三流作家として、私の行動が常識的であるとは期待しないでほしい。こんな私が街をうろつかないだけでも、この社会への最大の貢献だ
だが私は本当に心から彼女を愛しているのか?
そう、愛している
彼女は私が妻として家に連れ帰るべき人だった。私たちは結婚し、家庭を持ち、この街で酷いながらも平穏な一生を送るはずだった
私は、全てを考えていた
もし子供がいなければ、孤児院からひとり引き取ろう。この街には何もかも不足しているが、孤児院だけには事欠かない
その後、ある程度の年齢になると働く権利を奪われる。この街では人手が余っているからだ。人々は全員が複製された歯車のように、永遠に魂を持たぬままに回り続ける
そして私は家で毎日、この街の痛み、悲しみ、傷跡を描いた三流小説を書くしかなくなる
私の妻は生活の合間に違法タブロイド紙のための拙い挿絵を描くことになる。彼女の性格を私は知っている。彼女が美しいと思えば、他の誰が何と言っても彼女は耳を貸さない
仕方がない。彼女はこの趣味で、僅かな小遣いを稼ぐ手段にすることを選んだのだから。彼女は精神をまともに保ち続けられるだろうか?
私が死んで――どちらが先に死ぬかはわからないが――郊外の共同墓地に埋葬されるまで
私は不死を願う。あるいは、死後に人々の噂になることを。例えばある日ある場所で、1000万のシュルツの分身が現れ、誰も彼を殺せない。そうなればとてもクールだ!
考えてもみたまえ、この街は最初から泥の塊のようなものだったではないか。ならば、我々もその泥の一部になるべきだ!
誰かが扉をノックしている
何だ!
シュルツ、またおかしなことを言ってるのね
小説を書いてるんだ!
はいはい、こっちに来て食事と薬を受け取って、おとなしくしてて
私は仕方なく足につけられた足枷を引きずり、3枚の鉄板で隔てられた木製の扉の側に立って、今日の豪盛な夕食と救いの薬を受け取る
静かにね、わかった?
ああ、わかった
私はシュルツ·ロスム。詩や小説を書き、時に評論を書いている
物語はそうあるべきだと、誰がわかるというのだ?
何もかも、全ては物語なのだ